第15話 ランカー戦 桁違いの実力差を見せつける奇抜なショートカットの女
第一射目が彼女の寸前まで迫る。それでも、彼女は反応を見せない。すると、辰巳の目には彼女が残像の様に映る。気のせいかと思うが、やはりそうである。
後続の矢たちが続々と高速で襲いかかる。彼は神経を目に集中させて見てる。しかし、彼女に何が起こっているのか全く確認できない。そのすぐ、土煙が舞い上がる。それにより、彼の視界から彼女の姿は完全に消え去る。
高速で数十本の矢が襲いかかったのである。どう考えても、避けきれるはずがないと彼は思う。土煙が収まり、薄っすらと彼女の姿が確認できるようになってきた。しばらくすると、完全に土煙は晴れた。
なんと、彼女は腕組みして立ったままである。彼女の後方には沢山の矢が地面に斜めに突き刺さっている。一瞬、彼は貫通したのかと思う。
彼は彼女の体に視線を移す。血も出ておらず、服はキレイだ。視線を上にやると彼女は両目を閉じている。すると、彼女はパッと目を見開く。
「どうした? 次はまだかな? 私に矢の雨霰を降らせるといい」
そう言い彼女は挑発する。彼女の視線は力強く森の方へと向けられている。そして、彼女の口角が段階的に上がっていく。
その後、静けさが辺りを包む。辰巳も彼女の視線の先である森の方へと顔を向ける。すると、木が根元の方から薄くなり消えていく。それが加速し完全に消失し森は消え去った。
そこには、四つん這いになっている相手の女性の姿が。その左手には弓が握られている。彼女が顔を上げる。その彼女の表情は疲労困憊といった感じだ。その証拠に、彼女が吐く息は荒く肩で息をしている。
「あらっ、 もうギョウソウネンを使い果たしたのかしら? コッチじゃゲンソウネンって言ったかしら? なら、降参したら如何かしら?」
その言葉に相手の女性は、立ち上がろうとする。でも、上手くいかない。彼女は力を振り絞る。なんとか立ち上がるが、ふらついていて足元が覚束ない。
「舐めるなっ! 私はランカーだぞっ!!」
「そうだったわね。たしかぁ〜、貴女はコッチのランキング13位のランクネームがルースターさんだったかしら? 最下位だけど栄誉なことだわ」
「馬鹿にするな! ジェミニ。ランキング5位だからってっ!!」
「数多の挑戦者が現れては敗れて舞台から去っていく。その中の一握りのしかランクインできないのよ。貴女は選ばれし者って褒めてあげたんじゃないの。それを皮肉と受け取るなんて。捻じ曲がった性格なのかしら?」
「貴様ぁ! 思い知らせてやるっ!!」
そう言った相手は素早くしゃがむ。そして、手に弓を取り構える。すると、彼女の指先から矢が出現する。それを弓の弦にかけると間髪入れず発射する。
それに対して、奇抜な女性は相変わらず腕組みしたままだ。物凄い速度で彼女の顔めがけて迫っている。すると、彼女の腕が初めて動く。矢は彼女の眉間寸前だ。
なんと彼女は人差し指と中指で矢を挟んで止めた。彼女は、そのままの体勢を維持している。そして、彼女は口角を上げる。
「素敵なプレゼントありがとう。でも、私には突き刺さらなかったわ。気持ちだけ、お受けするとにしましょう。お返しするわっ!」
そう言うと彼女は矢を挟んでいる指の方である左腕を前方へと振る。それは相手が弓を用いて発射した矢とは比にならないほど物凄い速度で迫る。
それは相手の胸に突き刺さった。彼女は背中から地面へと崩れ落ちていく。そして、呻き声を上げている。それに対して、奇抜な女性は口角を上げることはせず無表情だ。
「私からのお返しが胸に突き刺さって小躍りして喜んでくれているのね。気に入ってもらえて嬉しいわっ。森なんか具現化しないでギョウソウネン、いやゲンソウネンを矢に集中させれば一矢報えたかもしれないのにね。私、貴女の想いを受け止めたかったのよ。残念だわっ」
彼女がそう言った直後、相手は次第に消えていく。そして、しばらくして完全に消失した。
仮面のモノが奇抜な女性へと腕を向け勝ち名乗りをあげる。それに対して、彼女は相変わらず無表情である。そして、彼女は腕組みを解く。
辰巳は、その様子を見ている。すると、彼女が首を動かす。二人の視線が合う。その瞬間、彼女は無表情なまま彼へ向けてウィンクを送る。
それに対して、彼は悪寒が走る。そして、彼は後退りしていく。それに対して、彼女は宙へ浮き彼の方へと進んでくる。そして、彼の前で止まり手を差し出す。
一方、彼は尻もちをつく。そして、尻と両手を使い後退りしていく。これに対して、彼女は気にせず彼との距離を詰めていく。これが繰り返されていたが、彼が動きを止める。すると、彼女は再び手を差し出す。
「昨日ぶりね?」
「はぁ……」
「いや時間の流れ方が違うから、私にとっては今日ぶりかしら? まっ、今はそんな事どうでもいいわね。とにかく早く会えたわね、また」
「あっ、ですね」
「さぁ、私の手を取るといい、君」
その言葉に彼は躊躇している。そんな彼に、彼女は左手を更に差し伸ばす。
「……意図的な肉体の接触は駄目じゃ……」
「あっ、それか。明確な攻撃的意図を持った肉体への接触だ。だから、触れても大丈夫だぞ、君」
「あっ……そういう意味だったんですね?」
「さぁ、手を。君」
その言葉に彼は手を差し出す。すると、彼女が彼の手を握りると引き上げる。立ち上がった彼と彼女は見つめ合う。
「ありがとうございます」
その言葉に彼女の口角が上がる。それに対して、彼は言いしれぬ不気味さを覚えるが表情に出さないように務める。
「あぁ……お強いんですね?」
「まぁ、そうかな」
「私なんて足元にも及ばないです」
「謙遜か? それとも強烈な嫌味か? 君」
「えっ……本心ですよ?」
「ふんっ! そうかな。もし、今日の相手が君なら私は負けてたぞ、九分九厘」
「んっ?……えっ? 何を仰ってるんですか?」
「九分九厘って言葉が分からないなのか? ほぼ100%の確率で負けるってことだ。理解できたか? 君」
「そんなことありえませんって。前回の私の戦い見ましたよね?」
「あれはアッチだからだ。コッチじゃ君は最後の門番とか絶対的守護神って呼ばれてるって言ったわよね?」
「あぁ、たしか……はい」
「君はコッチじゃ無双状態、つまり向かう所敵無しなのよ。無敗なのよっ! まっ、全部見たことはないから初めの頃は負けたことはあるかもしれないけど。初めの頃なんて子供のじゃれ合いみたいなもんよ」
「んんっ〜………………」
「無視してんじゃないわよ! 君!!」
「あっ! 申し訳ありません。考え事をしていまして、はい」
「何をよっ!」
「今回のコッチが前回のアッチで、今回のアッチが前回のコッチという認識で宜しいでしょうか?」
「に決まってんでしょ! 馬鹿なのっ! それとも馬鹿にしてんのっ!」
「しっ、してませんってっ」
「本当ぉ〜?」
「本当ですって。なら今回のアッチで前回のコッチなら私は負けますね、はい」
「いや、五分五分よ。どっちに転ぶかは僅かな隙だと思うわ」
「だって、初心者に苦戦したんですよ?」
「相手が初心者なんて分からないわよ?」
「えっ! だって初心者狩りって仰ってましたよね?」
「だって私は相手の顔見えないから、戦績なんて知らないし。それなりに強いか見込みがある奴は目をつけて戦い方や体格で判断できるんだけどね。でも、あんな雑魚は私の眼中に入ってないもの」
「仮に、そうだとしても弱いんですよね? 苦戦しましたよ?」
「もしかしてっ!!」
「えっ、何です?」
「意識してるんじゃない?」
「何をです?」
「私も意識した時は多少だけど苦戦したわ。無意識の時の方が強かったわ。まぁ、今は遥かに無意識だった時より強いけどね。それを乗り越えるのは簡単なことよっ」
「どうすれば?」
「想像し具現化すればいいのよ。簡単でしょ? 君には」
「はぁ〜、そうですか」
「なんなのよっ! その気のない返事はっ!!」
「来たくて来てるわけじゃないですし」
「はっ! もしかして抜ける気?! 勝ち逃げは許さないわよっ!!」
「貴女の言動から察するに、これまで私とは戦ってないんですよね?」
「まだよっ、それりゃ。対戦相手を選べるわけじゃないし」
「なら勝ち逃げも何もないような……」
「君は世界を見捨てる気なのっ! 見下げた根性だわっ!! 見損ないそうよっ!!! 君のことを」
「世界を見捨てるって、どういう……」
「最下位になったら、全てが無に帰すのよっ?」
「理解が追いつかないのですが……」
「嘘おっしゃい!! そうなる事を知っていて、目を背けるなんてクズだわっ。今年の君は世界の希望を背負っているのよっ。それなのに背を向け戦わずして負けるのを認めるなんてっ! 人類のクズだっ! 君はっ!!」
「あのう〜、意味が……」
「私が人類の皆に代わって腐りきった君をここで成敗してやるわっ! 滅びゆく世界の人類の皆へのせめてもの手向けよ」
そう言った彼女の背後から辰巳は圧の様なものをヒシヒシと感じる。彼は彼女の肩越しに見る。すると、仮面のモノがこちらへと顔を向けている。
彼は彼女へと視線を戻す。すると、彼女の拳が彼の顔面を目掛けて迫ってきてる。彼は瞬時に下半身を落とす。そして、ギリギリで躱すと顔は彼女の胸めがけて抱きつく。




