第51話 ジンの秘策
クレナとユウトが秘密兵器を持ち出した頃。
アルゴンが実質的な戦闘不能となり、動かせる機体を失ったジンが頼ったのはヘンリー博士である。
彼の言う例の機体、それはブレイズの事であった。
『結論から言うなら、使える……と思う』
「「「思う?」」」
ヘンリー博士の曖昧な言葉にも理由はある。
どんなに修復し現行のCAに近付けたとしても、やはりメインジェネレーターはジンにしか起動出来なかった。
故に可動チェックのほとんどが終わっていない。
『まぁサブジェネレーターである程度のチェックはしてるから、問題は無いと思うけど……本当に使うの?』
「ぶっつけ本番でも上等ってモンだろ」
『そう、か……。なら使うとしよう』
自信満々のジンに、ヘンリー博士はどこか心が救われたらしい。
安堵の声を漏らすが、問題点はまだある。
「でもアルはどうするんだ?」
「そっ、そうですよ! バディは直接ケーブルを接続しないと移動出来ないんですよ!?」
ブレイズはヘンリー博士の工房にある。
一方のアルゴンはマーグヌム・カストラにあり、戦闘中の移送である事やバディの移行作業にそれなりの時間がかかる事を考えれば現実的とは言い難い。
『残念だけど、ブレイズは元々バディを搭載して動かす構造をしていないし余地が無いんだ』
「つまり俺一人でも動かせるって事か」
「普通ならマズイが、今回に限ってはメリットになるな……」
――――――――――――――――――――
行動の決まったヘンリー博士は、早速輸送機によるブレイズの移送を開始。
ジンもマーグヌム・カストラから輸送機で空へ向かい、ブレイズを迎えに行った。
『さて……この間にブレイズの特性でも話しておこうか』
「おう」
『まずは名前だけど、“ブレイズ”から“ブレイズ・R”に変えたよ。……言わなくても分かると思うけど、リペアのRだからね?』
「だろうな」
基本的な特性の部分だが、遠距離戦よりは超高機動近接戦闘向けが得意なベース設計となっているそうだ。
第九世代の機体と見劣りする程に小さかったが故に間合いに不安があったが、大きく損傷していた四肢を修復すると同時に延長する事で対応。
そして通常時でもかなりの速度が出ると考えられているが、ブレイズ・Rは飛行形態への変形機構も有している。
それらの機能を活用する事により、機体の大きさ以上の働きが望めるだろう。
『……っと、お荷物は到着したみたいだね』
二機の輸送機が対比速度を合わせて飛行している。
ジンはハッチを開けて何とか飛び移り、ブレイズ・Rのある輸送機へと乗り込んだ。
「こっわ~……」
『行けば分かるけど、機体は一番端に置いてるからね』
「了解」
他に機体が無い事もあり、お目当ての機体すぐに見つかった。
ブレイズ改めブレイズ・Rは、新たな主を歓迎するかのようにジェネレーターを起動する。
『まだ乗り込んですらないのにコレとは、凄まじく相性が良いみたいだね』
「なーんかアルに聞かれたら刺されそうなセリフだなぁ……」
新たに取り付けられたコックピットへ乗り込みハッチを閉じれば、モニターに外部の映像が映る。
内装はアルゴンと同様、つまり何もカスタマイズが成されていない状態だ。
「何かサブモニターに色々文字流れてるんだが……」
『あー、それはバディの音声案内の代わりだね。エラーチェックとかも兼ねてるんだけど、コッチで対処するから気にしなくて良いよ』
「りょーかい」
ブレイズはOSがかなり優秀だったらしく、バディが居なくても機体OSが同等の仕事をしてくれる。
その完成度はヘンリー博士が多少の手は加えただけでブレイズ・Rに搭載した点にも現れていた。
「……けど通信の対応とか考えたら、やっぱバディ居るよな」
『分かる! 文字だけってのは味気ないよね~』
そんな事を話している間に初期起動チェックは終了。
ブレイズは戦闘状態となり、輸送機から身を投げた。
「なぁなぁ、これどうやって変形させるんだ?」
『えーっとねぇ……普段バディが居る辺りに色々なデータ出てると思うんだけど、そこをちょっとイジったら出来るはずだよ』
「オーケー」
ジンはヘンリー博士の指示に従い、機体を飛行形態へと変形させた。
その間にも無数のデータが表示されており、指示出しと同時にヘンリー博士がそれらの処理している。
『何、ブースターのリミッターが解除された……だって?』
「マジか! いっちょ踏み込もうぜ!!」
『バカ何やってんだよ!! そんな事したら――』
ブースターは想定スペック限界まで速度を出し、爆発的に降下速度を稼ぐ。
だがそれはオーバーヒートを引き起こし、サブモニターに真っ赤な文字を並べる結果となった。
『――ほら、言わんこっちゃない』
「すんませーん。ってか何かやたら熱いんだけど、コレもしかしてヤバイ状況?」
『それ以外に見えるなら褒めてあげたいね』
ヘンリー博士は状況をどうにか出来ないか奮闘する。
だがどうやらブースター周りだけでなく、システム全体に大量のデータが蓄積してしまいメインジェネレーターまでもが異常発熱しているらしい。
全システムを再起動すれば多少早く復旧するが、それを実行するには些か勇気が必要となる。
『地表までの高度は余裕がある、やるなら今か……!』
「あの博士、アンタ一体何をしようとしてらっしゃる?」
『ちょっと全システムを再起動するだけさ。操縦装置には触れないでくれよ?』
「えっ、おいマジかよ!!」
ブレイズ・Rの高度は既に地上での戦闘が見える程の位置に達している。
ジンの経験則からすれば、ここで取る選択肢としては非常に不安を覚える物だ。
だがその原因も彼にあるのだから、ヘンリー博士は躊躇無く再起動を開始する事が出来た。
「マジでやりやがったなアイツ……!!」
モニターからは光が消え、コックピット内には風切り音とサブジェネレーターの稼働音だけが響く。
それからしばらくして再起動が完了し、ヘンリー博士との通信も回復した。
『やっはろー、勇者君。調子はどうかな?』
「おう博士ぇ~! ご機嫌な訳がねぇだろうが!!」
『まぁまぁ。僕に文句を言うより、今は前を見たほうが良いんじゃないかな?』
「……え?」
ブレイズ・Rは真下を向いて加速をしていた。
そこから機首の方向を変えていなかったのであれば、地表が目前に迫って来るのも仕方ないだろう。
だが“仕方ない”で墜落する訳にはいかない。
ジンは素早くフットペダルを踏み込み、左右の操縦桿を全力で手前に引っ張る。
「ぬぅぅぅぉぉぉぉおおおおお!!!!」
凄まじい圧力が機体全体に襲いかかるが、幸いな事に分解する事無く形を保っている。
ブレイズ・Rは線上に焼き払われた木々の隙間に落ち、残り十数mという所で墜落を回避した。
だが予期せぬトラブルは次々とジンを襲う。
「……ッスー、何でブースター止まらねぇんだ?」
『踏み込みすぎだねぇ!! アハハッ!!!』
「この野郎ッ……!!!」
再びブースターがオーバーヒートしていしまい、暴走を始めたのだ。
今度は他のシステムが無事な為に多少マシではあるが、空中と違い地表付近には多くの障害物が存在する。
例えば戦闘中の機体とか――
「――そこのデカブツ! 轢かれたくなきゃ今すぐ左に動け!!」
「えっ!?」
互いに聞き慣れた声ではあるが、その正体を確かめる時間は無い。
バスターキャノンユニットを回避したブレイズ・Rは、巨大な獅子型グルム……レオを目前に捕らえる。
「そっちのお前は敵だな? 避けんなよ!!」
素早く判断を下したジンは飛行形態から人形形態へと機体を変形させ、レオの顔面を掴む。
そしてサーフボード代わりとする事でようやく減速を果たした。
「ふぅ……ようやく止まったぜ」
「アンタ、相変わらず無茶苦茶だけど良くやるわね……」
「最強無敵のブレイバー! なんてな」




