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赤い星のリンカーネーション  作者: 鳥皿鳥助
8章 第二次侵攻戦
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第78話 作戦会議






 カウス01、グルム研究所への侵攻は失敗に終わった。

 その原因が準備不足にあると考えたメビウス上層部は、第二次侵攻に向けてより綿密な作戦を考案することにした。


「んで影郎、何か作戦はあるのか?」

「それをこれから考えるんだ」


 超巨大人工衛星メビウス。

 その中心部に存在する司令室には、リンカーの代表たるルナクスとメビウスの代表たるシルフ総司令官。

 そして数人の管理官が集められていた。


「まずは状況の整理からするとしよう。リーゼン秘書官、頼めるか?」

「お任せ下さい」


 素早い操作でホログラムが起動し、机の上にはカウス01侵攻作戦で放たれたデリートエフェクターの射線が示された。

 直前の警告によって巻き込まれた味方機は存在しなかったが、グルムはその多くが地形と共に消し飛ばされている。

 そしてその直線上に存在した地形は大きく変化していた。


「改めて見ても凄まじい威力だな……」

「はい。軌道が僅かにでもずれていたら、恐らくはメビウスも危なかったでしょう」

「これをどうにかするのは骨が折れそうだ」


 小さく呟かれた言葉はその場に居る全員が思うことである。

 それでもどうにかしなければならないのが現状だった。


「次を頼む」

「はい」


 リーゼン秘書官の操作によって表示情報が変更される。

 今度はエアスト防衛戦によって受けた被害、そして撤退させたグルムの移動経路を示していた。


「エアスト周辺に集結していたグルムですが、戦闘後は各地の拠点では無くカウス01へと向かった事が確認されています」

「粒子流路の解析も同じよ。シルフ総司令はこの状況をどう考えるのかしら?」

「相手の目標が達成されたと考えるしか無いだろう」


 デリート・エフェクターはこの星の行く末を二分する分水嶺である。

 メビウス陣営に渡ろうともグルム陣営に渡ろうとも、手に入れてしまった以上は守るしか無く奪うしか無い。


「ですが、粒子雲のほぼ全てが離散したのは嬉しい誤算でしたね」

「あぁ。アレは我らの障害にさえなれど、彼らにとっては都合の良いヴェールだったのだからな」


 威力の大きな攻撃は当然敵に痛手を与えられる。

 だがその余波や着弾時の衝撃によって周囲の粒子は引っ張られる事が多い。

 そうして粒子濃度が低下すれば行軍も容易になり、偵察すらも楽に行える環境へと変化する。


 その結果得られた情報がホログラムとして表示されている物であり、相手が動くまでには幾分か時間がある事が事前の解析によって判明していた。

 だからこそ彼らは悠長に会議を出来ている。


「それで、これから私たちはどうするんですか?」

「まずはデリート・エフェクターを止めなければならない。フル稼働してしまえば、ルブルムでの争いに地球すら巻き込みかねない……」


 それが出来れば苦労しない。

 だがそれをしなくてはならないのがシルフ総司令官の仕事である。


「……まぁその問題は後回しで良いだろう。だが人員の確保はどうするんだ? 地球のリンカーばかりを頼っても居られまい」

「そこはメビウスの住人に協力して貰うしか無いが……出来るか?」

「五分五分と言った所だろうな」


 そもそも戦闘を行える乗り手はメビウス攻防戦までにほぼ全滅しており、今生き残っているのは研究者を始めとした非戦闘員人材が圧倒的に多い。

 そうして戦闘人員が確保出来なかったからこそ、ES社は地球のリンカーをゲームという形でメビウスに送り込んできた。


 また第九世代はルブルム人の使用を想定していないからこその性能を持っており、仮に操縦出来たとしても短時間の活動すらままならない。

 故に頼りの綱は相変わらず地球のリンカー達であった。


 だが騙していた彼らからの心象は悪化している事が簡単に予想出来る。

 そうなれば戦力も激減するだろう。


「リンカーの人数はどうなったんだ?」

「圧倒的に増えているよ」


 彼らの予測は裏切られた。

 愛想を尽かして離れる人も少なくなかったが、多くの流入があり2割程度の増員という状況に落ち着いたのである。


 現在は各ユニオンが協力して最低限の操作方法を教育し、見込みのある者はソレイユ・エクスに送り込み追加の訓練を受けさせている。

 総合的な戦力は第一次侵攻以上になるだろう。


「影郎さん、この状況は想定内だったのですか?」

「いいや。全くの想定外だよ」


 空中に投影された複数のウィンドウには、幾人もの新米リンカーが慣れない操作に悪戦苦闘する姿が映し出されている。

 ルナクスは嬉しい誤算に笑みを隠しきれないが、世界は上手く行くことばかりでは無い。


「会社の株価は大丈夫なのか? かなり落ちたと聞いたが……」

「そちらは想定の範囲内だ」


 大きな嘘だった事は大きな禍根になっている。

 メディアはここぞとばかりにES社を叩いたが、第二次侵攻が終わるまでは存続出来る見込みを建てている。


「全てが終わったら清算しなくてはな……」






――――――――――――――――――――






 メビウスの管理者達との会議を終えたルナクスは、その居場所をユニオンルームへと移していた。


「盟主、こちらは既に準備を終えています」

「ありがとう。後は任せてくれ」

「はい!」


 ファントム・エクスのユニオンルームは広い。

 そこには多くのリンカーが集められているが、彼らは全員ユニオンのリーダーを務める者達だ。


 ジンにとって見知った顔も居れば、見知らない顔も居る。

 中でも悪名高いA-KEのようなメカニックユニオンが不参加だと周囲の会話から理解出来た。


「まずは集まってくれた事に感謝する。私はファントム・エクス盟主のルナクス、またの名をES社社長の星野影郎と言う」


 聞き手の反応は実に様々である。

 彼の言葉に驚く者も居れば、待ちきれないような顔をしている者も居る


 変わらないのはルナクスの言葉を一言一句聞き逃すまいと言う姿勢だけだ


「今回諸君らに集まって貰ったのは他でもない、超巨大人工衛星メビウスを犠牲にした地球防衛作戦に協力して貰うためだ」

「「「「地球防衛作戦!?」」」」

「まずはこの資料を見て欲しい」


 仰々しい名前に驚きを隠せない様子はルナクスも予想している。

 彼に出来るのは予め用意していた資料を転送し、事態の把握を促すだけだ。


「詳細は後で確認して貰いたいが、そもそもの人手は必要十分に確保出来ている」

「CAプレイヤー増加の影響か……」

「それもあるが、各ユニオンが新人育成に励んでくれているお陰だ。感謝する」


 その行動はかつてのファントム・エクス、それも一部の人間だけがしていた物と同じこと。

 それが今ではプレイヤー全員で同じ事が出来ている。


 そうした現実を噛み締め、ルナクスは話を進めた。


「それで作戦内容だが、まず君たちリンカーにはこれまで通りこの世界を楽しんで欲しい。それがメビウスに住む人達の願いだ」

「その……不謹慎じゃないのか?」

「何を言う。ルブルムに住む人々にとっては死活問題だが、我々地球のリンカーからしてみればゲームに過ぎない。彼ら私も、それを承知で協力していたんだぞ?」


 それは途轍も無い暴論と言う他無い。

 だがここに集まった者の多くは、そういう思いを持ってここまで来た。

 求められているのはそれを変えないだけの事である。


「それに、彼らにここまで言わせたのは君達の行動あってこそだ」


 ルナクスやファントム・エクスだけではダメだった。

 これは今日までに多くのリンカーが、そしてリンカーが集まり作られたユニオンが彼らに協力して来たからこそ引き出せた言葉である。


「だから……シナリオの無いこのゲームをハッピーエンドで終わらせる為、皆の力を貸してくれ。頼む!!」


 ルナクスは再び頭を下げる。

 彼には他の選択肢が思い付かなかった。


「今更だぜ、ルナクスさんよ。ここまで来ればやれる所までやるしかねぇだろ」

「そうだそうだ!」

「水クセェぞオッサン!!」


 場の空気を真っ先に変えたのはジンだった。

 他のリンカーもそれに続いて口々に叫び同意を示している。


 予想外の反応は涙腺に響いたらしく、ルナクスはしばらく目頭を抑え天を仰いだ。


「……感謝する」

「それで? 作戦はどうなるんだ」

「あぁ。端的に言えば今回の作戦における勝利条件はデリート・エフェクターの確保、敗北条件はデリート・エフェクターの発射だ」

「エアストの防衛は良いのか?」

「今は全ての戦力が一拠点に集中している。全力で殴らなければこちらが死にかねないんだ」


 状況としてはノーガードの殴り合いだが、一番の問題はデリート・エフェクターがクァドラン粒子を放つ粒子砲と言う事。

 そして最高出力であればギリギリ地球すら射程圏内に入っていると言う事にある。


「分かりやすい破壊が無いとしても、未知の粒子がどこまで地球環境に悪影響を与えるか分からん」


 赤い霧に包まれたルブルムに生命は極めて少ない。

 脆弱な人間がそんな環境で生きていける訳も無く、メビウスのような移住先を作れる訳も無い。


「最悪、地球がルブルムと同じになる可能性すらあるって事か?」

「あり得るだろうな」

「なるほど。やらせないに越したことは無いな……」


 だが幸いにも地球とルブルムにはかなりの距離がある。

 掠めただけでも大きな被害を与えるであろうルブルム周辺とは異なり、地球へ到達する頃には大した威力を持たないという予想も存在した。

 そして地球への影響は直線距離と理論上のシミュレーションであり、様々な条件次第で届かない可能性もある。


 だが地球の危機が確実にそこにあるという事実は、リンカー達に興奮を与えると同時に恐怖を与えた。


「発射の阻止は絶対条件か……」

「質問です! どうしてデリート・エフェクターの破壊では無く確保なのですか?」

「良い質問だな」


 ジェムズの代表として出席したエイジの質問に全員が注目する。

 ルナクスはモニターを操作し、資料を拡大提示した。


「デリート・エフェクターは惑星規模の破壊兵器だ。その本質に変わりは無いが、救星の道具にも転用出来る」

「本当ですか!?」

「本当だ。そしてその鍵がアルゴンとメビウスホライズンの二機であり、これらの機体の破壊も絶対に避けなければならない」


 デリート・エフェクターにはクァドラン粒子の性質を決定出来る機能がある。

 それを使用するにはアルゴンのライズリアライザーが稼働している状態でなければならず、メビウスホライズンには処理能力を肩代わりさせて成功率を上げる役割がある。


 そこまで重要な機能を有する二機だが、出撃機リストには名前が乗っていた。


「あの……ならどうして二機を戦闘を戦闘に参加させるのですか?」

「アルゴンとメビウスホライズンは貴重な最上級戦力だ。残念ながら戦線を離脱させる事は出来ない」


 それは全体戦力と勝率の比較グラフを見れば一目瞭然である。

 二機を待機させても作戦の遂行は可能だが、成功率には圧倒的と言う他無い程の差が存在した。


 それほどの力があると言うのに、撃破を回避しなければならないのは中々な無茶振りでしか無い。

 アルゴンのパイロットたるジンはそんな感想を心に抱いた。






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