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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女を弄る1h⑤

『呪いのアイテム』(カースド)ってな、俺の知り合いも結構持ってるんだよナ」


 カッツェの説明がルームに響く。合流した一行は通路より広めの所で落ち着こうと、近場の解放済みのルームへと移動していた。


「単に性能ってのなら、マイナス効果がある装備と大差は無いんダ──」


 武具やアイテムの中には、装備や所持でプレイヤーに弱体効果を与える物がある。単にイベント的な扱いであったり、別のアイテムと同時に使う事で結果的にプラス効果へと変じたりと、一時的にプレイヤーの環境を変化させて楽しませるのを主な目的に存在する。……多分。


 対して『呪い』とハッキリ称するアイテムは、基本的にプレイヤーには害にしかならない。導入の理由をサービス側は明確にしてはいないが、一部のプレイヤーの推測では『クエストなどを経て提供される報酬が、全てプレイヤーの強化に繋がる物と、ただ鵜呑みにする危険性への警鐘行為』などと称されている。


 過去、カッツェの知人を実験台に登場した『呪いのアイテム』は軽い物ならば数日、非道い物ならば現在進行形でプレイヤーを苦しめている。


「軽いやつの例だと、『キラータッチ』って言うやつかナ──」


 『キラータッチ』とは、正確には『属性紋様付加装置』(エンブレムメーカー)という魔法装置(呪い)を使って付加された制限時間付きの付加能力である。プレイヤーのアバターに任意の属性攻撃が可能になる紋様(タトゥー)を刻印し、主に接触により対象へ属性攻撃をするのである。

 付加できる能力は複数種類あるのだが、一番有名なものは『即死攻撃』がランダム発現できるようになるものだ。その効果の知名度が独り歩きし、通称として“キラータッチ”と呼ばれているのである。

 主に素手で攻撃するジョブである『武闘僧兵』(モンク)が戦闘効率を上げるために、定期的に使っている事もある。


 こう書けば、良いことずくめに思える内容だが、『呪い』と称する以上洒落にならないマイナス効果もあったりする。

 この『即死攻撃』も含め、『キラータッチ』の効果は、発現対象を選ばないのである。モンスター相手ならば寧ろランダムではなく常時発動でも良いだろう。だが相手がプレイヤーなら? もしくは貴重なアイテムだったら? 

 プレイヤーの場合、戦闘可能エリアならば即死効果は普通に発動。非戦闘エリアならば、プレイヤーに即死効果はかからないが装備しているアイテムが破損状態になる。

 貴重なアイテムが他者の所有では修理可能な破損となるが、自分のアイテムだった場合、ロスト扱いとなる完全破壊だ。

 キラータッチの効果がある期間は、触れるモノ全てが対象となるのである。自己管理をできない者に使おうものなら、そのプレイヤーの周囲は阿鼻叫喚の状況になるのは確実である。


「因みに……効果期間は?」


「付与完了から36時間、ダゼ」


「大惨事になりかねん。それでも軽い方でゴザルか」


「“非道い”の方は聞きたくないなあ……」


「まー、何となくトキヤが更新するんじゃねーかと思うゾ……」


「おおおおっ」


 野郎会議では語られなかったが、現在最強の“呪いアイテム”の名は『永久に美しく』エターナルビューティーという。赤い宝石のペンダントトップ付きネックレスで、首の部位に装備するスキル増加アイテムである。

 追加されるスキルは『普遍』。これはダメージによる死亡状態にならないというもので、一見、究極のスキルである。問題は、アバターの属性がプレイヤーからNPC化しているという事である。プレイヤーがログインすれば普通に動かせるのだが、ログアウトしたとたんNPCとして勝手に行動を始めるのだ。しかも個性を持つわけでなく、まさに徘徊と言えるような状態で。

 街の中ならある程度の保護もされるのだが、外に出ると、もう様々な対象からの餌食と化してしまう。モンスターに襲われ続け、アバター本人は無事なのだが装備品はダメージで軒並みロスト。プレイヤーがログインした時は見知らぬエリアをネックレスだけ装備して全裸で歩いていたなどが頻発した。

 呪いの解除方法が一切分からず、結局そのアバターのプレイヤーは引退。しかしNPC化したアバターは消える事無く、未だに何処かのエリアを徘徊していたりする。


 唯一の救いは、そのアバターのデザインがプレイヤー本人とはかけ離れた盛り美人仕様であったことだろう。例え知人が遭遇してもプレイヤー本人を貶める可能性は低いのだから。


「……オレの呪いは……、もしかしてウスネに影響出てるのか?」


「それにマヤヤにも、多分出てるな」


「『異性魅了』だもんナア」


 正に盛った猫状態のウスネである。そしてマヤヤは、床に座り込んで無言である。しかし何かに耐えるような静かな仕草が、野郎共には生々しすぎて直視し辛い絵面であった。


「トキヤ、恐らくお主も影響の対象でゴザルよ」


「え……?」


「いやまあ、“呪い”だしなあ。一応ノーカン扱いにしないと、なんだろう……。いややっぱ何とかしろトキヤ。花梨の尻をマサグルナ!」


「えっ!?」


 目つきが怖い事になっているイワオからの指摘。トキヤが自分の手に意識を強めれば、その左手が“やたらに柔らかい何か”をグニグニと握り、撫でていた事を自覚する。


 それは当然のように、トキヤに抱きつくウスネのオシリである。トキヤ自身の手の動きに合わせ、尻尾がピクンと反応を返している。

 さらに気づけば、右手はウスネの肩に置かれ、今にも撫で下ろして胸へと伸びようとしていた。


「うわああああっ!!」


 反射的にウスネを突き飛ばし、自分は背後へと逃げすさるトキヤ。

 壊れたウスネはイワオが抱き留めることで固定し、トキヤへと行こうとするのを留めてることとなる。


「……っ! あっ……。ふぅぅ……」


 同時にマヤヤも状態が沈静化したようである。


「距離……が関係ありそうでゴザルな」


「やっぱ『呪い』はスゲーよなア、トキヤ、もし『同性魅了』が追加されたら俺は逃げるゾ」


 男に尻を撫でられる。その可能性に恐怖した一同であった。



 その後、皆の安全のため、『鬼魂の鎧』の検証が試される。

 魅了の効果はテンマルの予想どおり距離によって強弱がつく。近ければ近いほど、精神的に危険となるようであった。

 ウスネも無事正気に返った。ウスネの状態はペナルティーで体感を過剰にしていた影響の副作用である。通常へと戻した時点でマヤヤと同様程度の耐性は保てるようになったのである。


 また『概要』の内容も一部が変化。その内容により、『鬼魂の鎧』には未だにオーガの王の意識とも言えるものが宿っており、それが発する『修羅の波動』に抵抗できないプレイヤーは、トキヤも含めて全て魅了の効果の支配下になることが分かった。


「……また増えた……」


「今度は何でゴザル?」


「……堕落誘発(Lv1)、あと『呪い(Lv2)』」


「……とりあえず、まとめるぞ──」


 『異性魅了』の効果とは、トキヤにとっての異性、つまり女性を魅了するスキルではない。このスキルの効果を受けた者にとっての異性、つまりトキヤならば女性へ、ウスネならば男性へと、当人の感性レベルで惹かれてしまうという効果であった。

 まだ恋愛を知らないレベルならば単に『一緒にいたい』程度で済み、それなりの経験を経たレベルならば『最後まで』となる。プレイヤーの心理面はさておき、ゲーム内の環境でというならば、特に問題はない。とも言えた。

 一応は合意の上だし。というのが理由である。


 幸いにも、この『修羅の波動』の効果範囲は小さいことが分かった。発動時、最大でもトキヤから30センチ離れていれば影響されないのである。

 最初に女子組が露骨に影響を受けたのは、新装備を近くで見ようとトキヤに接するくらい近寄っていたためである。

 マヤヤはレベルの差により、ウスネはパラメータの状態によりで、他のメンバーはレジストできたのだが、女子組だけがババを引いた形になったのであった。


 効果の恐ろしさの割に、案外レジストしやすいのも判明した。検証による推測だが『修羅の波動』の影響がトキヤのレベルに依存するといっても、直接関係するのはステータスの数値である。似たようなアイテム発動の仕方を参考にし、ステータスのどの数値が対応するのかを確認。予想された『知力』が該当すると分かったのだ。なので、手持ちの“知力プラス”装備でトキヤを上回れば、ほぼ影響を受けなくなったのであった。


 問題は……。


「スマン……でゴザルよ」


「いっ♡……いえ、ふかこーりょくっですからっ」


所持アイテムの都合と、どうしようもないレベル差により、テンマルとマヤヤが何度も魅了の餌食になったことである。


 まず確実にレジストできるのはレベル92を誇るイワオ。そしてレベルは73だが種族特性で知力の高いカッツェである。

 次いで地味にレベル90のウスネなのだが、こちらは種族特性で逆に知力は低い。故に低い確率でレジストできない場合もあった。

 トキヤは完全にランダムと言っていい。発動基準が自分自身だ。むしろ高確率でレジストしているのが凄いといえた。


 不安定なトキヤをカッツェが、そして兄妹の流れでウスネはイワオがと、影響が出た時に拘束するのが自然と役目となり、最初から失敗前提のテンマルとマヤヤは放置気味で、結果的に何度も抱き合っては正気に返るを繰り返しているのであった。

 まあ正確には、影響が出ても意識は保てているテンマルに、半分幼児化したマヤヤが抱きつくだけ、な状況である。


 はっきりと発情していたウスネに比べれば、まだまだ可愛い仕草のマヤヤであった。


「対処法も分かってきたが……、まだ“呪い”が成長するような気配も、あるのが気になる。というかトキヤ。大丈夫か?」


「んーちょっとキツいかなあ……、自覚無しに変なとこへ視線がいったりするし。気力が削れる」


「まあ、事前対処法も分かったし。一度休むか」


「俺、似たようなもんの記録ないか調べてくるゼ」


「マヤヤ用のレジストアイテムも用意したいにゃーね」


「拙者はこのままでも好いでゴザル」


「んん~んぅ♡」


 イロイロと描写するのも危険になりつつあるテンマルが蹴り飛ばされ、幼児化というか、寝転んでコロコロ寝返りを楽しむ子猫のような状態と化したマヤヤが保護される。


 こうなるともう、クエストを完全攻略という状況でもない。

 既にクリアー条件はこなしているしで、街では別の問題が残るだろうが、しっかり宿で休んだ方が良かろうという結論になった。


 なお、普通ならば再びマヤヤとウスネが一緒に止まるのだろうが、前科のために許されなかった。しかし、マヤヤを独りで泊まらせるという選択も怪しい。そして消去法から、イワオとマヤヤのツイン部屋という事になる。


 仲間内判断ならば当然の結果なのだが、これが原因でまたもサイトの祭り騒ぎになるのだとは、実はテンパっている全員、全く気づかずの事だったのである。



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