表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
15/69

彼女を弄る1h⑥

 VRMMOゲーム『トリオン・オブ・ラビリンス』は、現実時間の1時間をゲーム内では一日として体感できる。だが、それはゲームソフトとして付加されたものではなく、『トリオン・オブ・ラビリンス』をインストールし、実行することで装着者をアバターへと繋げるハード『D≒R-kit』(通称キット)が基本として有する機能である。最も、『キット』が管理するのは体感時間の変更のみであり、どの程度、現実と違う時間とするのかは、『トリオン・オブ・ラビリンス』等のソフト面で独自に調整することとなる。

 そういう意味ではハードとソフトの両方の機能によって人は時間を克服した環境を誕生させたのかもしれない。


 ともあれ、『トリオン・オブ・ラビリンス』では、多くのプレイヤーが現実の生活と関係しての、“人口”の大増減が定期的に発生する。

 現実の21時から6時までの9時間はゲーム内人口密度が高く、7時から19時までの12時間は過疎化する。ゲーム内では日数として計算すればいいので分かりやすい。


 要は日々の現実の睡眠時間が、ゲーム内では活動の日数となるわけである。この環境を自然睡眠で行うのは不確実性が大きい。故に『キット』には睡眠を管理する機能もあり、逆に言えば決まった時間の間はゲーム内に留まり続ける仕様なのだとも言える。


 今回、ウスネがマヤヤと予定したプレイ時間は7時間であり、それはゲーム内において、一週間の小旅行のような状態なのであった。



「さて、マヤヤ。少し濃い内容の初日だったろう?」


「そうですえ。凄い慌ただしかった感じです」


 この宿はオーガガ島からモタルサへ帰還したと同時に、一番近くにあったという理由だけで選んだ場所である。イワオが指定した部屋設定が、昼に泊まった時にウスネが選んだものと同じなので、特に間取りに変化はない。だが壁紙の仕様やベッドのモデルなどが微妙に違うのは、違う宿から休憩エリアへ移動したという演出の一つであったりもする。


「まさかゲーム初日から本気の迷宮に連れ込むとは思ってなかったんだが、花梨は何時もあんななのか?」


「えーとー、ちょぴっと」


 本来ならば、ゲームのチュートリアルは体感で半日以上を費やす流れである。アバターの使い方やジョブの技能の習熟。最後発となると先行するプレイヤーのお荷物にならないよう、期間限定で使用できる強化装備の配給などもある。そして、その類はチュートリアルが終了した時点で渡される報酬だったりするのである。


「そう言えば、その装備は花梨が全部用意したらしいが……」


「あ、お祝いって事で。役に立てないのも悲しいので、全部“リンちゃん”に奢ってもらっちゃいました。可愛いですよねえ、ポンチョも可愛いのいっぱい合ったんですけど、レベル制限で着れないのばかりで。でも20越えれたらから目をつけたのが一つ着れるようになったんですよ! 後で絶対買いに行きます! あと、時間がなくて寄れなかったステータスプラス効果のアクセサリーとか、こっちはレベル制限も無いから好きなの選べると思うんですよ! あ、お金とは相談ですけど。そうリンちゃんにばかりお世話かけれないし! それに──」


 地雷を踏んだと後悔したイワオである。現実で会った時の印象とゲームでの印象が同じだったので、大人しいのが素だと思っていた。だが興味があることへは年相応の若さが発揮されるらしい。特に服とアクセサリーの定番は、昔、花梨がハシャいだ時を思い出させる。と思うイワオ、巌騎であった。


 こうなったら下手な口出しは更なる地雷である。思う存分話させて正気に帰ってくるのを待つしかない。単なる興味の対象か、本気で欲しいアイテムなのか、そこらへんだけを記憶に留めておき、後で用意してやるなどの算段を思うのは忘れない。物で釣るわけではないが、早めに懐かせるには餌付けが一番である。


 結局、マヤヤの『ゲーム楽しい』演説は一時間続いた。



 初日の夕飯は『唐揚げ定食』のメンバー全員で、マヤヤ歓迎会を開く予定であった。だがトキヤの『呪い』の問題もあり、イワオがマヤヤのホスト役となることで、他のメンバーはトキヤ周りの情報集めに散っている。

 体感で徹夜作業となるだろうが、マヤヤ以外は準廃人レベルの真正ゲーム馬鹿なので問題無い。寧ろ未知の情報の調査である。ゲーマーなら現実でも48時間は笑って暴れられると豪語するだろう。


 そんな人外に親友(ウスネ)もカテゴライズされるとは、露ほども思わないマヤヤである。


 イワオに渡された隠蔽装備(ハイドマント)に包まれて、モタルサの街の裏通りを通過。あまり一般のプレイヤーが来ない、通好みのプレイヤーショップ街へとマヤヤは案内されていた。そこの、プレイヤー経営の隠れ家的酒場で夕食を堪能、マヤヤ希望のアクセサリー探しや、ウスネと回った服屋とは別の、レベル制限の緩い物が置いてある穴場へと案内されたりで、すっかり観光気分である。

 イワオは念のためと、商品を吟味しているマヤヤを横目に馴染みのアイテム職人へ『知力』プラスの最高値限界という注文で作成を依頼、素材さえあればアイテム作成は一瞬である。ジョブ装備以外の空き装備可能部位の分を調達した。これでもマヤヤの知力はトキヤに及ばない。だが、多少はレジストの助けになるかもという心算であった。

 一応、ついでにテンマルの分も用意はした。その出来がマヤヤのに比べて如何にも手抜きなのは、イワオもやはり男という事である。


「“大岩”もとうとう“ホモ疑惑”解消かあ。あ、これ、お祝いと選別な」


「薄々感づいてたが、ハッキリと恐ろしい事を言うな! だが礼は言っとく」


 如何にも女の子しているマヤヤを連れたイワオは、古い馴染みからシミジミと祝われてしまっていた。

 (ウスネ)の友達だと否定するのは容易いが、それで『ホモ疑惑』の継続も悲しいし、『妹の友達に手を出した』と認定されるのも困る。

 ここは都合のいい誤解をしてもらうのが最善と、マヤヤの都合を無視した自尊行為に走るイワオであった。


 因みに、『トリオン・オブ・ラビリンス』では野郎ばかりで連む者は、大概が影で『ホモ』認定を受けている。非公式ではあれ、現実同様、しかし現実とは遥かにリスク少なく男女の仲になれるゲーム環境である。遊びの延長でですら女っ気の無い男性プレイヤーは、そういう趣味であると疑われてもしかたのない状況なのであった。


 その状況を。ようやっと真っ正面から自覚したイワオである。

 そして、マヤヤにとってはイワオの外見は同世代には見えない、はるか“大人”の印象が強い存在だ。最近、やっと同世代男性へ気軽に触れる事の結果を考え始めたマヤヤにとって、イワオは父親や村人といった保護者に感じれる立ち位置なのである。

 ウスネに植え付けられた『男の子に触れる事への注意』は、言うなれば『義務感』であり、未だマヤヤ自身の貞操観には繋がっていない。

 そして無理に意識する状況は、それなりにマヤヤのストレスとなっているのである。


 その反動として、気軽に接せれるイワオの存在感にマヤヤの内心が変化しているのを、この時点ではマヤヤ当人ですら認識できていなかった。


 が、強いて言えば、イワオに選別を渡した職人プレイヤーは、マヤヤがしっかりとイワオの身体の何処かを掴み続けており、片時も離そうとしなかったあたりを見逃してはいなかった。

 その意味を正確に認めたわけではなかったが、“微笑ましい”と思えるくらいの想像はできた。


 イワオはイワオで、周囲の誤解をさらに強めようと、下手な仕草でマヤヤの腰に手を回したりしている。その様子は如何にもダメな男が独占欲を暴走させているようで、職人プレイヤーには実に不快な絵面であった。


「……爆ぜろ」


 そう呟くのも、宜なるかな。である。



三温糖風味……サラサラサラ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ