第82話 犠牲の上に成り立つ世界
ヴィクテムはBCユニットから航空戦力への対処を行った。
だが残った地上戦力は直接叩いた方が良いだろうと判断すると再び地上に降り立ち、己の両脚で戦場を駆ける。
「さぁ、来い!」
フォルティスかつての仲間を二度も裏切る形になった。
だが機械でしかないグルム相手に未練も容赦も無い。
そもそもリンカー相手ですら容赦はしていなかったが、それでも悩む所があり今はこうして味方になっている。
「相変わらず派手な動きだねぇ……」
彼を味方に引き込んだ張本人であるジンは上空からヴィクテムの様子を見る。
周辺の航空戦力を概ね撃破しており、早い段階から飛行形態での遊覧飛行に移行していた。
「ジン、残りの航空戦力はBCユニットに任せて地上戦力を削って下さい。味方が若干押され気味です」
「りょーかい!」
ジンはアルに指定された地点を爆撃する。
弾が切れれば翼に装着していた追加兵装をパージし、敵機に衝突させる事で武器とした。
だがそれより先は接近戦を仕掛けるしか無い。
機体をロールさせて背を地上に向けると、一気に機首を下げることで急降下して着地した。
近くで戦闘していたヴィクテムの姿は残像しか見えず、その残像も綺麗な線を描いている。
そこには磨き抜かれた刃のような、何人たりとも手出し出来ない美しさがあった。
「おいおいフォルティスさんよぉ、そんなにブースター吹かしてると息切れが早くないか?」
「全て手動制御なのだから仕方ないだろう。むしろ貴様らはどうやってそこまで機敏に動いているんだ?」
「えっ、アレ手動でやってんのかよ……オートにしときゃ機体がある程度は意思を汲み取ってくれんぞ」
ブースター制御は機体の動作に合わせて機体側で制御するのがジンにとっての普通である。
だがフォルティスにとっては噴射量をフットペダルで制御し、噴射方向と点火タイミングを個別に操作するのが普通であった。
彼らはそんな常識の差を戦闘中に埋めつつある。
「俺にはバディも居ないが使えるのか?」
「多分大丈夫だろ」
「そうか。なら……」
フォルティスは技術の進化による恩恵を受ける為、操作盤を操作して機体制御をフルマニュアルからセミオートに変更した。
するとブースターは踏み込むだけで思う通りに起動するようになる。
「おぉ、これは……」
噴射方向も移動方向に合い、起動と終了の動作も早い。
軌道の鋭さは格段に向上した。
「なるほどな、貴様らの息が長く脚が早かったカラクリはこれか」
「むしろサポート無しでそこまでやれてるお前らが異常なんだよ……」
「お前ら?」
「ルナクスもフルマニュアルだろ?」
「そうか……流石は俺の弟子だ」
会話の片手間で屠られた敵機は一山を作っている。
ブレイズ・Rが意気揚々と次の獲物に襲いかかろうとしたその時、巨大な光の柱が目の前に突き刺さった。
「っと、このレーザーはシヴァか……!」
『ご明察』
放たれたのは右腕に内蔵されたレーザーキャノン。
見上げる頃には格納する段階であり、接近戦用のレーザークローを展開して加速していた。
ブレイズ・Rは倍近い体格差から繰り出される切り下ろしを受け止める。
『そんな小柄な機体じゃ役不足だろう! アルゴンを出してはどうだい!!』
「お前にゃコイツの良さが分からんだろうよ!!!」
ジンはレーザークローを地面に突き刺すよう受け流し、横から回し蹴りを狙う。
大したダメージにもならず防御されるが、目的はノックバックで距離を作ることだ。
飛行距離を稼いだジンは細かくブースターの噴射方向を変え、シヴァの全周から斬りかかった。
『人間業とは思えないその挙動、キミもボクと同じように肉体が無いから出来るのかな?』
「そうだろう、なッ!!」
小柄で軽量だからこそ出来る機動、そしてブレードの細やかな長さ変更で相手にリズムを掴ませない。
だがそこまで派手に動けば多くの粒子を散布される。
通常の環境下であれば離散し一定濃度で落ち着くが、現状はそうならずに濃度を増加させていた。
その事に気付いたエルはブレイズ・Rの攻撃を凌ぎながら高度を稼ぎ周囲を見回す。
『……なるほど、対粒子シールドで巨大な檻を作ったんだね』
「ここまで来りゃ流石にバレちまうか。追い詰められた感想はどうだ?」
『ハハハッ!! 追い詰められるだって? このボクが?』
シヴァは足を止めた。
その様子を見たリンカーは隙きが生まれたと思い攻撃を仕掛けるが――
「お? 隙きあり!」
「おいバカ!!」
――砲弾は手で握り潰され、コックピットはレーザークローで破壊された。
『そんな訳無いだろう!』
「クッ!!」
助けに近付いたブレイズ・Rは蹴り飛ばされ、シヴァは粒子雲に隠れる。
行き先は戦場の中央に存在する巨大な砲塔であった。
『こんなドームの弱点は大方が天頂部と決まっているんだ、破壊は簡単さ!!』
駆動部は修理出来てないらしく、シヴァが直接動かし直上へと向けている。
何機かのリンカーが駆動部を攻撃しに向かっているが、全員がカテゴリー4グルムのマクエスに足止めされていた。
「あんなデカブツを動かせるって言うのか……?」
「行ってくれ、ジン!」
「おう!!」
デリート・エフェクターを止められる機体はアルゴンを置いて他に無い。
だがアルゴンが現れる様子も無く、シヴァへと食らいついたのはブレイズ・R一機。
そしてリンカーが本気で食い下がらないことに違和感を感じつつある。
射角の調整を終えたエルは探りを入れることにした。
『良いのかい? 僕に構ってると、君達の大切な衛星と地球が消し飛ぶよ』
「ハハハ、アッハッハッハ!!」
メビウスの考えた作戦は既にバレつつある。
だがジンはシヴァが余計に動かないよう、頭と機体を動かす。
『何がおかしい? キミ達に出来る事なんて高が知れてるだろに』
デリート・エフェクターのチャージは完了した。
何があろうと既に後戻りは出来ない。
膨大な量のエネルギーは轟音と共に天への侵攻を始める。
砲撃がドームシールドを突破すると、内部に溜まっていた粒子は砲撃に釣られてシールドの外へと漏れ出した。
『さぁ、メビウス諸共滅ぶが良い! 地球のリンカーよ!!』
「お生憎様ァ……ウチのボスがしっかり対策立ててくれてんだよォ!!!」
『やはりキミ達は何かを……』
「投下開始!!」
ドームシールド外部に待機していた航空輸送部隊はいくつかのコンテナを投下した。
だがそれらは砲撃を食い止めるには少なすぎる。
『フン、その程度で防げるものじゃない!!!!』
シヴァはデリート・エフェクターに張り付いていたリンカーをレーザークローで始末し、再びブレイズ・Rへと目を向ける。
だが姿は消えていた。
『彼はどこに……』
シヴァが上空へと目を向けたのは、ブレイズ・Rが射線から外れたコンテナを蹴り飛ばし軌道修正をしているタイミングだった。
最初に投下されたコンテナが砲撃と接触すると、外装を撒き散らすだけでなく中身を爆発的に放出させる。
小さな点はあっという間に面になり、砲撃の行く手を阻んだ。
『……アレは、まさか空間圧縮コンテナかッ!?』
「そう! まさかもまさかの大技だ!!」
様々な物の混ざった超質量の塊はエネルギーを乱反射させ、地上を含めた全方向に地獄を作り出している。
その一方で当初の目論見通りに直進出来ているエネルギーは極めて少ない。
『だがこんな事をすればキミ達の本拠地が……メビウスはどこに行った!?』
「最重要区画は星の裏側に隠させて貰ったよ」
『ヴィクテム……!!』
コンテナの中に入っていたのは人工衛星メビウス。
つい数日前まで宇宙を漂っていた本物の部材である。
カウス01上空には最重要区画を除いたその全てが投下された。
「俺達の戦力はほぼ全てこの戦いに投入している。だがお前の戦力も同じ、そしてほとんどがデリート・エフェクターの動力源なんだろう? ならこの戦い、お前を押さえれば俺達の勝ちだ!!」
『ッチ……フォルティスを拾ったのは失敗だったよ!!!』




