第79話 アルゴンの運命
多くのリンカーを巻き込んだ作戦会議は終了した。
そのほとんどが各々の居場所へ戻る中、ジンだけルナクスに呼び止められている。
二人は場所を移し個別で話をすることになった。
「で、話って何だよ」
「アルゴンとデリート・エフェクターにはクァドラン粒子の性質を決定する力がある。だがそれはアルゴンの全てを犠牲にしてのことだ」
ルナクスは単刀直入に話を切り出す。
対するジンはいきなりの言葉を飲み込みきれずに居た。
「アルゴンを……アルを犠牲にって、アンタそれ本気で言ってるのか?」
「エルにクァドラン粒子の性質を決定されてしまえば何が起きるか分からない。だから我々の手で、全てを決めなければならないんだ。ここまで言えば私の言葉を信じて貰えるか?」
「それは……」
デリート・エフェクターであればクァドラン粒子を世界から消し去る事も出来る。
だがルブルムにとっては貴重なエネルギー資源であり、毒性だけを消すように仕向けるのが理想である。
「これはアルゴンに元々与えられていた計画だ。当初の想定から状況は大きく変わってしまったがな」
メビウスにとってアルゴンの犠牲は最初から確定している。
それは本来であれば身内の人間、つまりクレナを乗せる予定だった為に問題ではなかった、
だがジンという第三者の手に渡ってしまった以上、そしてバディが想定以上に覚醒し成長してしまった以上は無理強い出来ない。
それがルナクスの考えだった。
「それでもやって貰うしか無い。今すぐに了承しろとは言わないが、決定を覆せない事情は理解して欲しい」
「あぁ、そうだろうな……」
ソファーに深く腰を下ろしたジンは、頭を抱え天を見上げるしか無かった。
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エアスト防衛戦の終了後、全ユニオンの格納庫は利便性向上の為に接続されている。
メカニックと資材運搬車はそんな空間を走り回り、ルナクスとの話を終えたジンはアルゴンのコックピットに籠もっていた。
「アル、お前消えるのか……」
「ベタなセリフですね」
「他に思い付かなかったんだよ! わりぃか!?」
「いいえ……心配してくれる人が居ると言うのは、とても心強い事ですよ」
「そう、か……」
長く関われば相応に愛着が湧く。
そんな相手が死ななければならないとなれば誰だって悲しくなるだろう。
「折角ですから話をましょうよ。最後の戦いに向けて調整もしなきゃですし!」
「……それもそうだな」
アルに促されてジンは作業を開始する。
作業内容はゼロフェーズ開放時と中破時に生まれたデータの歪を修正する事。
コックピットの裏配線に接続された小型端末でデータを確認しつつ、サブモニターからの操作で作業は行われている。
「なぁ、そもそもメビウスは何でアルゴンを作ったんだ?」
「そうですねぇ……まず根本的な話になってしまいますが、人々は旧ルブルム共和国以前の時代からクァドラン粒子の性質を変えようとしていました」
その方法はルイーナの石碑に書き残されていた。
解析を進める内にライズリアライザーの存在が浮かび上がり、次世代の動力源としてもそれを活用し始めたのがCAの生まれる少し前の話である。
「当時も当時で環境汚染は酷かったらしいですから、恐らくは先人もかなり焦っていたのでしょう」
だが当初知られていなかったクァドラン粒子の毒性はライズリアライザーの普及と比例して増加した。
本来その問題を解決する為にルフス・エフェクターを開発するが、研究施設ごと人の手を離れて暴走。
結果的に人類の居住可能地域は大きく減少した。
「そんな状況を打破する為、当初は浄化施設として組み上げようとしていました」
「アルゴンを?」
「はい」
だが戦乱の影響で大きな施設を作り上げる事は出来ず、幾年もの間計画だけで存在していた。
やがて地球からの協力者が出現すると、大きな技術の進歩で製造が可能になる。
そして強大な戦力の必要性が唱えられた事から、一体の機動兵器として仕立て上げられた。
それが今ここにアルゴンの存在する理由である。
「けど、システムをただ作るだけじゃ不完全だったと……」
「はい」
先人がプロトタイプさえ作らなかったのは制御システムを作る時間が無かったから。
現代ではそうした情報が失われていた為、実際にアルゴンを作ってようやく判明した。
更にはパイロットとの相性問題も発覚してしまい、身内に適合者が居らずジンに行き着いてしまった。
「……さぁ、後は私に任せて皆さんの所に行って下さい」
「良いのか?」
「パラメーター調整は私の得意分野ですから。それに、ここまでやってくれれば十分です」
「そうか。なら任せたぜ」
「はい!」
アルも覚悟を決めつつある。
迷いを捨てきれないジンは大人しくコックピットを降りた。
「っと、ケーブルまみれだな……」
隣に鎮座しているのはメビウスホライズン。
何でも無数の戦闘データを急ピッチで学習させているらしく、データ転送用のケーブルが多く接続されていた。
元々はルナクスが乗る予定だったが、ジンに付けられた手癖が合わないという事でメインパイロットはクレナに変更。
学習と同時にチューニングも行っているらしく、周囲を行き交うメカニックの数は多い。
その向こうには見慣れない機体達がズラリと鎮座していた。
「そういえば全部の部屋が繋がったんだったな。少し歩いてみるか……」
基本的にはユニオンごとで機体を纏めているが、作業の都合で離れている機体もある。
その一機であるルクシオンはアルゴンから比較的近い場所で分解整備が行われていた。
作業を見物するジンを捕まえたのはタイトである。
「お、出てきたんだな。調子はどうだ?」
「こっちは問題無い。……けど、ルクシオンはここまでバラバラにして何をしようってんだ?」
「見て貰えれば分かる通り関節部の交換がメインだな。まぁ大きな仕様変更もあるんだが……見てくか?」
「良いのか?」
「隠すような事じゃねぇってルナクスさんも言ってたからな」
二人は近くの端末に移動する。
そこでは無数のパタメータが変動していたが、ジンには読み取る事が出来ない、
「これは何を?」
「千景のデータをメビウスのデータセンターに移送しているんだよ」
バディを構成するデータは膨大な量であり、一片でも欠ける事が許されない。
故に機体以外の場所に転送する事は特例中の特例であり、機体変更以外で移動させる事も非常に珍しい事だった。
「なんで今そんな事を……」
「バディのデータ管轄を機体から施設に変更して、無人かつ遠隔で操縦する先行実地試験を兼ねてるんだと」
「ほ~、操縦にバディが必要無いルナクスだから出来る芸当だな」
「本当にな。それに、もしかしたら今後はバディを消失する危険が完全に無くなるかもしれない」
そんな未来への布石だが、千景には同時にメビウス管轄のサーバーに対する管理者権限が与えてある。
アクセス距離が縮まったこともあり、今後はより複雑で素早い指揮統制が行えるようになる事が一番のメリットだろう。
そんな事を複数人のメカニックと話していると、タイトは突然何かを思い出したかのように立ち上がった。
「あーそうだ! コイツよりもっと面白い機体があるんだよ!!」
「なっ、何だ!? 俺は逃げねぇから引っ張るな!!!」
説得の暇も手を剥がす暇も無く強引に連行された先にあるのはヴィクテム。
以前の戦闘でジンが中破に追い込んだ機体である。
だがその姿は人と竜の融合した物から、二本の脚で地面を踏み締める人形の騎士へと大きく変化していた。
「なんかシヴァみたいになったな……」
「まぁベースが同じだからね」
「ヘンリー博士! ここまでの改造をするなんて、やっぱアンタすげぇよ!!」
「まぁね。僕の技術をゆっくり見ていくと良い」
「そりゃあもう是非ともォ!!」
タイトはどこかへと走り去ってしまい、一人残されたジンは自然とヘンリー博士の話を聞く事となる。
いくつかの資料を織り交ぜた解説によれば、エルは上限スペックを上げる事に固執しているらしい。
対するヘンリー博士は扱いにくい部分を重点的に改善しスペックの底上げを狙っている。
つまりは機体中心の設計からパイロット中心の設計に逆転したのが現状であった。
「へぇ~……でも何で人形に?」
「第六世代機ってのは元々、通常規格のCAからパーツを流用して大部分を構成しているんだよね。だからここまで壊れたなら大改修をしようがしまいが手間は変わらないんだ」
「なるほどな」
ただし翼は完全に破損されており、再利用すら出来ない状態となっている。
その結果が地を這う騎士への転身である。
「まぁこの辺はドラゴニックシヴァとやらも同じことだと思うけどねぇ~……」
「けど?」
「この手の機構は背中に増設の制御系ケーブルが集まっちゃうんだよね。ここが弱点になってるから、絶対に後ろからの攻撃は避けないといけない」
「何でそんな話を俺に……あ、もしかしてシヴァも同じか?」
「基礎が同じだからね。エルを相手に背中が取れるとも思わないけど、知らないよりはマシだろう?」
「それもそうだな」
資料を見終えたジンは機体に目を移す。
下半身はパーツを流用しつつもほぼ新造されており、上半身の印象はあまり変わらないが装甲が僅かに増加している。
各部の調整も行われているようだが、左手に取り付けられた竜の上顎だけは以前と一切変わらない姿をしていた。
「なぁ、竜の頭はヘッドギアに加工出来なかったのか?」
「あ~アレね。元もガントレットベースで作って試作品の流用だから、再加工するのもガントレットにする方が楽なんだよ」
「先人も色々作ってたんだな……」
「ほとんど盗まれちゃったけどね」
勿論ジンが言うようにヘッドギアへ加工する事も手段の一つではある。
だが強度が高い為に加工が難しく、今からでは第二次侵攻に間に合わない。
そして上手く行かなかった場合には素材や機能が無駄となってしまうだろう。
こうした事情で加工出来なかったパーツは頭部以外にも多く存在しており、その多くが上半身の装甲として使用されていた。
「それに左手にあれば小型シールドみたいな扱いは出来るでしょ?」
「いやぁ……剣を持つのに邪魔じゃないかねぇ」
エクスキューショナーズ・ソードは巨大な実体剣である。
その重量はかなりの物であり、並の機体では持ち上げることすら難しい。
「そこは出力のゴリ押しで大丈夫だよ。今までだってそうだったでしょ?」
「そりゃそうだが……」
「必要なら噛ませれば良いんだよ」
「あれ変形するのか!?」
「するよ」
ヘンリー博士は手元の端末を操作してヴィクテムの左腕を変形させる。
指先は上顎によって覆い隠され、下顎が展開される。
同時にハンドパーツを格納する事で竜の頭部が形作られた。
「へぇ~、すっごいなぁ……」
「そうでしょそうでしょ~」
こうしてリンカー達の準備は進む。
ルブルムでの戦いが終わる日、そしてアルゴンの運命が決まる時は着実に近付いていた。




