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第19話 柄シャツのチンピラと同じ空間へ?

 しばらく辰巳は放心していたが、我に返る。


「私は身に覚えが全くないのですが。何がなんだか分からず混乱してます」


「何を言ってるんだい。お姉さんに頼んだんだろ」


「お姉さんっ?! 誰ですそれっ!」


「何をとぼけているんだい? 君のお姉さんだよ」


「私、姉なんかいませんよっ!」


「君は好青年で、休日にはアパートの清掃を手伝ってくれる。しかし、私たちは冗談を言い合うような仲ではまだないよ。年寄りをからかわないでくれ、辰巳君」


「……言葉がきつかったかもしれません。申し訳ありません」


「分かってくれればいいよ。しかし、弟想いの良いお姉さんじゃないか? 弟である辰巳君をここより良い物件に住んでもらいたいなんて」


「ちなみにどう見えました? 外見とか印象は? 姉という方は」


「清楚でキレイな女性だね。言葉遣いも丁寧で物腰がとても柔らかく好印象しかなかったね」


 ――誰だ? 1人は思い浮かぶけど該当しないし


「どうした? 辰巳君」


「いえ。他に印象に残った点ありませんか?」


「んんっ、これは言っていいものか」


「何ですか? 教えて下さい」


「服のセンスが独特というか……全身紫色でコーディネートしてたのがね。ちと派手かなと思ったがね。年寄りの私は目がチカチカしてね。気を悪くしないでくれよ? 辰巳君」


 ――ソウセイ……さぁ〜ん


「はやりお姉さんのことを言われて気分を害したんだね。すまない、辰巳君」


「いえ、全く大家さんが気に病むことはありません」


「そう言ってくれると心が軽くなったよ」


「でも、どうして姉だからって解約に応じたんですか?」


「君からの委任状を持っていたからね。即日退去したい旨の書かれた。後、弁護士同伴できたからね。しかも、3人もだよ。1人はテレビでもよく見る私ですら知ってる有名弁護士だったよ」


「……あっ、そうだったんですね」


「何してる人なんだい?」


「あっ……分析みたいなことを」


「あれか、投資家」


「みたいな感じですかね、はい」


「羽振りがいいんだな。乗ってる車も物凄く高そうだっし」


「あぁ、なんなんですかね」


「本当に良いお姉さんを持ったね、辰巳君」


「あぁ……はい。あのう〜」


「なんだい?」


「一週間くらい泊まれませんかね? あの部屋に」


「部屋の中は空っぽだよ」


「えっ!」


「引っ越し業者が運んでいったよ、辰巳君」


「そんなぁ」


「委任状にも明記されてたよ、それも」


「あぁ……そうなんですね」


 この後、会話が途切れた。と言うよりも、彼は話す気力をなくしてしまったのだ。





 彼はバイトを終えコンビニ前でスマホで検索している。すると、彼の背後から近づいてくる者の姿が。


「辰巳君」


 そう言われた彼が振り返ると、見慣れたセンスの悪い柄シャツが目に入る。そう声の主はイヌマルだ。


「あっ、どうも。イヌマルさん」


「おぉっ、辰巳君。もう名前を覚えてくれたのかい?」


「あぁ、まぁ。はい」


「もしかして、俺を待っててくれてたのか?」


「……いやぁ、そういう訳では」


「そっかぁ。でも、会えて嬉しいぜ。で、何してんだ?」


「ちょっと」


 辰巳の言葉にイヌマルはスマホを覗き込む。辰巳はスマホを逆にして画面を隠す。


「ネットカフェ行くのか?」


「あぁ、まぁ」


「漫画か?それともネトゲか?」


「いや、泊まろ……いや、そんなところです」


「遠いんだろ?」


「何がです?」


「引っ越した家だよ」


「えっ! どうして知っているんです? 引っ越しのことを」


「……あぁ、それは……たまたまここ通り過ぎたら引っ越し作業してたのを見てよ。気になって調べたら辰巳君の部屋だったからよ」


「どうして家の部屋番号知ってるです?」


「郵便ポストに辰巳ってあったからよ」


「あぁ、そういうことですか? でも引っ越しなんて気になります?」


「……たまたま暇だったから時間つぶしにな。あれだろっ、辰巳君」


「なんです?」


「引っ越しした家遠いんだろ? で、バイトの急な代わりいないから当分やることになったとかだろ?」


「……あぁ、そんな感じですかね」


「それまで家来いよ。泊めてやるぜ、辰巳君」


「……いや、ありがたくお気持ちだけ受け取っておきます」


「遠慮すんなって。俺達ダチだろ? 辰巳君」


 そう言うとイヌマルは肩を組み強引に辰巳を連れて行く。





 2人はイヌマルの部屋に着いた。辰巳は部屋を見回している。想像と違って小綺麗なアパートで部屋の中も整理整頓されてきて清潔感がある。


 辰巳はイヌマルの言葉が大変ありがたかったが不安があった。途中で振り解いて逃げなかったのは、どんな部屋か確かめたかったのもある。


 ヤバそうな雰囲気の部屋だったら逃げようかと思っていた。正直、彼はイヌマルの世話になろうか迷っている。


 次の部屋が見つかるまで、ネットカフェで過ごすのは一番安いプランでも結構な金ががかかる。それに母親に事情を話して次が見つかるまで、いつになるか分からない。


 それに彼はソウセイとが関わらないと強く決意した。無断解約までされて流石に堪忍袋の緒が切れている。


 彼は明日もバイトがある。流石に深夜に彼女を訪れるのは怒っていても失礼だと彼は思う。明後日、大学の講義を終えた後、彼女に連絡を入れ会って抗議し、その際に縁を切るつもりでいる。


「ここまで来たんだから泊まってくだろ? 辰巳君」


「……お願いしてもよろしいですか?」


「あったりめぇだろ。俺達ダチじゃん。奏召《かなで》」


「えっ……どうして下の名前を知ってるんですか?」


「あぁ〜っ……あれだよっ。この間、ミナミさんと辰巳君が話したとき聞いたんだよ」


 ――そうだっけかぁ?


「辰巳君?」


「はい」


「スマホ光ってるぞ」


 その言葉に辰巳は確認する。画面にはソウセイと表示されている。例のアプリからだ。彼は無視する。その後、何回か来るがそれも無視だ。


 次は電話からだ。これも無視する。鳴り終えたら、すぐに着信拒否設定にした。


「辰巳君?」


「はい」


「そろそろ俺は寝るけど一緒に寝るか?」


「えっ!」


「冗談だよ、辰巳君。ベッド使うかい?」


「いえ、床で寝ますよ」


「いいのかい?」


「もちろんです。泊めていただけるだけで、ありがたいことですし」


「おっ、そうか。ちょっとリラックスしてもいいかい? 少し煙いけど」


 ――煙草か。毎回、買ってるしな


「いいかな? 辰巳君」


「ご自分の部屋ですし、お構いなく」


「あんがとよ」


 そう言うとイヌマルは袋に入った葉っぱを取り出す。そして、それにライターで火をつけようとしている。


「イッ、イヌマルさん?」


「なんだい?」


「もしかして……それって……マズイやつじゃ」


「食ったら不味いとは思うけどな。いい香りがするぞ、燃やさなくても。辰巳君、嗅いで見るかい?」


「巻き込まないでくださいよっ!」


「えっ……もしかして辰巳君、これ大麻と思ってんのか?」


「いやぁ」


「これはホワイトセージっていって香りでリラックスするやつだよ。これ嗅ぐと安眠できるんだよ」


「あぁ……そうなんですね」


 そうは言った辰巳だが、まだ訝《いぶか》しげな表情を浮かべている。すると、それを察したイヌマルは袋を見せる。そして、手で仰いで匂いを彼へと送り込む。


「あぁ、ハーブの一種か何かですかね? この香りは」


「そうだよ。流石にショック受けたわ、辰巳君。ダチじゃなかったら、ぶん……いや、何でもねぇ」


「……すみませんでした」


「いいってことよ。じゃあ、続けるぞ」


 そう言った彼は葉っぱに火をつける。すると、部屋中に香りが漂っていく。しばらくしたあと、葉っぱは燃え尽きた。


「じゃ、俺は横になるわ」


「……あっ、はい。おやすみない」


「おやすみ、辰巳君」


 その後、しばらくしてイヌマルは寝息を立てる。一方の辰巳は慣れない環境でなかなか寝付けないでいる。





 辰巳の眼前には対峙する2人の姿が。両者とも男性だ。その一人の着ている服に強烈な見覚えがある。しかし、まさかなと彼は思う。


 仮面のモノが出現し試合の合図が告げられる。すると、辰巳が気になっている男の右手から金属バットが具現化される。それを彼は肩に置く。構えの姿勢なのだろうか。


 一方の相手の男性は全身が甲冑で包まれていく。西洋甲冑だ。右手に剣、左腕には盾が装着されている。


「てめえは10打以内で仕留める。一打入魂!」


 そうバット男が言った。


「言っておくがいい」


 そう甲冑の男性が返す。すると、バット男右手からボールが出現する。それをトスしてバットで打つ。


 それが甲冑の男性へ目掛けて飛んでいく。盾を構えて防ぐ。そして、前進してくる。これを見て、バット男は次を打ち出す。それを盾で防ぐ。これが繰り返されていく。


 6打目、ボールが盾を砕いた。それでも、甲冑の男性は前進を止めない。7打目、8打目が甲冑の胴体部分に激突しヒビを入れていく。9打目が激突するとヒビが蜘蛛の巣状に繋がり砕け散っていく。


 10打目、鋭い打球が鳩尾《みぞおち》を捉える。膝から崩れ落ち、のたうち回っている。しばらくそうしていたが、プッと一瞬で甲冑の男性は消失した。


 仮面のモノから勝ち名乗りを上げる。すると、バット男が近づいてくる。


「君は」


 そう言いかけた途端、次第に消失していく。口元が動いているが辰巳には声が聞こえない。





 辰巳が目を開ける。今日は見慣れない天井だ。彼は横になったまま周囲を確認する。イヌマルの部屋だ。


「夢か」


 そう言った彼をイヌマルが覗き込んでいる。それに気づいた彼はビクッとなる。


「おはよう、辰巳君」


「あっ、おはようございます」


「君、いたよな? 俺の夢の中に」


「……何を仰っているんです?」


「間違い。着ていた服が夢の中と一緒だ。君も俺の柄シャツに気づいたろ?」



「…………何のことだか? 寝る前の私の服装の印象が強くて、それが夢の中で映像化されただけですよ? 寝ぼけてますか?」


「違うのか? お館様が辰巳君だろって目星をつけたんだから。違うはずないんだけどな」


「お館様って誰のことです?」


「うんっ? えぇっ〜、それは」


「夢の中の登場人物ですか?」


「おっ、そうだ。この話は終わりにしよう。俺、寝ぼけてるんだ」


 そう彼は言い冷蔵庫へと向かう。敢えて辰巳は、お館様と呼ばれている者について食い下がらなかった。彼の狙い通りイヌマルは引き下がってくれたのだ。

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