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ライバルは前世~生まれ変わりだから愛するのではなく今の私を貴方には愛して欲しいんです~  作者: リラックス夢土


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50/72

50 幸せな夢




 その日の夜。

 私はなかなか眠れなかった。


 目を閉じると私を襲ってくる銀色の刃が私の脳裏に浮かび上がる。

 その度に身体が恐怖で竦む。



「だめだわ…」



 私はベッドの上で上半身を起こした。


 明日も烈牙様を起こす仕事が待っている。

 だから早く休まないといけないのに。


 私は溜息を吐く。

 人間から魔族に生まれ変わっても怖いものは怖いと感じる。その部分で言えば人間も魔族も変わらない。


 すると小さくノックの音が聞こえた。

 ビクッと体が反応する。



 こんな夜中に誰が私の部屋に来たのかしら?

 また不審者かも。

 だけど不審者ならノックするというのも変ね。



 私は夜着に上着を羽織ると扉の側に行く。

 ドキドキしながら声を出した。



「誰ですか?」


「私だ。烈牙だ」



 烈牙様!?



 すぐに鍵を開けて扉を開ける。

 そこには間違いなく烈牙様の姿があった。


 今一番会いたかった人物を前に私の涙腺から涙が零れそうになる。

 しかし私は唇を噛みしめてそれを堪えた。



「烈牙様。何か急用でしょうか?」



 拳を握りなるべく冷静な口調で烈牙様が私の部屋に来た理由を尋ねる。

 そうしないと烈牙様に抱き付いて泣いてしまいそうだったから。



「いや。真雪が眠れないでいるのではないかと思ってな」



 烈牙様は昼間の出来事で私が眠れないのではと心配して来てくれたらしい。

 その嬉しさに私の身体も心も震える。



 ああ、烈牙様は以前と変わらず優しい。



 でも今の私は烈牙様の妻の立場ではない。ただの侍女。

 その優しさに素直に甘える訳にはいかないのだ。



「いえ。少し眠れなかったのは事実ですがお勤めはしっかりいたしますので」


「そうか。少し中に入れてくれないか?」



 こんな夜更けに男性を部屋に入れるなど本来なら断らなければならない。

 でも烈牙様は私の主人でもある。無下に断っていいのか私は迷い躊躇した。



「もちろん。真雪には何もしない」



 私が躊躇した理由を烈牙様は分かってくれているようだ。

 烈牙様の言葉は誰よりも信頼できる。



「どうぞ」



 私は烈牙様を招き入れた。

 烈牙様は部屋に入ると私の手を取りベッドに連れて行く。



 え? 何をするつもり?



 驚く私に烈牙様の優しい声が聞こえる。



「真雪が眠るまで一緒にいてやろう。真雪はベッドに横になれ」


「い、いえ、そんなことを烈牙様にさせるわけには」


「いいから早く寝ろ」



 烈牙様に少し強引にベッドに入れられた私は大人しく横になった。

 私のベッドに腰掛けた烈牙様は私の左手をギュッと握ってくれる。


 するとそれまで緊張していた身体が嘘のように緊張が解けた。

 そして深い安心感に包まれる。

 手を握られてるだけなのに烈牙様に抱き締められているかのようだ。



「真雪が寝たら出て行くから」


「はい」



 私は烈牙様の申し出を断れなかった。

 実際に眠れなかったのは事実だったからだ。だがこれなら眠れる気がする。


 その時ふと昔の記憶が蘇る。

 私が病気などの時に今のように私の手を取って私が眠るまで烈牙様は側にいてくれた。


 自分が不安に思っている時はこの烈牙様の温かい手が私をいつも包んでいたのだ。

 だから私は人間のアリシアでいながらもこの魔界で魔公爵夫人として生きられたと言っても過言ではない。


 烈牙様の顔を見るとその赤い瞳に優しい光が宿っているのが分かる。

 私はすっかり安心してしまい眠気が襲ってきたので眠りにつく。


 微睡の中で烈牙様が私の額に口づけをする夢を見たが夢だからかまわないわね。



「……愛してる」



 フフッ、烈牙様から愛の言葉をもらうなんてなんて幸せな夢かしら。 






 次の朝、起きた時には烈牙様はいなくなっていた。

 なにかとても幸せな夢を見たような気もするがよく覚えてはいない。

 だけど烈牙様が私を心配して昨夜眠るまで側にいてくれたことは覚えていた。



 さあ、烈牙様のために今日も頑張らなくちゃ。

 これ以上烈牙様に心配かけたくないもの。



 私は朝のお勤めのため準備を整える。

 服を着替えて鏡に映る自分に微笑みかけた。



 うん。大丈夫よ。真雪。貴女はいつも笑っていなさい。



 そう自分に気合いを入れて朝の紅茶を取りに厨房に向かった。

 支度を整えて烈牙様の私室に来ると扉の前には兵士の姿がある。



 うん。何も異常はないわね。



 私は兵士に声をかけると私室の中に入る。

 一瞬、昨日の床に飛び散った不審者の血の痕をまた見るのを覚悟したが部屋の絨毯は新しくなっていた。

 色は同じだが模様が違う。昨日のうちに絨毯ごと変えたらしい。


 昨日の出来事の痕跡は綺麗に消えていた。

 私はホッとして烈牙様の寝室に入りカーテンを開けた。



「烈牙様。おはようございます。起床のお時間です」


「う~ん。真雪か…」


「はい。真雪でございます」



 烈牙様は眠そうな目を擦りながら無造作に髪をかき上げる。

 無防備にも見える烈牙様の寝起きの姿は相変わらず男性独特の色気を纏っていて私の胸の鼓動は早くなってしまう。

 しかしそれを烈牙様に知られる訳にはいかない。



「眠れたか?」


「はい。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。もう、大丈夫です」


「そうか。それは良かった」



 烈牙様は優しく微笑んだ。

 その笑顔が私の心を鷲掴みにする。



 ああ、私はやはり烈牙様のお傍にいたい。

 そのためには昨日のような出来事にも動じないように心も剣の腕も鍛えなければ。



 そう自分に誓うと烈牙様が着替えに行ってる間に私は紅茶を淹れた。

 着替えが済むと烈牙様がリビングに来て私の紅茶を飲む。



「今日の稽古は休んでいいぞ」



 烈牙様の言葉に私は首を横に振った。

 昨日の今日で私に負担をかけたくない烈牙様の気持ちはありがたいが私は自分の足で立って烈牙様の隣りに居たいのだ。



「いいえ。どうか私にも稽古をつけてください。自分の身ぐらい自分で護れるようになりたいのです」


「それもそうか。いつでも私が助けられるとも限らないしな」



 そう言って紅茶を飲み干した烈牙様は剣を手にする。



「では稽古に行くか、真雪」


「はい。お願いします」



 返事をする私と烈牙様の視線が交わった。

 烈牙様の赤い瞳にはなぜか切なそうな感情が浮かんでいる。



「真雪。私は…」


「はい。何でしょうか?」


「……いや、何でもない。行くぞ」



 何かを言いかけた烈牙様だったがそのまま部屋を出てしまう。

 烈牙様が何が言いたかったのか気にはなったが侍女の立場の私が烈牙様を問い質すことはできない。


 私も急いで烈牙様の後を追った。





 

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