第28話 ソウセイの正体とトリガーになった男子大学生
「彼女って、お強いんですか?」
そう言った彼は顔を横に向け彼女を見る。その彼女の目は、前方の女子高生を捉えたままだ。
「そうねぇ〜。君を除けば、あの娘と爺さん、おっさんがコッチのランキングの三傑ね。まだ君はコッチじゃランク外だから」
「爺さんって方は、この間の御老人ですよね? おっさんって方は、どの様な方ですか? まだ、お見かけしたことがないので」
「新入りだけど、めきめきと頭角を現したわ。あっという間にランクインを果たしたのよ、おっさん」
「へぇ〜。では、その方はかなりお強いんですね。その方が最上位ランカーですか?」
「三傑と評したように、ほぼ横一線って所かしら。ランキングトップ3には、まだ誰もランクインしてないから。入った者が頭一つ抜けることになるんじゃないかしらね。まあ、爺さんは底が見えてきたって感じかしらね。残りの2人は未知数かしら」
「あぁ、そうなんですか?」
「始まるわよ。強さを、その目で確かめるとしなさい」
「あぁ、はい」
そう彼が返事する中、仮面のモノが両者の中央に手を振り下ろす。これにより戦いの火蓋が切られた。
両者は見合っている。すると、女子高生に変化が見られる。それは彼女の服装が制服から白いワンピースへと瞬時に変わったのだ。
その服にはベルトを巻いている。彼女の両腰のベルトの上には、それぞれホルスターが固定されている。その2つにはリボルバー銃が収まっている。
足元の靴も黒いローファーから白いスニーカーへと変化した。変わらなかったのは彼女の差す白い日傘だけである。
「さっきは銃は装備してなかったよな? あれが武器なのか?」
そう彼は独り言を言った。
「なに言ってるの? 君。ブレザーの服に隠れて見えなかっただけよ。まぁ、使ってるのは一度も見たことないけど。御守りがなんか何じゃないの?」
「銃がですか?」
「知らないわよっ!」
「すっ、すみません」
「ったくっ」
「ジェ、ジェミニさん?」
「なにっ」
「開始すると着せ替えするの流行ってるんですか?」
「初めてみたわよ。あの娘が変身するの」
「へぇ〜、何か心境の変化でもあったんですかね?」
「君でしょ?」
「えっ……」
「あの娘が感情剥き出しなの初めて見たもの。いつもは小動物の様にオドオドしてるもの」
「それなのに、お強いんですか?」
「陰気で勝つのよ」
「いんき?」
「ったくっ。それくらい分かるでしょ、ハァ〜ッ。そっちで言う負のオーラってヤツよ」
「それで勝てますか?」
「見てたら分かるわよ。負のオーラってのが何であるかがね」
「あぁ、はい。そうします」
2人は女子高生へと目を向ける。辰巳は彼女を注視している。しかし、両者とも動きを見せない。ただ時間だけが経過していく。
かなりの時間が経過した。なぜか、女子高生の相手が肩で息を初めている。すると、日傘を差した彼女が振り向く。そして、傘を少し上げ辰巳の方をチラッと見る。彼は先程同様の感覚に陥っていく。
彼女が向き直る。すると、彼女に変化が起こる。彼女のワンピースが藤色へと変わる。暫くすると、それは菖蒲色へと変わった。
相手は色が変わる度に苦悶の表情を浮かべ呼吸が荒くなる。また、彼女の服に変化がある。蘭色へと変わる。すると、相手は地面に崩れ落ちる。
また変化をみせる。黒薔薇色へと変化した。すると、相手は地面をのたうち回り始める。すぐに服に変化が起こる。黒百合色へと変わっていく。この変化に合わせて、相手は全身痙攣し始める。
「何が起こってるんです? 彼女は指一本触れてないどころか、動いてすらいませんよ? ジェミニさん」
そう彼は視線は女子高生から離さず言った。
「言ったじゃない、君」
そう彼女も女子高生を視線に捉えながら言った。
「何をです?」
「陰気」
「陰気な性格な方が強んですか?」
「必ずしも、そうじゃないわ。あの娘に限ってね」
「まさか負のオーラが相手にダメージ与えてるとかいいませんよね?」
「当たりぃ〜、君」
「もしかして、彼女から発せられる負のオーラに当てられてとか言いませんよね?」
「御名答だわ、君」
「ええっ……」
「AGD」
「技名ですか?」
「そうよ、マニア君が名付けた」
「どういう意味です?」
「abyssal gloomy domainよ。後は君で調べなさい」
「あぁ、はい」
そう彼が言った直後、また女子高生に変化が起こる。彼女の服装がカウボーイ姿、いや女性なのでカウガール姿へと変わった。
テンガロンハット、首にはネッカチーフ、ウェスタンシャツ、ジーンズ、ウェスタンブーツ姿だ。それぞれのは先程の紫色を基調とした濃淡の5色でカラーコーディネートされているよね。
「何ですか? あれ」
「ワンピース姿だって初めて見たって言ったでしょ! 知るわけないじゃないっ!!」
「でっ、ですよね」
「ったくっ」
2人の不毛な会話の間に女子高生がホルスターからメタリックパープル色のリボルバー銃を抜く。そして、彼女は相手へと照準を合わせ引き金を絞る。
「グッドモーニング」
その刹那、ディープメタリックパープル色の弾丸が発射される。それが相手の心臓を貫いた。すると、相手が弾け散り粒子状になる。そして、舞い上がっていく。その後、降ってきながら一粒一粒と消えていく。そして、最後の一粒が消失した。
「勝負あり。#3ことワイバーンさんの勝利です。これによりランキングが5位から4位へとランクアップとなります。おめでとう御座います。それでは私は失礼します」
そう勝ち名乗りを上げた仮面のモノは消え去った。
「あの最後のワンショットは何で言う技名ですか?」
「君は私の話を聞き流してんのっ! さっき使ってるの一度も!一度も! 一度たりともっ! 見たことないって言ったでしょうがぁ!! 君ぃ!」
「でっ、でひぃた」
「しかし、ここまでとは」
「なっ、何がでしょうか?」
「想定以上に遥かに強いってことよ」
「あぁ、確かに」
「なにっ、 その物言いは?」
「何がでしょう?」
「あぁ、確かに。続く言葉は、私には及びませんがとでも言いたいんでしょうがぁ!」
「そんなことを思っても見ませんよっ!」
「どうかしらね。コッチじゃランクインこそしてないけど、その気になれば最上位ランカーなんか容易いとでも思ってんじゃないの?」
「微塵も思ってませんてっ。ほっ、本当ですよっ? はい!!」
「ふんっ、そうっ」
向かい合った2人が、ある意味仲良く戯れている。すると、ジェミニが表情を曇らせる。これを辰巳は不思議に思う。なぜなら、いつも彼女は彼に対しては強気かつ威圧的であるからだ。
「どうしました?」
「今度は私が睨まれてんだけど」
「えっ!」
そう言った彼は振り向く。すると、女子高生がリボルバー銃を左手に持ったまま2人の方へと近づいてくる。彼女はカウガール姿ではなくゴシック調のブレザー制服姿だ。2人が戯れている間に着せ替えをしたようだ。
「お知り合いだったんですか? ジェミニさん。睨まれてはいるそうですけど」
「知り合いなわけ無いでしょ! あんな陰気な娘と会話どころか近寄られただけで気に当てられて陰鬱感染するでしょうが」
「では、過去にトラブルがあったんですね? ジェミニさんは揉め事お好きそうですし」
「何言ってんのっ! 近寄りたくもない娘とトラブルなんか起こすわけないじゃないのよっ!」
「じゃあ言葉の暴力を投げつけたんですね」
「私のこと何だと思ってんのっ! 君…………んっ? ってかっ! 何で投げつけたって断定的なのよ!! せめて投げつけたことがあるんでしょうか? でしょがぁ!!!!」
「でふぅひょね」
「私、帰るわ」
「ひゃい」
「じゃあね、君」
そういった彼女ではあるが、一向に体に変化が見られない。彼女の表情に焦りの色が見てる。
「何でこんな時に限って思い通りにならないのよ。すぐに目覚めなくでも通常の夢には戻れるのに。ったくっ!」
彼女を見つめていた辰巳は振り向く。すると、女子高生は彼らの数歩先まで迫っている。彼は考える。ジェミニが狼狽するくらいだから余程のことが起こるのだろうと。
彼は意を決する。彼は両手を大きく広げ女子高生の進路を塞ぐように立ちはだかる。彼女は歩みを止めることなく、むしろ足早になる。
予想外のことが起こる。なんと彼女は左手のリボルバー銃を捨てる。そして、彼女は両手を広げ彼の向けへと飛び込む。すると彼女は彼の胸に顔を埋め強く抱擁する。
「やっと私は」
そう言いかけた彼女はプッと瞬時に消失した。残された彼は彼女の温もりを現実の様に感じている。両手を広げ上げていた彼は腕を下ろす。
「ちょっとぉ! 君」
そのジェミニの声で彼は振り向く。彼女は眉間に皺を寄せ険しい表情を浮かべている。思わず彼は後退りする。
「なっ、何でしょう?」
「痴情のもつれから痴話喧嘩して仲直りの抱擁? 何見てつけてくれたのよっ! ふざけんじゃないわよ!!」
「ちっ、違いますって」
「明らかに君を知ってるふうだったじゃない。私が睨まれたのは明らかな嫉妬じゃないのっ。殺意すら感じたわよ、この歴戦の猛者である私が。てかっ、どうやって現実世界で見つけて逢瀬を重ねて、いや逢い引きして一線超えたのよっ! 捜索方法教えなさいよっ!!」
「僕はどうっ…………やって見つけることが出来るんです? こっちが知りたいくらいですよ。捜索方法あったら」
「つまり、あの娘に会いたいってことよね?」
「ちっ、違いからっ。そろそろ私はお暇しますね」
「んっ? 君って覚醒をコントロールできるの?」
「覚醒? どういう意味です」
「目覚めをコントロール出来るかってことよっ」
「えっ、お暇するイコール目覚めることじゃないんですか?」
「出来るの?」
「いつもこの夢を見た後、目覚めますが。コントロール出来るかは定かでないです」
「私ですら普通の夢へと誘われて、暫くしてからしか覚醒出来ないのに。いい? 君」
「何でしょう?」
「自分の意志でここから去って、すぐ目覚めるか確かめんのよ。そして、次回、この私に会った時に報告しなさい」
「あっ、はい。分かりました」
「じゃあ、私は君の言葉を借りて御暇しようかしら? 」
そう言うと彼女は胸元で小刻みに手を振る。それに対して、彼は慌てて会釈する。彼女の表情が曇り眉間に皺を寄せる。
「振り返しなさいよっ! 女性である私から振ってんだからっ。恥かかせんじゃないのっ。この間もそうだったじゃないのっ! ったくっ、君って子は」
そう言われた彼は直立不動になり手だけを懸命に振る。
「なんか小馬鹿にされてる気分だけど良しとしましょう。バイバイですわよ。また、お会いしませう。君」
そう言った彼女は手を前に出す。そして、彼と掌同士を合わせる。すると、彼女は徐々に消失していく。最後に触れ合っている手が消え完全に消失ていった。
残された彼は、彼女と触れ合っていた掌を眺めている。先程と違い直接の温もりは感じられない。しかし、彼女の温かさに触れたような気はしている。しばらく眺め続けることにする。
時間が流れた。彼は我に返る。
「覚醒するとしましょうか?」
掌を眺めながら言った彼はプッと消失していった。
――覚醒したな
そう心の中で呟いた彼は目を瞑ったままだ。彼は異変に気づく。それは唇に感触と湿り気を感じているのだ。
ゆっくりと彼は目を開ける。彼はハッとなる。それは彼の目の先に2つの瞳があるからだ。その瞳の中には彼が映っている。
その中の彼が次第に遠ざかっていく。すると、彼の視線の先にはソウセイの顔が浮かび上がっているように見える。彼は我に返る。
「そっ、ソウセイさん?」
「そうだ私だ君」
「唇が……あのぅ、そのぅ」
「礼だ、君」
「なっ、なっ、何の礼ですか? そっ、ソウセイさん?」
「君が解き放ってくれた」
「なっ、なっ、何をです?」
「私は現実と夢の境界にいたんだよ、君」
「いっ、意味が……わからないのですが」
「私は夢を断片的、いや違うな。一瞬、これも違う。刹那的にしか記憶しないんだよ、君。それが今日は生まれて初めて認識することが出来たんだ。現実の様に、はっきりと覚えているんだ」
「なっ、何を覚えているんでしょうか?」
「私を夢の中で見つけてくれたじゃないか?」
「今日の夢で真新しいことと言えば女子高生に会ったことですよ?」
「あれは私だ! 奏召っ!! 君は私のトリガーだったんだ!!!」
その言葉に彼は脳の処理が追いついていない。




