第60話 全てを断ち斬る決意
通常のミッションでは多くの戦力を一度には集める事が出来ない。
一方でワールドミッションと呼ばれる大型イベントでは多くのユーザーが動員可能である。
マーグヌム・カストラ奪還戦のような緊急ミッションは、これらの中間に位置するかなり特殊な措置だ。
「オクトライフル、残弾一発だよっ」
「分かった!」
今回の作戦が特殊であるように、ユウトも緊急措置としてクレナからフェンサーを借り受けている。
慣れない機体に多少のカスタマイズが組み合わさろうと、リンカーなら誰もが最初に乗る機体は数分で慣れる事が出来るだろう。
しばらくはオクトライフルで遠距離戦を仕掛けていたがそれも終わりだ。
「前に出ます。クレナさん、ポイントの指定をお願いします」
「了解。こっちなんてどうかしら?」
「ありがとうございます!」
ユウトの乗るフェンサーはオクトライフルからレーザーライフルに持ち替え、戦闘の最前線へと飛び込む。
そして敵味方入り乱れる戦場で識別マーカーを目印にし、グルムだけを的確に撃ち抜いていった。
「サンキュー!」
「いえいえ」
「よし、次のポイントに……何だ!?」
地面が爆発した。
そこはやや傾斜のある場所であり、真下には高速建造機があるとされている。
つまりヴィクテムがあった場所の真上だ。
「クッソ!」
「畜生!!」
「やられたぜ!!!」
煙の中からアルゴンが吹き飛ばされ姿を現す。
数機がそれに続き、パイロットたるリンカーは口々に悪態をついていた。
「ジンさん!? 皆!!」
「おぉユウトか! 情報は共有しとくぜ!!」
情報共有はバディの手によって素早く行われる。
そうしてユウトが掴んだ情報は“人の乗り込んだヴィクテムという機体が暴れているらしい”という事だけだった
「他に情報は……無いですね。今ヴィクテムはどこに?」
「来るぞ!!」
煙の向こうから金属の擦れる不快な音が響く。
それが収まると同時に火球が飛来し、真っ先に反応したリンカーが突撃を開始した。
「俺が前に出る!」
「おいバカ、何やってんだッ!!」
「大丈夫だって! 誰かが前に出ないと……うぉぁぁぁああ!?!?」
突出した機体は煙から顔を出した金属の竜に食われた。
誰も為す術がなく、一人の行動が無駄となっている。
竜がゆっくりと足を進めれば、背中に埋め込まれた騎士の上体が土煙の向こうから姿を現すだろう。
「こっ、コイツが……」
「ヴィクテム!!」
「上は動いてねぇ……ならッ!!!」
ここまででのヴィクテムは竜部分だけが攻撃を行っている。
残されていたデータを見ているジンはそれが不完全起動の証であると判断した。
「ジン、アンタ一体何をするつもり?」
「今ここで倒すんだよ。そうじゃないと多分ヤバい相手だぜ、コイツは……」
相手がグルムである確信は暇が無く取れていない。
例え相手が味方機あったとしても、これ程の性能を持って敵対するなら今撃破するしかないのである。
だが状況は予想と異なった方向へ進む。
『エグゼキューショナーズ・ソード……』
「何ッ!?」
不完全起動ではあったが、それは一過性の物で時間経過により改善されていた。
竜の背中から大剣を取り出してリンカーへと構えるその様子は、ヴァイカウントを彷彿とさせる物である。
一方の竜も翼を大きく広げて動きを活発化させ、口元から不気味な光を漏らしていた。
「厄介ね……」
「味方をまとめるのはクレナに任せる、ユウトはクレナの支援だ」
「了解よ」
「了解です」
「とりあえずの抑え込みは任せろ。……フェーズシフト、スピードフェーズ!」
ジンはこれまでの動きから防御力は基本無意味だと判断した。
打たれ弱いが高速起動が得意なフェーズに切り替えると、両手に素早くルナブレードを装備させてヴィクティムへと向ける。
「さて、お前はどこが弱点なんだ?」
ジンの知る限りだと、竜は真下に潜り込むか上から背中を叩きつけるのがセオリーである。
だが腹部と地面に機体を差し込むほどの余裕は無い。
背中は騎士が埋め込まれている為に論外である。
「観察ばっかしてても仕方ねぇか……」
既に数人が突撃しては爆散している。
概ね動きを読んだジンはブースターを全開にさせ、空中から斬りかかった。
それは慣性と速度の乗った良い連撃だったが、全ては防御されば後退を余儀なくされるだろう。
ヴィクティムと大きく距離を取ったアルゴンは手痛めたかのようにスナップさせる。
「かってぇ~! 何なんだよこのクソボス!!」
「マジで何なんだよコイツ……」
「機体特性を完全に使いこなしているようね。でも――」
基本的には竜の前足や騎士の甲冑部分だけが硬い。
ヴィクテムのパイロットもその事は理解しているらしく、四方八方からの銃撃へ完璧には対応出来ていない。
故に彼らが連携を取る事にはそれなりの効果が見込めていた。
「――このまま押し切るわよ!」
「「「おうッ!!」」」
ヴィクテムに対する攻撃は更に激しさを増す。
だがそれが続くのもここまでだろう。
『うっとおしい……ッ!』
「やっぱりパイロットは入ってるんだな!!」
「敵か味方か知らねぇが、引きずり出して顔を拝んでやる!!!」
ヴィクテムは大剣を竜の口に添えさせる。
すると口腔内を蠢いていた光は剣へと移動し、どんどんと蓄積させた。
騎士はレンズフレアを発生させる程の光を集め終えると、ようやく手に取り両手で静かに構えた。
「ありゃあ~……多分不味いぞ!!」
「「「何ですとぉ!?」」」
ジンの言葉を聞いたリンカーはそれぞれの判断で回避を試みる。
だが彼らが行動するよりも早く、騎士は大剣を振り下ろした。
『全て、断ち斬る!!』
赤い斬撃が一直線に伸びる。
その様子は迷いの森で出会ったヴァイカウントの再来と言えるが、ヴィクテムの斬撃は鋭く素早い
「とっ、トニー!」
「誰だよソイツ!?」
「ここは俺が食い止めッ……」
「「でかしたぞデカブツ!!」」
「…………やっぱ無理だぁぁあああ!!!」
「「嘘だろぉぉぉおおお!!!!!」」
数機は何も出来ずに両断された一方、少なからず存在した抵抗しようと試みた者も両断された。
生き残った者の多くは運が良かったと言えるだろう。
「あっぶねぇ……けどヴァイカウントよりはマシな範囲だな」
「えぇ。でも威力はとんでもないわ、注意して!!」
ヴィクテムの斬撃はクァドラン粒子の圧縮量と圧縮率が上がっている。
放射的な攻撃では無くなっている一方で、地面はヴァイカウントの攻撃以上に抉れていた。
そして大剣の光は未だ失われていない。
「もしかしてだが……」
「第二派警戒! 全機、各自の判断で回避しなさい!!」
「「「りょっ、了解!!!」」」
クレナの指示を受けた各機が散り散りとなった。
だが付近のグルムが駆逐されている事もあり、ヴィクテムは高威力の斬撃を存分に振るえる。
理性を持った獣の暴走はリンカーの手を焼く。
「クッソ、こんなのどうしろってんだ!?」
「俺が切り込む!!」
リンカー達に攻撃の暇は無い。
現状で最も機動性の優れるアルゴンは速度を生かし、撹乱を狙いヴィクテムの周囲を飛び回った。
するとヘイトはすぐに向かい、ヴィクテムはアルゴンを叩き落とそうと前脚を動かす。
「おっとぉ!」
ジンはそれを寸前で横に回避しつつ急上昇して騎士と真正面から睨み合う。
そして僅かながら確保出来た時間で操縦桿を離し、右手首に左手を添えた。
「嫌な感触だな……ッ!!」
ジンはヴィクテムの行動に獣の本能と人間の理性が混じった手応えを覚えている。
どちらかに振り切れているのであれば対処は容易いが、混じっていればそう簡単には行かない。
こうして観察の為に飛び上がれば竜の口から反射的に火球が飛来するが、アルゴンは腰部のブースターを巧みに操り回避した。
『やぁ、リンカー諸君。ヴィクテムとの戯れは楽しんで頂けたかな?』
「シヴァ!!」
地面に空いた大きな穴から姿を現したシヴァは大きく飛び上がってヴィクテムの隣に着地する。
リンカーは全員が武器を構えるが、相対するには圧倒的に戦力が足りないだろう。
『チッチッチッ……この機体はもう君達の知るシヴァじゃない。破壊の守護者、シヴァ・エフェクターだ』
シヴァはわざとらしく両手を広げて宣言した。
その機体は確かに以前と容姿が大きく異なっており、見た目からも強化された事が理解出来る。
だがそれ以外にも分かる事があった。
「エフェクターってお前、ラスボス様かよ……」
『そうだよ。僕こそが君達の言うラスボス、ルフス・エフェクター本人さ』
「何だと!?」
「つまりここで奴を倒せばゲームクリアって訳か」
「そうね。でも今の戦力じゃ倒しきれるかどうか……」
ヴィクテムだけでも苦戦していたと言うのに、強化されたシヴァも相手するとなれば苦戦は必至だ。
この戦場の指揮者たるクレナが増援を呼ぼうとしたその時、今度はルクシオンが地面から飛び上がり姿を現した。
「おせーぞルナクス!!」
「遅れてすまない」
彼はヴィクティムの登場によってリンカーが甚大な被害を受けているという報告を聞いている。
故にせめて撃破が出来るようにと、僅かながら単騎でシヴァの足止めすらやってのけた。
だが実際の状況を目の当たりにすれば様々な事が見えてくる。
「あの機体はまさか、ブレイバーか……!?」
「何だソイツ」
「いや、かの機体はパイロットと共に失われた。ならば!!」
デットウェイトとなる追加装甲は既にパージされている。
素早く動いたルクシオンは激流刀を引き抜き、ヴィクティムへと肉薄した。
それと同時にリンカーもヴィクテムへの攻撃を再開させたが、激流刀を押さえるのはシヴァである。
「貴様……何故邪魔をするッ!!」
『君達と違って、お友達を殺されたくないから助けるのさ。当たり前だろう?』
「って言う割に! グルムは使い潰すよなァ!!」
『グルムは駒に過ぎないからね』
アルゴンも黄色い刃のエネルギーブレードを手に持ち切り込む。
連撃を繰り出せば多少怯ませる事は出来るが、以前のような致命傷を作る事は出来ない。
『それに死を恐れる必要も無いのだから、使い潰すしか無いでしょ?』
「物はもっと大事にしろよ!!」
そういうジンも物の扱いは雑な傾向にあった。
現に今もルナブレードだけでなく、機体の四肢すらも利用して格闘戦を仕掛けている。
ルクシオンはその隙きを埋めるように動いているが、やはり両者の刃はシヴァを倒すに至らない。
一方のヴィクテムは順調に追い詰められていた。
「行けるぞ!!」
「先にデカブツを始末する、シヴァはキッチリ押さえとけよ!!!」
「りょーかい!」
「無論だ」
数の力は侮れないが、ヴィクティムは少し前までそれを質で圧倒していた。
なのに現在はそのバランスが崩れている。
『まともな試運転も出来ないと流石に分が悪い、か……。今日はこの辺りにしておこう』
シヴァはルクシオンとアルゴンを蹴り飛ばして戦闘を切り上げ、撤退の準備を開始する。
ヴィクテムも同様に動きを変えた。
すると分断されていた両陣営は再び一塊となり、相対する事となるだろう。
「逃がすか!」
「待てこの野郎!!」
『待てって言われて待つ奴が居ると思う?』
リンカーにしつこく纏わり付かれていたヴィクテムは大きくバックステップを行い距離を取る。
そして大きく広げられた翼で力強く羽ばき飛び上がった。
「何だとッ!?」
「待ちやがれ! 飛ぶとかズルいだろお前!!」
「背中のそれは伊達じゃないってか……ッ!」
ヴィクテムとシヴァの高度は一瞬にして戦場を俯瞰出来る位置にまで到達した。
そして動きを止めたまま、両機は静かにリンカーを見下ろす。
「チャンスか?」
『アセンション……ッ!』
「おっとこりゃ駄目だな」
竜の頭が大きく変形している。
不気味な光は眩しいほどに集まり、鼻先は真下へと向けられた。
『悪あがきの過ぎる君達にオマケをあげよう』
『……塵となれ!!』
「マジで不味いぞ、今すぐ逃げろ!!!」
「なっ、何だぁ!?」
竜の口から放たれた光線は一直線に伸び、先に存在した物全てを焼き尽くす。
シヴァも右腕を下方へ向けてレーザーを照射した。
それもただ放射するだけでなく、多くのモノを巻き込むように動かし被害を拡大させる。
「うぉぉおおおお!?!?」
「逃げられない!!!」
「くっ……!!」
『リンカー達の機体データは貰ったよ、じゃあね』
リンカーは僅か数秒で多くの被害を受けた。
ヴィクテムとシヴァはゆっくりと移動を開始したが、次の攻撃は無い。
「味方機、多数が甚大な被害を受けています!」
「ヴィクテム離脱します! 」
「不味いな……クレナ、どうする?」
「出来る事ならここで倒したいけど……」
だがリンカーとて戦力が圧倒的に不足している状態である。
既に侵入したグルムはほぼ殲滅され、戦力も心許ない以上ヴィクテムとシヴァの追撃は不可能だった。
「仕留めきれなかったか。クッソ、悔しいな……」
「全滅しなかっただけマシと思うしか無いわね」
「そうだな。だが我々の技術では完成させられなかったレーザー砲を完成させるとは、ルフス・エフェクターの技術も侮れん……」
仕留め残った驚異がどんどんと小さくなっていく。
これからの不安を胸に、ジン達リンカーは空を見上げた。




