第27話 明晰夢
「夢の中かぁ……」
開口一番そう彼は言った。彼は意識的、感覚的、肌感覚的に、すぐに彼は目を開けた瞬間に此処が夢の中であると自覚したのだ。
「なんです? ジェミニさん」
そう言った彼は振り向く。すると、彼の目の前には、彼の肩に手をかけようと腕を上げたままの彼女が立っている。彼女は虚を突かれた表情を浮かべている。目を見開いたまま、わずかに口を開けフリーズしている。
「どうしました? ジョミニさん」
「……よっ、よく私の気配に気づいたわね? 君。ギョウソウネンを遮断して近づいたのに」
「それ、こっちじゃゲンソウネンって言うんでしたっけ? だって、ここは夢の中じゃないですか? そろそろジェミニさんが現れる頃だなと不思議と感じたんです。たまたまですよ 」
「夢の中? 何を言っているの? 君?」
「だって、ここは夢の中ですよ? ジェミニさんが私より、よくお分かりじゃないんですか?」
「んっ?!…………」
そう言った彼女は首を傾げ左上方を見上げる。その後、彼女は訝しげな表情で彼を見つめる。そうしながら、彼女は何度も首を傾げている。
次に、彼女は彼に顔を近づけ、彼の瞳の奥を覗き込む。2人の鼻先が触れ合う程の距離だ。ゆったりと時間が経過していき、2人だけの空間が出来上がる。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!」
いきなりジェミニは耳を劈く様な大声をあげた。なので、辰巳は耳がキーンとなる。彼女は声の勢いのまま彼へと迫る。そして、2人の額同士が激突する。
その結果、彼女は目を瞑り額を摩っている。一方の彼は激突の衝撃で後方へと吹っ飛ばされ地面に腰を強打する。その際、後頭部もぶつけた。彼は地面に仰向けになったまま動かない。
痛みの引いた彼女は倒れている彼に気が付く。そして、彼女は、しゃがみ込むと右手の人差し指で彼の頬をツンツンと突く。
それに反応した彼が目を覚ます。すると、彼女が彼に右手を差し伸べる。
「そうよっ! ここは夢の中よ。ようやく気がついたわ。いつも時間がかかるわね、こればかりは。流石ね、君」
「何がです?」
「君はここに出現して、すぐに気づいたわね。君の姿が実体化していく一部始終を眺めていたもの、私」
「あぁ、ですね」
「君は明晰夢即知者なのね?」
「それは一体……」
「瞬時に、つまり夢に侵入した時点で夢だと気づける者のことよ」
「あぁ、今回はそうでしたね」
「隠し事が多い君だわね。まぁ、おいおい聞き出してあげる。さぁ、君」
彼は彼女の手を取ると取ると体を起こし立ち上がる。彼は背後に突き刺す様な視線を感じる。その瞬間、彼は彼女の両脇下へと腕を差し込み抱きしめピタリと密着する。
「ちょっと何すんのよっ! 君」
「いや、仮面の御方が監視してるかと思いまして。じゃれ合ってる姿をお見せしないといけないかと思いまして」
「なら、事前に許可取んなさいよ、君」
「そんな猶予はないと思いまして、はい」
「あれっ?! 珍しい事もあるのね」
「どうしました? ジェミニさん」
「あのお嬢ちゃんは君のツレかい?」
「誰のことです?」
そう言った彼は振り向く。すると、そこにはゴシック調のブレザー制服を着た少女が日傘を差して立っている。それを彼女はクルクルと回している。彼の首の動きが止まると少女が彼の両目をロックする。
彼は彼女の表情を窺い知ることは出来ない。それは彼女の顔には靄が掛かっているからだ。それでも睨まれている気がしている。
彼を見る彼女の眼光は鋭い。その鋭利さが彼に伝わったのだろうか。なぜか彼は眼球を何が貫通したかの様な感覚に襲われてしまう。それなので彼は首を振ることが出来ない。
「君?」
そうジェミニが言った。彼は顔を彼女に向けようとしたが、それが出来ないでいる。何度も試みるが、彼女の方へと向けない。
「何です? ジェミニさん」
「また、たらし込めたの?」
「またってなんですかっ!」
「または抜きにして、たらし込めたのは認めるのね? このスケコマシ!」
「違いますってっ!」
「スケコマシってどういう意味です?」
「知らないの? そっちの言葉でもあるはずだけどぉ〜。うぅ〜ん、そっちの言葉でヤリチンって意味よ」
「僕は、童っ!……なっ、なんでもないです、はい」
「まさかっ。そうだったの?!」
「えぇ……」
「動物並みに盛ってるのね?! 年中」
「ちがっ!……それで良いです」
「私を襲うんじゃないわよっ! 君。いくら私が妖艶で魅力的だからって。夢の中だからって何でも許されるわけじゃないんだからねっ!」
「いくら夢の中だからって、ジェミニさんに性的興奮を覚えたりしませんよ。勘違いしないで下さい」
「んっ?…………あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!」
彼女は先程よりも更に耳を劈く様な大声をあげた。彼は耳を押さえる。しかし、時すでに遅しで耳鳴りがし中々収まってくれないでいる。
暫くして耳鳴りは収まってきた。その間も彼女は彼へと叫び続けていたが、その彼女の声は彼へは届いてなかった。それを彼女は悟ったのか、声を出す代わりに彼女は彼の肩を揺らし続けている。
「なんて仰ってたんです? ジェミニ」
「女性である、このこのこの私に女性としての魅力が皆無だとは、どういう了見だっ!!! 君」
「皆無だとは言ってませんよ。ただ、ジェミニさんは私の好みの女性ではないので性的興奮を覚えないだけです、はい」
「年中、盛ってる君がかっ! 私のことを男だとでも思ってんのかっ!!」
「…………そっ、そうなこと思うはずないじゃないですか」
「何だっ! その間と奥歯に物が挟まったような物言いはっ!!」
「みっ、耳鳴りのせいかと、はい。きっとジェミニさんのことを想ってる男性は一人はいるかと…………絶対にいると……いますっ! 絶対です!!」
「なんで一人しかいないと断定するんだっ!」
――そこっ?
「なんで一人なんだ」
「今のは例え話でして。ジェミニさんは髪型がへん……に量産型でなく唯一無二の個性的な時代を先取りした斬新な髪型です。あとは……醸し出す雰囲気がミステリアスです、はい。きっと、いや絶対に3人はいると思います。いや、います」
「3人だけか?」
「いや、10人以上は確実にいますっ! はいっ!!」
「まぁ、そうだろうな。街を歩いてると異性の視線が痛いほど突き刺さるんだ、実は」
――もし、現実世界でも、その髪型なら……それは、きっと……
「君?」
「はい」
「まだ睨んでるぞっ! 更に眉間のシワが深くなってるぞ。まさかっ!」
「なっ、何です」
「君の世界で、盛った君が手籠めにした女性の被害者の会の一人じゃないのか?」
「違います! 女子高生の知り合いなんていません」
「仮装衣装かもしれないだろ。そっちじゃコスプレと言うやつだ」
「えっ! でも、あの制服には見覚えが」
「やっぱり手籠めにした内の一人なのか?」
「違います。あの制服は……たしかぁ……あっ、そうだ! 超の付く嬢様学院の制服ですよ」
「だからかぁ」
「何がです?」
「一点の穢れのない品行方正な女学院生を支配したいという欲求から犯行に及んだんだな」
「だからっ、違いますって」
「そういうことにしておいてやろう」
「だからっ……もういいです」
そう言った彼と彼女は気配を感じる。2人が、その方向へと向く。すると、そこには仮面のモノが浮遊している。
「No.9ことジェミニさん?」
「なっ、何です? 私は何もしてませんよ」
「もしかして、#3ことワイバーンさんの集中力を削ぐ目的ですか?」
「あの小娘!……あのお嬢ちゃんが勝手にこっちを見て勝手に苛ついてるだけですのよっ。何を仰られますの、大審判様」
「あっ、そうでしたか。それは失礼致しました。それでも私はこれで」
そう言った仮面のモノは2人の目の前から消え去った。そして、女子高生と対戦相手の前に現れる。




