彼女が芽吹いて2h②
野営地一階、共有ロビーにて。
銘々リビングソファに座り、休憩後の探索再開の準備をする『唐揚げ定食』メンバーである。
僅か数時間の休みの後の、彼、彼女等のリフレッシュ具合は、実にバラバラであった。どのくらいバラバラであるかと言うと、状況の描写を6人分書かなければならないくらい、バラバラである。
だが敢えて、強引に大別してしまうとしたら、ドロンとした落ち込み風の気分に支配される年長者組み、異様な程にハイな気分を止められない年少組、といったところだろうか。
ただ、それは内心に秘めたものが抑えきれずに漏れている、といった意味であり、表向きは全員、まるで違う風体なのである。
で、まず年少組はと言うと──
トキヤは表向き、今回のクエスト完了に責任を感じた凛々しさを得ている。それは自分が内心に悶々としている内に、後輩でもある少女等へただ迷惑をかけ、しかも悪戯にその迷惑を肥大化させた結果、少女等に大きな傷を与えてしまったという後悔から得た“責任感”である。
が、その後悔を自覚する流れで、どうしても顔がニヤケてしまう“嬉しい事”があった事もあり、その記憶がトキヤの気分を持ち上げてしまうのである。
ウスネは表面上、休む前の体調異常はスッカリと消え去っている。行程の変更により、本格的に攻略行動をするので迷宮用準備にストレージ内の確認に真剣である。が、猫の獣人の特性で、先端を上へ高く伸ばした尻尾がウスネの感情を明確に表現している。この状態の尻尾は“ポジティブ”であり、しかも小刻みにピクピクと揺れるのは“気分高揚”が継続している事を示している。
不意にチラリと、トキヤを伺うウスネの顔面が真っ赤に染まる様子を見れば、その気分の出所は丸分かりだろう。
マヤヤの雰囲気は一見まるで変わっていない。ゲーム初心者であり、まだろくにゲーム的な行動をテキパキとできるわけでもない。故に、古参が動く様子を一歩下がった状態で観るのが、今のマヤヤのスタイルと言っていい。
そのスタイルは変わっていないのだ。だが、その“立ち位置”は露骨に変化していた。
一歩下がって、の位置はその時その時で様々だ。戦闘時ならばウスネの指示による場所までや、戦わない時ならば誰かの話に合わせてあっちへこっちへとチョコチョコ動く。見る聞く全てが勉強であるから、当然の行動とも言えるのだ。
が、今のマヤヤは“とある一ヶ所”からほぼ動かない。微妙に苦い表情の、イワオの隣から。そうなった意味も、やはり分かりやすいと言うしかないだろう。
ここからは年長者組にして、分かりやすいのでまとめて行こう。
テンマルとカッツェは露骨に“フテている”。それは自分達が少女等を助ける事から“戦力外通告”された事による。反論したいのは山々だが、どこで情報を仕入れてきたのか、邪悪厄隷嬢にオブラート無しの正確無比な指摘を受けたらグウの音も出せない。
結局、起きているのも馬鹿らしいと、フテ気分のまま不貞寝へ。そして起きても気分は継続中なのであった。
そして最後にイワオである。
MMOの経験上、今のような状況になる予測がついていただけに頭が痛い。そんな感想が露骨にでている表情である。
人が群れればそのサイズに合わせた社会が生まれる。社会の中に男女がいれば、人の動物としての本能が多かれ少なかれ“表”にでる。男女の数や相性が都合良く釣り合えばその社会は安定するのだが、そんなものは絶対無い。必ずどこかに歪みを生む結果しか出ないものなのだ。
仮想とはいえ、生身の人間社会の延長であるMMOはその問題を生みやすいのである。
とはいえ、エヴァラに指摘された部分も見過ごせないものだ。しかも早急な解決をしなければならない注釈つきで。
「……下世話だが、テンマル等もそっち方面で“鍛える”しかないよなあ。合コンでも設定すっかあー。後腐れ無いの選んで」
今回はともかく後々の事を考えると、必要性が大きいと判断せざるをえないイワオである。同時に、何故仮想の環境のために現実を利用しないとならんのか? という理不尽を思うイワオだった。
「……? 『合コン』って現実で会う事ですよね? またウスネちゃんの家でお泊まり会ですか?」
イワオの言葉をマヤヤが拾う。意味が分かってないのはデフォルトなので、気にされない。
「いやそれは『オフ会』だな。それはそれで、時間ができたら“部室”ででもやろう。その方が絶対安全度が違う」
「はあ……?」
イワオの説明の意味が分かっていないマヤヤである。オフ会という言葉から説明しないとならないのだが今は先に言うことがある。
「今回のマヤヤ達の事でハブる事になったからな。念のため、次はそうならんよう『勉強会』を用意してやろうって事だ」
自分等が話のネタと分かったのだろう。フテながらも“耳ダンボ”状態なのが丸分かりの野郎アブレコンビである。さらにイワオの言葉の内容から意味するところを読み取り、一気にテンションが上がっていた。
現金な後輩に溜め息を盛大に吐くイワオであった。
が、ここでイワオはスキル『コープランダー』を発動。瞬間転移の如くテンマル等のそばに移動し、両腕で二人の首をそれぞれホールド。さらにマヤヤから離れて男同士の“内緒話”である。
因みに、『コープランダー』とは守護騎士の専用スキルで、味方の位置へ瞬間的に移動し、敵の攻撃からガードするものである。移動範囲はそう広くはないが、迷宮内では問題の起きる距離でもない。
「(合コン開く前に説明しとく)」
「「(応!)」」
「(マヤヤとウスネにゃ、お前等が“想像する事”はしてねーからな!)」
「「(えっ?!)」」
「(あくまでも、あの子等が“治まる”事を“施した”だけだ!)」
そう言ってイワオが中指だけを伸ばした拳を二人に示す。中指が“クン”と曲げられたが、残念な事にテンマルとカッツェには意味が通じない。それでイワオは、後輩に対する教育のレベルを算出できた。
算出した故に、途方にくれた。
(彼女作らせるより難易度高くね?)
イワオの偽らざる本心である。
「(いいか、邪悪厄隷嬢の監視付きで“最後まで”やれるわけ無かろうが。トキヤも含めて、その意味じゃマヤヤ等はまだ純潔だからな)」
その言葉が野郎の脳に浸透するのを待ち、イワオが続ける。
「(そういう“寸止め”ができねーだろうから、お前等ハブる事になったんだ。で、合コンの設定はするが、お前等、死ぬ気で鍛えろよ。指だけじゃなく、何を“求められてるか”をテレパスレベルでな)」
「「(お……おぉう……)」」
意味が通じたかどうかも怪しい内容だが、せめてテンマルには分かってほしいイワオだった。
「イワオさんどうしたんですか?」
唐突にそばから消えたイワオを探し、寄ってきたマヤヤである。共有ロビーは生活雑貨でゴチャゴチャとする内装で、死角となる位置もそれなりにある。だがリビング的なサイズなのであまり広いとも言えない。
しばらくキョロキョロとしたマヤヤが野郎三人固まり群れたのを見逃すはずも無く、トコトコ無邪気に寄ってきたのである。
「あー、そう……。あっ、“勉強会”な。その都合を決めようとな。うん、そうだな」
詳細を何とか口にしないよう気にするイワオは、自分で自分の発言の意味を考えないようにしている。その焦りからか、未だにマヤヤの感性を見誤っているのか、余計な情報を与えているのに気がつかない。
「そうですかあ、じゃあ次は“皆さん”と一緒に“気持ち良くなれる”んですね」
こんな爆弾を、平気で投下してくるのがマヤヤなのである。
しかも、内容的に勘違いの発言じゃあ無いところがイワオの理性を削りまくる。
テンマルとカッツェが反応したのは当然、ウスネはさらに顔を真っ赤に染めて『うわーうわー』と声無き悲鳴を上げている。トキヤは少女等を交互に見ては、ウスネと変わらぬ驚きで固まっていた。
俺の社会的生命は……、と嘆くイワオがふと、気づく。
いつの間にか視界のスミに実体化しているエヴァラの使い魔『スコーピット』が、腹を抱えて大爆笑というジェスチャーで床を転げ回っていた。
“コープランダー”で踏み潰そうとしたがあっさり逃げられ失敗。本当に侮れない魔物である。
しばし用事がたて込むので更新中断かも……?




