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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
35/69

彼女が芽吹いて2h③

 イワオの悩ましきリーダー的判断もあり、『唐揚げ定食』メンバーのテンションは全体的な上がり気味……にはなった。

 その判断のかいあってか、野営地を引き払って廃都エリアに移動し、スライム狩りは止めて城の攻略をする事にも異論は無かった。

 寧ろ、少女等の方に残念がる気配を感じたのが、マジに気のせいであってほしいと思うイワオである。


 だが“それは間違ってないよ”とでも言いたそうな視線が痛い。


 エヴァラの使い魔『スコーピット』。影のように現実味の薄いコノハズクっぽい魔物。それは今、マヤヤの脳天から生える形で実体化している。

 ともすればイワオが抑えられない場合の最終防波堤として、警告灯代わりに現れているのである。


 が、同時に新たな『呪い』対策の発生源でもある。


 スコーピットを中継点として、エヴァラは三体の魔物をここに送り込んでいる。全てエヴァラが使役する使い魔で、羽の生えた毬藻(マリモ)という外見の『ポンポポ』というモンスターだ。

 ほぼ全エリアにおり、レベル1のプレイヤーが最初に倒すモンスターとして有名である。ノンアクティブでフワフワと漂っているので、VR環境での三次元的な戦闘行為に慣れるには、恰好の相手でもある。


 それが三体、『唐揚げ定食』全員を三角形の中心に据えるように、周囲に浮いてクルクル旋回しているのだ。これがエヴァラの取った対策。『隔離戦闘領域』(ハメZOC)の生成である。

 ポンポポはただ漂っているわけではない。マヤヤに対してアクティブ、つまり戦闘状態になっているだ。これでポンポポとマヤヤを直径とする球体状の“戦闘領域”が発生する。三体のリンク関係となるポンポポの戦闘領域は結合し、結果、マヤヤを中心とし、ポンポポ三体を円周にする巨大な戦闘領域を形成しているのである。

 そしてポンポポの使役者であるエヴァラからは、“マヤヤの周囲を旋回”という命令しか受けていないために領域は『唐揚げ定食』の移動に追々する形で移動し、この状態だとポンポポと共生扱いになるモンスター以外は『唐揚げ定食』への戦闘行為を行えなくなるのである。


 当然、ポンポポが本来居ないエリアである『廃都ルツボ』もその対象となり、結果、ポンポポが『唐揚げ定食』……というより、マヤヤとウスネをエリアからの攻撃から守る結界(バリア)として機能しているのである。


「なんて言う反則プレイだろうなぁ」


 この方式はこのエリアに限ったものではない。使いようによっては、オールアクティブの最前線迷宮でだっていっさいの戦闘無しにラスボス前まで行ける邪道中の邪道である。


『ふふん。戦闘システムを正攻法で利用しているだけだもんねー。それにリンク制限無いモンスターには通用しないし、多分中ボス以上にも通用しないよ』


「まあ、それはしょうがないだろ。一応オプション報酬の対象だし、トキヤの呪いの解除にも必要そうだしなあ」


『その少年だけどさ、何か“変化”してない?』


 それは全員が認めていた。まるで『赤鬼』と化していたトキヤだが、その変化が解けてきているのである。肌は染めたような赤から赤みのある肌色といった感じであるし、蟀谷(コメカミ)の角も縮んできている。筋肉が膨張気味だった身体もややスリムとなり、あまり異形とは見えない印象である。


「(……まあ、予想はつくな。青少年のエロい妄想が『呪い』の源泉だ。仮想の姿ではあれ、実際の女の姿を観た事で内心の何かが変わったんだろ)」


『(それ経験者の発言かい? 岩騎君や)』


「(のーこめんと)」


 イワオの予想は当たっていた。ゲーム的には考えられない現象だが、トキヤの心情の変化により、『呪い』の影響下のスキルは幾つかが経験値を“減少”させていたのである。

 最も顕著なのは『理性弱体』と『堕落誘発』。呪いの定着時に増加経験値は停止したが、微量ながら現在進行形で総経験値が減り続けているのである。このペースで後1時間もしたらレベルが一つ、確実に下がるであろう。



 隊列等の配置も決まり、城への行程が開始される。

 野営地に使った場所は廃都の主街道と言える場所で、日本に当てはめれば片側4車線、合計なら8車線の幅のあるものである。カーブもほぼ無しの直線道路であり、約500メートル先の城の門はおろか、降りっぱなしの跳ね橋から内部までもよく見えた。

 都心部の学校の校庭ていどの中庭のようで、門を潜って二分も歩かず城内に入れる感じである。


『屋内行くならちょい注意。ポンポポちゃんらの配置が狭まると、結界も狭くなるから。範囲から漏れた部分で『呪い』の対象になるかもしれないのには注意よ』


「了解」


 そうしてようやっと、『唐揚げ定食』は城内へと進行した。


「取りあえず、中ボス一体は倒すぞ」


「「「了~解!!!」」」


「「は~い」」


 異口同音、同意の返事を得て、オートマッピングから推測できる“それらしい場所”を目指す。城の外見を観る限り、左右対象(シンメトリー)でデザインされた物だと判断はできていた。後は中を歩いて見て、外見を反映している内部構造なのかの確認である。イワオの感で意図的に右側の通路を探索し、埋められていく印象から共通のデザインなのか、もしくは外面を無視した異空間内装なのかの確認もする。

 仮想空間だからこその注意点だ。油断すると内装が平気で外観より巨大なんてザラなのだから。


「イワオ、一応、歩数的には内と外はリンクしてそうダゼ」


「城の振りした迷路でも無さげでゴザルな」


「迷路? 迷宮じゃなくてです?」


「あーマヤヤ、“迷路”ってのは、移動する道が一本道なのに、スミからスミまでズーッと歩かなきゃならないって意味にゃ。今回なら、この城の中全部歩くって事にゃね」


「なるほど~。じゃあ、迷路じゃないからそんなに歩かなくていい。って事?」


「そにゃ~」


 迷路構造が一本道とは限らないのだが、移動する感触で内装は“城”をイメージする建築デザインになっているとテンマルは判断した。通路の所々に物置や兵士の詰め所と、それっぽい施設が置かれていたからである。

 探索によってモンスターが現れてもおかしくはないのだが、テンマルの隠密の効果か結界のお陰か、まだ一度も遭遇はしていない。城内を徘徊する魔物の設定も無いようで、マッピングは楽に進んでいる。


地図(これ)、“罠”か“鍵”が紛れてるかも?」


 トキヤが地図を観て推測する。

 現在、城内の探索は1/4を終えようとしている。城を真上から見れば、外観はほぼ正方形だ。正門から右手前を虱潰しに歩いたので、丁度縦横に四分割するように壁で仕切られてるのが予想できるのである。そして、四分割した小さい正方形の中心に少し大きめの部屋があるのが確認できる。移動途中に中へと入れるドアは無く、上階か地下から移動するのだろうと推測できる空間だった。


「中ボスは三体。それっぽい部屋は四つ。確かに気になるでゴザルな」


「階段らしきものは見つからず、か。んー、手前左側か右奥か。……左側行くか。それで階段の位置も予測できるだろ」


 イワオの予想では、階段は左手前から右奥への斜めの対角線に二つあると見ている。それは今の位置に詰め所らしき部屋があったからだ。兵の移動に不便となるような移動ルートを作るデザインは、こうも城を再現しているのならしないだろう、というのが根拠だ。

 だが同時に中央にひとつだけという予想もしている。それは単純に、ゲームでのデザインならば王道という位置だからである。手前左ならばその中央を覗き見ることもできるだろうという算段であった。


「拙者の予想だと中央に上り階段。右奥に下り階段でゴザルな」


「それは伝説のゲームの配置だゼ」


 マヤヤ以外が当然のように思い浮かべた配置である。


「第二の伝説なら城の外にゃーねぇ」


「伝説なら玉座の後ろだよなあ」


「たくさん有るんですね、伝説」


 ファンタジーゲーム誕生から百年以上、伝説てんこ盛りである。

 そして正解伝説はテンマルであった。


「なるほどな、四ヶ所の一つが移動ルートで、残りの地下に中ボスってとこか」


「まあ、どれでもいい。取りあえず一体、倒すぞ」


「「「応!!!」」」


「「おー(にゃ)!!」」


 地下は城の土台として機能させているのか、通路の他は石材や岩盤で構成される通路しかない。ほぼ降り階段から一本道で右手前エリアの地下へとたどり着けた。

 相変わらず雑魚モンスターらしき気配は全くない。

 そして出た体育館ほどの大きさの地下広場に、オーガよりも大型で、肥大で、悪臭放つ異形のオーガが鎮座していた。


「わぁーれぇはぁ、艶鬼王ドウテツの臣にして、色王トキヤの右脚たる色臣『ジュウキ』。色王の“観力”授かり蘇った我が身をもって、勇者の眷族、滅してくれるるぶるるわあ!」


「おーゾンビにゃゾンビ! オーガのゾンビにゃー!」


「今のセリフで俺は確信した! オプション全部ちゃっちゃと殺る!!」


 トキヤが猛る。その理由も実に分かりやすい。ある意味『オレを倒せば呪いが消える』と言っているに等しいのだから。


「確かに速攻で倒すぞ! ZOC消えたろうからな」


 中ボスの位置確認のつもりが、まだ通路にいるうちに発見……というより戦闘状態にされてしまった。だいぶ後ろの方だが通路に隔壁が下ろされて階段までは行けそうもない。このまま通路に居ても『ジュウキ』が追ってこない理由は無いわけで、そうなると戦闘の一択しか無いこととなるわけだ。

 最も、ジュウキの啖呵でトキヤは最初からやる気であるし、他のメンバーも逃げようとする理由自体が無い。ならばと、動きやすい広場へ雪崩込む事にしたのである。


「前、中、後ろ。何時もどおりで行くぞ!」


 イワオの指示で『唐揚げ定食』定番のフォーメーションへ。

 敵の正面にイワオとトキヤ。敵からの死角になる、前衛から斜め背後にアタッカー二人。さらに後方、しかし前衛の真後ろとなる位置にウスネとマヤヤである。

 エヴァラの使い魔達は、中ボスが戦闘状態になったと同時に何処かへ消えた。もし中ボスが無差別の範囲攻撃を持っていた場合、使い魔は攻撃の余波で瞬殺されてしまうからである。


「マヤヤ、先ずは全力で“強化”にゃ!」


「うんっ、『紬蟻の衣』三重連詠唱、行きます」


「ワタシは六重連にゃ!」


 レベルの違いで露骨な性能差が生まれる。マヤヤは前衛であるイワオ等と自分ににかけ、ウスネは自分も含む全員にかける。

 三重連や六重連とは魔法ジョブが共通で使用する『重連詠唱』システムの事で、複数人に同じ魔法をほぼ同時にかけるものを言う。レベル10の区切りで対象を一人増やせるので、まだレベルが20台のマヤヤには三人が限界なのである。

 そして『紬蟻の衣』とは味方の被ダメージを一定量減衰させる味方の強化魔法である。マヤヤの場合一度に受けるダメージの20%を、ウスネの場合は55%を減衰可能。発動後三分は機能する。


 魔法の発動と共に大量の細かい甲虫らしきもので構成されたリングが全員の周囲に浮かぶ。猛スピードで回転し飛ぶ虫が、敵からの攻撃を弾くといったデザインである。


「続けて、マヤヤは『舞華雪』! ワタシは『解毒の霞』!」


「うん!」


 『舞華雪』は周囲に花弁が散り降るデザインの持続型HP再生魔法である。1秒あたりの再生量は微々たるものだが、実は効果中は即死攻撃を無効化できる裏効果がある。地味に重要な魔法なのだ。

 『解毒の霞』は毒性の状態異常を回復する魔法で、レベルにより対応できる毒性が多くなる。また、効果中にはそもそも毒系異常にはかからない予防策的な使い方もできる。


 滋養治士には戦闘状態で大量のHPを回復する手段が無い故に、ダメージを受けないようにする能力が多く設定されたジョブなのである。


 強化された守護騎士二人に、肉饅頭のように膨れ上がったジュウキが体当たりをしてくる。激突の寸前、イワオが一歩前進し、スキル『アイアンガード』と『ファランクス』、さらに『テラードスパイク』を発動、ジュウキを完全にその場へと“固定”する。

 『アイアンガード』は物理ダメージ減衰。『ファランクス』は紬蟻の衣の守護騎士版である。複数のダメージ減衰と強化によって、体当たりによる被害は二桁に届かない。イワオはほぼ、無傷と言っていい。

 そして『テラードスパイク』の効果は敵の移動阻害である。地面から生えた何本もの“トラバサミ”が敵に齧りつくデザインで、「ひあっ!」というマヤヤの悲鳴が背後から聞こえるくらいインパクトが強い。


 一方、僅か後方のトキヤは充分反撃可能の範囲であり、剣を手にした方でスキル『カウンターバッシュ』の発動だ。斬属性の武器の効果でショルダータックル姿勢のジュウキの腕をあっさり切断。大ダメージ判定の部位破壊効果を生み、数秒の硬直状態を与えた。


 この隙を逃すアタッカー組ではない。

 テンマルはジュウキの顔面に5本の矢を突き立て、カッツェは膨れた腹に“火”をまとわせたエストックを刺し込む。そのまま体内を焼くように炎魔法『炎の牙』を放つ。

 ジュウキの口内や耳、腕の切断面からカッツェが放った炎が溢れ、深刻なダメージを与えれたエフェクトが確認できた。


「ぷぎーりるるるるっ!!」


 矢や炎で視力異常を起こしているだろうに、残った片腕を正確にイワオへと振り下ろしたのが、ジュウキの最後の攻撃であった。

 またわずかにイワオのHPを削った直後、守護騎士二人の影から飛び出したウスネが形だけの格闘技をジュウキの横っ腹に当て、一瞬後、盛大に土塊と化して爆散したのである。『裡門頂肘』。要は“肘打ち込み”であるが、別にウスネの格闘能力による威力ではない。接触型の回復魔法『HP遊填』を発動させた事による威力である。

 『HP遊填』とは滋養治士のHPを対象に移譲する魔法であり、本来は味方のHPを戦闘中に大量回復できる滋養治士唯一の魔法である。接触状態という制限と回復の最大値が滋養治士のHPに比例するので、高レベルでなければ効果の薄い魔法だ。


 多くのゲームではアンデット系の魔物は回復魔法でダメージを受ける。『トリオン・オブ・ラビリンス』でもそれは踏襲しており、ウスネはそのシステムを利用して、90レベルである自分のHPのほとんどをジュウキに叩き込んだのであった。

 ほぼ瀕死であったジュウキには、完全な殺り過ぎ(オーバーキル)攻撃である。


 このての技を多く発案、そして実践している癒やさない滋養治士(“ネガ・バラ”)の異名を持つウスネならではの所業であった。


「マヤヤぁ~、回復回復~にゃ」


「はぁい」


 そのまま女子同士でチュッチュッとフレンチなキスを始める様子に、一瞬前までの緊張感が霧散していた。

 ここ最近ウスネが大人しかっただけに、尚更な感じに脱力する野郎組である。



細かい説明入れようとすると、すぐ分量が膨大になる罠……。

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