第11話 一蹴の勝利と特典
「かかってこいよ! メガネ君」
辰巳は更に挑発を加える。それに対して男性は歯ぎしりを始める。かなり効いているようだ。その上、地団駄まで踏み始めた。
「ふんっ! 口だけは一丁前だね、雑魚君。想像し具現化することも出来ない、オマエ如き雑魚がぁ!」
「そんなの出来なくたって勝ってやるよっ!」
「大口叩いたからには後悔しないでくれよっ! クソ雑魚君がぁよぉ!!」
激昂した男性が拳を振り上げ猛突進してくる。それに対して、今回、辰巳は後方へ下がり絶対安全圏の距離を取るような動作を見せない。彼は、その場にとどまり半身に構える。
男性の拳が伸び彼の左胸を捉えようとする。その瞬間、辰巳は胴回し回転蹴りを炸裂させる。それが男性の左顎を強烈に直撃した。
前のめりだった男性は、背中から地面へと叩きつけられる。その際、彼の眼鏡は宙へ浮き落下していく。そうしながら徐々に消失していく。地面に触れる瞬間、眼鏡は完全に消え去った。
男性は完全に意識を失っている。地面への激突の衝撃ではなく、辰巳の強烈な胴回し回転蹴りの瞬間に意識は既に飛んでいたのだ。
仰向けに倒れている男性へと仮面のモノが浮遊しながら進む。そして、彼の体の上で止まると見下ろす。しばらくそうしていると首を横に振る。
「ケイゾクフノウ。ショウシャ、#6デス」
そう言うと仮面のモノは左腕を辰巳の方へと差し向ける。辰巳は目の前に男性に気を取られている。なのでその声と行動に気がついてない。
その男性は頭の先、指先そして爪先が朧気になっていく。そして、その部分が透明になっていく。それを交互に繰り返す。その繰り返しが最終的には胸のあたりへと向かう。ゆっくりと消失してした。
「#6」
その仮面のモノの声に辰巳はまだ気づかない。
「#6サン?」
そう言った仮面のモノは瞬時に消えたかと思うと辰巳の目の前に出現した。その距離は文字通り目と鼻の先である。
辰巳は視界を遮られた突然の出現に驚き仰け反る。そして、彼は体勢を崩し立っていられなくなる。かろうじて背中からの激突は両手をつき回避したが尻もちをつく。その彼は仮面のモノを見上げる。
「#6サン?」
「はっ、はい。なんでしょう?」
「オメデトウゴザイマス。コンカイノ、ショウリニヨリ、ステータスウィンドウ、トクベツカンセンケン。リョウホウガ、フヨサレマシタ」
「えっ!……あぁっ」
「ゴフメイナテンハ、ゴザイマスカ? #6サンハ、ソノヨウナコトハ、ナイトゾンジマスガ。イカガデショウ?」
――えっ? どういう意味だろ?
「ヤハリ、ナイトゾンジマシタ。ソレデハ、コレデ、シツレイイタシマス」
「あっ! あのう〜」
「ナンデゴザイマショウ?」
「特別観戦権?って何ですか?」
「モジドオリ、トクベツナカンセンケンデ、ゴザイマス」
「どうやったら観戦できるんです?」
「ミタイト、ネガエバ、カンセンイタダケマス」
「はぁ……あっ! 後、ステータスウィンドウって何ですか?」
「#6サンノ、ステータスガ、カクニンイタダケマス」
「どうやってです?」
「ナニヲ、オッシャラレルンデス? モチロン、ソウゾウシ、グゲンカスレバ、ゴランイタダケマスヨ」
「あぁ〜、そうなんですね」
「ソウデ、ゴサイマス」
「あっ、はい。わかりました」
「ソレデハ、ワタクシハ、コレニテシツレイイタシマス。オカエリニナルノヲ、ココロマチニ、シテオリマシタ。マタ、オアイデキルノヲ、ココロマチニ、シテオリマス」
そう言うと仮面のモノは消え去った。
――お帰りになるのを心待ち? どういう意味だ? あっ、もっと聞けばよかった。でも、そういう雰囲気じゃなかったし。なんか突き放した様な感じだったしなぁ
辰巳は周囲を見回す。観戦席に誰もいない。
「てかぁ、なんで自分は消えないんだ?」
そう言うと彼は自分の体を見る。そんな兆候はない。そして、彼は掌を広げ眺めている。
「だいたい、ドラマとかじゃ掌から消えるよな? あっ! 待てよ! あの男は徐々に消えていったから、自分は瞬時に消えるんじゃないのか?」
「なに自問自答してるのかしら? 君」
その声に振り向く。そこには、あの奇抜なショートカットの女性が腕組みして立っている。辰巳は彼女の方へと向き直る。
「まだ、いらしたんですね? 消えないんですか?」
「なに? それは。私に消え失せろってことかしら? 君」
「いやっ、そういう意味では。気分を害したなら申し訳ありません。いやぁ、戦闘? 試合?それが終わったら消えるとばかり思っていたので。この間はそうでしたし、相手も実際消えたので、はい」
「負けたら、すぐに消えるわよ。勝者と観戦者は自分次第よ。とどまりたければ消えないし、逆なら覚醒するわよ、じきにね。コントロール出来るわよ、私は」
「へぇ〜、そうなんですね」
「あっ! なんで君に教えないといけないのよっ! 試してるの? この私を。君なら知ってるでしょ?」
「知りませんけど」
「ふぅ〜ん、うぶなフリしちゃって。今回の戦い方は感心しないわね。初心者狩りのつもりでしょうけど、あまりに無様だったわ。あんなに被弾させてあげるなんて。その上、相手に希望を持たせて一撃で仕留めるなんて悪趣味よっ。相手はノーダメだけど、君は覚醒したら代償を受けるの分かってるはずなのに。それとも、あれかしら? 君は、あの程度の被弾なら痛くも痒くもないのかしら? 私たちへの当てつけかしら? 君」
「初心者狩り? 自分も初めてですけど。わざと被弾させる余裕なんてありませんでしたよ。最後以外は。必死でしたし」
「やっぱり初心者狩りじゃないのっ! でも、あの素人丸出しの動きはないわっ。コッチでは初戦なのかしら? いや、有り得ないわ。いくらコッチでは制約、制限を受けるとはいえ。あっちじゃ圧倒的な君が」
「あっちとか、こっちは何のことでしょう?」
「それはね。君の場合はコッチじゃ制約、制限を受けるけど、アッチじゃ無制約、無制限ってことでしょうがっ。私の場合は君の逆に決まってるでしょ!」
「試合会場によって、違うってことですか?」
「違うわよっ!! それは…………んっ? なんで初心者みたいな質問ばかりすんのよっ!」
「初心者ですし」
「あぁ〜、アッチでは最後の門番とか絶対的守護神とか言われて浮かれてるのかしら? 私が格下だと? 言っちゃなんだけど、私だってコッチでは次期エース候補って言われてんのよっ! エースが年下だから、お鉢が回ってくるかは分かんないけどぉ……とっ、とにかく、調子乗ってんじゃないわよっ!!!」
「…………」
「格下とは喋りたくないわけねっ!」
「そんなこと一言も言ってませんよ?」
「君の内面から漂う雰囲気が、そう言ってるわよっ!」
――厄介な人だなぁ〜
「面倒臭い女だとでも思ってんでしょ!」
「…………いへっ」
そう彼が言った後、彼女は明らかに不満そうな表情を浮かべ黙りこくってしまう。彼は体が消えてくれないのだから、仕方がなく留まっているといったところだ。彼は沈黙を破ることにする
「あのう〜」
「なによっ!!!」
「ステータスウィンドウって、どうやって見るんですか?」
「念じれば表れるわよ! 簡単なことよっ!」
その言葉に彼は念じて見る。しかし、何も起こらない。
「あのう〜、何も……」
「想像し具現化すればいいだけじゃない。基本中の基本でしょ。出せさえすれば、これまでの君のステータスが勝手に表示されるわよっ」
その言葉に彼は言われた通りやってみる。すると、ステータスウィンドウらしきものが映る。しかし、それは一瞬だけで消失した。
「あっ! 出ました。すぐに消えましたけど」
「今日の君は明らかに変よっ。ここに来る前、頭でも打ったの?」
「さぁ〜、見に覚えがないですか」
「そろそろ私はお暇しようかしらね」
「あのう〜」
「なによっ!」
「最後に一つよろしいですか?」
「なによっ!」
「特別観戦権?って何ですか?」
「やっぱり、素人のフリして初心者狩りしたんじゃないっ。正確な勝利数は不確かだけど、コッチで初勝利しただけではもらえないはずよっ、私の経験から。特別観戦権? 文字通り特別観戦権よっ! 特別な観戦権。あっ、コッチのね。あっ! なんで君が知ってること教えないといけないのよっ」
「あのう〜、今、あなたが言うこっちにいますよね?」
「戦う者に観戦権なんているわけないじゃないっ! やっぱり、おちょくってるじゃないのっ!」
「いやっ。決して、そのようなつもりは毛頭ないです。ちなみに試合会場ごとに観戦権を獲得しないといけないんでしょうか?」
「コッチは必要だけど、アッチは不要よっ!」
「あぁ〜、そうなんですね。でもですね、今の質問は試合会場ごとに必要なのかってことなんですが」
「もう君は必要ないわよっ!」
「理解できました。あっ、はい」
「私、もう行くわよっ!」
「あっ、はい。あのう〜」
「まだあんのっ!」
「どうやって私は帰ればいいんでしょうか?」
「そのうち帰れるわよっ! あっ! そうだ。帰り方教えて欲しい?」
「あっ、はい。お願いしたいです」
「対戦しましょうよ?」
「えっ…………意図的な肉体の接触は駄目と仰ってましたよね? 私の記憶が確かならばですが」
「そうよっ」
「確かペナルティが……」
「そうよっ。触れなきゃいいのよ。ボクシングでいうマス試合よ。あれは当たるけど、それの当てないバージョンよっ」
「はぁ……」
「帰りたくないのっ! やるの? やんないのっ!」
「やっ、やります」
「君から来るか? 私から行くか?」
「どちらでも」
「君の実力を測りたいから君から来てくれ」
「あっ、はい。では」
そう言うと辰巳は攻撃を仕掛ける。パンチと蹴りを織り交ぜてだ。彼女は彼の動きを完全に見切っている。彼は思う。たとえ実戦で本気でやったとしても、悉く躱されているだろうと。
「今度は私から行くぞっ! 君」
そう言うと彼女は多彩な攻撃を仕掛けてくる。彼は思う。寸止してくれていなければ全部被弾していると。
先程の男性とは動き比にならないほど速い。格が一枚も二枚も違う。いやそれ以上だと彼は思う。目で追うのがやっとなのだ。
目の前から彼女が消える。いつの間にかバックと取られたのだ。彼は全く気づいてない。彼女を視界に捉えるため、構えていた彼が後方へと向き直ろうとする。
その彼の右肘が彼女の胸元へと迫る。しかし、ギリギリその寸前を通っていく。
「やはり手加減してたなっ!!! 君」
「なにがです?」
「わざと肘打ちをギリギリで通過させただろ! まだ寸止めの方がマシだ。いつでも当てられるって誇示かっ!」
「えっ! なにがでしょう?」
「だからっ! 君の実力を見せびらかせたんだろっ!!」
「……もし、そうだったなら、たまたまですって」
「侮辱するのもいい加減にしろっ!」
いい終えると同時に、彼女の上段蹴りが彼の右頰を捉えた。
辰巳が目を開ける。
「なんだ、夢か。痛っ!!」
彼の体に異変が起こっている。




