彼女が堕ち炒る2h⑥
プレナ白人仕様の時は、やや身体より大きめのバランスのぶ厚い装甲圧の全身甲冑だった『鬼魂の鎧』だが、赤鬼と化した状態では飾り多めの変身ヒーロー、所謂『平成ライダー』的な半分ボディスーツといえる印象に変わっていた。
胴体部分は硬質な部分が多いので気にならないのだが、肩から先、腿から先はちゃんと鎧われているにも拘わらず、赤い肌と同色のせいで素肌が露出されているようにも見えるのである。
「『呪い』がアバターに定着したなら、もう鎧は脱げると思うぞ」
ジョージの言葉を確認し、無事、鬼魂の鎧が外せる事を知るトキヤ。インナーだけの状態はそのまま見事に節分の主役である。因みに表示されるトキヤのインナーは黒のボクサートランクス。この時代の十代少年では普通で面白みの無いデザインであった。
「ほい、着た状態と外した状態でスキル数値に変動無し、と。なら対抗アイテムも簡単だ。しかしだ、坊主。クエスト進行によっちゃあこのアイテム全て、無駄になるから気をつけろよ」
「え?」
“何故?”と問おうとする前にジョージから説明が続く。
「あくまで“似たクエスト”で」という注釈付きで語られた内容は。
『呪い』の解除クエストは、同時にクエスト主を真反対へと誘導するクエストでもある。プレイヤーの希望や願望を方向性としたアバター改造を、最大限に強化した形で完成させようとしているのである。
「例えば、ちょいとマヤヤ。こっちへ来な」
とジョージがマヤヤを呼び、ジョージの正面に向かい合う形で立たせ、マヤヤの背後にはトキヤ、という状態にする。そして“ペロン”と、無造作にマヤヤの背へと回されたジョージの腕が、少女のお尻を撫でる動きで、その実異常なスキルを発動させた。
『武具強制解除』。他者の装備を強引に非装備状態にするスキルである。スキルの対象が武器と防具のみであり、装飾枠には干渉できないが、見た目のインパクトと強力な効果により、一部で絶大な人気の有名スキルである。
何故ならば、このスキルを使うのはモンスターのみであり、しかも戦闘中に限っての話なのだ。ギリギリの戦闘中に唐突に無力化されるなど、悪魔の所業といえる技だろう。
前衛が女性プレイヤーの場合、何故か悲鳴より歓声が多いのでもあるが。
ともかく、よもやジョージが、しかも非戦闘エリアで使おうとは誰も予想のしようがないスキルである。
装備解除対象のマヤヤは、ポンチョとボトムの部位から防具が消失。非装備状態を表すインナーのみで覆われた無防備な尻をトキヤの前に曝す恰好となる。
そして周囲全員がさらに驚愕。トキヤ自身が、なんの躊躇も無くマヤヤの尻を撫でたのである。やがてゆっくりと、自分の行為に驚き始めるトキヤであるが、それでもその手はマヤヤから離れない。
結局、ジョージがデコピンでトキヤの手を弾き、「キャッ!」と「あイテ!」の悲鳴混じりで無理やり引き離すことで事態は終わる。
「「なあーにヤッとるかこの変態魔王!!」」
マヤヤの小さな悲鳴で我に帰った一同。エヴァラの踵落としを脳天に食らい、ウスネの首刈り技でジョージが地面へ頭部を埋め込んだのは次の瞬間である。
「いや、ちょっと数字的な実践を見せようとな……」
地面深くからくぐもった音で聞こえるジョージの声へ半分無視され、慌ててマヤヤの最装備を進める女子組。
地味に、ほんの一瞬で十代女子仕様の臀部全体を覆うデザインのインナーが“大人仕様”のTバックに変更されていたのに戦慄するエヴァラである。
「(しかもオリジナルレースのパールホワイト透け仕様!)」
バカにしかバカを“真”に理解することは不可能。そんな一幕である。
「うがっ、洒落の分からんガキどもめ! つかちゃんと説明するぞ!」
土まみれの顔面のまま、ジョージが今の奇行の理由を話す。
二つのウィンドウが立ち上げられ、似たような数値表を表示させる。片方は奇行前の、もう片方は奇行後の、トキヤの経験値修得の一部である。
『理性弱体』の数値にやや変動が発生していた。
「『呪い』はアバターに定着した。しかし、それぞれの『呪い』には未だに成長する要素が外されていない。今後も、対応する行動をとれば“レベルを上げて行く”わけだ」
この状態では、現状の対策アクセサリーを用意しても遠からずに役不足となるのである。
かといって余裕を持たせるような機能はつけられない。それはトキヤを別の呪いで襲わせる状態にするからである。
「今回の場合、対抗が強すぎればことある毎に『男に劣情起こす奴』なんて形になるかもしれんな」
「「「「それは無しの方向で!!!!」」」」
トキヤ含め、男性組全員からの宣言である。
「「「…………」」」
女性組からも強い否定は起きない。マヤヤやウスネは現実のトキヤを知るからこその不憫さで。エヴァラは“逆ハー”趣味だが“BL”は趣味でないというダメな理由からである。
「てことで。装備の概略は『他人へ影響させるスキルは過剰気味で抑え込み。自身への影響のスキルは弱抑制で段階的に強める』っつー感じにする。嬢ちゃん達には悪いが、少し迷宮内痴漢プレイな環境も我慢してくれ。って流れだな」
他人へ影響するスキルは、トキヤの願望を他人に肯定させる状況にした意味合いが深い。その発動を抑えてもトキヤの内心に影響することは無い故に対抗処置も強めれるわけである。
反対にトキヤの内心に直接関係しそうなスキルは、微量でも経験値を得られるようにしないと悪影響が出る可能性がある。それで結果的にレベルアップした場合、より強い効果の対抗アイテムに装備し直すことで対処しようというわけである。
「なる程……」
「滋養治士に痴漢プレイの心配、“釈迦に説法”でゴザルな」
「えーと、じゃあトキヤくんには何時も以上にエッチな感じに。ですか?」
「いやいやマヤヤ、そうじゃないから!」
「トキヤ、まさか現実で何かやってるわけじゃにゃいよね?」
些細な言葉の違いでトキヤの社会的人権がガリガリ削られる。
「不思議な嬢ちゃんだなあ……。まあ、さっきみてーに本人の理性無視で性欲本能に忠実な“事故”が多発すっから、深ぁい女神の気分で許してやれやってことだな」
ジョージの、フォローかダメ人間認定通達か分からない説明である。
「……? はあ、そのくらい“何時も”ですし、私も困らないので特には?」
「ちょっとマヤヤ。向こうで詳しく聞くにゃ」
皆は思った。『トキヤは何時もマヤヤにセクハラかましているのか?』と。さらにその疑問は『現実で、トキヤはマヤヤに?』と追加の補足が入る。なぜならマヤヤはゲーム内であまりトキヤと接していない。接する時は大概、他の誰かと一緒である。故に誰も知らない時ならば、それは現実で? となるのである。
特にトキヤとマヤヤとウスネは、同じクラブに所属する者同士。部室という、擬似的な密室の存在を知る者同士だ。
ウスネがマヤヤを連れて離れたのは、その確認をするためであった。
だが、マヤヤの発言はそもそもトキヤを対象にしていない。
如何にマヤヤの感性が性的にお子様以前でも、毎日のようにウスネに怒られているのだ。自分の行いの不味さは分かっている。
であるから、毎日のように、“うっかり”男子に対して劣情を持たせてしまう事をしたのだという記憶は持っており、それを総じて『何時も』と言ったのであった。
ついでに、そんな日常なので“ラッキースケベ”イベントも数えるのもバカバカしい状況である。『困らない』とは、それを指しての言葉である。
が、時すでに遅し。ウスネがマヤヤからの説明で納得し、二人して戻った時には既に地面に伏すトキヤだったりする。
馬鹿なかけあいの間にジョージが『対呪いの装備』を作成。当初アバターへ書き込む算段だったジョージだが、クエストによって“解除”される呪いの対象が『鬼魂の鎧』対応だけだった場合を考え、装備依存に変更。西遊記の猿が装備する有名な“アレ”に似せて、頭部に被せる『F装飾』として完成させた。
これは“F”な位置に装備できるという意味で、その部位が他の装備で埋まっていても、位置だけは自由に被せて取り付けられる装飾を指す。
それで一応は準備完了である。
迷宮内では戦闘があるのが基本なので、回復アイテムも充分補充し、武器や防具もチェックした。
忘れたことは無いと、今度は『唐揚げ定食』全員で転移魔法陣へと歩いて行く。イロイロとサポートはしたがエヴァラとジョージはここで別れだ。
「じゃ、お世話おかけしました」
代表でイワオが礼を述べ。背を見せて離れていく6人。
「ジョージ付いて行かないんだ?」
「オレはちゃんと手を打ってあるからなあ」
カッツェの五感を通して情報は全て送られて来る。実はカッツェのスクショ機能に限定したものでは無いのである。
「寧ろ“邪悪厄隷嬢”が動かんのが不思議だがな?」
「私はあんまり戦闘向きのジョブじゃ無いしね。それにちゃんと“お供”は付けたし」
無闇に後輩女子を撫で回していたわけでは無いと言う事である。
「ま、今度はちゃんとクエスト終わらせて欲しいよなあ……」
「あの尻切れトンボな情報、見る度に悶々としたものねえ……」
既に転移魔法陣から消え去った『唐揚げ定食』の面子である。
ジョージは既にカッツェからの情報に切り替えているし、エヴァラも視線を遠くにやって、妖しく呆けた表情となっている。
「あ……」
「ん?」
「エヴァラ、やっぱあのコンセプト、出来が中途半端だぞ」
「なんのよ?」
「ほれ、嬢ちゃん達の“呪い除け”」
「えー? ……あらホント」
如何なる作用か即断はし辛いが、迷宮を行くウスネとマヤヤの、対呪いの首輪であるが。
何かのきっかけでか、クリスタルが“パキリ”と弾ける。
そのクリスタルの残数は、ウスネは『18』、マヤヤは『15』。
さい先怪しいその様子に、ちょっと不安になる職人達であった。




