第13話 詰問する分析官と精神状態を心配する男子大学生
今、辰巳はソウセイの部屋の中にいる。ここに来るまで地下駐車場に車を止め、そこからエレベーターに乗り彼女の部屋へと入った。
特段変わったことはなかったが、やけにエレベーターに乗っている時間が長かったなと思った。
彼は彼女の部屋の扉の前で躊躇していた。それは彼女の中にいるであろう家族が気になってだ。なので、彼は「家族にご迷惑なのでは?」と尋ねた。すると、彼女は「1人だから気にするな」と言った。
その言葉に余計に入りづらくなった。すると、彼女は扉を開けると強引に彼を部屋の中へと入れたのだった。
彼はソファの上に座っているが落ち着きがない。対面に彼女が座っている。彼女は脚を組み腕を組んでいる。
「早速だが話してくれ」
その言葉に辰巳は見た夢の内容を話していく。
10分程で話し終えた。その後、しばらく沈黙が続く。辰巳はソウセイを見る。彼女は左上を見ている。彼は彼女が内容を整理しているのだろうと思う。すると、2人の視線が合う。
「相手が徐々に消えたということは君は瞬時に消えたんだよな?」
「いやぁ、それは分かりません」
「なぜ確認しなかったっ!」
「蹴られて目が覚めたので、はい」
「君は蹴りで勝ったと言ったよな?」
「それは試合? その後でして」
「なぜ、その事を言わなかったんだっ!」
「そこは関係ないかと思いまして、はい」
「これからは目覚める直前まで覚えてることを話すんだっ。いいなっ? 君」
「あっ……はい」
「で、その顎は試合中に蹴られたのか? その後か?」
「えっ……」
「なぜ答えない?」
「いや……これは寝てる間に壁か床に打ち付けただけですよ? 流石に床に落ちたら起きると思うので壁かと。先程は、いきなり聞かれたので壁か床と言いましたけど」
「どっちなんだ?」
「でも、先程は他国のスパイにやられたんじゃないかの様に仰ってましたよね?」
「私は他国のスパイなんて言った覚えはないし、やられたんじゃないかとは決して言ってない」
「でも、その様な含みを持たせた言い方でしたよ?」
「…………確か他国のスパとは言った覚えはある」
「えっ……意味が……」
「……ほらっ! 今は色々な国のスパが流行ってるだろ? だから、君がスパに行って壁か床に打ち付けられて気絶したんだなと言いたかったんだ」
「…………はぁ。スパなんて一度も行ったともないし、これまでのメッセージや通話でもスパの話なんて出たことありませんけど」
「流行ってるから行ったのかと思ったんだ」
「自分、男ですよ?」
「男性でも行くことはあるだろっ!」
「……あっ、まぁ、そうですけど」
「推測で物を言ってはいけないのか?」
「いえ、そんなことはないですけど」
「で、その顎の負傷は試合中か後のどっちなんだ?」
「聞く意味ありますか? 壁に打ち付けたんだと思うって言いましたけど」
「あるに決まってるだろっ!!」
「もしかして……」
「なんだっ!」
「まさかとは思いますが、この顎の腫れと痛みが夢の中で蹴られたことと関係してるとか思ってませんよね? つまり、夢の中で体に受けた痛みが現実世界での痛みなるとか思ってませんよね?」
「それは、まだ分からん」
――うわぁ〜、激務で精神的におかしくなってるのか? 流石にそこは、あり得るわけ無いだろって即答すると思ったのに
「どっ、どうして黙り込んでいるんだ?」
「あっ、すみません。考え事してました」
「私のことを精神不安定者とでも思ったんだろっ!!!」
「いえっ!」
「なぜ即答なんだっ! やっぱり思ってるんじゃないかっ!!」
「思ってませんっ! 顎を蹴られたのは試合後ですっ!!」
このままだと埒が明かないと彼は思った。なので、彼女が、やたらと気にしている点に答えたのだ。
「そうかっ。後なんだな?」
「はい。試合中、蹴られたのは太股の一発だけでしたので」
「なぜ、それも言わなかったっ!」
「……今、思い出したので。いつもはノートを見ながら話してますので、はい」
「ノートがあるなんて聞いてないぞっ」
「メッセージと通話でのやり取りですので、ノートについては話す必要はないかと思いまして。それを見ながら、書いた内容は全てお話してますし、はい」
「ノートには覚えてることを事細かに書き留めてあるんだな?」
「そうです」
「なら、なぜ持ってこなかった?」
――無理やり連れてこられて、そんな暇はありませんでしたよぉ
「何者かにノート奪い取られたんだな? その際、顎を蹴られたのかっ?」
――こりゃ、完全に現実と夢が入り混じってるよなぁ。寝不足なのかな? 今の今まで顎のことで夢の中の話に喰い付いていたのに、今度は現実世界ですか……どうすれば……こりゃ極力、刺激しないようにしないと
「ノートは無事ですし、何者かにも蹴られてはいません。ご心配ありがとうございます、はい」
「そうかぁ、それは良かった」
「お疲れではないですか? もうすぐ日を跨ぐと思いますし」
その彼の言葉に彼女は壁に掛けてある時計を確認する。
「もう1時を過ぎてるのかぁ」
――えっ! そんなに経ってたんだ
「どうした?」
「そろそろ、お暇しようかと、はい」
「車で送ってこうか?」
――今の精神状態で運転させたら……
「遠慮しなくてもいいんだぞ、君」
「いえ、お気持ちだけで結構です」
「もう終電は過ぎてるぞ」
「ですよね。タクシーで帰ろうかと」
「ここから君の家までだと正確な距離は分からないけど、深夜だし最低でも五千円はかかると思うけど」
「えっ! そんなに…………なら、ネットカフェで朝まで時間潰します、はい」
「それでも、二千円以上はするんじゃないか? よくは知らないけど」
「まぁ、そのくらいはしますね。でも、タクシーよりは安いですし」
「ウチなら無料だぞ」
「えっ…………」
「泊まっていけばいいじゃないか? 君」
「えぇっ!!!…………流石にそれは出来ませんよ」
「手持ちはあるのか?」
その言葉に彼は財布を手に取り確認する。その中には一枚しか紙幣が入っていない。千円札だ。この現実に彼は項垂れてしまう。
「どうした? 足りそうにないのか?」
その言葉に彼は顔を上げる。すると、彼女と目が合う。すぐに視線を反らし彼は立ち上がる。
「歩いて帰ります」
そう言うと彼は歩き出す。すると彼は手首を強く掴まれる。その反動で彼は振り向く。
「それは私が困る」
「えっ…………」
2人は見つめ合う。




