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第7話 ムゲンセンという言葉、再び

 近頃、彼はウンザリ気味である。というのは、毎日ソウセイから彼女の自作のアプリをつうじてメッセージが送りつけられ、いや届くのだ。


 メッセージ内容は決まって『変わったことはないか?』の定型文が来る。それは、彼女が彼の部屋を訪れた夜から始まった。その後、一日に一通届いた。


 特に変わったこともないので、放置していたら『ろくな社会人にはなれない。ホウレン草が大切だ』と送りつけられてきた。すぐに、報告・連絡・相談と理解出来た。


 ため息をつきながら、彼女に相談することはないし、報告と連絡は彼女との関係性から同じ意味でしかないと思った。なので、連絡を取り合う関係性ではないので『報告』だけでいいのではと。なら『ホウ』が大切だだけで足りると。


 思い付いただけで、その思い付きをメッセージとして送るような自殺行為は決してしてない、いや決して出来なかったの方が正しいのかもしれない。なぜなら、定型文からでも高圧的態度と言葉が目に浮かんだり脳内で音声として再生されたからである。


 ここ最近は、一時間おきにメッセージが届く。夜中でも、お構いなしに一時間おきに来るので寝る前にマナーモードに切り替えている。お蔭と言っていいのだろうか、目覚まし無しで定時に起きれるようになった。


 彼は気をつかって『夜中にも一時間おきにメッセージ送って寝不足になりませんか?』と送ったら、『自動送信だ』と素っ気なさにも怒りが混ざってる様な感じがした。休日前の23時頃に送ってしまったので安眠妨害されてご立腹なのだと理解したのだ。


 返信は1分と経たず来たのだ。その点に関しては、気にしない、いや考え込んでは駄目だと自分に言い聞かせた。決して友人のいない暇人ひまじんだとなんて思ってなんかない。自分を気にかけてないように見せて、実は思いやりを持って大変気にかけてくれているのだと。


 その証拠と言えるのか、最近は決まって22時30分ジャストに仕込んでいた、いや初期搭載されていた通話機能を使い掛けてくる。当初は22時ジャストに迷惑電話、いや通話してきたのだが、バイトのシフトの時には出れないかった。


 22時がバイト上がりの時間だと伝え、流石に22時きっかりに上がるのは無理だと話した。そしたら帰宅に何分掛かるんだと聞いてきて、バイト先のコンビニから目と鼻の先なので5分も掛かりませんよと言ったら、余裕を持って22時30分ジャストにしてくれたのだ。





 現在、彼はスマホの画面とにらめっしている。スマホの液晶画面の時計のふんの表示が29から30へと変わった瞬間にソウセイからの通話の表示画面になる。すぐに彼は出ることはしない。


 5コールで取るようにしている。というのも、当初は10コール内に取るようにしてた。すると、今日は昨日より1コール遅いなとか、今日は昨日より珍しく2コール早いなと言ってきたのだ。


 まかさ記録つけてるのかとか、何かをためされているのかと思った。何よりも、恐怖を覚えて仕方なかった。それを払拭するため、記憶力が異常で時間にかれた女性、いや記憶力の素晴らしい几帳面な女性なのだから致し方ないのだと言い聞かせて、恐怖との折り合いをつけたのだった。





 5コールが鳴る瞬間まで、そんなことを次々と思い出した彼は通話ボタンを押す。


「はい、ソウセイさん。何でしょうか?」


「何って? 変わったことは無いのか?」


「別にありませんでした」


「そっかぁ」


 この2往復が一字一句違わない二人のお決まりのやり取りである。その後、辰巳が押し黙った後で、ソウセイが話題を振ってくれるのだ。彼としては、何も変わったことが無いなら通話を切って良いかとは口が避けても言えない。


 彼女発信の取り留めのない会話が続く。彼女から話を振られたら5秒以内に絶対に応答する、いや何でもいいので取り敢えず音を発するように心掛けている。


 一度、ぼうっとしてたら『私との会話はつまらないのか?』と聞かれたことがある。それが彼には『刑務所に入りたいのか?』と聞こえてしまい聞き返してホッとした経験があるからだ。





 一時間程が経過した。そろそろかなと彼は思う。そして、ある言葉が彼女から発せられることを待っている。


「そろそろ眠たくなったろ?君」


「いやぁ〜別に眠くありませんが。ソウセイさんは如何ですか?」


「そうだなぁ〜。そろそろ眠るとしようか?君」


「ソウセイさんが、そうおっしゃるなら」


「そうしようか? おやすみ、君」


「おやすみなさい、ソウセイさん」


 この3往復が一字一句違わない二人の通話の終わりのやり取りである。そして、辰巳はソウセイの通話が切れた音を確認すると終了ボタンを押すのだ。そして、彼は眠りにつく。





 彼の目の前に二人の人物の影が現れる。朧気だった二人が鮮明になっていく。次第に、両者の距離がが近づいていく。そして、二人がこぶしまじえ始めた。


 一進一退の攻防が続く。その中で、彼はあることに気がつく。それは両者のうち一方の顔は鮮明に見えるが、もう一方の顔ははもやがかかった、テレビでよく見るモザイク処理されたように見える。


 それは顔の部分だけで首から下は両者とも鮮明に見えている。彼は近くで見ようと近づく。しばらく進んでいると顔面を強打する。しかし、障害物など見えない。歩みを進めようとすると、踏み出した右足の膝を打つ。


 痛みでうずくまりそうになるが耐える。彼が両手を伸ばす。すると、何かにブチ当たる。どうやら、見えない壁のようなものがある様だ。


 彼は周囲を見回す。すると、広大な闘技場であることが確認出来た。歴史の教科書で見る古代の闘技場のようなイメージだ。観客席も確認できるが人はいないようだ。今、彼は観客席が丸く取り囲む試合をするアリーナの中にいるのである。


「お久しぶりね、アンタ」


 その声の主は女性だ。彼は周囲をグルっと見てみるが姿を確認することは出来ない。


「上よ、上」


 その言葉に彼は上空を見上げる。すると、宙を浮いている者が確認できる。しかし、彼が見上げる角度からは顔が見えない。すると、宙を浮いている者が首を曲げ彼を見下ろす。それでも、遥か上空にいるので顔は確認出来ない。


「自分のこと知ってるんですか?」


「アンタじゃないの? その着ている服を何度か見かけたことあるから」


 彼は服を確認する。ジャージを着ている。シーズンの切り替わりのセールで手に入れたジャージだ。機能性とデザインもさることながら、何よりカラーが気に入ったのでが気に入ったので、定価の7割引きだったこともあり数着纏めて買ったのだ。


「話したこともあるんですか?」


 再び見上げた彼は、そう言った。


「ないわよ」


「あっ、そうですか?」


 そう言った彼は再び拳を交えている二人の方へと視線を移す。先程から思っていたが両者とも人間離れした動きを見せている。


「つまらない試合ね。見る価値ないわ」


「えっ! そうですか? かなり凄いと思いますが」


 そう言った後、彼はハッとなる。耳元で聞こえるからだ。そして、気づく。その声の主は特徴のある先程の女性の声そっくりだからである。すぐに彼は横を見る。すると、鼻筋の高い少し吊り目気味の女性が立っている。そして、髪型は奇抜なショートカットだ。


「さっきの方ですよね?上空にいた」


「そうだけどっ」


「こんなに早く地上に降りれるんですね? かなり上空高くにいましたよね?」


「この程度は普通よ」


「へぇ〜。ってか! 空飛べるんですね?」


「今頃?! 普通、空にいた時に聞くもんでしょ! 」


「ですかね」


「そうよっ!」


「あのう〜、質問いいですか?」


「なに?」


「貴女は対戦している二人の顔見えるんですか? あっ! 見えるというのは目鼻立ちがハッキリ見えるかという意味です」


「そんなの片方だけしか見えないに決まってるじゃないのっ!」


「どうしてです?」


「それはね……どうして教えてやらないといけないのよ」


 そう言った彼女は眉間にしわを寄せ辰巳に凄む。これに対して、彼は背筋がゾクッとする。


「何回も見てるなら自分で気付きなさいよ! 考えれば簡単なことよ」


「記憶にないんですが?」


「まだまだ何じゃないの?」


「はぁ〜っ」


「忘れないように、この空間から抜けたら見たことをメモでもしときなさいよ、まったくっ」


「あ〜ぁ、なるほどですね?」


「いずれ対戦…………ちっ! 余計なことを言っちゃった。これじゃ、ヒントあげた様なもんじゃないの!」


「今、対戦って言った後に何か言いかけて口籠くちごもりましたよね? 対戦がヒントなんですか?」


「うっさいわよ。なんで、てき……当なアンタに教えないと行けないのよ。いずれ対戦をする様になったら分かるわよってヒントを教えてあげたのよっ」


「あっ、成る程」


「馬鹿でよかったぁ」


 そう彼女は呟いた。彼にその声は届かなかった。


「今、なんておっしゃっいました?」


「大したことじゃないわよ。質問攻め止めてくんないっ!」


 そう言った彼女は彼の胸を軽く叩いた。すると、警報音が鳴り響く。何事かとアリーナに視線を移すが二人の戦闘は続いている。動きの止まる様子は見られない。彼は視線を彼女の元へと戻す。


「ちょっと小突いただけじゃない。これでペナルティなんて。まっ、つまらない戦いだし。まっ! いっかっ」


「ペナルティって何です?」


「戦う者以外の意図的な物理的接触は禁じられてるのよっ!」


「ヒントどころじゃなく教えちゃったじゃない! まったく。まっ、この位なら…………また会えるかしらね?」


 そう言った後、しばらく彼女は消失した。まるでテレビの画面を消したときのようにプッと一瞬でだ。





 その後、彼は呆然としていた。今、彼は戦いを続けている2人へと目を向けている。しばらく見続けていると、一人の蹴りが相手の胸元辺りを捉える。その者は彼の方へと向かってくる。


 それに対して彼は思わず身を屈める。その直後、衝突音がした。ゆっくりと目を開けると目の前で男が倒れている。


 辰巳は見えない壁に手をつけ男を見る。気を失ってある様だ。彼が覗き込んでいると音がなる。先程とは違う音色ねいろだ。


 その瞬間、彼は前のめりになる。どうやら、壁が消失したらしい。彼は男の隣で四つん這いの状態だ。


「大丈夫ですか?」


「ムゲンセンヲ、シカケタラ、モドレナイ」


 そう辰巳には聞こえた。しばらくすると男は消失した。先程の女性と全く同様に。





 辰巳の目の前には、いつもの部屋の天変わり映えしない井が視界に入っている。


「夢か……」


 彼は起き上がり座卓のスマホを手に取る。メモ帳代わりにする為に。ムゲンセンという言葉が気になってだ。それと無意識に夢の中の女性のメモしなさいよの言葉が脳裏に刻まれた様だ。


 彼はスマホの画面に「ムゲンセンヲ、シカケタラ、モドレナイ」と打ち込み保存する。その押し終えた瞬間に後悔した。なんとソウセイ自作のアプリに打ち込んでいて送信してしまったのだ。


 速攻、彼女から通話が来た。気は進まないが通話ボタンを押す。


「どういう意味だ? 君」


「あっ……夢の中の言葉で」


「やっぱり夢じゃ……」


「やっぱり夢じゃ参考になりませんよね?」


「そっ、そんなことはないわっ。ちょっと待って録音するから」


「あっ、はい」


 その後、彼は夢の内容を話している。夢なんて目覚めたら、いつもは断片的にしか覚えてない。そんな彼が、先程までの夢を現実に起こったかのように鮮明に覚えているのだ。


 彼はソウセイが異常に喰い付いて来るなと疑問に思いながらも話を続けていく。

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