第88話 英雄の姿
ヴィクテムは一度の戦闘で三回も地面に叩きつけられた。
頑丈さが売りの機体であるが、コックピットは崩壊しフォルティスは無数の部品で押しつぶされようとしていた。
「俺はまた、一人で死ぬのか……」
『フォルティス! 聞こえるか、フォルティス!!』
通信装置といくつかの操作パネルは生きている。
だが操縦桿は破壊され動かず、通信越しに聞こえるルナクスの声にも多くのノイズが乗り歪んでいた。
「いや違うな。今は、一人じゃない……ッ!」
『今度は見捨てる必要が無いんだ!! だから生きてくれ!!!』
フォルティスは最後の力を振り絞って操作パネルのスイッチを操作する。
機体は彼の意思に答えて腕を動かし、金属の軋む音と共に大剣を掴みシヴァ達の居る空域へと向けた。
「全エネルギー回路を遮断、左腕のみ開放……」
これで機体に残されたエネルギーは全て左腕に集まった。
今から彼の考える事を行えばジンが勝利を掴めるかもしれないが、機体は爆散し彼自身も確実に死んでしまうだろう。
そう考えるとトリガーに置いた指は止まってしまった。
「……フッ、俺は今更何を躊躇しているんだ」
『……無茶はやめろ、フォルティス!!!』
トリガーは躊躇無く引かれる。
その瞬間ヴィクテムの左腕は爆発し、握られていた剣は狙い通りに飛んでいった。
「老兵の役目はここまでらしい。後は任せたぞ、地球のリンカー……」
『フォルティス!!!!』
フォルティスは崩壊したコックピットの隙間から剣が掴まれるのを見届ける。
満足そうな顔は爆炎の中に消え、ヴィクテムは完全に沈黙した。
救援に向かっていたルクシオンは呆然と立ち尽くし、燃える機体に目を向ける。
「通信途絶。ヴィクテム、稼働を停止しました」
「ようやく……ようやく戻って来れたと言うのに!!」
ルナクスは思わずコックピットを叩きつけてしまった。
そこからは後悔の連続が頭を巡るが、無益な思考の連鎖は大きな音によって止められる。
興味を引かれたルクシオンが顔を上げたその瞬間、アルゴンは巨大な炎の柱でシヴァを両断した。
「あぁ。それでも僕達の……フォルティスの選択は間違っていなかったようだな」
強大な敵を打ち砕く姿。
それは正しく英雄と呼ぶに相応しい。
「……おいバカ! 落とす方向は考えろ!!」
「あっ、やべ!?」
慌てふためく様子は締まらない物がある。
だがそれでこそ我らが英雄だ、星野影郎の心にはそう刻まれた。




