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赤い星のリンカーネーション  作者: 鳥皿鳥助
7章 第一次侵攻戦
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第73話 言葉と思い






 会見を聞き終えたジンはカラオケボックスから自宅へと戻った。

 いつものように鍵をドアに挿入する彼であったが、その感触には違和感がある。


「確か閉めて行ったはずだが……」


 鍵が開いている。

 ジンは空き巣を警戒して静かに扉を開けるが、そこには女性物の靴が一足置かれているだけで違和感は無い。


 薄々理由を察しつつも慎重にリビングまで進むと、ソファーに人影が見えた。


「遅かったわね」

「何だクレナか……」

「紅葉よ」

「そうだったな、悪い悪い」


 クレナとしての顔は見慣れているが、紅葉としての顔は見慣れない。

 だがその風貌は見慣れた雰囲気がある。


「にしても全然連絡付かなかったが大丈夫か?」

「心配かけてごめんなさい。こっちもかなり忙しくて、ここに来てようやく返事が出来たの」

「お、確かに」


 返信はジンがカラオケボックスを出てすぐと言うタイミングに来ていた。

 その内容はこれから家に向かうという告知であったが、今見た所で意味は無いだろう。


「それで? 世間を騒がせるES社の副社長様が何の用だ」

「単刀直入に言う。私はアルゴンを、そしてアナタのESGを回収しに来たのよ」

「ほぉ……」


 ジンの住む場所とCAはES社との契約によって得ている。

 元々それは両者の好きなタイミングで終了し、元の生活に戻れるようになっていた。


 紅葉の言う“回収”もそれを利用しての事である。


「ESGは良い。だがアルゴンはどうするんだ? お前に動かせなかったから俺が呼ばれたんだろ」

「アルゴンは元々私が乗る予定だった機体よ。それにスピードフェーズまで開放されていて、なおかつバディからの認証さえあれば問題無いわ」


 当初のアルゴンは戦闘経験が皆無であり、それを集める為の基礎動作すらままならなかった。

 それが故に普通では影響しないパイロットと機体の相性を考慮し、強引に成長させたという事情がある。


「まぁゼロフェーズまで開放したのは想定外だったけどね」

「なるほどな……話は大体分かった」

「そう。なら答えを聞かせて頂戴」


 紅葉は目を瞑って待った。

 対するジンは考える暇も無く、反射的に机を叩きつけて立ち上がった。


「ふざけんじゃねぇよ……何が契約だ!! 今更巻き込んどいてそれは無ぇだろ!!!」

「なっ、何よ! せっかく人が辛い役を代わってあげようって言うのに!!」


 ジンが高圧的に挑めば紅葉も反射的に口を開く。

 だがそれは副社長と言う立場の今に相応しく無い行動だ。


 紅葉は慌てて口を抑え椅子に腰を下ろすが、その行動はもはや遅いと言うしか無い。


「終わりも始まりも自分で決める、全部自分でやってこそだろうが」

「CAはゲームじゃない。現実に起こっている事なのだから……今まで以上に辛い事があるかもしれないわよ?」

「そうなったらそうなったでどうにかするしか無いだろ。ゲームの中でも辛いことはあるし、それに……」

「それに?」


 CAと言うゲームがES社の嘘によって作られた場所だとしても、そこでの出会いに嘘は無かった。

 現実の世界だからこそ、本当の出会いだからこそ楽しい思い出が作れる事もあるだろう。


「……ここまで来たんなら俺は最後までお前達と戦いたい。自分でも珍しいと思うが、俺はあの世界を守りたくなったんだ」






 ――――――――――――――――――――






 ジンとクレナが口論をした次の日。

 彼がユウト達と会っていた事を知ったクレナは、二人が会える距離に居るのならとES社に全員を呼びつけた。


「うへぇ、緊張するなぁ~……」

「大丈夫だって。悪いようにはしないってクレナ……紅葉さんが確約してくれたでしょ?」

「まぁそうだけどよぉ」


 タイトが緊張しているのは相手が権力者だからに他ならない。

 そんな彼の相手をする事でユウトも落ち着きを取り戻している一方、ジンはいつも通りの様子で茶菓子に手を付けていた。


「……お前の神経は図太いよな」

「単純に何回か来て慣れてるだけだ。慣れだよ慣れ」

「そうでしょうか……?」


 ジンは自分が優位な立場である事と相手が裏切らない事を知っているからこそここまで落ち着いていられる。

 そんな様子を見た二人も次第に落ち着きを取り戻し、茶菓子に手を付けられた頃になってようやく紅葉が到着した。


「待たせたわね」

「おう、おつかれさん」

「アンタは……紅葉さんか」

「あっあの、始めまして……!」

「始めまして? 確かにそうだけど、そうじゃ無いとも言えるわね」


 その質問は実に意地の悪いモノである。

 タイトが回答に困っている横で、ユウトはいち早くその答えを見つけた。


「あの……アナタはもしかしてクレナさんですか?」

「「そうだぞ()」」

「「……えええぇぇぇえ!?!?」」


 二人による大絶叫は廊下にまで響き、数人の社員が様子見に来る程である。

 クレナはそうした外野を含め状況を沈静化させ、ようやく席に着く事が出来た。


「それで、俺達を集めた理由は?」

「ESFは一応リンカー最高峰の戦力なの。途中で抜けられると困るから、先に“本物の戦場”に向かう覚悟を聞こうと思ってね」

「覚悟か……」


 ここまで来たら最後まで付き合う……と啖呵を切ったジンも、そう聞かれては頭を悩ませるしか無い。

 ましてや唐突にこの質問を投げかけられた二人にとっては大きな難問である。


「ちなみに私は父の影響で戦闘に参加してるわ。随分長く関わっちゃったから、どうしても助けたくなっちゃったのもあるわね」

「俺は気持ちよくゲームをやる為に胸くそ悪い事をする奴はぶっ飛ばしたい、って所かねぇ。紅葉みたく見捨てられなくなったって所も否定は出来ないが……」


 ここまで来たらのなら最後まで戦わせろ、という言葉にはそういう意味もある。

 紅葉とジンの思考はかなり近いのだろう。


 一方の二人は全く異なるタイプの思考をしていた。


「俺はもっと機体を弄り回したいからルブルムに滅んで貰っちゃ困る! って感じだ。二人みたいには考えらんないなぁ~」

「なるほど。まぁ無理に話を合わせる必要も無いだろ」

「そうね。で、ユウトはどうなの?」


 ユウトはこの中でもっとも年齢が低い。

 精神的ショックが大きくなる可能性がある以上、三人には“降りるなら今だ”と暗に示す義務感のようなモノがあった。


「僕は……痛いのも怖いのも嫌だけど、皆に置いていかれるのはもっと嫌です。それに僕でも誰かの救いになれるのなら、僕は手を差し伸べたい」


 だがユウトもいつまでも子供では無い。

 クレナを真っ直ぐ見つめる目には強い意志が宿っていた。


「なら決まりだな。これからも一緒に戦おうぜ、ESF!!」

「おう!」

「はい!!」


 ESFの男達は静かに拳をぶつけ合う。

 紅葉はその様子を静かに見つめるが、三人もまた静かに彼女へと視線を向けた。


「……何よ」

「お前もユニオンの一員だろ。こっち来い」

「でもアナタ達を騙してたのよ?」

「あーもうグチグチ言うな! 良いから来い!!」

「っ……」


 ジンは有無を言わせず手を引く。

 あまりに強引な行動にクレナは顔を引きつらせるが、そこに拒否感は無い。


「昔っからそうよね、アンタって……」

「迷惑だったか?」

「いえ。凄く助けられてるわ」






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