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第16話 朧気に見えてきたシステム

 奇抜な女性は辰巳の抱きつきに対し振りほどこうとしている。しかし、彼の組み付く力が尋常ではなく振りほどくことが出来ない。彼女が動く度に、彼は彼女の胸に深く埋《うず》まる。


「ちょっとっ! 離しなさいよっ」


 その言葉にも彼は彼女に抱きついたまま離さない。むしろ、彼は力を込めていく。


「たしかに私は芳醇で肉感的な体をしてるわ。だからって、いきなり欲情してんじゃないわよっ! 許可取んなさいよっ!! 君」


 その彼女の言葉に彼は力を込め多少弱める。そして、胸に埋めていた顔を離し彼女を見上げる。2人は見つめ合う。


「何を仰ってるんですか?」


「しらばっくれる気なの? 今のこの状態をどう言い訳すんのよっ!」


「違いますってっ。審判、仮面の方がこちらを見いている? いや顔をこちらへ向けてました。ペナルティ喰らうと、そちらが困ると思いまして」


「もっとマシな嘘つきなさいよっ! 私の体が目当てのくせにっ。まったくぅ」


「興味ありませんって」


「それはそれで失礼でしょうがぁ! 君」


 そう言うと彼女は振り返る。


「いないじゃないっ! やっぱり体目当てじゃないのっ! 君ったら」


「本当ですって」


 2人の右側に気配が。彼らが、そこへとほぼ同時に向く。すると、仮面のモノが宙に浮いて2人を見下ろしている。


「お二人は何をなさってるのです? まさか勝手にバトルを始めようとしてましたか?」


「……えっ!!!」


 思わず辰巳は叫んだ。


「どうなさいました? #6さん」


「いえ、何でもありません。失礼しました」


「No.9ことジェミニさん?」


「なっ、何かしら?」


「あなたは#6さんに殴りかかろうとしてませんでしたか?」


「記憶にないですけど……まったく」


「この間の故意の物理的接触の件で今度やった場合は出場停止処分だと警告したはずですが」


「聞いてないわよっ! そんな事」


「いえ、口頭でもメッセージでも警告しましたよ」


「えっ! ちょっと待ってください」


 そう言うと彼女は指で四角を描く。すると、その四角がブルーに光る。それは彼女のステータスウィンドウだ。彼女は操作する。そして、彼女は青ざめる。


「ほっ、本当だわ……」


「ご理解いだだけましたか?」


「あっ、はい」


「で、今のこの状態は何でしょう? 押し合いで優劣を競っておられるのですか? そうなら攻撃意思ある意図的な物理的接触に該当しますが?」


「なっ、何を言ってらっしゃるんですかぁ? 抱擁し合って、ちょっとじゃれ合ってたんですよぉ。ねぇ〜っ? 君、いや#6くぅ〜ん」


 その彼女の言葉に彼は複雑そうな表情を浮かべている。変わり身の早さと甘ったるい言葉を発した彼女の意外性、いや二面性になのかもしれない。


「#6くぅ〜ん、お返事はぁ〜?」


「…………はい」


 そう彼は渋々返事した。仮面のモノは交互に2人を見続けている。そして、口を開く、いや言葉を発する。


「もしかしてですが、お二人は内通する気ではありませんよね?」


「すんわけないでじょ! 仮面君。あっ、そんな気は毛頭御座いません」


「そうですか? #6さんはどうです?」


「内通ってどういう意味です? 言葉の意味は分かりますが、どうする事を指すのでしょうか?」


「#6さんには、その意志はないと承知しました」


「No.9ことジェミニさんは本当に御座いませんか?」


「ありませんよ」


「私は心を透かして見ることが可能です。今はその意志はないようですね。まぁ、心の中で思うことは良しとします。誰しもが思ってしまう可能性は否定できませんしね。しかし、言葉に出して唆《そそのか》した時点で禁則事項に該当しますので御注意を」


「その場合はどうなるんです?」


 ジェミニ(奇抜な女性)が質問した。


「規則を読めば分かると思いますが、永久追放の上、負債を背負ってもらいます」


「負債って、どんな?」


「各々に応じてですが、生きてることを死ぬまで悔いる程度と言っておきましょうかね」


 その言葉に2人は絶句する。


「それでは、私はこれにて失礼致します」


 そう言った瞬間、仮面のモノは消えた。残された2人は放心している。





 アナウンス音が鳴り響く。あれから、さほど時間は経っていない。2人は音のする方へと体を向ける。すると仮面のモノがマイクを持っている。


「今回はNo.9ことジェミニさんの勝利、#259ことルースターさんの敗戦となりました。これにより敗者の#259ことルースターさんはランク外となりました。そして、次戦からの呼称は#259へと戻ります。一方のNo.9ことジェミニさんは順位の変動はなくランキング5位でステイです」


 辰巳はジェミニ(奇抜な女性)を見る。すると、彼女は表情一つ変えず涼しい顔をしている。


「それでは最新のランキングを表示致します。各自、ご確認ください。それでは、またお会いできることを期待しております。私はこれで失礼致します」


 そう言った瞬間、彼は消失した。すると、大型ビジョンが出現した。そして、そこにはランキングが表示されている。


 それを見ている辰巳には気になる点が幾つか浮かぶ。一方のジェミニは電光掲示板を眺めたままである。そこには順位の横に顔写真とランク名が表示されている。


「ランキングって昨日も発表されて表示されてましたっけ?」


「してたわよ。君は私との会話に夢中だったじゃない。昨日、いや今日? どっちでもいいわね」


「あっ、そうだったんですね」


「あのう〜」


「何?」


「どうして、該当無し? いや、どうして空白のランキングがあるんですか? 1位と2位が表示されてませんよ? 電光掲示板の故障ですか?」


「そっちもそうなんだ。該当無しなしだから空白なのに決まってるじゃないっ」


「だったら、詰めたらよくないですか? ランキング。3位の人を1位にすれば」


「ぶぁかぁなの〜っ、君は。該当無しは該当無しなのよっ」


「どういう意味でしょうか?」


「そのランキングに値する者がいないからに決まってんじゃないっ。君んところは空白だらけよっ」


「あぁ〜、なるほど。あのう〜」


「まだあんのっ! 何よっ?」


「幼稚園児? 小学生かな? 4位のレオって」


「あぁっ。ランクネームがレオの、あのガキんちょね」


「貴女より強いんですよね?」


「そうよっ。コッチではね。ガキんちょだから何も考えず楽しんのよっ。痛みを知ったら、どうなるかしらっ。流石にあんなに小さいガキんちょだから心配よ」


「そうなんですか。3位のオピュクスって方は女性ですよね? サングラスとマスクしてますが」


「そうよっ。あの子は初めからサングラスとマスクして参戦するからね。まるで、来る日、来る時間が分かってるかのように」


「今のところ、一番お強いんですね? オピュクスさん」


「そうよ。コッチじゃね。アッチじゃ私は1位にランクしてるけど。アッチのランキングは飾りみたいなもんだからね。今んとこ、あの子で間違いないわ。いずれ抜いてやるけど」


「どうして飾りなんです?」


「考えたら、すぐ分かんでしょっ!」


 ――この件は聞くの止めたほうがいいな。キレそうだし


「考え事してんの?」


「あのう〜、別の質問が……」


「まだあんのっ? 何?」


「どうして右半分しか電光掲示板表示されてないんですか? 左半分は真っ暗ですよ?」


「私は見えてるわよ」


「えっ! 」


「その代わり右半分は見えないけれど」


「表示されてる内容は一緒ですか?」


「片方しか見えないのに知るわけないでしょ! 分かってて言ってるわよね? 君。私を試してるの?」


「そっ、そんなつもりは……はい」


「どっちの意味? ないともあるとも受け取れるわよ。溜めの後の言葉がハイじゃ」


「ないです、はい」


「ったくっ。一戦交えることのない方のランキングなんて見る必要ないからに決まってるでしょ!」


「あぁ、そうなんですかぁ」


「もう一つの理由は自分より上のランカーを狩るのを防止するためって知ってるでしょ!」


 ――知らないけど……話合わせといた方がいいよな


「お得意の無視? それとも、おちょくってんのっ?」


「違いますってっ。上位ランカー狩るってリスク大きくないですか? 逆に狩られる確率のほうが高いですよね? それなのに高リスク承知で上位ランカー狩る意味あります?」


「一応、あるわよ。 だから、さっき仮面野郎が2人で結託して、現実世界に戻ったら襲撃すると勘繰《かんぐ》ったのよ。まぁ、捜し出すのは至難の業だから時間の無駄よっ」


「えっ、どういう意味です」


「つまり、これの為よっ!」


 そう言うと彼女は親指と人差し指で円を作る。


「あぁっ! 相手を負傷させて、その間に白星つまり勝利数を稼ぐ魂胆なんですね。それにしても、リスク大きいと思いますが」


「やっぱり、おちょくってんじゃないのっ! もういいっ!! この話は終わりよっ」


「あっ、はい。すみませんでした」


「別に謝んなくてもっ。ところで、君?」


「何でしょうか?」


「なんでさっき大声出して驚いてたのっ! たしかにいきなり現れたからビクッとはしたけど。小心者なのかしらっ?」


「あっ! そうです! これも聞こうと思ってました?」


「また、おちょくる気かしら? 君」


「いえ、まったく」


「何?」


「あの審判? レフリー? とにかく、あの仮面のモノの声が今までは機械音みたいに聞こえてたんですど、さっき急に人間的な声として聞こえたんです、はい。どういう事でしょうか?」


「はぁ〜、おちょくられてる気もするけど答えてあげるわ。簡単よ、あの仮面野郎の声を想像し具現化したのよ」


「理解出来るようで出来ない様な」


「じゃあ、こう考えなさい。君が君の聞きやすい声に変換したってこと?」


「はぁ〜、なるほど」


「だから、私に聞こえてる声と君に聞こえる声は違うはずよ」


「あぁ、そういうもんなんですね」


「そうだと思うわよっ」


「でも、おかしくないですか? 急に人間的な声に聞こえたんです、声が」


「だから、たった今、噛み砕いて説明してあげたでしょうがぁ!!!」


「……すっ、すみません」


「もう君の相手に疲れたから、私は行くわね」


「あっ、はい」


 そう言った彼に対して、彼女は手を振っている。それに対して、彼は会釈する。


「ちょっと」


「あっ、はい。どうしました? 帰られないんですか?」


「女性である私が手を君に振っているんだ。なぜ振り返さない」


「はぁ、すみません」


 そう言った彼は手を上げようとする。


「溜め息ついたわね」


「違いますって。誤解です。生返事気味ではありましたが」


「生返事も溜め息と一緒よっ!」


 そう言った彼女は振っていた左手で拳を作ろうと力を込める。掌《てのひら》が閉じると彼女は拳を彼の顔面めがけて飛ばす。


 これに対して、彼は顔を背け避ける。そして、体の流れた彼女が彼へと向かう。


 このままぶつかると彼女は攻撃意思ある意図的な物理的接触になると彼は思う。これによって逆恨みでもされたら溜まったもんじゃないと考える。


 彼は一歩前で出て彼女を受け止める。そして、彼は彼女を抱きしめる。これに対して、彼女は先程みたいに振りほどこうとはしない。それどころか、彼の腰に両腕を回す。そして、彼女はこの状態のままで動く様子を見せない。


「こういう別れの挨拶も素敵ねっ。君もそう思わない?」


「……ですねぇ」


「またねぇ、君」


 そう言うと彼女はプッと消失していった。そのすぐ直後、彼は支えがなくなったので前のめりになる。


「温もりが残ってる。これが想像し具現化するってことなんだろうか」


 そう呟いた彼は温もりの残ってる掌を見つめている。すると、次第に指先から体が消えていく。しばらくして、彼は完全に消失した。

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