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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女が堕ち炒る2h⑧

 思ったよりも脱線に時間がかかり、『唐揚げ定食』一同は迷宮内で休憩をとることにした。

 女子組に必要な待機時間を含みつつだが、合計9回の戦闘、およそ7時間の長丁場である。仮想の空腹も出るので、安全地帯を確認し本格的なキャンプを設営していた。


 仮にも“廃都”と名の付くエリア。大型の地下迷宮以上に全容がある。

 長時間移動し、野外扱いの街路はモンスターの出現判定無しと判断したので、城まで中間といったあたりの広場に『野営地』(キャンプ)を設営することにしたのだ。


 『野営地』とはプレイヤー、またはパーティー専用のプライベートエリアを展開する機能である。基本は1Kにも満たないサイズのワンルームで、地下迷宮なら地下へ降りる階段付きのシェルタードア。屋外エリアか今居るような環境では丸太小屋風の建物が建つ。休息に使うだけなので、アバターサイズに見合ったベッドが置かれただけの内装である。


 『野営地』はクエストで入手して以降、誰も所有していないエリアならどこでも展開できる。さらに改装クエストを完了させれば、内装や間取りの変更。増築して設備を増やすなどが可能となる。パーティー環境で使えば連結して大きめのコテージ風にする事もできる。


 今回は5棟が一列に並ぶよう配置された。内装はパーティー用設定に組んであるので、どのドアから入っても軽く30名は泊まれるロッジ風ホテルといった内装のロビーへ繋がるようになっている。


「このクエスト終わったら、マヤヤの野営地クエしないとにゃ」


「そうだなあ。じゃあモーリア地方に拠点移すようにしないとな。あのクエスト、時間かかるし」


「よく分からないですが、……分かり……ましたぁ」


 ロビー中心には人間一人を寝かせて丸焼きにできるサイズの大きな囲炉裏型暖炉が置かれ、回りをグルリと囲むロングソファタイプの長椅子が幾つも設置してある。その内一つにマヤヤを寝かせ、他のソファには各人思い思いに腰を落ち着かせた。

 テンマルのみ隣接してあるカウンターキッチンへと移動し、野営地設備の冷蔵庫から“熱々のコーヒー”やら“熱々甘々のホットココア”を取り出す給仕役をこなす。


休む(スリープ)なら部屋のベッドででゴザルよ。この野営地はプライベート設定“無し”でゴザルからな」


 共有宿泊を可能としているための設定である。基本のスリープ状態では他者が触れれない状態となるが、それでは共有空間だと邪魔になる場合がある。なので共有者同士は現実同様、常時自由に触れ合えるようなっているのだ。ゲスト扱いで野営地を使用しているマヤヤにも、この設定は適用される。


「あうう、鬼畜なゴザルが弱者に鞭打つにゃ。皆がワタシを“こんな身体”にしたくせに!」


「貶められたでゴザル! 反省せんでゴザルが!」


「人聞き悪りいヨ! 不可抗力と喜んで言い訳するケド!」


「まあ、尊い犠牲だ。ウスネの頑張りは着実にマヤヤに結果を出せてる。その代償とアキラメロ」


「ううう、ウスネちゃんもイワオさんも、イジワルです……」


「うー、俺もちょい余裕無しだよー。」


 ソファを独り占めするのは3人。マヤヤとウスネ、そしてトキヤである。


 女子組を慮った言い方をすれば、約7時間、鳴こう……いや泣こうが喚こうが許されず、プロフェッショナルによるハードでディープな全身エステの連続を経験したようなものである。腰が抜けたなど生やさしい。自分でも初めて聞いたような、激しく乱れた本気の悲鳴が発声運動のように体内を揺らした挙げ句、指一本すら気怠くて動かせない状態なのである。

 トキヤの方はとみると、全員予想はできるかもしれないが本当の意味では共感できない内容でもある。

 つまり、己のケダモノを必死に抑えていただけなのだ。理性が働いていても勝手に動く本能である。それすら抑制しようとしていたのだから野郎組も何となくは、分かる。だが“良く耐えた”とも誉め辛い心情なので、半分は放置気味なわけだ。


「とりあえず自制が利けるのは、いい発見なのかなあ?」


「うーん……。でも、結果的にだよー……」


 トキヤはイワオ同様最前衛でモンスターと対峙する。配置的にウスネやマヤヤと離れているから、手を出せていないとの自己判断なのである。


「ふうん。それで今は、お互いぶっ倒れてるから大丈夫、テカ」


 『呪い』対策のアイテム効果か、男性組はトキヤの影響を受ける気配はいっさい無い。イワオがトキヤのステータスやスキルをチェックすれば、どれも経験値を増やしてはいないので、呪い対策も成功していると見ていいだろう。


「しかし素直にそうも思えんでゴザルな」


 休憩中の学生組と自分達のドリンクの用意を終えたテンマルが、自分のコーヒーを飲みつつマヤヤの方を指差す。全装備が復活し、やや見難いが指し示されるのが首もとであるのは分かった。


「壊れている?」


「おそらく呪いに対抗していた結果でゴザろう」


 マヤヤの首輪のクリスタルが、かなりの数を失っていた。ウスネはと見れば多少はマシだがクリスタルの欠損を確認できる。


「トキヤとは別口の『呪い』が発生しているって事カ?」


「分からんでゴザル。拙者も今さっき気づいたのでな」


 野郎組が前衛ばかりであった弊害であった。後衛の位置くらいは把握していたが、目立つ情況以外にの注意は散漫だったのである。

 目立ったのは何だったのかは言うまでも無い。


「ふむ……。あ、所でトキヤ、お前予備のマント装備あるか? “汎用”ジョブか装飾枠のやつ」

「ん? いや全部守護騎士専用だけ」


「そうかあ……、俺もなんだよなあ」


 イワオが求めていたのは汎用、つまりジョブに拘らず誰でも使える装備の事だ。具体的に欲しかったのは『マント系の装備』。ウスネとマヤヤの惨状を隠せる物だ。

 9回の戦闘により、少女組のアバターへの状態異常は装備の破壊に連動していない事が分かった。最後の方では身体の回復が少しは早まり、状況的に身動きはできないものの、それさえ何とかなれば移動時間の短縮は可能と思えたのである。


「……動けるなら生まれたての小鹿のような状態でも引き回すつもりでゴザルか。イワオ、なかなかに“S”なんでゴザルなあ」


「なっ……、違うわ!!」


 イワオ的には、装備を復活させてはまた破壊され、を繰り返すなら、壊れたままでも動けたら復活の時間が短縮できると考えたからである。

 『限定全損状態』は、破壊された時点で復活までのカウントが発生する。この間は同じダメージを負う状況でも関係無い。つまり、待機する30分内でひとつは戦闘を終えれるのだ。

 だが、さすがに実妹含む少女を全裸で連れ回す趣味も無ければ気概も無い。なので身を隠せる物を求めたのである。


「うう、お兄ちゃんが変態への道に開眼したにゃぁ」


 グッタリ寝転ぶウスネから、容赦ない糾弾が飛ぶ。その語尾のロールプレイから、見た目はともかく精神的な余裕があるのが憎たらしい実妹である。


「マーヤヤぁ、いくら何でもこの鬼畜には付き合う頑張りいらにゃーよー」


「うん……んー。わかったぁよー……。……すぴー……」


「む、また失神モード(ロスト)にゃあ。兄ぃ、エスコートよろしくー」


「人に散々言っといてソレか」


「消去法にゃー」


 消去対象が三者三様の落ち込みを見せる。ウスネの身内補正はあるが、多分に自業自得成分も無視できなくはある。


 『唐揚げ定食』共同の『野営地』は、一階にリビング風ロビーとキッチン、風呂などの共有設備が、地下に職人用の各設備が。そして二階全体を30室の個室で占める。

 個室の仕様は基本のままだが、共有設備の充実さがささやかな自慢の野営地である。


 体格の違い過ぎ故、マヤヤを抱え上げたイワオの姿は、『お姫様抱っこ』と言うより『寝こけた子供を抱いたパパ』である。

 何となく期待された絵面とは違うイメージに、非難の視線を感じるイワオである。気になったイワオが見た先では、うつ伏せだったウスネまでが顔のみ起こして冷たい視線を向けていた。


「なぜ責められる……?」


「うー……。治れば俺もアレができるー……」


 トキヤが妙な決意を唱えていたが、そちらは全員に温く無視されていた。


 イワオとしては、このままマヤヤを抱いたままでもしょうがないので、二階の一番手前の部屋を使う。ベッドへ横たえればそれで終わりの、手軽な作業である。が──


「そういえば、スリープ設定を変えてなければ8時間のままか?」


 昨夜、イワオの指示でマヤヤは長時間のスリープ設定をしている。その設定が生きている場合、次にマヤヤが起きるのも8時間後となる。


「……さすがに長いな」


 マヤヤの手を持ち、ウィンドウを立ち上げるジェスチャーを“なぞる”。

 こうすれば他人のウィンドウも操作可能な、モラルには反するが便利な小技である。


 散々他人の好いようにステータスをいじられているマヤヤは、ウィンドウさえ立ち上がれば誰にでも見れるし、他人が操作可能な設定をデフォルトとしている。後はマヤヤの手を使わなくてもイワオ自身が操作可能だ。

 手早くスリープ設定を展開し、想像したとおり設定が8時間だったので、適当に3時間へと変更した。

 その程度あれば、他の者も装備調整をして1時間は休めるだろうとの予想である。


 後はその流れを伝えてイワオ自身も少し休もうと、部屋を出ようと振り向けば。


「何をしてる? オマイラ」


 開けっ放しのドアからはワザワザ顔半分を隠して覗く四対の視線、である。


「何かこう、兄貴の手慣れた感じに危険を感じてる妹ですが?」


「同じく、“少女の扱い”(ケイケンチ)に一歩も二歩も先を感じて焦るカエルだゼ」


「同じく、今度の呑み会ではテイクアウトの参考にしようと学ぶシノビでゴザル」


「人生の先輩に無力感を感じる後輩だよ!」


「うるせいっ! ていうかトキヤ、慟哭すんな慟哭!!」


 取りあえず、アホなかけ合いで通常運転に軌道修正となる一同であった。




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