彼女が芽吹いて2h⑤
「……足りない……」
三体のオプションを倒して入手した『鬼の赤心玉』は7個。呪い対象の『修羅の波動』関連のスキルは9種、しかもレベルをかけると20種扱いになる。
どう転んでも悪い結果となる状況であった。
「……摘んだ……」
「ま、それか被害が少ない選択を取るかでゴザル」
「ベストよりベター、だゼ」
「呪いスキルの弱体化は続いてるわけだ。全部レベル1に下がったら害にならんのを残して消せば、そう酷い結果にもならんだろ」
「……でも、どのスキルもそう酷いわけでもない……ですよね?」
「マヤヤ、やっぱり後で“勉強”するにゃ」
「ウスネちゃんは“キライ”?」
「……にゃっ…………む?」
無自覚に不穏な精神汚染をブチマケるマヤヤである。早速感染したらしいウスネが顔面を赤くしていた。
「ところでイワオさん。立て続けの戦闘だったせいか、私のレベルが上がってるんですけど」
マヤヤに言われて、イワオがパーティーメンバーのステータス一覧を確認すれば、確かにマヤヤのレベルが21から23へと一気に上がっていた。どうやら、中ボスの経験値は膨大だったようである。
「ん? 俺もか」
イワオのレベルも一つ上昇していた。といっても90台では一つ二つレベルが変わっても大した変化は無い。スキルも増えないし、せいぜいが同レベルのモンスターの攻撃を一撃耐えれる程度のHP増加だけだ。
「『滋養契約』、更新ですよね?」
「そう……なんだが」
イワオが視線を向ける先はテンマル、カッツェ、トキヤである。
特にトキヤは、この系統のイベントで“悪化”する前科持ちだ。
『じゃ~野郎共ぉー。順番に並べ~』
イワオが躊躇している隙に、マヤヤから生えたスコーピットを通してエヴァラが場を仕切る。止めようとする間もなく更新が始められ、「んっ♡……んん!」と抑え目ながらマヤヤの艶っぽい鼻声が鳴る。
そして最後はイワオの番である。
『(このまま軽く“終わらせて”あげなさい)』
しっかりエヴァラからの指示が告げられ、マヤヤの内情がヤバかったと今更分かるイワオであった。
『(溜めに溜めてってのは男の決まり。女には女のリズムがあんのよ。後ほら、少年見なさいな)』
そう言われてトキヤを見れば、その見た目は悪化とは逆の方向へ。また少し人へ戻るような変化をしていた。
『(ジョージからの伝言でね。少年にはどんどん実体験を積ませて、庇護欲を膨らまさせろってさ。未知を求めさせて妄想させるより、自惚れでも腕の中の者を護らせる意識の方が健全だそうよ~)』
そう年長者目線で言われたら、多少は身に憶えのあるイワオも反論できない。寧ろそれでトキヤの印象が強くなれば、イワオの好感度ばかりを上げているマヤヤがトキヤへ気移りするかもしれない。
ウスネとの三角関係を生むかもだが、十代なら頻繁に変化するものだ。そう深刻にはならないだろう。そんな楽観視をするオッサン一歩手前である。
だが不意に強まる圧力に、その楽観視が地雷だったと気づくイワオだ。
その圧力の源は、イワオの手を取るマヤヤである。滋養契約のためにマヤヤの胸元へ伸ばしていた手をマヤヤ自らが掴み、自分の胸を潰すほどの強さで押し付けていたのだ。
「なんか上の空です。イワオさん」
イワオが初めて聞く、マヤヤの少し不機嫌な声であった。“このタイミングはマズい”。過去の経験から、ここで狼狽えるような仕草を少しでも与えたら危険なのが分かる。分かる故に、行動は迅速だ。
周りの視線を無視し、契約のための儀式の流れを無視し、先ほど知ったマヤヤの“弱点”を全力で攻める。イワオのアバターはサイズ差のせいで誇張無しに“両手”でマヤヤの全身を弄べる。正に人が小動物をいじり倒すように扱われたマヤヤは意識が飛ぶ寸前まで持ち上げられ、トドメとばかりにややディープなキスで意識を刈り取られた。
舌先から3センチ奥の舌裏。ここを強めに擦られる刺激がマヤヤ最大の弱点なのである。その弱点発見まで、どれほどイワオが奮闘したかは“R15”では解説限界なので割愛する。
「……むむむう、これほどまでの高度な“ゲーム外技能”を修得せよ、か。拙者、合コンに胸熱でゴザル」
「ていうかイワオ。レベル高杉ですゴチソウサマ!」
後輩年長組の感想に頭痛を感じるイワオである。
後日、現実での成果はサッパリだったが、反面ゲーム内では種族特性やジョブ能力を最大限に活用してそれなりの“技能”を収めた二人であった。
その技能により、フォート外の女性プレイヤーへの知名度も上昇したのだが、中々現実でもの仲には発展しないのが残念という現状である。
そんな一悶着の後、嘆いても無い物は無い。と気分を切り替えて城内攻略の再開である。地下は中ボスの広間以外はほぼ通路だけで、グルリと広間間を時計回りに一周する形で階段の場所まで戻れる構造となっていた。多少あった脇道は数メートル進めるだけの無意味な行き止まりで、ほとんどが突き当たりに少額の貨幣か小物入りの雑嚢があるだけである。
だが、その通路の内の一ヶ所だけ、気になる物体が転がっていた。
“ズドン!”とその物体に矢が突き立つ。
「反応が無い。ただの屍のようでゴザル」
伝説に語られる名言モドキを発し、ゾンビトラップの有無確認を終えるテンマルは通路の突き当たりで、はんばミイラ化した死体の調査を始めた。
「やはりヒントであろうな。こんな物を発見したでゴザルよ」
『調べる』チェックでテンマルのストレージに入手したのは、2枚のメモと鍵5つ。そのメモ内容を表示し、可視モードで全員に見えるよう展開する。
メモの一つは『オーガ王復活の是非の確認』と書かれた物。それは全員に馴染み深いクエストの依頼書であった。この死体はどこかの都市国家からの依頼を受け、このエリアへ調査に来て死んだ。という設定なのである。内容はタイトルどおりのもので艶王ドウテツが復活するのかの確認をするものである。
ふと、テンマルが上を向けば、真上には天井が無く、長い縦穴が伸びていた。おそらくは地上階からの『落とし穴』の底という感じなのだろうと推測する。つまりこの死体は罠にかかって墜落死したのである。
『唐揚げ定食』メンバーが知り得ない裏話であるが、エヴァラの呪い対策が無ければ城内でもマヤヤ等を対象にエリアからの攻撃がある。その一つとして、女子をピンポイントで狙う罠もあり、この落とし穴はパーティーを地上と地下に分断して、合流するには中ボスの居る広間で会うしかない意地の悪い攻撃だったのである。
しかも落ちる位置によっては分断状態のまま中ボス連戦もありえるので、レベルによっては油断ならない仕様といえる。
なお、死体のオブジェクトは演出であり、例え低レベルのマヤヤが落ちたとしてもダメージは微々たるものだ。
それはさておき、もう一枚のメモは地上階と二階の一部を描いた地図である。この死体となった冒険者が残した調査結果という設定である。
地図二階の一ヶ所に『X』が記されており、何故か点滅するその部分にテンマルが触れると、“ゴトン”という音と共に死体からアイテムが転がってくる。
「あっ!」
トキヤの驚きの声で、全員、それが何なのか分かった。
コロコロと転がる『鬼の赤心玉』。どうやら、呪いを全て解除する方法は用意されている。と安心できる情報が得られたのである。




