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赤い星のリンカーネーション  作者: 鳥皿鳥助
6章 アップグレード
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第56話 デストルクシオン






 ジン達が大乱戦に巻き込まれた一方、その原因たるルクシオンとシヴァは変わらず向き合っていた。


「人集めは間に合わなかったか。ホロスコープが居ないのは幸いだが……」

『残念だけど僕の言うことも聞いてくれないんだよね、彼らは極めて独立した存在だからさ』

「ならば、勝機はこちらにある!!」


 ルクシオンは右脚のブースターにエネルギーを送り、爆発的な加速力でシヴァに迫り刀を振るう。

 だがシヴァはレーザークローを使用する事無く蹴りでそれを迎撃し、更には慣性を奪った。


「くっ……!!」


 ルナクスが雪を巻き上げながら機体の姿勢を立て直した頃、シヴァは輸送機へ近づき炎の中から人を拾い上げた。


 それからもしばらくは一進一退の攻防が続けられる。

 いつでも支援出来るようにスコープ越しで彼らの戦いを見ていたユウトには、コックピットへ乗り込んだ人影に見覚えがあった。


「あれは、メンディ鉱山の時の……」

「どうした?」

「あっいえ、何でもありません!!」

「なら良いが……とりあえず俺はルクシオンの援護に回る、他は任せたぜ」

「「了解!!」」


 ESFの各機は密集した陣形から素早く分離する。

 ブースターを吹かして素早く急上昇したブレイズ・Rはシヴァ目掛けて加速し、機首から衝突する寸前で反転した。


「そーらよっとぉ!!」

『横槍かい? 無粋だねぇ、全く……』

「ウマそうなチャンスは喰らうに限るだろぉ!?」


 ジンの繰り出した渾身の飛び蹴りは片手で受け止められた。

 だが勢いはシヴァの予想以上にあったらしく、慌てて両手に切り替え腰を落としている。


 慣性がほぼ打ち消されると同時に反撃を試みるも、ブレイズ・Rは蹴りを入れて回避。

 それと同時に双剣を展開した事で隙きが生まれたものの、ルクシオンが入り込む事で反撃の芽は完璧に潰された。


『ふふっ……評価を訂正するよ』

「あぁ? 何をだよ」

『君も、その機体も。とても面倒だ』


 シヴァは腰に懸架していたレーザーライフルを両手で持つ。

 対するジンは自慢の速度で強引に肉薄し切り落とす算段をしている。


 だがルナクスはそうした事ばかり考える訳にはいかない。


「味方の損耗率が高すぎるな……。ここはお前に任せる、五分持たせてくれ」

「りょーかいりょーかい」


 ニックス大陸はなだらかな雪原が続く場所である。

 クレバスのような天然トラップこそ無いが、遮蔽物が少ない上に足元が不安定と言う事で動物型グルムが想定上の驚異となっているらしい。


 ジンの返答を聞いたルクシオンは高く飛び上がり離脱した


「どんくらいヤベェ相手か知らねぇが、持たせると言わずちょちょいのちょいで撃破してやんよ!」


 ルクシオンの残した熱は周囲の雪を水蒸気化させている。

 視界状況が悪化するのも構わず、ジンは双剣で振り払い強引に改善した。






 ――――――――――――――――――――







 シヴァとの戦闘から離脱したルクシオンは味方機の支援に向かう。

 低空飛行で最前線に飛び込むとグルムに近付き、次々と切り刻む事で爆炎を作り回った。


「たっ、助かりました!」

「盟主!!」

「ここまでの数は厄介だな。他ユニオンとも密接に連携して事に当たれ、千景をサポートに回そう」

「「感謝します!!」」


 指示を出したルクシオンは再び動き出す。

 だが今回は低空飛行はせず、ただ上空へと登るだけであった。


「周囲の地形データ収集しました」

「あとは千景に任せる」

「承知しました」


 サブモニターに一瞬だけ出現した黒髪の和服少女はすぐに姿を消す。

 即座に降下も出来るが、ルナクスは自身の目でも戦況を見る為にゆっくりと降下した。


「……む?」


 彼の目に付いたのはレジーナの暴れ具合である。

 エクリプスを始めとした多くのリンカーに援護されつつ、バスターキャノンユニットを用いてグルムを効率的に減らしていた。


紅葉(いろは)……いや、クレナも随分とやるようになったな」


 彼女がこの言葉を聞いていれば自分も成長しているのだから当たり前じゃない、と返したことだろう。


 そうして戦場を観察している内にルクシオンは地上に到達した。

 当初は個々人で繰り広げられていた乱戦だが、今はいくつかのグループにまとまっている。


「申し訳ありませんマスター、指定するルートの敵機を撃破して頂けないでしょうか」

「構わんよ」


 千景がサブモニターにルートを示し、ルクシオンの主たるルナクスはすれ違いざまに敵を切断する。

 これによって分断されていたいくつかのグループが収束した。


「感謝します!」

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません……」

「問題無い。千景は引き続き援護に回そう、君達は戦線の維持を」

「「了解です!!」」

「承知しました」


 それからも千景の指示で何度かグルムを撃破しつつ移動し、ルクシオンはようやくシヴァの姿を再び捉えた。

 だがそこに対峙していたブレイズ・Rの姿は無い。


「彼では抑えられなかった……いや、少し遊びすぎたか」

『ルナクスすまん! 逃げられた!!』

「構わんよ」


 時間は既に七分が経過している。

 千景の報告によれば両機はお互いに同等の性能を持っており、五分ぴったりまでは抑えきれていたらしい。


 だが一瞬の隙きを突いたシヴァが逃走したようだ。

 現在は別の敵に足止めされている。


『ルナクス、君の集めた仲間も案外大した事なかったよ』

「どうだろうな」


 ルナクスの“エル”と呼ぶ人物は相変わらず彼らを煽っている。

 だがシヴァは全身の装甲が焼け焦げている上に左腕が大きく破損していた。


 破損の少ない部分でも装甲表面は削り落とされ、内部のフレームやケーブルが露出している部分も多い。


「彼がここまでやってくれたんだ。エル、貴様だけは……絶対に逃さんッ!」


 ルクシオンはこれまで使用していた清流刀の刃を掴み柄と分離、つまり抜刀したのである。

 コックピットでは素早い操作が行われ、追加装甲のパージも同時進行で行われた。


「リミッター解除、セッティングプロファイルを千景からルナクスに変更……」

「完全起動完了しました」


 鋭い鞘は地面に突き立てられ、パージされた装甲が辺りに散らばっている。

 こうして秘匿されていた流線型な装甲は黒色のウィングスラスターと共に開放された。


『激流刀にルクシオン……そんな旧世代の武器と機体で、君達の最高傑作に勝てると思ってるのかい?』

「出来るさ」


 突き立てた刃は持ち手が無い為に武器としては使えない。

 ルナクスは装甲共々放置してシヴァを見据える。


「はぁぁぁ……ふんッ!!」

『そんな攻撃……ッ!』


 ルクシオンが素早く踏み込み、青白いブレードを全力でスイングする。

 対するシヴァは最小限の動きで回避しようとするが、ダメージによる能力低下は想像以上であった。


 それでも胴体部への被弾は何とか避け、左腕の切断のみに被害を押さえている。


『ふーん、思ったよりやるね』

「当たり前だ。ルブルムが英雄の弟子だからな……!」

『でもまだまだ甘いよ』


 シヴァのコックピットが開かれ、中から煙幕が振りまかれた。

 救難信号を出す為の物を輸送機から回収していたらしく、数体のグルムがルクシオンに飛びかかり撤退の支援をしている。


「流石に厄介だなッ!」

「シヴァ! テメェは逃がすかよ!!」


 足止めを振り切ったブレイズ・Rが飛行形態で煙幕の中に突撃する。

 激突上等で行った行動だが、それは結果的に数体のグルムを巻き込んでスモークを排除するだけに終わった。


「クッソ、逃げられたか!!」

「肉を切らせず骨を絶つ……か。してやられたな……」


 戦闘の予熱が残る雪上に、シヴァの姿は無かった。






 ――――――――――――――――――――






 大規模戦闘では機体の輸送が間に合わない事が少なくない。

 そうした待ち時間でルナクスを見つけたユウトはジンとクレナを引き連れ、とある事実を伝えに向かった。


「エルがメンディ鉱山に居ただと?」

「はい。僕があの時話していればこうならなかったかもしれないのに……」

「ユウトだけの責任じゃないわ。私も気付けなかったし……」

「これは君達の責任では無い。それよりも、情報提供に感謝する」


 エルは“いずれまたどこかで”と言っていた。

 それはこの事態を引き起こす、ある種の犯行予告だったのだろう。


 だがそれを何も知らないユウトが気が付くのは不可能に近い。

 多少は情報を持つクレナであろうとそれは同じだった。


「ふむ……もう一人フードを被った人物も居たと聞いたが、そちらの人物は何か言っていたか?」

「私は何も。ユウトは何か覚えてる?」

「確信は無いですが、“また会えたな”と言っていました。声にはしていなかったんですが……」

「やはりスパイは二人居たか……。情報感謝する」

「いえいえ! お役に立てたならなによりです……!!」


 ユウトは頭を下げるルナクスに恐縮する。

 だが頭を上げたルナクスの顔には困惑が張り付いていた。


「で……何故ブレイズ・Rは雪の埋もれているんだ?」

「あーアレな、装甲を冷やす為なんだよ」


 ブレイズ・Rは装甲を含めた機体全体の温度を一定に保つ性質があるらしい。

 上限は未だに分からないが、起動時の最低温度がおよそ50℃だと考えられている。


 そして戦闘時には100℃を超える程になっているそうだ。


「熱いと輸送機に入れられないじゃん? なら冷やすしか無いだろ」

「そ、そうか……」






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