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ライバルは前世~生まれ変わりだから愛するのではなく今の私を貴方には愛して欲しいんです~  作者: リラックス夢土


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57 魔王軍の訓練場




「真雪は魔王軍の本部に来たのは初めてだろう?」


「はい。魔公爵様の働いている姿が見れて光栄です」



 すると烈牙様は僅かに苦笑いを浮かべる。



「私の怒鳴っている姿を見てか?」


「魔公爵様は理由なく怒ることはないので先ほどの方は何か失敗をしたのでしょう。確かに怒鳴ることはやり過ぎかもしれませんが失敗は時に他の者が多大な被害を被ることになります。だから失敗したことを魔公爵様が怒るのは当然かと思います」



 確かに怒鳴ることは良くないことかもしれない。

 でも烈牙様が担当しているのは魔王軍の仕事なのだ。


 魔王軍とは戦いを主とする仕事だ。

 小さな失敗だったとしてもその失敗が戦を左右してしまうかもしれない。

 そう考えれば烈牙様が仕事に厳しい理由も分かる。



「まあ、確かに。理由なく怒ることはない。それに真雪の言う通りひとつの失敗が戦場では命取りになる」


「だったら問題ないのではないかと。でもできるなら怒鳴るのは必要最低限にしていただけると私は嬉しいですが」



 侍女の私が烈牙様に意見を言える立場ではないことは分かっているが先程の真っ青な顔をして飛び出して行った部下の人が気の毒に思えてそう烈牙様に伝えてみた。

 烈牙様は眉をひそめて少し困ったような表情だ。



 出過ぎたことを言い過ぎたかしら。

 烈牙様にも元帥という立場があるものね。

 部下に優しくし過ぎて部下が烈牙様を軽んじるようになっても困るかも。



「申し訳ありません。出過ぎたことを申しました」


「いや、真雪の意見も善処することにしよう。怒鳴るのは必要最低限にする」



 烈牙様は私の意見を受け入れてくれた。

 そのことに驚いたのは私の隣りにいた火堂のようだ。

 火堂が微かに「信じられない」と呟いた声が私には聞こえた。



「私は仕事でここを離れられないが良かったら兵士たちの訓練場を見ていくがいい。火堂に案内させるから」


「よろしいのですか?」


「ああ。訓練場には雷禅もいるはずだ。火堂、真雪を案内してやれ」


「分かりました」



 私は魔王軍の本部に興味があったので烈牙様の申し出を受けることにした。



「では行くか。真雪」


「はい。火堂様」



 私と火堂と烈牙様の部屋を出る。

 訓練場に向かいながら火堂が私に話しかけてきた。



「やはり真雪はすごい女だな。あの父上が真雪の言葉に従うとは。もしかして本当はもう父上を尻に敷いてる関係になっているのか?」



 失礼な言葉ね。

 私は烈牙様を尻に敷いてなんかないわよ、火堂。



「いえ、私は魔公爵様のただの侍女です」



 自分で言った言葉が心に突き刺さる。

 愛人のフリをしていても私は烈牙様にとってはただの侍女でしかないのだ。


 烈牙様は優しいから侍女の私を大切にしてくれてはいるがそれでも二人の関係は主人と侍女。

 その事実が私を苦しめる。



 ああ、いつになったら烈牙様に真雪として女として愛されるだろうか。



「ここが訓練場だ。ちょうど雷禅が兵に稽古をしているところだな」



 切ない自分の気持ちを心に秘めて私が運動場のような場所を見ると雷禅と兵士が剣で練習しているのが見える。

 雷禅は相手の兵士の攻撃を難なく受け止めては相手の剣を弾く。

 そのうち兵士の剣が宙を舞い雷禅は兵士の首に剣を突きつけた。



「まいりました」



 兵士が負けを認める。



「もっと基礎的な動きを訓練しろ」


「は!」



 兵士が頭を下げて雷禅から離れると雷禅は私と火堂に気付いたらしい。



「真雪。どうしてここへ?」


「魔公爵様にお届け物があったので」


「そうか。それはお疲れ様」



 雷禅はニコリと笑う。

 すると周囲にいた兵士から騒めきが起こった。



「将軍様がお笑いになったぞ」


「俺、将軍様の笑顔初めて見た」



 そんな言葉が聞こえてくる。

 すると雷禅はスッと笑みを消して兵士たちに冷たい声で命令した。



「お前たちは運動場10周走れ」


「は、はい!」



 雷禅の有無を言わせない態度に恐れを抱いたのか兵士たちは慌てて走り出す。



 そんなに雷禅の笑顔は珍しいのかしら。

 私の前ではいつも笑顔なんだけど。

 でも雷禅も兵士をいじめるようなことしちゃダメよ。



 雷禅も火堂も兵士に鬼将軍と恐れられているのは事実なのだ。

 それは兵士たちの態度で分かるが私にとっては雷禅も火堂も可愛い自分の息子でしかない。



「真雪。冷たい飲み物でも飲みましょう。この魔王軍の本部には酒場もあるのですよ」


「そうなんですか?」


「ええ。せっかくですから美味しい飲み物を飲んで帰ってください」


「ありがとうございます」



 私は雷禅に頭を下げる。



「火堂も休憩するかい?」


「ああ。真雪と一緒に酒が飲めるなんて滅多にない機会だからな」



 火堂はそう言うけど将軍が仕事中にお酒を飲んでもいいのかしら。



「あのお仕事中にお酒を飲んでも大丈夫なのですか?」


「平気平気。俺たち酒に強いから顔にでないし」



 いや、そういう問題ではないと思うのだけれど。



 しかし火堂は私の思いなど気付くことなく私を酒場に案内する。

 雷禅はシャワーを浴びてから酒場に行くから自由に飲んでてと言って姿を消した。

 火堂はビールと果実酒を頼んだ。



「真雪は果実酒ね。そんなに強くないから大丈夫だよ」



 火堂は気遣ってくれるが私はお酒に強いので楽勝だ。

 だけどここはお酒に強いことは黙ってた方がいいわね。



「もうすぐ剣術大会なんですよね?」



 私が話題を振ると火堂が答える。



「ああ。今回はなかなかの実力者揃いだから楽しめると思うよ」


「火堂様と雷禅様は出ないんですよね?」


「そうだね。将軍は出られないようになっているよ。たまにはひと暴れしたいんだが」



 火堂の力で暴れたら剣術大会が試合ではなく戦場になりそうだわ。

 この子は昔から血の気が多かったもの。



 まだ幼い火堂がよく他の子供とケンカしていたのを思い出した。

 その度に私と烈牙様は火堂を叱ったものだ。



「そうですか。それは残念ですね」



 火堂が大会に出場できなくて良かったとは言えないので私は話を合わせることにした。

 そこへ雷禅がやって来る。



「何の話をしているのですか?」



 雷禅は自分の分のビールを頼みながら私と火堂に訊いてきた。



「剣術大会の話さ。真雪は俺や雷禅が大会に出れないのは残念だとさ」


「なぜ残念なんです? 真雪」


「稽古でお二人の剣術は見ていますが試合になったらもっとすごいお姿が見れるかと思いまして」



 本当はあなたたちが試合に出られないことはいいことなんだけどね。

 でも本気で剣を振るうこの二人の姿を見てみたいというのは嘘ではないのでそう答えた。



「なるほどね。でも私たちが出るって言ったら出場者がいなくなるでしょうね」


「泣く子も黙る鬼将軍と言われてるからな」



 火堂は面白そうに笑う。

 二人も自分たちが周囲にどう思われているかは知っているようだ。



「お二人はなぜ将軍になろうと思ったのですか?」



 すると雷禅と火堂は顔を見合わせる。



「私はいずれ父上の後を継ぎたいと思ったからですかね」



 なるほど。雷禅は烈牙様の後を継ぎたいのね。

 雷禅の実力なら十分に烈牙様の後継者として相応しいわよ。



「俺は父上に少しでも近付きたかったからかな」



 火堂は烈牙様に近付きたい?

 どうしてそう思ったのかしら。



「魔公爵様に近付きたいと思ったのですか?」


「ああ。俺たちにとってというか、魔族の男なら一度は魔王軍の元帥である父上に憧れた経験はあると思うぞ」



 なるほど。そうかもしれないわね。

 魔力が己の価値を決める魔族にとって烈牙様は恐怖の対象でもあり憧れの対象でもあるのだろう。

 その存在が自分の父親であるならその想いはさらに強いのかもしれない。



「そうですよね。魔公爵様はお強いですから」


「まあな」



 私の息子たちは僅かな違いがあっても烈牙様を尊敬しそして父親として慕っているように思える。

 これは魔族の親子関係としては珍しいことだ。



 息子たちが烈牙様を慕ってくれているのは嬉しいわね。

 烈牙様も息子たちのことを大切にしてくれているみたいだし理想の家族だわ。

 私ももう一度その家族の輪に入れるといいのだけれど。



 そんな願望が私の中で大きく膨らんだ。





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