彼女が芽吹いて2h④
時間と共に土塊と化して倒れたジュウキが消え、代わりにドロップ品として『色臣三将の漆首(ジュウキ)』が現れる。クエストのオプション報酬なので自動的にイワオのストレージへ収まった。
「他にも色々落としたにゃー」
一応は格闘タイプだったのか、『溶鬼の牙拳』なるユニーク武器に高品質な骨材。“鬼の生肉”など使いようもないアイテムが大量に出てくる。
変わったところでは『鬼の赤心玉』が二つ。トキヤは似た名前のアイテムを思い出しす名称である。気になったトキヤがヘルプを展開すれば、やはり、そのアイテムが“当たり”であった。
『鬼の赤心玉(空)』。色王の能力を内包した物。色臣に仮初めの命を与えた根源。たただし内包する力を全て失い、“空”となった状態である。
「コレ、俺に回してほしいな」
トキヤのストレージに『鬼の赤心玉』が集め、単一アイテムとして“使ってみれば”、トキヤ念願のインフォメーションが立ち上がる。
『封入するスキルを選択してください』
そして対象となるスキルの一覧。それは当然『修羅の波動』に属する物ばかりである。
「よし、やった!」
だが万事解決という事にはならなかった。封入にも条件があったのである。
まず封入できるのはアイテム一つに対して『修羅の波動』内のどれか一つ。そして封入できるのは、“1レベル”分である。という条件が。
「レベルが高いなら“下げる効果しかない”か。じゃあどれか、レベル1のやつを封入したらどうなる?」
「んー……」
概要を聞いたイワオからの疑問にトキヤが試してみる。このアイテムは使い捨てでは無いので、封入した物を“使えば”また中身をスキルへ戻し空にできるのだ。
「お!」
レベル1のスキル、『他者魅了』を選択してみれば、スキルそのものが消滅した。
さらに周りから嬉しい追加要素も教えられる。
「トキヤが何かを封入する毎に、外面が人間に戻るでゴザルな」
「トキヤくん、アイテム無くても人に戻ってる感じですよね。スキルが減って戻るなら、トキヤくん自身でスキルのレベルを減らせてるんじゃないですか?」
ゲームシステムを知らないからのマヤヤの発言だ。だが再び姿を表したエヴァラの使い魔がマヤヤからトキヤへと飛び移り、そのステータスのチェックをした事で“裏付け”を得られた。
『当たり、だわ。少年の呪い関係スキル、軒並み経験値の数値が減少中ね。スピードがゆっくりで気にしなかったわあ』
と言うことで、この場ではスキルはいじらず、レベルを下げきるまでは放置といった流れになる。その間に残りの中ボスも殲滅である。アイテムの数を増やせば、それだけスキルを減らせるのだから。
階段への通路は塞がれたままだった。広間から続く別の通路は右に90度ズレた位置。おそらくは他の色臣の部屋に繋がる通路だと予想される。
そして予想どおりに、ほぼ一本道で次の広間へと到着した。
「わぁーれぇはぁ、艶鬼王ドウテツの臣にして、色王トキヤの左脚たる色臣『ヒョウキ』。色王の“観力”授かり蘇った我が身をもって、勇者の眷族、消えエエエシャアルレレレエエェェェ!」
今度は全身の骨が浮かび上がるほどガリガリに痩せ細ったオーガである。
そのくせ身体の両脇の皮が異様に弛み、名乗りと動きにプルプルと震える反応をしている。
「ありゃ飛ぶぞ」
「うん。飛ぶにゃ」
「如何にも滑空する姿ダゼ」
「どうせなら高い木にしがみついてて欲しかったでゴザル」
「とにかく殺ーす!」
「えーと、“ムササビ”さん。ですよね?」
マヤヤの感想が正鵠を得ている。
軽い体重なのかその場で天井近くまで跳躍し、螺旋を描きながら飛んだ色臣ヒョウキである。軽く60~70キロのスピードで飛ぶ様子は、うまくタイミングを合わせなければ空振りするのが関の山。守護騎士の特性では一瞬の攻撃を合わせた一瞬の防御といった流れである。つまり、相性は悪い。
「マヤヤはお勉強にゃ。ワタシらはこんな事もできるんにゃーよ」
広間全体を飛び回るヒョウキを指差しウスネが言う。そして魔法の発動である。
「『生蔓の縛鎖』!」
石の床を割り表れる幾本もの緑の蔓。それが宙を舞うヒョウキへと伸び上がり、しばらくの追走劇の後に絡め取って“遅くする”。
『生蔓の縛鎖』は滋養治士専用の敵を弱体化させる魔法である。絡める特性から敵の“速さ”や“反応”を遅らせるのだが、遅らせるだけで行動を不能化させる事はできないのが面倒な魔法である。どれほど遅らせるかは滋養治士のレベルに依存するので、まだマヤヤには効果の薄い魔法でもある。
「して、コレでゴザルよ!」
テンマルがボウガンに番えた矢は、最近大量に入手した特性品だ。とてもボウガンの捌きには見えないスピードで連射された8本の矢が、射放たれたとたん奇怪な軌道を描いてヒョウキに殺到する。
飛ぶのを観るだけで酔う“キモイ矢”、『クリーピングアロー』である。
素材判明後、少女組からは毛嫌いされる矢でもある。
蔓によって見誤る事無い目標点。やや遅くなった飛翔スピード。テンマルにとっては宙に止まったクレー射撃のようなもので、全ての矢がヒョウキの左肩にピンポイントで命中するのも当然の結果である。
もともと“クリーピングアロー”に射撃時の視線が通った部分に当たる機能があるのだが、テンマルの動態視力が同じ命中点を捉え続けた事も立派に誉められる故の技である。
肩関節を破壊する部位ダメージにて、片腕の皮膜を失ったヒョウキはあっさり墜落。タコ殴りで始末されただけなので内容は省略である。
これにより、トキヤは『鬼の赤心玉』を三個、新たに得られた。
「ゾンビっ、ゾンビにゃー! 回復滅殺カーニバルにゃー!」
「落ち着け」
ヒョウキもジュウキ同様、アンデットという設定であった。
ゲーム的に、アンデットの天敵は回復ジョブである。この条件に限り壁役も削り役も回復役の足元にも及ばない。まさに回復無双が成り立つ。
ウスネが燃えるのも当然であろう。というよりも、回復ジョブの中堅から古参ならぼ、ほぼ全員が同じ反応を示す。
親友の狂乱に戸惑うマヤヤに、取りあえず“分からんでも分かれ”で納得させる一幕があり、次の広間へと移動となる。
「わぁーれぇはぁ、艶鬼王ドウテツの臣にして、色王トキヤの中央天脚たる色臣『マイナスドゥエーンキ』。色王の“観力”授かり蘇った我が身をもって、勇者の眷族、突き上げ殺ロロロゥゥゥスッ!」
「「「「下ネタ過ぎるわーーー!」」」」
女子組除く野郎組から総突っ込みが入る。
「何か変な名前にゃーね。呼びつらいだけにゃ」
「“ちゅうおうてんきゃく”? 変わった役職ですね。そう言えば、普通こういうセリフって、『我は魔王の右“腕”~』とかですよね。なんで“脚”なのでしょ?」
説明したくともしたくない悩ましい質問である。
ウスネには、もう少し科学を学べと内心で野郎組全員が吠えている。
因みに、落雷の原理は空中の雷雲で『プラス電気』が発生し、大地の地中に『マイナス電気』が発生。この二つが引き合い結び付く事で起きる。
高速度カメラで落雷の瞬間を捉えると、上から下へ走る電気の線と、下から上へ走る電気の線が空中で衝突する様子が分かる。
つまり、一瞬ではあれ大地から光の柱が“そそり立つ”状態となるのである。
『後は……分かるな』という事で説明は終える。
大いなる自然の摂理を使ってなんてデザインかましやがると、サービス側に憤りを覚えつつ、最後の中ボスに対峙する『唐揚げ定食』メンバー。
『マイナスドゥエーンキ』はフザケた名前はともかく、外見はマトモに見えるオーガであった。黒い体色で虎皮の腰巻きのみ、テカる肌も露わな、半裸でパンチパーマな南国民族のデザインが何処までマトモかはさておき、体型は細マッチョ系筋肉質の身体がそのまま巨大化したもので、5メートル近い体高はイワオ等の遠近感覚を狂わせる効果を持ち合わせていた。
なかなかに危険そうな相手である。
そして“ジャラリ”とマイナスドゥエーンキが武器を取り出す。それは腕の半分、下腕の長さに等しい棍棒を二本、端を鎖で連結した武器、所謂『ヌンチャク』である。
使いようによっては関節を増やした腕の延長としても機能する変幻自在の打撃武器であり、それを使う以上マイナスドゥエーンキがかなりテクニカルな攻撃をするだろうと予測できるものでもある。
それが三本、両手の先と股間の腰巻き下から伸びるように装備された時、全員の脳裏に戦慄が走った。
『こいつはっ、危険だっ!!』と。
イワオが一瞬のアイコンタクトをウスネに送り、阿吽の呼吸でウスネが行動する。
マヤヤの視界を片腕を絡めて奪い、自らも掌で押さえて“見ないようにする”。
滋養治士から何のサポートも無い野郎組だが、発揮された戦闘力は本日最高値であった。何のリソースも考えない全力戦闘、わずか一分未満にて、下劣の極みのような存在の断末魔が轟き響いたのであった。
いと あさまし……。




