第9話 再び、あの夢の中へと
あれから2週間程が経過した。朝、辰巳が目覚める。すぐに彼は起き上がりベットから出る。そして、彼はデスクに向かい椅子へと座る。即座に彼はデスクの上のノートにを手に取り開く。そこへ彼はペンを持ち書き込む。
書き込んでいる内容は、彼が今さっきまで見ていた夢の内容だ。特段代わり映えのしない夢だった。断片的にしか覚えていないのだが。ムゲンセンと聞いた夢以来、あの様な鮮明な夢は見ていない。
そうする理由は、ソウセイとの通話の為である。彼女との会話をスムーズに進むようにと。しかし、ソウセイはムゲンセンの様な夢でないので明らかに声が落胆している様に聞こえる。それでも、彼は日課として毎日欠かさず報告しているのだ。
書き終えた彼は身支度を整え大学へと向かう。
辰巳は大学の授業を終え門を出る。死角から彼を待ち構える人物の姿がある。それはミナミだ。イヌマルの件の翌日以降、週に何度か訪れる様になった。
「奏召」
そうミナミは言った瞬間、彼は決まって彼の肩を組んで凭れかかってくるのだ。あの翌日から下の名前で呼び捨てし始めたのだ。辰巳は無視を決め込む。
「カナデちゃん?」
決まって辰巳が無視するので、二言目には『ちゃん』付けするのだ。
「毎回、やめてくださいって言ってますよね?」
「なら、1回で振り向いてくれよ、カナデ」
「毎日、死角から忍び寄り、呼んですぐ肩組んでくるじゃないですか?」
帰りの大学生達がチラチラ見ながら、その場を後にしていく。女子大生達が遠目で彼らを見ている。それにミナミが気づく。
「カナデは人気あるんだな?」
「違いますって」
「照れるなってぇ」
「勘違いされてるんですよ」
「何をだ?」
「もういいです」
「帰ろうぜぇ、カナデ」
「言われなくても帰りますって」
二人は帰路に就く。
辰巳はバイトを終えて自動ドアを出る。すると待ち構える人物がいる。イヌマルだ。
「今日はどんな夢を見たんだ? 辰巳君」
「覚えてませんよ」
「そう言わず思い出してくれよ。夢占いしたいんだよ、俺は」
辰巳は絶対に教えないことにしている。その後、どんな災難が降りかかってくるか分からないからだ。
「帰っていいですか?」
「仕方ねぇよな、覚えてないもんは。この服、覚えててくれよ」
別れ際、イヌマルは必ずそう言う。毎回、服は彼らが初めて会った時の一緒のセンスの悪い柄シャツなのだ。辰巳は理由を聞きたい衝動に駆られるが深く関わり合いたくないので聞かないことにしてる。
帰宅後、毎日の日課のソウセイとの通話を終え眠りにつく。
気づいたら、土の上に立っている。彼は周囲を見回す。観客席が見える。闘技場のようだ。その中心辺りに彼はいる。一瞬、この間と同じ場所かと思った。しかし、建物のデザインが違う。
彼は体をグルっと一周してみる。観客席には誰もいない。もしかしてと彼は上空を見上げる。すると、遥か上空に人影が。その者が大きく手を振っている。彼は恐らく前に会った奇抜なショートカットの女性だろうと思う。
彼は視線を地上の方へと戻す。すると、彼の目の前に急に人が出現した。リモコンで電源をいれた時、パッと画面に映像が映し出される時の様に。驚いた彼は思わず一歩後方へと仰け反る。
目の前に現れたのは、20代後半くらいの男性だ。彼の衣服は同じチェック柄の上下だ。パジャマの様に見える。
彼は細身の長身だ。身長は180cmくらいだろうか。半袖のシャツから見えている腕は、骨に皮がついているといった具合だろうか。腕がそうなら、脚の方もそうなのであろうと類推出来る。
「オマタセシマシタ」
人間の声とも機械が作り出した音声とも聞こえる声がした。辰巳は声の方へと顔を向ける。
そこには正装したモノが、地上から30cmほど宙に浮いている。そのモノは仮面で顔全体を覆っている。顔の凹凸がなく穴も開いてないし、顔のパーツすら描かれてない。まっさらな皿のような仮面だ。
初見、辰巳はタキシードと思ったが、特徴の違いで燕尾服だと分かった。そのモノの肩にはシルバーメタリック色の球体が乗っている。その表面には複数の円があり、それが赤く光っている。
再び、ゆっくりと彼は体をグルっと1周させる。ざっとではあるが、観客席に4、5人ほど確認できた。その誰もが顔が鮮明であったのである。
今度は顔を上げると上空を見上げる。そして、首をグルっとさせる。そこには、あの彼女しか確認出来ない。すると、彼女が物凄いスピードで降りてくる。そして、彼女は闘技場と観客席を仕切る障壁へと座る。
彼は再び正装したモノへと視線を戻す。浮遊を続けていて特段動きをみせる様子はない。彼が視線を正面へと移すと、細身の男性は目を細めて彼を見ている。
辰巳は別に恐怖を感じているわけではないが視線を逸らす。そして、横を向くとその先には例の女性がいる。視線が合うと彼女は両手を広げ両肩を上げ『なに?』といったようなジェスチャーをしている。
それに対して、彼は左右に一度だけ首を振る。そして、視線を正面へと戻す。まだ男性は目を細めたまま彼を見ている。睨んでいるようにも見えなくない。男性は彼のことを見極めているのだろうか。
「コレヨリ、ルールヲ、セツメイシマス」
この声の主である仮面のモノの方へと両者向く。しかし、辰巳には一向に声が聞こえてこない。目の前の男性に視線を移すと、その彼は頷いている。
どうやら、自分だけ聞こえてないのだと彼は理解する。それで彼は思い切って聞いてみることにする。
「あのぅ〜、聞こえないんですが……」
その声に仮面のモノは彼の方へと顔を向ける。
「キコエナイノハ、アナタガ、タイショウガイダカラデス」
そう言うと仮面のモノは顔を戻す。そして、辰巳には静寂のまま時間だけが経過していく。
そうしていると、目の前の男性が右手の中指を眉間に当てる。すると、瞬時に彼の両目の周りを縁取っていく。なんと眼鏡が出現したのだ。
「これがないと始まらないからね」
そう男性は言った。その一瞬の出来事に辰巳は面食らっている。
「ソウゾウシ、グゲンカセヨ! ソレデハ、レディ、ゴォーッ!!!」
そこ声に、男性が突進してくる。それに対して、辰巳は身構える。




