彼女が堕ち炒る2h③
「……拙者、ナニをどうシテいたでゴザルか?!」
「ふう、成功だ」
『呪いアイテム』の影響にて品性下劣方面にダメになっていた自称シノビの盗賊モドキは、『呪い』に精通する武具職人の“人体実験プレイ”の成果にて回復した。
「この見た目はどうにか成んなかったのか?」
「不用意に外せるのも困るだろうがよ」
「俺は絶対『呪い』受けないようにスル!」
そうテンマルは回復した。普段通りの表情に返ったテンマルの、頭部両側頭を貫く、巨大ボルト形態の『対呪い』装備によって。
ぶっちゃけ、生肉素材で造られた太古の人造人間風味に。しかもこのボルト、微妙に“キリキリ”と回転してるのが観る者にとって非常に不気味である。
『鬼魂の鎧』からの影響でテンマル内に生成、刻まれたスキルは『色魔フェミニスト』。率直でありながら複雑な名称で、効果も『好意対象への倫理観消滅』である。
ヘルプに記されない詳細を書くと、異性同性に限らず、好意ある相手や物には欲望に沿った善意行動に走る精神状態となる。
性欲対象にはケダモノへ。庇護対象には父性愛溢れる紳士へと、どうとでも転ぶ状態であるから、パッとした見た目での判断がし辛い精神なので対応に困るのである。
むさ苦しいオッサンが、人目を気にせず愛らしい美幼女を愛でれば半々で通報騒ぎだが、そのオッサンが愛らしい子猫を愛でれば『困ったオヤジ』か『気持ち悪い』で済んでしまう。共に『おやおやぁ、可愛いでちゅねぇ♪』と野太い裏声が聞こえても、やはり周囲の状況的な反応と対応は変化するだろう。
今回エロサーフ状況から回収されたテンマルだが、彼の名誉のために説明すれば、『呪い』の影響を受けた状況的にマヤヤと共にであった事が影響している。
マヤヤに対する、つまり社会人が未成年者に対する保護者的な扶養感を主要因として発現したスキルであり、色情が加味されたのはテンマルが次代を担おうとする中心の世代の男故の哀しい本能のせいである。
彼の職場環境は早婚気味であり、同僚の幾人からは赤ん坊を抱く家族写真を半強制的に見せられる日々でもある。まだまだ仕事中心の生活で露骨に結婚願望が出ているわけではないが、そうして煽られる日常では『嫁さん欲しい!』の感情は心の奥底に燻っているのである。
残念ながら、仲間とはいえそこまで深く私生活を接していないイワオ等には、テンマルの無自覚な慟哭は理解の外。ただただ、『呪いのせいとはいえ残念なヤツ』の烙印が押され、正気に復帰した今も“温い目”で見られていたりする。
「呪いで面倒な状態にされただけだ。今は鎮静化してるからな、とにかく気にすんな。……な」
「イワオ、何か可哀相ななものを見るような面相なのが、スッゲー気になるでゴザルよ……」
「俺は、何時までもトモダチ、だゼ!」
テンマルの肩を叩き、いい笑顔(カエル面)のカッツェである。
「お前らー。他人事にしてるが、そこの忍者同様にスキル植え付けられてる可能性あんだから、自己診断くらいしとけよ」
店主に言われ、初めて気づいたと慌ててステータス確認をするイワオとカッツェ。一方、テンマルは店主を驚きと感動の表情で見ている。
「拙者を初見でシノビと観るとは! 貴殿、なかなかの者であるな!」
因みに、テンマルの恰好は典型的な軽戦士であって、見た目で忍者には決して見えない。綿入りでモコっとした鎧下、その上に急所を要所要所で守る革鎧。武装はボウガンとサバゲー風味なダガーである。
拘りというならば、鎧下が無地ではなく細かい目地のチェック模様になっている事だろうか。テンマル的にはこれで鎖帷子をイメージしているのである。
時代錯誤を承知で言えば、某ブった斬り対戦格闘ゲームの『ガ●フォード』をギリギリ想わせるデザインである。
「青っぽい革鎧なんぞ、性能は染め無しと変わらんくせに値段が三倍はする趣味装備だしなあ。んでアバターが白人金髪。すぐ判るだろうよ」
「おおおっ、ゲーム生活苦節8年! ようやっと理解者に巡り会ったでゴザルよー!!」
この時代は21世紀中期、元ネタは軽く人の一生分は過去である。
寧ろテンマル、どこでそのネタ拾ってきた? と問われてもおかしくない。
ともあれ、変に意気投合した変人同士が、イワオ等が自己診断にかまける隙に困った事を仕出かすのだが、それが露見するのは、もう少々、時間が過ぎた午後の事、となる。
装備談義や行動指針、雑談を混ぜてダベっていた野郎供の元へ、処置を終えたマヤヤ等が合流したのはそれから間もなくである。
メールの返事が無いものの、大体の流れをイワオがウスネへと送っており、ウスネはそれを確認しての合流なのである。
「ん、“それ”が対策か?」
イワオが、少女二人の共通装備を認めて聞く。
「そう、今呪われてる効果の中和と、今後の『呪い』ての対応にゃー」
イワオの問いにウスネが答え、自分の首に巻かれた細いチョーカーをいじる。
そのチョーカーはパーツひとつが5ミリほどの輪の銀鎖で、オペラサイズをラリエット風に二重に重ね巻くことでキツめのチョーカーサイズにし、喉の中ほどにピッタリと固定されているデザインとなっている。『呪い』に対する対消滅効果は、武具職人店主と同様のシステムだが、エヴァラの方はアバターに呪いの効果を定着させてはいない。無闇矢鱈とアバターにスキルを定着させると、後々面倒となるからの判断である。
エヴァラの内心では、女は時に際限なく淫らであるのも“好い”というダメな趣向が混じった故の処置であるが、チョーカーの外見からそれに気づける者はこの場には皆無である。
そのチョーカーには小飾り取付用のフックが銀鎖に混ぜて20ほどもあり、それぞれに1センチサイズの涙滴型のクリスタルチャームが揺れていた。中には微量の液体が封入されており、揺れる様にあわせて纏わりつくような光を溜めている。
「未確認機能の呪いでも、呪い属性なら、あのクリスタルが取りあえず吸収して自己崩壊。『身代わり』効果で予防ってとこか」
店主が一目で見破る。
「あー、ジョージが居るー!」
エヴァラはエヴァラで、店主の名を当然のように呼ぶ。どうやらお互いの知名度で知るレベルではなく、ある程度直接の知り合いであったと分かった瞬間である。
店主~ジョージの事を簡単に説明し、トキヤの状態に対する内容も大雑把には共有する事となる。女子組みの『呪い』が何だったかは、エヴァラの笑顔による『知りたいの?』で封殺された。
解除どころか対処的な対消滅の処理である。呪いの内容を知られようものなら、簡単に悪用されてもしょうがない。本人は害悪判定のダメ人間だが、そこら辺のモラルを備えるらしいエヴァラは少女組の保護者的行動をとっていた。
さすがは年のこ……、ゲフンゲフン……、である。
そしてまた、しばらく過ぎた雑談の時。
ふと、マヤヤが新しい知り合いに疑問を問う。
「お二人にはとても御世話になりましたけど、なにか、それには理由があるのですか?」
「新人ちゃ……、じゃなくてマヤヤか。質問返しになるが、どうしてそう聞くのかね?」
「えーと、行きずりで、以上の御世話を貰ってるくらいは分かるんです。だから、私もできる限りの御礼はしたいので、でも、その“できるだけ”もまだ分からないので……です?」
「ぶふっ」と吹いたのは誰かは分からない。
だが、意味の繋がらない内容からでも、マヤヤがジョージとエヴァラへ感謝の意識を、もっているくらいは分かる。
「……オレは、ある意味“前払い”の釣り銭返しみてーなもんだから。改めて礼はいらねぇな」
そう言ったジョージはカッツェの方を意味深に流し見る。カッツェが『蝦蟇の油』状態だが、マヤヤに分かるほどの洞察力は無い。代わりに、他の面子からは刺すような視線ばかりだが。
「私はね、イトコの繋がりってだけだから。そんな大した理由でないのよ。あ、でも、“見逃したくない”ってのは理由かなあ」
「ああ、それはオレも同意だ」
『唐揚げ定食』メンバーからも未知の強者扱いされる奇人二人が言った“理由”。それを思い至れないヤキモキさが視線に混ざったか、職人二人から異口同音、同じ答えが述べられた。
『現在も知られない“呪いの解除”。それが成されるかもしれない』
それなりに長い歴史をもつ『トリオン・オブ・ラビリンス』において、謎扱いのシステムが公開される。その可能性に噛めたのだ。
古参であるなら尚更、その状況を見逃せないと宣言しているのである。
実年齢が幾つかは片方を除いて知らないメンバーであるが、子供同然の無邪気さを湛えた眼力には感服と呆れを抱くしかできない『唐揚げ』メンバーである。
「はぁ~、そうなんですかあ~」
一人、よく分からない反応で応対するマヤヤを除き……。
“ピコーン!”
その時である。イワオへとメールの着信音が届く。その内容は──
「トキヤから連絡。『呪い』が定着したと同時に、『解除クエスト』が発生したそうだ!」
こうして、今日のマヤヤの冒険が決定したのである。




