彼女が堕ち炒る2h⑦
本日の迷宮:【廃都ルツボ】
対象ランク:冒険者R5以下。ジョブレベル60以上。6人パーティー以上を推奨。
討伐クリア対象:艶鬼王ドウテツ(霊体) or 色王トキヤ
達成報酬:600,000.G。
討伐オプション:色臣三将の漆首(1個毎に100,000.Gを追加)
【廃都ルツボ解説】
岩窟都市国家ゴリンドと大都サイオンを結ぶ街道途中、アーハ山脈地下にあるドワーフ族の隠し都。赤の鬼王族『艶鬼王』に占領され、数百年の後、勇者の討伐により都ごと滅する。
主族であるオーガは全滅したが、従族のドワーフは一部落ち延び、秘術により艶鬼族最後の王、ドウテツの復活を画策しているという伝説がある。
“ザシャアッ”と焼けた大地に両腕と膝を落とし、全身でうなだれるトキヤの姿があった。
「トっ……、トキヤくん。しっかり!」
「お、俺が討伐対象……」
「ううむ、ある意味エスプリ効いてるなあ」
「身内を倒すかあ。一部のフォートじゃ嬉々として殺りそうなシチュだナア」
「2~3、思い当たるでゴザルな」
「殺伐とした知人の多い生活なんだにゃあ」
『唐揚げ定食』の面子がエリアに立ち、目的地である廃都ルツボへと移動しようとすれば、それがクエストの開始とスタート扱いとなったのだろう。全員の視界にクエスト開始を知らせるウインドウが開いた。
とたん、トキヤが“全力”で脱力したのである。
クエストの状況を理解していないマヤヤがトキヤに駆けよる一方、他のメンバーはクールな対応で済ませている。
まあ、下手な同情よりは土足で踏みにじられるくらい“いじられた”方が気楽なのだが、さすがに勢いを持とうとしたタイミングでは逆に心が折れかねない内容である。
「まあ、トキヤを殺るのは最終手段としてにゃ、呪いの解除はやっぱラスボスなんかにゃあ?」
「そう考えるのが普通だろう。オプションはどうだかだが、ま、三体は居るんだろうから合計四体は予定だな。で予定が無理なら一体で済ますか」
「雑魚がどの程度いるのかも、先ずは確認でゴザルな。トキヤより強ければ、考えるでゴザル」
「この舞台だと、魔法は“水”一択かナア……。つかトキヤ、どの属性に弱いか自主報告ヨロ」
「ちくしょーー! 死んでたまるかぁーー!」
「あやややややっ?!」
妙な発奮のおかげかトキヤの気力も回復し、全員、廃都へ向けての歩みを再開する。巨大な地下ドームとなっているせいか、広くはあるが移動ルートはほぼ固定で、今歩く大きめの街道が、さざ波な形状に固まった溶岩石の丘陵を越えて遠くの都市へと続くのがよく見える。
殺伐とした雰囲気ではあるが、そこには魔物の気配もない。小さな脇道は無視する方向で、ものの30分で街の入り口に着くことができた。
「廃都……なんだな、本当に」
城塞都市というデザインなのだろう、高さ4メートルほどの城壁に囲まれた街は、それなりの攻城兵器が無ければ攻めようが無い。そう断言できる堅牢さだった。観音開きの巨大な門扉が留め具から千切られて倒れていなかったら、今でも誰も通すことは無かったろう。
ポッカリと開かれたアーチ型の門をくぐり抜ければ、石造りの廃屋が均等に並ぶ形で広がっている。大通りは幅5メートル。路地らしいのは1~2メートルの不定期さであるが、道の交差がほぼ直角であることから、この街が最初から計画して造られた都市なのだと良く分かる。
「ま、そういう設定なんだろうけど」
そう思い直すことが必要なほど、細かい造りである。家屋の大半は原型を留めており、せいぜい、木板張りだったらしい屋根が朽ち落ちているだけだ。
倒壊している物の陰や瓦礫の端に、人間とは異なる形状の頭蓋骨が転がっている。おそらくは、オーガかドワーフの骨なのだろうと思わせる。そんなあたりまで中々芸の細かい。
「街の中はアチコチ動けそうだが、どうするでゴザル?」
「目標は……あっちにゃーね」
取りあえず、いきなり襲われる心配も無さげなので、皆が思い思いの言葉を述べる。ウスネが取りあえずのゴールと指差した方向には、“如何にも”な感じの城がある。その城まで、やはり一直線に道が続いているので、寄り道しないのなら数分の距離である。
答えを得るため、自然と視線はイワオへと集まる。『唐揚げ定食』の定番パターンなのだが、マヤヤまでが自然と動けているので、多少は根拠あるパターンとも言えるだろう。
「一回くらい戦闘の流れが知りたいんだよなあ。時間制限有りのクエストでもない。ちょいと近場を探索しよう」
イワオの安全マージンを考えた方針に誰も異論は唱えない。それは周り全てが“熱い”環境であるならば、現れる魔物も“火”の属性だろう。そんな思い込みを漠然と皆が持っているし、もしかしたら、その裏をかかれるかもしれない。
そのどちらか? それとも、それすら関係無い第三の選択か? その判断材料が欲しいのだ、という事を、マヤヤを除く全員が承知しているからである。
そのイワオの判断は正しい。
比較的堅牢に見える大きめの家屋跡を選び、一軒目は空振り。二軒目は素材としては使える剣と斧の残骸。そして三軒目。
まさかの『スライム』の襲撃である。
「あーーーっ!! むぐっ!!」
「キャーーー!! ゴポポ!?」
しかも、まさかまさかの“バックアタック”である。
一応説明するならば、バックアタックとはパーティーの進行方向の真後ろから、油断しきった状態で襲撃を受ける事を言う。
パーティーの隊列は前衛にイワオとトキヤ、中衛にテンマルとカッツェ、最後尾にウスネとマヤヤだ。
これは屋外にモンスターの気配が無い故の、屋内索敵へ戦力を集中したからの隊列であった。不意打ちへの防御能力が高い守護騎士二人が“標的役”として突入。現れた敵を死角からアタッカー組が仕留めるという『唐揚げ定食』では定番の行動パターンである。
前三回同様、何の気配も無かったことから“ここもハズレ”と判断し、全員が屋内へ入り何かアイテムは? との時である。
戸口で待機していたウスネとマヤヤも、中へ入って探索の手伝い。の流れで、唐突に“上”から“埋められた”。高い位置の死角にスライムが隠れていたのである。
現れたスライムは三体。二体はそれぞれウスネとマヤヤの全身にまとわりつき、押しつぶし、“取りこんで”いく。イワオでも全身が埋まりそうな大きさである。あっという間に半透明の体内で泳ぎもがく状態となってしまった。
残り一体が野郎組と女子組を隔てる位置でフリーとなり、先ずは転身した野郎組と対峙することになった。
「なんと!? 意外にもほどがあるでゴザル!!」
「うわっちゃ、予想外過ぎて火魔法の短詠唱設定外してたヨ!」
「どうでもいいから、どっちか脇行け。壁が張れない!」
「「スマーン!!」」
不意打ちとなったが古参ベテラン廃人奇人の集団である。ものの数分にてフリーのスライムはおろか、女子組を呑み込んだスライムらもアッサリと倒された。
ゲーム仕様で窒息などを感じる事は無い。スライムは物理攻撃をほぼ無効化するものの、高レベルのプレイヤーはジョブに限らず何かしらの属性魔法か魔法が付与された武器も持つ。ついでに、スライムが使った女子組への攻撃は“行動不可能攻撃”であって、ほとんどダメージを発生させない。
まだ低レベルであるマヤヤにしても、1時間はそのままで問題ないものだ。故に野郎組も余裕をもって対応できたのである。
が、戦闘後の結果は、全員が予想外とするものであった。
「……ん……、ふにゃあぁん!」
「ええ……えと……。すみま……せんんっ! あ♡」
スライム内から救出された女子組。ウスネとマヤヤがトンデモナイ“状態異常”で行動不能のままとなったのだ。
「まさか……、こんなエリアに“伝説のスライム”が実装されてたとは……!」
「ええと、ドロップは『エステルスライムの核』か。本当に、本物だ」
『エステルスライム』。それは『トリオン・オブ・ラビリンス』というゲームだけに限らず、全てのファンタジー系VRMMOで一部のプレイヤーに渇望されていたモンスターである。
そもスライムとは、脳筋渦巻く“GUNG-HO”で“Ranger”で殺す気で殺らないとゲームの舞台そのものを破壊しやがるプレイヤーに業を煮やしたサービス側が、“最終兵器”として投入した曰く付きの天敵である。武器の攻撃は効かない。どんな強力な武具も溶かし、ついでに脳筋も骨も残さず消化する。
魔法に弱いという弱点を持つも、それは当時のプレイヤーが如何に肉弾でヒャッハーと喜ぶ連中だったかを容易に想像させるものだ。
だが、そんな存在も知名度を世界に広げると同時に派生や亜種を産み増やし、日本においては“普通に殴り殺せる”意味不明の茱萸生物へと成り下がる。しかもそれが偏った幻想知識の基本となる始末だ。
そして、別系統のゲーム知識では、本来のスライムの特色は、“ゲル状”で“ヌルヌル”して“武具を溶かす”にのみ注目され、それを当てはめるシチュエーションへの定番モンスターへと変化する。
そう、『エステルスライム』とは、VRMMO環境でその“シチュエーション”を生み出すための能力を有すモンスターなのである。
別名『媚薬スライム』。麝香のような芳香を放ち、プレイヤー自体には一切ダメージを与えないものの、攻撃対象の武装武具を根刮ぎ溶かして破壊する素敵魔物として。
もともと半裸のような防具姿の滋養治士少女達である。僅か数分、ピンクの粘体内でもがく内に、全ての武具類は“限定全損状態”の状態異常となり、戦闘終了後30分間は武具能力を消失する。当然、その間は非表示か欠片程度が肢体に貼りつくくらいの、淫らで悩ましい有り様となる。武具がこの状態から復旧するまで装備交換も不可能となるから、本来ならば露出を曝す羞恥を堪える時間となるのである。
だが、少女達には“そんな事”を気にする精神的な余裕は、持てていなかった。
エステルスライムが“媚薬”などという別名付で呼ばれる所以である。
外見的にも恥ずかしいダメージを与えるが、それ以上にアバター本体にも、恥ずかしくハシタナい状態異常を与えるのである。
図らずも、先日マヤヤやウスネが経験した性感帯暴走の再現である。肌に触れる刺激全てに疼いてしまう状況だ。動こうとすれば麻痺と痺れの複合効果で“擽ったさ”を超えた刺激が背筋を走る。その度に自分でも予想外の妙な悲鳴が迸り、さすがのマヤヤも恥じらいを覚える有り様だった。
結局、少女等の装備が復活するまで状態異常も継続し、つい、廃屋のスミで身体を丸ませ悶える様を、『観てはいけない』『だが観たい』と、横目でチラチラ観てしまう気まずい時間を過ごしたのであった。
因みに、エステルスライムは女性プレイヤーしか襲わないという習性が設定されている。当然と言えば当然だろう。こんなシチュエーション、ゴツい野郎では観たくない。サービス側もよく分かった判断をしている。
だが後日。エステルスライムの存在が広くプレイヤーに知られるようになると、女性プレイヤーから性差別反対の大量署名がサービス側に届く事となる。その手のサイトには『鑑賞したいヒーロー君ランキング』がプレイヤーネーム的実名で書き連ねられ、『肉食度パネェ!』と男性プレイヤーをドン引きさせる大炎上騒ぎとなるのだが、それはまた別の話であるので割愛しよう。
さらに因みに、このエステルスライム、何故“伝説”とまで言われていたかというと。VRMMOファンタジー系RPGの基礎情報として、古くから登場モンスターとして紹介はされていたのである。だが、実際にはどのゲームにも現れない。自主規制なのか動作チェックで販促にハネラレタのか、どうとでも取れるヤバさなのは皆周知の事なので、現在では都市伝説扱いのモンスター第一位としても、有名なのである。
で、そんなこんなで探索の再開。
濃いトラブルに、このままボスまで最短にするかなどと意見も出たが、様子見をたった一回の戦闘で終わりと判断するわけにも行かない。
せめてもう2~3種類、モンスターの確認をして全体の傾向を知りたいのが全員の本心であった。
「うあうぅ。めっちゃ恥ずいにゃ……」
「……これが“恥ずかしい”……なんですね……。やっと分かった感じです……」
回復後の移動途中である。
丈の短いポンチョで可能な限り身を隠そうとするウスネ。しかし腰までしか隠せないポンチョから伸びる素足が、何時も以上に内股なのが悩ましい。怯えの感情表現で“へなん”と下げられた尻尾が尚更その内心を如実に表している。
一方、俯きっぱなしで自らを掻き抱いた挙げ句、寄せて盛り上がった胸部がすごいことになっているのに気づかないマヤヤ。表情が見えないくせに、髪の隙間からチラリと表れた耳が真っ赤に染まったままであるのが、また悩ましい。
野郎組は少女組を直視するのが気まずい余り、必要以上にクエストの内容予測を真剣に行っていた。
幸い、倒したモンスターはある程度付属情報が開示される。エステルスライムの概要ヘルプを確認すれば、元々はドワーフが鍛冶仕事で利用していた魔法生物である事が判明した。
多少、現実の知識を流用しているのか、エステルスライムはアルコール性質を持たせ、その効能全般を魔物の能力として反映させたものなのどと推測できた。
「武器の品質劣化を防ぐ効果の素材、なのか」
「何かドワーフの酒の原料とかも書かれてるナ。いくらアルコールでも、飲んで平気には思えないナア……」
「えーと、錬金術素材として『美肌効果のボディオイル』? でゴザルか? 理解不能でゴザル」
「名前そのものからの説明は……今ここでは禁句だな」
その他、如何にもドワーフとは縁のあるモンスターであるとの“設定”を確認し、少なくとも、この、エリアでは珍しくない存在なのだと理解した。
「……んじゃあ、ウスネ等には悪いが、“コイツ”等は根刮ぎ倒す方向で行く」
やがて、リーダーであるイワオの下した判断は、女子組にとっては嬉しくは……、あまり“衆人の場”では嬉しくないものとなる。
「『高純度霊銀』のインゴットは、見過ごすにはちょっと惜しすぎる」
鍛冶素材の霊銀は最高位武具には届かない金属素材だが、ほとんど採掘で供給されない希少価値のあるものだ。その上位存在である高純度霊銀は、重要NPCが専用武器で使用しているだけの超希少存在である。
NPC鍛冶師はおろか、カンストスキルのプレイヤー鍛冶師でも加工できるか分からないが、最高素材と予想するのは容易い。その武器を持つということは、プレイヤーのモチベーションが最高に上がるという事でもある。
そんな素材を、エステルスライムはドロップ品として落としたのだ。
この状況でエゴが表面化しなければ、冒険者としては失格である。
敢えて女子組から関心を反らした反動か、アイテムゲットに燃えた野郎組に、女子組は振り回される事となる。
その結果として、『唐揚げ定食』内で最も凶暴であるウスネが、全員から発狂したかのように思われた。
“シクシクシク”としおらしく、腰を抜かしてうなだれるという、世にも奇怪な姿を曝したからである。
エステルスライムは女性プレイヤーしか襲わない。
合計8回。どんなに厳重に守ろうが、確実に隙を突いて餌食にされるマヤヤとウスネが、その度に同じ状況へと落とされる羽目になり、最終的にマヤヤが「もう……無理ですっ」と弱々しく気絶するまで雑魚狩りは続いたのであった。




