第61話 奪われた女神
誤字報告貰ったのでちょこちょこ修正してます。
報告感謝!!
ヴィクテムの登場によって混乱を極めたマーグヌム・カストラ奪還戦は無事に成功した。
拠点としての機能も既に取り戻されたが、シヴァとヴィクテムは迷いの森奥地にあるカウス3へと逃げ込んだらしい。
「次のワールドミッションはカウス3の破壊か。……占拠じゃないって珍しいな」
「シヴァとヴィクテムが揃って居るのだから、手加減なんて出来ないでしょう?」
「そりゃそーだ」
メビウスでは各ユニオンが戦力を整え、カウス3には各地からグルムが集まっている。
両陣営の戦闘準備は着々と進む一方でジン達ESFもユニオンルームに集まり、戦闘前の最終ミーティングを行っていた。
「で、機体の整備は?」
「ギリギリだな」
「ギリギリですよ~」
シヴァやヴィクテムと相対したアルゴンとレジーナは既に整備を終えている。
ブレイズ・Rは主だった戦闘では使用されなかったが一応整備を行い、クレナが貸したフェンサーは今回の戦闘で使わないと判断し後回しという状況だった
「グラファイトもとりあえず動く程度には修理しといたが……無茶はすんなよ?」
「分かった。ありがとうね、タイト」
「おうよ」
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今回のワールドミッション目標は比較的シンプルだが、予告から開始までの時間は以前より短くなっている。
それでも以前と負けず劣らずの戦力が集められ、各種列車による支援も継続して行われていた。
そんな戦場に降り立ったグラファイトは以前よりも前線に近づいている。
理由は狙撃精度の低下だ。
「想像よりも酷い状態だね……」
ユウトは一発撃っただけで機体の状況を概ね把握した。
だがそれを修正しようにもソフトウェア側での支援は不可能であり、ハードウェア側の修正も間に合わない。
故に今はパイロットの技術でどうにか対応するしか無いのである。
「ヴィクテム出現!」
「早いな……」
狙撃特化の機体で狙撃精度が下がってしまえば意味は無い。
だがユウトは優秀な目を利用して全体に情報を共有した。
それを元に付近の味方機が即座にヴィクテムを囲んだが、竜の背中に埋め込まれた騎士は慌てる事なく剣を構えている。
『なぁ、知ってるか? 夢や祈りってのはあっけなく潰される……』
「だから何だってんだ?」
ジンは最前列で距離を詰める。
ヴィクテムの騎士はそんなアルゴンに目を向け、彼の言葉に対する回答を行う。
『だからよ、夢なんて……持たない方が良いぜ…………』
「お前……悲しい奴だな」
『と言っても届かないだろうがな』
「え、聞こえてるけど」
「残念ながらヴィクテムとの交信双方向通信ではありません」
ヴィクティムのパイロットはジンの話を聞いていない。
誰の声も聞けないのだから、彼は一人で喋っているつもりだったのだろう。
そして聞いていると行動で示す前に斬撃が飛ぶ。
『エグゼキューショナーズ!』
「おっと!」
アルゴンは斬撃をギリギリで回避した。
そのまま反撃しようと足を踏み込むが、蹴り出そうとした段階で火球が浴びせられてしまい攻撃に転じられていない。
味方が多くターゲットがブレる為に撃破こそされていないが、イマイチ攻めきれない状況はパイロットたるジンの望む所では無かった。
「パワードフェーズじゃ相性悪いな。……フェーズシフト、スピードフェーズ!!」
周囲のグルムはジン達の戦闘に集まっている。
だがリンカーも同様に集まり、戦場はどんどん拡大していった。
「援護します!」
「頼むッ!!」
高台に陣取ったグラファイトの援護でヴィクテムの周囲に屯していた低級グルムの数が減らされた。
これにより味方同士の巨大な連携経路が確立され、ヴィクテムは孤立しつつある。
「さてどっちに行くべきか……」
ジンが取れる選択肢は二つある。
一つはヴィクテムの相手をする事だが、相手は以前より元気な様子な様子だ。
竜が吐き出す火球の数は圧倒的なまでに増えており苦戦を強いられるだろう。
そしてもう一つはヴィクテムから引き剥がされたグルムの殲滅。
こちらはを選べば楽にポイントを稼げるが、数で圧倒するしかない現状では戦線の崩壊を招きかねない。
「くっ……レベル5リンカーはヴィクテムを、それ以外は他の敵を頼む!!」
「「「了解!!」」」
「おっ、マジか……りょーかい」
だがジンが判断を下す前にルナクスが指示を出す。
普段は滅多に無い事だが、そうでもしなければ切り抜けられないのが現状である。
「見知った顔が多いな」
「上位ランカーの数は少ないですからね、必然的にそうもなります」
多少被弾しても大丈夫なパワードフェーズでは遠隔斬撃に捕まってしまい、回避しやすいスピードフェーズでは一撃で撃破されかねない。
アルゴンはそんなギリギリの状態で戦闘を繰り広げていた。
「ドンドン行くぜ!」
「僕が動きを合わせよう」
「サンキュールナクス!!」
二機による連撃は凄まじく、味方の援護を差し込む暇が無い。
だがヴィクティムは一瞬の隙を突いて反撃を差し込んだ。
『くっ……鬱陶しい!!』
「うぉっ!?」
「ジン!」
「大丈夫、じゃねぇけど大丈夫だ!!」
大剣による重い攻撃がアルゴンを襲い、僅かに浮遊していた機体を地面に叩きつける。
クリーンヒットは辛うじて回避したものの、左腕にダメージを受けると同時にルナブレードを落とした。
「援護する、アルゴンは味方と入れ替われ!」
「サンキュー!!」
ルクシオンと味方機の援護を受けたアルゴンはバックジャンプで大きく距離を稼ぐ。
そうした状態かつ攻撃をしなければヴィクテムのヘイトは向かないのだから、ジンはそのままフェードアウトするように動いてある程度の安全を確保した。
「クッソ、最悪だ……」
「簡易チェック終了。左腕以外にダメージはありません」
「だろうな」
ジンは脚部やブースターが接地する前に、左腕で強引に衝撃を受け止めさせている。
故に致命傷こそ回避出来た。
だが片腕と武器が無い状態で近接戦闘を繰り広げるのは難しいだろう。
「武器を拾ってる暇はねぇし、このままチマチマ戦うしか無いよな……」
行動方針を決めたジンは操縦桿を握り込む。
一方のバディは思い詰めたような表情で彼を眺めていた。
「……いえ、ジンはブレイズに乗り換えて下さい」
「は? お前何言ってんだよ!!」
ブレイズ・Rを使って欲しくないと暗に示したのはアルだ。
なのに今使えと言ったのも彼女自身であり、ジンはただ混乱するしか無い。
「アナタは思う存分戦うのが好きな人なんですから、無駄に制限をかけて戦うべきではありません」
「そりゃ誰だってそうだろ……それに今のアルゴンだって戦いようはあるぜ?」
「だとしてもです」
片腕の使えないアルゴンはヴィクテムとの集団戦闘に付いて行けない。
隠密や奇襲を交えて戦えば食らい付く事は出来るが、そうなれば必然的にジンの思うような戦闘は出来ない。
つまりはジンの望む動きが出来ないのだ。
彼のバディたるアルは、彼の望まない行動を強要している自分が見過ごせなかった。
「それに私は一人でも大丈夫ですから」
「マジ、か……」
アルの見せる表情は寂しさと罪悪感の入り混じった複雑な物である。
だがその決意はジンにしっかりと伝わった。
「……良いだろう。お前の言葉、信じるぞ?」
「はい!」
戦線から離脱したジンはブレイズ・Rを呼び出し、列車に囲ませてからアルゴンを離れた。
程なくしてブレイズ・Rを載せた輸送機が到着する。
『投下開始!』
「え、起動してないよね?」
『多分大丈夫だ、ここから落とした程度で壊れりゃしねぇよ』
「おまっ……ふざけんなよ!?」
『じゃ! こっちも忙しいから、後は頑張れよ~』
輸送機から落とされた機体は直立状態で着地した。
ブースターすら使用せずに大きな土埃を上げたが、タイトの宣言通りに歪み一つ無い。
そんな機体に乗り込んでライズリアライザーを起動するジンだったが、彼はふとコックピットの中が異様に静かな事に気が付いた。
「あーそうか、今日はアルもヘンリー博士も居ないんだったな」
データ取りでも無ければヘンリー博士は協力しない。
バディの支援も無く完全な一人での起動となるが、それは問題無く終了した。
戦況を軽く確認したジンは操縦桿を握り込む。
「さぁて、行くとしますか!!」
ブレイズ・Rは垂直に大きく飛び上がって飛行形態となり大空を駆ける。
レーダーの情報を元にブースターを吹かせば、ヴィクテムは容易に補足出来た。
「アレはブレイズ・R……ジン君か!!」
「待たせたな!!!」
ルクシオンと同時にヴィクテムがジンを捕捉し、速度から驚異を感じたのか竜の口から反射的に火球が飛ぶ。
一方のジンは即座に人形での防御を選択した。
爆炎に包まれた機体の撃破を確信するヴィクテムだったが、全て腕で防ぐ事が出来ている。
それどころか熱をブレイズブレードの生成に利用し、勢いのまま前脚を切りつけた。
「流石に斬り倒しは出来ない、か」
ブレイズ・Rは着地と同時に半回転し、大きな土埃の壁を作る事でようやく静止した。
「踏み込みすぎだ! 下がれ!!」
「っと、りょーかい!」
「援護する」
ブレイズ・Rが炎に対して高い耐性を持っているのは初陣で既に証明済みである。
そしてアルゴンのような特性変化こそ持っていないが、単純性能では圧倒的に勝っている。
「火球はジンに押し付けろ! 残りは騎士の大剣に注意しつつ攻撃だ!!」
「押し付けろって、ルナクスお前結構酷い奴だな!?」
「この中だとジンさんが一番硬いっぽいですからねぇ。ま、頑張って下さい!」
「エイジ、テメェこの野郎!! あーもう分かったよ!!!」
文句を言いつつも、ジンは渋々と役目を引き受ける。
それと同時に接近しての攻撃も欠かさない。
こうして攻撃を続ければヴィクテムの装甲表面に大きくダメージ与え、一点の弱みから全体を瓦解させる事も出来るはずだ。
「そのまま斬り込め、ジン君!!」
「おうよォ!!!」
その場に居るのはファントムに所属する中距離主体の機体が多い。
エイジのアダマントとルナクスのルクシオンは近距離向けの機体ではあるが、回避やカウンター優先の設計で攻撃を耐える事は出来ない事もあり攻めきれずに居た。
「形勢逆転だ!」
そうした状況を変えた機体、ブレイズ・Rは背後から射撃支援を受けつつヴィクテムに突撃する。
それと同時に満月と青白い狐が後方から戦場へと飛び出す。
ジンが慌てて機体を上昇させると、その真下をルクシオンが高速で駆け抜けた。
「僕は竜の首を狙う」
「りょーかい。んじゃ俺はこのまま騎士の首を貰い受ける!」
「援護します!!!」
アダマントはルクシオンを支援する為に射撃を行い、ヴィクテムの剣から飛ばされた斬撃を防御すると即座に後退した。
一方のジンは上空から騎士を狙ってブースターに火を入れる。
遠心力も加えた双剣と太刀の一撃がヴィクテムに襲いかかる。
『悪いけどまだやらせられないね!!』
「クッソ、シヴァか!!!」
「硬いな……ッ」
激流刀は首の装甲が厚い部分で弾かれた。
ブレイズ・Rはシヴァに双剣を捕まれ、その勢いも強引に打ち消し地面に叩き落されている。
『それにしても、君達はこのまま戦ってて良いのかな? 落とし物は僕が拾ったけどさ……!』
「落とし物って……まさか!!」
『そのまさかさ。それでも戦闘を続けたいかい?』
カウス3は既に破壊し、グルムの多くも味方によって撃破された。
シヴァとヴィクテムを逃がすのは惜しいが互いに最低限の目的は達成しているのが現在の状況だ。
「くっ……戦闘終了、全機撤退開始だ」
――――――――――――――――――――
ジンがアルゴンを降り、ブレイズ・Rに乗り換えて少しした後。
シヴァはヴィクテムより大きく遅れて戦場に姿を現した。
『この機体は……まさか、誰も乗っていないのかい?』
シヴァのパイロット、エルと呼ばれる人物はあまり寄り道はしない主義である。
だが彼の見つけた物は彼を引き寄せ半笑いにさせた。
『AR-18-5、アルゴン。まさかこんな所で見つけられるとはね』
周囲には護衛の武装列車が蠢いている。
生半可なグルムであれば突破は困難だったかもしれないが、シヴァの手にかかれば何の障害にもならない。
『さぁて……この機体はどう処理したものか』
アルゴンを破壊すれば戦況はグルム側に大きく傾く。
素振りを見せたシヴァに対し、機体を守るバディはスピーカーモードで話しかけた。
「エル、アナタにアルゴンは壊せません」
『やっぱりバディが守ってたか。でも何故そう言い切れるんだい?』
「恐らくは改造してでも味方に引き入れたいのでしょうけど、アナタがその素振りを見せた瞬間に私は機体を自爆させます」
『おーこわいこわい。それは流石に厳しいから、ご遠慮頂きたいね』
かつて自爆特攻が技の一つと成立した歴史が示すように、ライズリアライザーは一つでも暴発させればかなりの被害を叩き出す事が出来る。
それが並列で三つ同時に起きれば辺り一帯が吹き飛ぶ事は間違い無い。
そこまでの威力を出せばシヴァもアルゴンのパーツも全てが消し飛ぶはずだ。
「互いの損害を回避したいのであれば手を加えない事です。それにアナタの目的を遂行する為にも、この機体が必要なのでは?」
『一体誰の入れ知恵なのやら……』
「生みの親ですよ」
『だろうね。ま、それでも確保位はさせて貰うとしよう』
「その程度であれば甘んじて受け入れましょう」
グルムはアルゴンを破壊出来ない。
ヘンリー博士から伝えられた机上の空論を実現させたアルの安堵は誰にも伝わる事無く、人の気配が消えたコックピットに留まった。




