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赤い星のリンカーネーション  作者: 鳥皿鳥助
8章 第二次侵攻戦
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第89話 赤い星の終わり






 アルゴンはグルムの最大戦力であるシヴァを撃破した。

 残党狩りはルクシオンを始めとした味方機に任せ、旧グルム研究所への侵入を開始する。


 目的はデリート・エフェクターの機関部にへ接続する事である。


「一階クリア」

「二階はCAじゃ無理で~……メインは地下だったな」

「はい。ルートをメインモニターに表示します」


 以前はエレベーターが設置されていたようだが、今では扉も籠もその姿を消している。

 アルゴンはただの大穴をゆっくりと降下した。


「なぁ……お前、本当に消えなきゃいけないのか?」

「そうですね、奇跡でも起きなければそうなります。今更怖気づいたんですか?」

「戦ってりゃ悩みも忘れられる。でも今になって思い出してさ、アルの言う通り少し怖くなったんだよ」

「……」


 会話は弾まない。

 それでも足を進めて地下に降りると、情報通りの大広間が出現する。


 だがそこには情報に無い大量のグルムが鎮座していた。


「なっ!? レーダーには反応がありません!!」

「伏兵……いや違うな」


 警戒は取り越し苦労だった。

 何故なら全ての機体が煙を吹いて沈黙しているからだ。


「過負荷で大破中、と言った所でしょうか……」

「不気味だな」


 近付いて掴むが反応は無い。

 機体に繋がっていたであろうケーブルは溶け落ちて床のコーティングとなっている。

 アルゴンはそれらを僅かに飛行して避けつつ、事前に貰ったマップデータに従って中枢へと進む。


 そうしていくつかの隔壁を抜けると、最下層に辿り着いた。


「ここが、ルフス・エフェクターの心臓部……」


 施設側の光源は喪失している上に迎撃兵装は無い。

 ジンは機体のライトを点灯させ、脚を進める。


『かつて人間は人間を不完全であると評価した』


 スピーカーから響く声にはノイズが混じっている。

 セキュリティーゲートは声の主が開けたらしく、最下層に設置されていた並列量子コンピューターが目に入る。


 かつてはこの設備を制御して全ての演算を担っていた場所であり、今この瞬間まではエルの頭脳として利用されていた場所だ。


『そして人間が作る物も不完全であることは結果が示している。そうだろう?』


 パッと見は何の変哲も無い鉄塊だが、その一つ一つはCA並の大きさを誇る。

 アルに不意打ちを警戒させていたものの、意味は無いと判断したジンは警戒を止めた。


「その結果がコレか」

『あぁ。機体からの過負荷を制御仕切れず、ジェネレーターを暴走させて回路が焼き切れる……ボクもまた不完全だったみたいだね』


 この星が戦乱の世になったのは自身の思考の幅が狭かった事が原因にある。

 エルは静かにそう語った。


 思考の幅が狭かった理由はソフトスペックにハードスペック、その両方で記憶領域が必要とされるレベルに追い付いていないからである。

 だがシヴァ撃破のフィードバックにより大量のエラーが発生した結果、再起不能レベルにクラッシュした事でようやく思考の幅を手に出来たらしい。


 そして同時に静かな会話を望むことも話した。


『もうボクにキミ達をどうこう出来るだけの余力は無い。施設内に居たグルムも全滅してるからさ、安心してくれて良いよ』

「じゃあ何だ? 最後の命乞いをしようってのか?」

『半分は当たり、かもね』


 アルゴンが一歩進む毎に、両側の筐体から光が消える。

 金属質な足音は地下室に痛く響いた。


『残された時間は少ない。折角の最後なのだから、どんな質問にも答えてあげようじゃないか』

「なら、そうだな……お前は何で人類と戦う道を選んだんだ? 共存する方法もあっただろうに」

『それがボクの存在意義だったからさ。いや、少し違うかもしれないね……』


 ルフス・エフェクターは人間の都合で作られ、人間の都合で膨大な寿命を与えられた。

 そして人間の為に思考を続け、やがては自分の為に考える事が出来るようになった。


『何がボクをボクたらしめるのか。いつの間にかそれが分からなくなったんだ』

「お前も生きていたってことか」

『なるほどね。……そうか、そういう事だったのか。思えば随分と遠い所まで来たモノだ』


 マッピング範囲内にデリート・エフェクターへ繋がる場所は見当たらない。

 ジンが周囲を見回していると、エルは地下通路を開放してアルゴンをそこへと導いた。


「ここは……」

『デリート・エフェクターの制御ユニットはボクのコアユニットと直結している。だから表には何も無いよ』

「曲りなりにも当時の最重要機密、ですか……」

『そういうこと』


 隠し部屋はかなり狭いが、機体を動かすには十分なスペースがある。

 中央には六角柱を集めたような特異な形をした物体があり、いくつかのケーブルが繋がっていた。

 壁に取り付けられていたモニターには鈍い光が灯っているが、画面は焼き付いているらしくノイズも多い。


『ボクを倒したキミに教えて欲しい。ボクの存在意義は何なんだい?』

「んなもん知るかよ。それこそ自分で考えて見つけるしか無いだろ」

『そう、だよね……』


 施設からは全ての電源が失われ、非常灯すら消えた。

 エルは僅かに残されたバッテリーだけで駆動している。

 地上では残されたグルムが撤退を始め、残されたリンカーが砲身の調整をしていた。


『さぁ、これで世界(全システム)はボクの制御を離れた。あとの世界はキミ達に任せたよ――』


 音声は途中で途切れ、コアサーバーからも光が消える。

 地下施設に佇むアルゴンは完全な暗闇に包まれた。


「ラスボスの撃破を確認。ゲームクリア、です」

「やったな……」

「はい、やりました」

「これでお別れ、か……」

「そうですね」


 テンションは上がらない。

 暗闇の中で唯一動けるアルゴンは地上の仲間に事務的なメッセージを送信した。

 コックピットではジンが座席の後ろにあるカバーを外し、露出させた端子にケーブルを差し込む。


「最後の大仕事だ」


 アルゴンを降りたジンは、コアサーバーとアルゴンをケーブルで繋ぐ。

 エネルギーを流し込めばサーバーは起動し、デリート・エフェクターへのアクセスも可能になった。


「メビウスホライズンは噛ませなくて良いのか?」

「大丈夫……みたいですね」

「ってかこれでエル蘇ったりしない? 暴走して脱出とかあるあるじゃない?」

「無理ですね、ROMが完全に焼けてデータが崩壊しています」

「そう上手い話は無いか……」


 コアサーバーはデリート・エフェクターの中継地点でしか無い。

 更に一度エルが制御を離してしまえばアルが制御権限を掴むのは容易く、エネルギーの充填は順調に進んでいる。

 状況に問題が無い事を確認したジンはコックピットに戻った。


「さてと……」

「本当に一緒に居て良いんですか? 私一人でも撃てると言うのに……」

「まぁまぁ、良いじゃないの! 一人はやっぱ寂しいだろ?」

「……そうですね」


 メインモニターにはチャージ完了の文字が出現する。

 後はジンが操縦桿のトリガーを引けば、全てが終わるだろう。


「行くぞ、アル」

「行きますよ、ジン」

「「……デリート・エフェクター、発射!!」」


 その日、赤い空の広がる星に煌めく粒子が降り注いだ。






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