58 魔族の性質
私が魔公爵邸に戻ると結城から吹雪様がお呼びだと伝えられる。
それを聞いて私は東棟の吹雪の部屋に向かった。
吹雪はいったい何の用かしら。
扉をノックすると入室許可の声が聞こえる。
部屋に入ると吹雪だけでなく響も一緒にいた。
この二人はいつも一緒にいるわね。
「吹雪様。お呼びと聞いてまいりましたがどうかしましたでしょうか?」
「どうかしたかじゃないよ。出張から帰って来たら真雪が暴漢に襲われたと聞いて心配したよ!」
そういえば一番騒ぎそうな吹雪があの件で騒がなかったのを不思議に思っていたけれど出張してたのか。
私を心配して呼び出したのね。
吹雪は私の手を引いてソファに座らせる。
すると響が申し訳なさそうな顔で私に話しかけてきた。
「吹雪兄さんには私から真雪にはケガはなかったと言ったのですが自分の目で見るまで安心できないって言って。すみませんね、真雪も忙しいのに」
「いえ、私は大丈夫です。吹雪様、ご心配かけましたが私はこの通り元気ですので」
私は吹雪に心配はしなくていいという意味を込めて笑顔を見せる。
「本当に? 無理してない?」
「本当に大丈夫ですよ」
「ほらね。吹雪兄さん。真雪はケガなんてしてないでしょう?」
「それなら良かった。樹牙兄さんが真雪を診察したと聞いたからさ。医者にかかるぐらいだからどこかケガしてるんじゃないか心配だったんだ」
「ああ。それは心が安らぐ薬を処方してもらったんです。少し眠れなかったので眠りやすいように」
「それは真雪の心が傷ついたってことだよね。真雪の心を傷つけるなんてそんな暴漢さらし首にしてやればいいんだ」
あら、吹雪も案外過激なことを言うのね。
いつもは明るくて茶目っ気の多い性格なのに。
私は吹雪の意外な一面を見たと思ったが考えてみれば吹雪も烈牙様の息子で魔族の血を引いているから当たり前かもしれないと思い直す。
魔族の性質は基本的に残忍だ。
「暴漢の取り調べは景虎兄さんが受け持ったみたいですから五体満足で歩ける日は来ないでしょうね」
響があまりに物騒なことをサラリと言うので私は思わず目を瞠ってしまった。
響も過激なことを言うのね。
それにしてもあの不審者の取り調べは景虎がやっているってこと?
そう言えば景虎は不審者は処理するからと言ってたわよね。
処理という言葉はちょっと怖いけど私が口を出せることじゃないし。
「景虎兄さんが取り調べしてるなら黒幕もすぐに分かるだろうね」
「景虎様の取り調べはそんなに厳しいものなんですか?」
「真雪。世の中には知らない方が幸せなことがあるんだよ。気にしないで」
吹雪は意味深に笑う。
そんなこと言われると余計に気になるじゃない。
できれば息子たちに残忍なことはさせたくないが不審者のことを助けてとは言えない。
あの不審者は烈牙様の部屋に忍び込んでいたのだ。
烈牙様は暗殺者ではないと言っていたけれどそれでも烈牙様の身が危険に晒された可能性はある。
そんな者は私も許す気はない。
私にも魔族としての性質があるようね。
吹雪のことを過激な発想だと言えないかも。
吹雪の言う通り世の中には知らないでいた方が幸せなことがあるのも知っている。
なので私はこれ以上景虎の不審者への尋問のことは訊かないことにした。
私に飴玉をくれる景虎がそんな厳しい尋問をするなんて思えないけどね。
いえ、景虎も魔族だもの。それも仕方ないか。
「分かりました。聞かないでおきます」
「うん。それがいいと思う」
響も同意してくる。
「それよりさ。真雪にあげたい物があって。出張先で見つけた物なんだけど」
まあ、またドレスとかかしら。
これ以上貰う訳にはいかないわ。
私がそう思っていると吹雪は小さな袋に入った物を私に渡す。
「開けてみて」
私は袋を開けて中身を取り出してみた。
それは大小いろんな形の美しい貝殻だった。
「まあ。可愛いわ」
「出張先が海の近くでさ。浜辺に散歩に行ったら綺麗な貝殻が落ちていたから真雪にも見せたいなと思って拾って来たんだ」
私は可愛い物に目がない。
それに浜辺で拾ったのなら高価な物ではないはずだ。これなら受け取ってもいいだろう。
「この貝殻を貰っていいんですか?」
「うん。あげるよ」
「ありがとうございます。大切にします」
「真雪が喜んでくれるなら拾ったかいがあったよ」
私のために貝殻をわざわざ拾ってくれてありがとう、吹雪。
「吹雪様はよく出張に行かれるのですか?」
「うん。自分で売る商品はその場所まで行って納得できるモノを仕入れるようにしてるんだ」
へえ。ちゃんと仕事はしてるのねえ。
偉いわよ、吹雪。
いつもはふざけた言動や行動が多い割には仕事には厳しいようだ。
「そうだ。今度またカフェに行かない? 今度は美味しいパフェがある店を見つけたんだ」
「パフェですか?」
「うん。旬の果物を使ったパフェが絶品なんだ」
私も甘い物は好きだ。
「では今度仕事の手が空いた時にでも誘ってください」
「うん、分かった。約束だよ。真雪」
「はい。吹雪様」
私はその後吹雪の部屋を出て西棟に戻る。
さて夜のお勤めまで時間があるからハンカチへの刺繍をしましょうか。
私は夕飯の時間まで自室で刺繍をしていた。
一枚目のハンカチは時間がかかったが二枚目以降はコツを掴んで段々スピードアップをしている。
これなら近いうちにハンカチを渡せそうね。
今日の貝殻のお礼も吹雪にできるわ。
それにしても息子たちには今回の件で本当に心配かけてしまったわね。
烈牙様にも迷惑かけてしまったしこのハンカチを皆に渡して感謝を伝えましょう。
自分の刺繍の出来栄えに確認しながら私は黙々と手を動かす。




