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第8話 怪しいチンピラ

 辰巳が夢での内容を話し終えた後、ソウセイがトンデモないことを言い放った。なんと例の防犯カメラの事件と関連があるのだと。


 彼が『どうして関連があるんです?』と質問したら『なんとなくだ……』と言葉を濁した。そして、彼女は夢の内容から分析を始めた。


 第一に、二人の内のどちらが、こちら側だと。もう一方が、あちら側だと。彼が『味方と敵って意味ですか?』と尋ねると彼女は『恐らくそうだろうと』と答えた。


 第二に、負けた者はテレビの画面を消した時のようにプッと消えて、勝った者は徐々に消えていくのだと。


 そういえば、彼は勝った者のその後は見てなかったなと思った。しかし、この分析には、納得は出来た。実際に負けた者は、その様に消えたからだ。まぁ、少し気になる点はあったのだが。


 彼女の分析は、こういったものだった。荒唐無稽《こうとうむけい》な話だとは思った。これは彼女は事件解決への焦りや激務からの現実逃避なのだろうと。それに彼女も寝起きだったろうし夢見心地で現実との区別がついてないのだろうと思うことにした。


 彼女の頭のリフレッシュになればと思い、彼は彼女に付き合うことに決めたのだ。それで、彼は防犯カメラについての気になる点を聞くことにした。


 それは映像に映っていた二人のどちらが一方でも顔の鮮明な映像解析は出来なのかという点だ。なぜ気になったかというと夢の中では一方の顔は鮮明だったからである。ただ単に気になったからだ。


 彼女の回答は、どちらとも鮮明解析不能だったとのことだった。


 ふと彼は『見えない壁の影響なのか?』と通話越しに呟いた。すると、ソウセイが喰い気味に『何だそれは!』と声を荒げてたのでキィーンと耳鳴りがした程だ。


 彼が説明すると彼女『なぜ話さなかったっ! 隠し通すつもりだったのかっ!!』と罵倒された。彼が『特段、必要だとは思わなかったし、ふと思い出しただけです』と返した。すると、彼女は『彼に夢の内容を振り返りながら思い出し、事細かに内容を話せ』と脅迫、いや懇願したのだった。


 彼は目を閉じながら、ゆっくりと思い出しながら内容を一から話した。しかし、彼女が喰い付く点は無かったのである。


 彼女は防犯カメラの顔の鮮明さをその見えない壁の為だと結論づけた。それに対して、彼は妨害電波でも発せられていたのかと思ったが、地方の片田舎の場所にピンポイントで妨害電波なんか送信出来るのかと思った。


 仮に、そうだとしたら、犯人か共犯者以外に考えない。その者達なら、警察が捜査してる。警察も、そう当たりを付けてるはずなのでは思った。これらを彼は彼女には言わなかった、いや言えなかった。それは罵倒されるのは御免《ごめん》被《こうむ》りたいからだった。


 その後から、彼女は執拗に見た夢の内容を教えるよう要求してくる。しかし、あの夢以来に見る夢は断片的にしか覚えてないし、ごくごく普通の身の回りで起こりそうな夢ばかりである。


 全く内容を思い出せない、夢を見た記憶さえないのに思い出す様に強要してくるのだ。彼が、本当に覚えてないと何度か繰り返し言えば引き下がってはくれる。


 正直なところ、彼は勘弁してくれよとは思っているが、事件の解決の糸口へのインスピレーションなればと思い、彼女に毎晩付き合い続けている次第である。





 今、彼はコンビニにてバイト中である。あと10分程で退勤の時間である。彼は普段の習性通り自動ドアを見る。すると、そろそろ来るなと彼が思ってた客が入店して来た。


 その客は茶髪でM字の剃り込みを入れている。服といえば、お世辞でもセンスが良いとはとても言えない柄シャツを着ている。いかにもチンピラといった感じの男だ。


 その男とよく目が合う。そして、チラチラと何度も見てくるのだ。あまりにも挙動不審なので、辰巳は彼が万引きでもするのでは警戒している。なので彼は毎回レジを出て商品の前出しをしながら監視するのだ。


 男が商品を手に取りレジへと向かう。辰巳は男を接客する。男は決まって無糖の缶コーヒーとタバコを買う。男は会計を済ませると出て行った。辰巳が男を見る。すると、男が振り向き目が合いそうになる。すぐに辰巳は、視線を逸らす。因縁でもつけられたら、たまったもんじゃないからだ。


 男は出て行った。22時を少し回っている。彼は退勤しようかと事務所へと向かう。入店音がして店内が騒がしくなった。彼が振り向くと団体で客が入ってきた。20人程だ。


 見てしまった以上、このまま帰るのも気が引ける。彼は退勤コードをスキャンして客が引くまで残ることに決めた。客が捌《は》けると制服を脱ぎ挨拶して店を後にする。


 彼がスマホの画面で時刻を確認する。もう25分を回っている。彼は足早に歩く。


「兄ちゃん」


 彼は聞こえたが自分だとは思わず歩みを進める。そうしていると進路を遮られる。あのチンピラ風の男だ。


「よっ、兄ちゃん」


 そう言った男は気さくな感じで右手を上げる。男の表情から察するに怒っているとか敵意は感じられないと辰巳は判断する。てっきり彼は男の帰り際に目が合ったと因縁をつけられるものばりだと思っていた。


「何でしょうか?」


「俺のこと分かるかい?」


「お客様ですよね?」


「おぉぅ。覚えててくれてたのか?」


「あぁっ、はい。常連のお客様ですし」


「おぉっ! 俺は常連なんだなっ。なっ! そうなんだよな?」


 そう言うと男は自分を指差す。そして、人差し指を前後させ自分を指し続けている。それ対して、辰巳は一度頷く。すると、男は満足げに頭を上下させている。


「兄ちゃんは辰巳君だろ?」


 その言葉に辰巳は一瞬だけ戸惑った。なぜ名字を知っているのかと。しかし、すぐに知ってるのは当然だと。ユニホームに付けた名札に印刷されているのだからと。


「流石に平仮名《ひらがな》は読めるぞ。高校中退の俺でも。まかさタツメなのか?」


「合ってますよ」


「たよな? びっくりさせんなよぉ〜、辰巳く〜ん」


 ――距離の詰め方がなぁ。苦手なタイプだなぁ


「辰巳君?」


「何でしょうか?」


「俺の名前知りたいよな?」


「いやぁ……」


「知りたいよなっ? なあっ?」


「あっ……はい」


「俺のはサークルドックだ」


 ――んっ?! 何言ってんだっ、コイツ! いや、この人は。からかってるのかよっ!


「もちろん、コードネームなぁ」


 ――こっ、コードネーム?! もちろん? この風貌《ふうぼう》で厨二病かよっ! 厄介《やっかい》だぞぉ、こういうタイプは絶対にっ!


「よろしくなっ! 辰巳君」


 そう言うと自称、いやコードネーム『サークルドック』が手を辰巳の腹辺《はらあた》りに手を差し出す。


 ――よろしくって言われてもなぁ〜。何がよろしくかも理解できないし


 彼が躊躇《ちゅうちょ》しているとサークルドックが彼の右手を強引に取ると握り始める。そして、上下に激しく振り続ける。その時、辰巳の後ろポケットに入っているスマホの着信音が鳴る。


「出なよっ、辰巳君」


 そう言うと手を離してくれた。辰巳は通話に出る。


「掛け直していいですか? ソウセイさん」


 そう小声で話した。初めて一言目から定型文が崩れた。


「どうした? 君」


「ちょっと、からまれ……いや、取り込み中でして、はい」


「からまれてるのかっ! 君」


「言い間違えただけです。すみません」


「本当だな?」


「えぇ、お気遣いありがとうございます」


「今、どこにいるんだ?」


「バイト先のコンビニです」


「君のアパートから見える、あのコンビニか」


「そうです。帰宅したから通話入れますね」


「あぁ、そうしてくれ。気を付けて帰るんだぞ」


「あっ、はい。重《かさ》ね重《がさ》ねお気遣いありがとうございます」


「では、待ってる」


「はい」


 彼は通話が切れたのを確認して終了ボタンを押す。


「自分、帰りますね?」


「もう少し話そうぜっ! 辰巳君」


「いや、失礼しますね」


 そう言った彼は手首を掴まれる。


「5分でいいから。なっ? 辰巳君」


「では、手短にお願いします」


「おうっ! 夢占いが得意なんだよ、俺。最近、どんな夢見るんだ? 辰巳君 」


「えっ…………」


「占ってやるよ」


 ――新手《あらて》の宗教勧誘なのかぁ。にしては下手すぎる


「んっ? 金取ると思ってるのか? 俺達、ダチじゃねえかぁ。握手したろっ。もちろんタダだぜ」


 ――んっ? マルチ商法か? これ。運気が下がってるとか言って商品買わせるつもりなのか? この人はマルチに引っかかりやすそうだし。初対面で申し訳ないけど


「おいっ! イヌマルっ!」


 その声に二人が振り返る。辰巳が、声の主の姿を見て驚く。それはミナミだからだ。


「刑事さん」


 そうサークルドックことイヌマルが言った。


「カツアゲかっ? また刑務所にぶちこまれたいのかっ!」


「少年院しか行ってませんよ、刑事さん」


「そうだっけか?」


「そうですよ。カツアゲなんかしてませんよ。俺らダチなんすよっ」


「本当ですか? 辰巳さん」


「…………」


「彼の表情が物語ってるぞ! イヌマル!!」


「マジですって! そうだよな? 辰巳君」


 その言葉に辰巳は首を傾げる。


「違うって言ってるぞっ、イヌマル」


「ヒドイな、辰巳君。タダで占いしてやろうと思ってただけなのに。言ったろ? 俺」


「まぁ……」


「変なことに巻き込もうとしてるんだろ」


「違いますって。ちょっと情報を……いやダチになろうとしただけてますって」


「やっぱ、なんか企《たくら》んでるな、お前」


「マジで違いますって。俺は正義のヒーローですよ? この世界の」


「いつからだよっ! いいから失せろ」


 そうミナミは言うと手の甲を見せ何度も払う動作をする。


「ヒドイな。俺は犬じゃありませんよ」


「お前はイヌマルだろ」


「どういう意味です?」


「いいから失せろ」


「わかりましたよ。あっ、辰巳君?」


「……はい」


「この服覚えててくれよ。俺らの友情の証《あかし》だから」


 ――いつ友情を育《はぐく》みましたっけ?


「とっとと失せろ、イヌマル」


「わかりましたよ、刑事さん。辰巳君、またなっ」


 そう言うとイヌマルは手を振りながら去っていく。これに対して辰巳は振り返すようなことはしない。


「アイツに変なことされました? 辰巳さん」


「いや、特には。ちょっと変わった人ではありましたが」


「関わらないほうがいいですよ」


「そのつもりはありません」


「そうですか」


「助けてくれて、ありがとうございます」


「お礼ならソウセイ分析官に」


「えっ!」


「彼女から連絡受けて駆けつけたんですよ。辰巳さんが拉致されるって」


「えっ……」


「いやぁ~、絆が深いんですね〜。お二人は」


「そんなんじゃないですよ」


「私も混ぜて欲しいものです。疎外感を感じてますよ」


「……」


「冗談ですよ〜、辰巳さん。では、ご自宅までお送りしますよ」


「すぐそこですし結構ですよ」


「ソウセイ分析官からの指示ですので。さぁ〜、行きましょう」


 そう彼は言うと辰巳の前に右腕を出しエスコートする素振りを見せる。辰巳は恐縮しながら歩き出すと後にミナミが続く。





 帰宅後、彼はソウセイと通話した。内容は彼見た夢とその後の取り留めのない会話だ。コンビニでの件やミナミのことには一切触れなかった。通話を終えた頃には日を跨《また》いでいた。

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