第25話 見知らぬアプリからの入金と歯切れの悪い女性調査分析官
辰巳の目の前では対峙する2人の姿がある。1人は白髪の男性、もう1人は見目麗しい女性だ。見ていると肩を叩かれる。彼が振り向くとジェミニがいる。
「やぁ、君。機嫌は直ったかい?」
「この間は声を荒げて申し訳ありませんでした。ジェミニさんには全く何の非がないのに」
「気にするな。気持ちは分からんでもないからな」
「あっ、はい」
そう言った彼女はポンポンと何度も彼の肩を叩く。それに彼は頭を下げ恐縮する。
仮面のモノが姿を現した。すると、対峙している変化が。男性は鎧兜姿になった。しかも、馬に騎乗している。彼の左手には槍が握られている。
一方の女性はデザインスーツに身を包んでいる。そして、サングラスを掛けている。彼女の右手にはライフルを持っている。その引き金に手をかけていて、銃身を肩に置いている。彼女は口をクチャクチャさせている。どうやら、彼女はガムを噛んでいるようだ。
「爺さん、なに? その格好。いつも見て笑っちゃいそうよ。あっ、笑ってんだったわ。オホホォ」
「婆さんこそ、年相応の服着たらどうじゃ?」
「何だってぇっ! 死にぞこないの裏切り者がぁ! 私がアンタを誰が知らないとでも思ってんのっ!」
「さぁ、存じ上げないのぅ〜」
「しらばっくれてなさいっ」
「何のことかのぅ」
そう彼が言った後、見合った2人は言葉を交わさなくなった。すると、仮面のモノが2人に意思確認する。そして、開始の合図が告げられた。
暫く経過したが、まだ2人は見合ったままである。試合開始の姿勢から微動だにしてない。
更に時間が経過していく。すると、動きが。女性の方が忽然と辰巳たちの目の前から姿を消した。彼は周囲を見回すが姿を確認出来ない。
「上よ、君」
そのジェミニの言葉に上空を見上げる。すると、女性が男性へと銃口を向けている。そこから、銃弾が発射される。その刹那、男性は上空の彼女目掛けて槍を投げ放つ。
弾丸は男性の顔面を正確に捉えた。一方、槍は女性の胸を貫通した。女性が上空から落ちてくる。そして、地面へと激突して土煙が上がる。一方の男性は馬に騎乗したまま微動だにしない。
暫くすると土煙が晴れ視界が開けてきた。すると、女性が立ち上がろうとしている。しかし、彼女は力が上手く手足に伝わらないのか何度も倒れ込む。彼女の首元近くには上空から落下した槍が地中深く突き刺さっている。
「いずれツケはキッチリ払ってもらうからな!」
そう彼女が言った直後、男性がペェッと何かを吐き出した。それはライフルの弾丸だ。
「何のことかわからんのぅ〜。しゃがぁ、待ってみようかのぅ」
そう男性が言った瞬間、女性は徐々に消え始めていく。10秒も経たないうちに完全に消失した。その後、仮面のモノより男性に勝ち名乗りが上げられた。辰巳は開始前は聞き逃していた彼のランク名が『No.666ことキャット』だと知った。
その後、男性はプッと消失した。今、会場に残っているのは辰巳とジェミニの2人だけだ。
「強かったですね? あの御老人」
「そりゃそうよっ。そっちの上位ランカーなんだら」
「私はランク維持ですかね?」
そういった彼に対して彼女は顎で大型ビジョンを指す。
「載ってませんよ」
「あっ、君には見えないんだったわ。君はアッチのランカーでしょ! まぁ、アッチのランキングはあってないようなものだけどぉ。ただの飾り」
「えっ?! ランキングって2つあるんですか?」
「また知らないふり? はい、はい」
「……あっ、すみません。忘れてました、はい」
咄嗟に話を合わせた。これ以上、彼女を刺激するとムゲンセンについて教えてもらえないと思ったからだ。彼は話題を振ることにする。
「女性の方も、お強かったですよね。外形上はライフル弾は被弾してましたし」
「そりゃ、そうよっ! あのババァ……いや御淑女はコッチでもアッチでも実質4位だもの」
「じゃあ、あの御老人は実力者なんですね?」
「紙一重って感じだったわね。あのババ……マダム、普段は冷静に優雅に戦うんだけど私情が入ってかなりギョウソウネンが乱れてたわね。アッチでマダムが勝ったし。2人は実力伯仲よ。ランキングでも」
「へぇ〜、そうだったんですね」
「見なさいよっ」
そう彼女は再び顎で大型ビジョンを指す。しかし、それは次第に消失していく。
「消えてしまいましたね」
「なら、ステータスウィンドウで調べてみたら? 君」
「出来ますかね」
そう言った彼に対して彼女は両手を広げて肩をすくめる。それを彼は無言の圧力だと解釈し目を瞑る。すると、今回は彼の手元にタブレットがすっぽりと収まる。
彼が画面をタップすると画面が表示された。すると、前回同様に彼のナンバーとランク名が画面の一番上に表示されている。
彼は目を下に徐々にずらしていく。すると、彼は気になる項目ボタンが2つある。前回は、パッと目を通しただけだった。それなので、気が付かなかったのだ。
「あのう〜、ジェミニさん?」
「何? 君」
「DELETEとGRANTって表示されているんですが、これって何です?」
「ちょっと待って」
そう言った彼女は脳内にステータスウィンドウを表示させる。そして、画面を色々操作し始める。
「ないわよっ! そんなの。内部まで入念に調べたけど。どこにあったの?」
「えっ、トップページですけど」
「なんで君にあって私には無いのよっ!!」
「……そんなこと言われましても……」
「まさかっ! 君、ムゲンセンを何回も達成してんじゃないのっ!! 私ですら一回なのに」
「えっ! ムゲンセン達成者何ですかっ! ジェミニさん」
「そこじゃないでしょ! 君!!」
「えっ、私はムゲンセンなんて本当に知りませんって」
「はい、はい、はい。秘密主義なのは悪いことじゃないわ。私、帰るわ」
「ムゲンセンについて教えてもらえないんですか?」
「なんで秘密主義の君に教えてあげないといけないのよ。気が向いたら教えてあげるわ」
そう言った彼女は次第に姿が見えなくなっていく。その後、数秒かけて完全に消失した。
彼は目を開ける。
「やっぱ夢だよな」
そう言った彼ではあるが、いつもと視界が違う。左目の視界が塞がっているのだ。彼は目に触れる。サラサラした何かを払う。その目で見ると黒い何かがある。
彼は急に体に重みを感じる。彼は、その重み左手で取り除く。そして、退けた方向を見る。すると、ソウセイが寝息を立てて横たわっている。その息からはワインの匂いが漂ってくる。
驚いた彼はベッドから飛び出ようとする。しかし、それは叶わず右肩に激痛が走る。なぜなら、ソウセイの左指が彼の右指に絡みついているからだ。彼女の握る力は尋常ではない。指の骨が悲鳴を上げそうになる程だ。
致し方ないので、暫く彼女と添い寝してしている。しかし、彼女が目覚めるまで手を絡ませるのもどうかと思う。その思いの中には自分から絡ませたと思わたくないのもある。彼は意を決する。
「ソウセイさん?」
「んっ? どうした」
彼女はすんなり目を開けた。
「手を離していただけると、はい」
そう彼が言うと彼女はすんなりと離してくれた。
「安眠できたし、目覚めもスッキリだ」
「あぁ、そうですか」
そう彼は言うとベットから起き上がり出る。丸テーブルへと向かうが痛みが走る。なので、彼は右肩を押さえながら歩く。彼は椅子へと座るが痛みは引かないので肩を軽く揉む。
「君!」
「何でしょう?」
「夢の中で負傷したのか? 大丈夫かっ! 救急車呼ぼうか? 君に何かあったら私は……とっ、とにかくどうなんだ?」
「……あっ、そんなところです。軽い捻挫なのでご心配いただかなくても大丈夫です、はい」
「ちょっと待ってろ」
そう言った彼女は部屋を出ていく。
ソウセイが戻ってきた。彼女は左手に湿布を持っている。
「脱げ、君」
その彼女の言葉に彼は袖から腕を通して右肩を見せる。
「私は脱げと言ったぞ」
「えっ! そこまでしなくても」
「何を言っているっ! キレイに貼れないだろ」
そう言われた彼は慌てて脱ぐ。それは彼女との揉め事は勘弁被りたいからだ。すると、彼女が透明シールを剥がし湿布を彼の方へと持っていく。
「意外と肩幅が広いんだな? 脱いだら。猫背気味でひ弱そうなのに」
「あっ……柔道やってたからですかね、はい」
「あっ! そう言えば君は全国2位だったな」
「まぁ、一応」
そう彼が言うと彼女が貼り始める。貼り終えると彼女はキレイに伸ばす為撫でる。その際、湿布から手がはみ出し彼の肌に直に触れる。その瞬間、彼はビクッとなる。
「私は冷たいか? あっ、手のことだ」
「いえ、ソウセイは温かい方だと思いますよ。あっ、手のことです」
「そっかぁ。ありがとう」
そう言った彼女は彼の両肩にそっと手を置く。そして、彼女は軽く一回揉んだ。そして、彼女は彼に背を向け部屋から出ていく。
辰巳は夢での出来事をノートに書き留め終えた。彼はスマホを手に取る。なんとなく左右にスワイプしてみる。すると、止まった画面には見覚えのないアプリのアイコンが表示されている。
「ソウセイさん!!」
思わず彼は叫んだ。いや、叫んでしまったという方が正確なのかもしれない。
すぐにソウセイが部屋へと駆けつけて来た。
「やっぱり、夢の中での負傷で後遺症が出たのか?」
「ちっ、違います。見覚えのないアプリがインストールされていて、はい」
そう彼が言うとソウセイは彼のスマホを手に取り画面を見る。彼女はタップすることもなく彼へと返す。
「あぁ、これのことか。金が振り込まれてるぞ」
「……お金?」
「うぅ〜ん、君だとおそらく500万くらいじゃないか」
その彼女の言葉に彼はアプリをタップする。すると、彼女の言った通り500万円の表示がある。
「どっ、どうして知ってるんですか?」
「……あぁ……それは見たからだ」
「いつです?」
「君が眠っている間にだ。昨日はかなり泥酔されてましたよ?」
「……でっ、でも君の部屋に来て寝たじゃないか。それほどは酔ってなかったんだ」
「じゃ」
そこで言葉を発するのを止めた。彼はどうして自分の部屋で立て続けに寝るのかを聞きたかったが気恥ずかしかったのだ。ふと、先程の彼女の言葉に彼には疑問が浮かぶ。
「どうして、おそらくって言ったんです。見たなら断定的に言いますよね?」
「……あぁ……それか、寝るときは眼鏡をかけてないから、ぼんやりとしか見えなかったからだ、君」
「あぁ〜、あっ! これって逆振り込み詐欺じゃないんですか?」
「大丈夫だ。きちんと税務申告して処理してもらえば大丈夫だ」
「どうして分かるんですか? 見ただけで」
「……なっ、なっ、何を言うんだ君は? 私は国防省の調査分析官だぞ。君が寝てる時、短時間で調べ上げたんだ。こんなことは朝飯前だ」
「あぁ、はい」
そう彼が返事すると彼女はそそくさと逃げるように部屋を出て言った。
辰巳は大学の授業を終えソウセイのタワマンの充てがわれた部屋のベッドの上にいる。アプリについてソウセイに聞きたいが彼女は部屋から今日に限って一度も出てきてくれないのだ。
あの後、彼はアプリを色々調べてみようとした。しかし、金額が表示されているだけでアプリにボタンがなかった。それで裏設定でもあるのかと思い、画面を左上から右へと細かく押してみた。それを画面下まで、まんべんなく押したが何の反応もしなかったのだ。
扉の開く音がする。彼はそこへと視線をやる。すると、ネグリジェ姿のソウセイが入ってくる。その胸には枕を抱いている。彼女はズカズカと歩いてきてベットに横たわる。
驚いた彼は、即座にベッドから下りる。そして、扉のある壁際まで後退りする。壁に到達して腰を壁に強打した。




