彼女が芽吹いて2h①
『……全く、巌騎が率先して暴走してどーするのよ……』
「……面目ない」
『只でさえ十代なんて何でもかんでも直球勝負の突貫プレイなんだから、大人が駆け引きレクチャーするのが常識でしょうが』
「そのてのは教えるほど経験値無いんだよなあ」
『これだから“天然誑し”はあ……はぁ……』
トキヤがスリープから復帰する少々前。イワオは皆より少しは前に起きてアイテムや装備のチェックをするつもりであった。後、できれば軽くひとっ風呂な感じで。
だが、目覚めたとたんそんな予定は頭から消えた。
スリープには関係無いと、守護騎士特有の無骨な全身鎧を着たまま寝たはずなのに、何故か起きたら“何も装備していない”。爬虫類の体表を思わせる硬くしなやかな肌が完全露出の状態になっていた。スリープ直前に寝ぼけて解除したのだろうか? とタオルケットを捲れば、派手なファイヤーパターンのプリント付きのインナーは健在だ。そこまで深く寝ぼけなかったのだなと、思い込んだ。
が、すぐさま、それは間違いだと気づく。
イワオの鳩尾に掌を当てるように、身体の脇から延ばされた“細い腕”が見えてしまったのである。慌ててタオルケットを剥ぎ捨てると、イワオを抱き枕にするように、ピッタリ寄り添って寝る少女、マヤヤの姿を確認した。自分で調整したのか、インナー含めて全ての装備が解除され、裸体を完全にさらけ出した姿で寝ている。細い脚を無理やりイワオの太い脚に絡め、ベッドに横になりつつも“しがみつく”といった恰好でイワオと密着していた。
「すー…………。すー……」
気づけば、マヤヤの仮想の寝息がイワオの脇腹を擽るように吹きかけられ、とたんに妙な刺激を感じるイワオ。とある部位が本能に直結した反応をせずに助かった。本気でそう思う一瞬である。
そこを不意打ちのように。
『未成年に手をだしたね。この犯罪者』
唐突に必殺の糾弾が撃ち込まれたのである。
「うわあああっ!?」
情けなくも狼狽えるイワオだが、それもしょうがなかろうという、シチュエーションである。現実ならば、社会的生命を13階段上りきって手放す瞬間なのだから。
声の主はマヤヤの“項”から“生えていた”。
白い肌に融合するよう紐状に繋がり、伸びた先に行くほど黒ズミ、先端は風船が中途半端に膨らんだような、歪な漆黒の楕円形と化している。イワオが凝視する前で歪みはさらに細かい皺を増やしグネグネと形造られた挙げ句、その場には一羽の“コノハズク”が鎮座していた。
『なーんてね。嘘よ、テヘペロ♪』
イワオが鷲摑んで握り潰そうとしたら逃げられた。案外素早い奴である。
この黒いコノハズクは『トリオン・オブ・ラビリンス』に登場する歴とした魔物、モンスターである。名は『スコーピット』。プレイヤーの影に潜んだり直接身体に寄生して行動を監視し、別の魔物へ情報を送るサポート的な役割を持つ。
実際の戦闘においては、パーティーの誰かがスコーピットに寄生された判定になるとモンスター全体の戦闘力が1.5~2倍へ強化される。地味に最優先に倒さねばならない対象である。
そして、こんなモンスターを介してイワオと話す者など、思い悩む必要は無い。
現実でも頭痛の元の親戚筋、『邪悪厄隷嬢のエヴァラ』である。
『全く、知的好奇心とゲーマーの業で若人の瑞々しさを“そっと陰から堪能しようとしたら”、こんな事にするなんて、ちょっと、巌騎。そこに正座!』
そして冒頭へ。
ニート叔母に説教される甥っ子の図。となるのである。
腐った性根による盗撮行為はさておき、今回の経緯全てを知っているエヴァラの説明は聞かなければならない。仮想環境で正座も苦にならないのを密かに感謝しつつ、イワオはマヤヤに起きた異常を聞かされたのである。
フォート『唐揚げ定食』が迷宮入りした時点で、エヴァラの呪い対抗の装備は破損を開始していた。主な『呪い』の発信源であるトキヤは、ジョージ製の対抗装備で少なくとも突入早々からマヤヤ達へ影響を与えるような“強度”は無いと断言できた。
では、マヤヤ達は、“何に”攻撃されていたか?
エヴァラもすぐには分からなかった。だがこのエリアの行動原理から推測はできた。マヤヤと、そしてウスネは、この“エリア自体”から攻撃されているのである。
何故ならば、このエリアのラスボスは1人のプレイヤーの願望を反映して誕生している。そのラスボスが君臨するエリアも、元は同じ。
たった1人のプレイヤー、トキヤから発生しているのである。
トキヤの“異性への欲求”という願望から。
そんな予測がたったなら対策はとれる。使い魔として同行させたスコーピットを通して、その位の干渉は、エヴァラには簡単な事であるから。
『ところが、なぁーによ。私が人知れず頑張ってるそばで、よりにもよって女の子達を囮にしたりエサにしたり、随分鬼畜な事して物欲満たしてるじゃないのーよ。おかげで、また“別件”のサポートの必要ができたじゃないの!』
今後の対策は取れる。だが現状発生してしまった問題は、さすがにスコーピットを通しては無理である。基本、モンスターはプレイヤーを“攻撃”しかできないのだ。
『女の子のメンタル舐めたら駄目よ! ここまで無茶したんだから、きっちり責任取りなさい!』
スキルの影響もあるのだが、散々何時間も強制的に“ある種の興奮”状態にさせられたのだ。もう少女等は自力で鎮める事ができない状態なのである。その状態のまま、野郎組の勝手で数時間の放置プレイである。今のマヤヤとウスネは、行き場のない衝動で気が狂ってもおかしくない状態といえるのだ。
不幸中の幸いであるが、このエリアにいるおかげで少女等の体調はシステム的な安定処理を受けている。が、システムの補正による状況が長すぎると、通常状態の精神がこの状態であると、プレイヤーの意識のレベルで上書きされてもおかしくない。
早々にこの興奮を治める必要があるのだ。
『あの子達も危険は感じたんでしょ。本能的に求める対象に縋りに来たのねえ。でもまあ、無理だった。この子達、余りに“お子様”なんだもの』
マヤヤは自分が“そういう処方”を何度もされたせいだろう、同じ手順でイワオの準備を……途中まで済ませれたようだが、そこで限界。失神モードで倒れ、今の状態なのである。
ウスネは意識朦朧だが、そもそもトキヤを装備解除させれる“大人の知識”が無い。哀れ、寝こけたトキヤにただ泣きついてるだけだ。
『あんた以外に“適切”に処置できる男も居なそうだし、マヤヤと、あと花梨もちゃんと鎮めてあげなさいよ』
その言葉に含めた意味を理解し、陰鬱とするイワオである。一歩譲ってマヤヤはともかく、花梨のまで面倒を見るのは……、兄としてどうなんだ? という部分が特に引っかかる。
その時だ。壁を通して『かりんーーー!』と叫ぶ声が聞こえた。
イワオとエヴァラはしばし沈黙し。
『ついでに少年の“お勉強”もヨロシク、かな?』
「あ……頭イテェー……」
その後、ドタバタしたが休憩時間は3時間追加で取られる事となる。
カッツェとテンマルが問答無用でスリープ状態を過ごさせられる事となったのは、言うまでもないだろう。




