彼女が堕ち炒る2h⑤
トキヤとの合流の前に、必要だからという事で、マヤヤは分不相応な高額装備で全身を飾られていた。
『トリオン・オブ・ラビリンス』では様々なジョブがあり、それぞれのジョブは目立つ特徴の多彩な装備を有している。それはそれで、性能や見た目で個性を主張するのに困らないほどの種類があるのだが、やはり、ジョブを現すことで付加される機能に偏りがあるのが、実情だ。
方向性が偏る事でジョブの役割も自然と決まる。それは悪いことでは無い。だが、このゲームを楽しむ者達は“同じジョブ”と括られるのを、サービス側がした予測よりも遥かに過激に嫌がった。
とはいえ、各ジョブに特色を消すような装備を追加するのも愚策である。過去、同様の問題を抱えて消えていったゲームの轍を踏むのをサービス側も望まず、しかし自由度は上げたい。その妥協を模索した結果が、武具装備可能箇所を遥かに上回るアクセサリー装備枠の利用であった。
この『装飾装備枠』は、元々は季節イベントやジョークイベントで得られる装備を付けるための“遊び”枠として導入された。外見を少し変える。変なエフェクト効果を発生させる。その程度で、ゲームプレイに直接関係する機能付き装備は想定していなかったのだ。
が、その想定を放棄した。
ジョブの特色とする『利点』『欠点』を打ち消すような、ステータス強化系アクセサリーを解禁することで。
サービス側が用意したステータス強化系を雛型に、後はプレイヤー次第でどうとでもしろとばかりに、派生レシピが公開されたのである。
それらは瞬く間に実物が作られ、需要と供給に沿った数がアクセサリー専用の市場をつくりあげた。さらにプレイヤー独自の効果を持つアクセサリーも創られるに至り、現在ではデータ化された魔法効果やスキルの効果は、全てアクセサリーに付加し、ジョブ関係無しで使用可能という、混純極めた装備群となっているのである。
そして、アイテム作成に関してはプロのエヴァラやジョージと接触する前、ほんの時間差でイワオ達が判断していた“有り物”で『呪い』に対抗という案から、クエストで都合良く得た泡銭を惜しみなく使い、現状最高値のステータスアップ系アクセサリーを買い漁っていたのである。
もっとも、イワオが性能優先で用意したアクセサリーの山を見たマヤヤは、年相応の女子らしく性能そっちのけでデザインに魅了され、“これは好き”“これはちょっと”“コレとコレを合わせると見た目のバランスが”など一人品評会に突入。
必要な物限定で身に着けさせていくという、イワオはゲームの外での苦労を経験したのである。
が、それは置いておき。
ともかく、その結果として。装飾装備枠全てを使って着飾られたマヤヤの姿でもっとも目立つのは『知の指輪』となった。デザインはシンプルな白銀地のソリティールながら、嵌まった石は空色トルマリンっぽいというもので、質素ながら豪華な印象のものなのである。それが両の手の指の、人差し指から小指までの合計8個。
マヤヤの感性では『どこの成金ザマス?』と内心で悩む状態である。
職人の趣味により、アクセサリーの外見と付加される機能は千差万別となるのだが、イワオが漁り集めた物は同じ職人の品だったのか、同種の付加は同じデザインで統一されていた。
『知の指輪』がやや小さくなった感じの『知のピアス』や、逆に大きくなった『強魔の腕輪』など、全身的に色合いは統一が取れる結果になっている。
さらに結果論として、宝石色がマヤヤの髪色と同じなので、調和的な印象も持てていた。
「……イワがデコったにしては、マシな方かなあ」
「あれが、精一杯なんにゃよ。褒めてあげようにゃ」
カラスとネコにダメ出し寸前の評価を食らうワニ。
他人から見たらとても身内故の辛口採点の場とは見えないだろう。
「いやその、俺は機能優先でだな……」
「それにしてはマヤヤちゃんに合う色で統一してる。下手な嘘は男を下げるわよ」
「でも“青一色”はにゃあ。少しは石も目立たせないと、逆にマヤヤがボヤけちゃうにゃー」
真実はその場の印象だけで、あり得そうな虚構を事実として塗り潰される。そんな理不尽に襲われているイワオであった。
「えと、イワオさん。私がもっと着こなせれば……」
当のマヤヤにすら誤解される始末である。まあ、マヤヤにしてみれば全身無理やりイワオの指示どおりに装備したのだから、今の姿が“イワオコーディネート”と認識してもおかしくないのであるが。
むしろイワオがヤルセナイのは、そんな女子組の会話内容を鵜呑みにしている野郎供の反応である。
「くう、絶対昨夜マヤヤを食ったナ……」
「拙者の装備の“余り物感”からして、イワオ、マジでマヤヤに……でゴザルな」
昨夜の事実を知らない野郎供の無責任さに懊悩するイワオだが、言ったら言ったでまた責められる。その理不尽に心で泣く三十路寸前男。だが、その真実をスクショでしっかり記録しているのだから、イワオに弁明の余地無しなのも真実である。
因みにテンマルの『呪い』対策アクセサリーが余り物なのは事実である。
キラキラした目で好みの物を選ぶマヤヤを、最優先にしない理由など無いからである。メンズ系アクセサリーならともかく、どう見ても女子系デザインに目をキラキラさせるような男は滅殺対象とする。それがイワオの譲れない心情であった。
「──その内装備枠の拡張クエストしましょうねえ。お姉さんプロデュースでマヤヤちゃんを存分にデコりたいから!」
エヴァラの不穏な発言が届く。
装飾装備の基本は全身各部位にアクセサリーが一つなのだが、拡張クエストを完了させれば1部位に2個、装備させる事ができる。
そしてこの拡張クエストは、現在四段階まで解放されており、全てをアクセサリーで埋めると相当凄いことになるのだ。
拡張クエストの難易度は高く設定されており、その兼ね合いからプレイヤーが拡張しているのは平均二段階目まで。三段階目を解放している者は、いろんな意味で“強者”と呼ばれていたりする。
「こんな風にっ!!」
地味な黒い姿が一瞬で煌びやかに転身する。
天井から落ちたシャンデリアか? または天井から落ちたミラーボールか? そんな印象しか抱けない姿へと変貌したエヴァラである。
さすがカラスの獣人だけはある。とカッツェやテンマルが変な感心をしているが、“強者”の真の姿を見たマヤヤは自分がデコられる結果を予想して微妙に口角をヒキツらせていた。
そのマヤヤの表情を確認して、内心『こっちの感性は人並みだった』と安堵するイワオとウスネである。
そうした、やや脳天気な雰囲気でトキヤを待つ一同は、プレイヤーが迷宮から帰る時に現れる、転移魔法陣のそばに居る。
ここならばトキヤからも自分達がすぐ分かるだろうとの判断である。
その判断は正しく、早朝から人の出入りが多い転移魔法陣からイワオ等へかかる声が。当然聞き間違えようのないトキヤの声である。
「ゴメン、待たせた。クエストが始まったはいいんどけど、ずっとモノローグ進行で……、どうしたの皆?」
転移魔法陣から近づくトキヤである。だが迎える全員、ほんの一瞬、その“モンスター”をトキヤとは認識できないでいたのである。
「……いつの間にか“種族変更”したかと思ったでゴザル」
「いや選択できねえだろ。モンスターなんてイベントで変身くらいダロ!」
「でもちょっと印象が違うだけで、ちゃんとトキヤくんですね」
「……マヤヤ、後でちゃんとレクチャーするからにゃ……」
『唐揚げ定食』メンバーの前に立つトキヤは、背格好こそ変わらない。だが、白人仕様の外見は見事に消え去り、赤みのある肌、筋肉とゴツゴツとした骨太さのある体格、そして両の蟀谷から天に伸びる双角と、『赤鬼』と呼んでいい姿になっていたのである。
無言で空中に浮かぶ姿見を発生させたエヴァラが、それをトキヤへと向け、確認を促す。不思議そうな表情で“それ”を、“自分の姿”を確認したトキヤが──
「……っ、ギャアアアアアっ!!」
──と絶叫したのも当然だろう。
「おーし。ちゃんと『呪い』は完了してるな。んじゃ対抗アイテム創るぞー! ちゃんと鬼っぽいデザインにしてやるからなー。『虎皮の腰巻き』が定番かねえ? いや最近は『ブーメラン』もアリだよなあ。和風繋がりで『褌』か『廻し』も好いか? ちゃんと“さがり”付きでよ。いやいっそ、『化粧廻し』か……」
ただ一人冷静に……。いや別の意味でテンションを上がらせているジョージが驚き固まっているトキヤを引きずり、自分の屋台を置く方へと足取り軽く歩いて行く。男一人を引きずってスキップなのが地味に痛い。
ジョージのセリフを聞く者全て、なんとなくその外道の物言いに『ヤメテアゲテ!!』と心をひとつにした瞬間であった。




