第44話 ヴァイカウント
飛びかかってきたカニスを真正面から両断し、地を這うクルスは蹴り飛ばす。
その周囲では後方から飛んできた銃弾により次々とグルムが破壊されていた。
そうした戦闘は十数分程続けるも、グルムの増援が途切れる予感は未だ無い。
一方で味方の戦線が崩れる気配も無かった。
だがかなりの数を倒した今、敵の出現率は僅かな低下を見せた。
『行ける、行けるぞ!!』
『奴らを押し返せ!』
味方はその真実に際し、大いに盛り上がった。
だがジンはそれに乗り切れないで居る。
「何だ、この違和感は……?」
アルゴンは最前線で敵を斬り裂き、複数機が後方から彼の援護と敵の殲滅が行われる。
複数人で進める作戦は一見順調だが、ジンには違和感があった。
「もしかしてだけど、これって……」
それは典型的なボスが出現する流れである。
彼が経験則から来る警戒感を強めていると、斬撃状に濃縮されたクァドラン粒子が飛んできた。
『なっ、何だ!?』
「やっぱりな」
それは以前も遭遇し、目にした攻撃。
だが以前より威力は低く、ルナブレードで難なく切り払える程度であった。
「敵機確認、ヴァイカウントです」
「ルナクスも取り逃がしたって言ってたモンな、そりゃ来るだろうよ!」
以前は粒子雲の中で出会った相手だが、青空の下で見れば黒い騎士のような見た目をしているらしい。
その機体は見た目以上の速さでアルゴンへと接近し、クレイモアを振るう。
「まっず!」
急襲であった事、そして速度重視であるスピードフェーズであった為に対応するのは難しい。
そして何より、周囲の味方機は巻き返したグルムの増援により戦線を維持するのがギリギリとなっていた。
故にアルゴンとヴァイカウントの戦いに参加出来る者は居なかった。
ただ一人を除いては。
「クッソ……!!」
「届けぇぇぇぇぇえええ!!!」
投げられた一本の剣はヴァイカウントに弾き落とされるが、大きな隙きを作り出した。
つまりはアルゴンの窮地を救ったのである。
「今のってもしかして……」
「鉱山方面からの投擲、味方機による物ですっ!」
体勢を立て直したアルゴンは素早く剣を拾い、味方戦線まで後退する。
そこで待つのは金色の装甲を纏う騎士だ。
「ソル・フレアって事は、ヘリオスか」
「せやで!!」
「一緒に戦う気になったのか?」
ジンは剣を差し出す。
「……ウチは気付いたんや。憧れは一つじゃなくて良いし、力は正当な方法で手に入れないと意味が無い。ましてや、駄々をこねて手にするようなモンやない」
ヘリオスはそれを受け取り、ヴァイカウントへと向ける。
「努力して手に入れないと意味が無い、だろ?」
「何でアンタが先に言うねん! ウチが言おうと思っとったのに!!」
「アンタじゃねぇよ。ジンで良いぞ」
「そう……か。ほなよろしくな、ジンはん」
「おう!!」
戦闘は再開された。
アルゴンがブースト全開で飛び回り、ソル・フレアがその後ろに追随する。
それによって双方に足りなかった“速度の早い攻撃”と“堅実な攻撃”が組み合わさり、ヴァイカウントを徐々に後退させるまでになった。
その様子は少し後方を戦場としている二人も見届けている。
「何だかんだで良いコンビね、あの二人」
「そうですね。喧嘩しだした時にはどうなるかと思いましたが……」
アルゴンが切り込み、ヴァイカウントに反撃の兆候が見られればソル・フレアに入れ替わり攻撃を防御。
その間にも手の空いた方が周囲のグルムを殲滅し、安全な戦闘領域を確保していた。
「あれはバディのおかげって所かしらね」
「そう、ですね~……」
ユウトの頭にはパイロットが考えた作戦である可能性が過り、一瞬クレナの言葉を否定しそうになった。
だが二人は確実に作戦や連携を考えるのが苦手なタイプだ。
つまりは二人のバディが必死の思いですり合わせているとしか考えられないのである。
「ご愁傷様です……」
周囲のグルムは味方の協力もあり、ほぼ殲滅が完了した。
彼らに残された相手はヴァイカウント一機だが、決め手が足りず手をこまねいている。
「ふーむ、どうした物か……」
スペックが高い訳でも特殊能力を持っている訳でも無いのに、ヴァイカウントは二人がかりでもマトモなダメージを与えられない程に強い。
それは単純に操縦者の技術が優れているという事である
数でゴリ押しするにも他に手の空いたリンカーが近くに少なく、居たとしてもジンやヘリオスと並び立てる程では無い。
「……アウルムアルクスを使うのはどうでしょう。フルチャージでぶつければ、あの防御も流石に抜けると思いますが」
「んなモンチャージしてられんだろ」
入れ代わり立ち代わり、ヴァイカウントと斬り合いながらもジンは頭を動かす。
ヘリオスに約八秒耐えて貰うのは良いとして、明らかな隙きを作ればヴァイカウントは必ずアルゴンを狙うだろう。
そうなれば反撃するしか無く、矢を狙って放つ事は出来ない。
「いえ、出来ます」
「マジで!?」
ソル・フレアに耐えさせ、アルゴンの様子にヴァイカウントが気付くまでにおよそ七秒。
そこから僅かなエイムと最終チャージで一秒足りないのだが、アルは最初から当てないつもりで動けばもう少し余裕が生まれると予測したのだ。
「はぁ? んなモンどうするんだよ」
「他人に撃たせるんです」
フルチャージしたアウルムアルクスはエネルギーを数秒保持出来る。
その声質を利用しようと言うのだが、彼らの近場でそれが出来る機体の候補は少ない。
「ヘリオス、お前が撃て」
「はぁ!? ウチかいな!!」
「アナタはこの弓が欲しかったのでしょう? 使用者の許可が降りる数少ない機会です、遠慮はいりませんよ」
アルゴンは足を止めたソル・フレアと入れ替わり、ヴァイカウントの相手をする。
ヘリオスはモニター越しに映るアルゴン、そしてアウルムアルクスへと腕を伸ばした。
だが彼女の求める力はこうして手に入れて満足出来る物では無い。
「いや……ウチはそれを使わん」
「あ、そうなの?」
「悪いなぁってあれぇ?」
だがジンとアルの作戦に変更は無い。
彼らは既にチャージを始め、ヴァイカウントの攻撃を回避する段階にあった。
「んじゃあ~……ユウト、頼んだぜっ!!」
「えっ今ですか!?」
アルが最適な角度と速度を導き、ジンはそのコースに沿って弓を投げる。
金色の粒子を纏う弓はグラファイトの手に寸分違わず収まった。
そうして持ってるだけでも、アウルムアルクスは多量のエネルギーを吸い取っている。
「これを満足させられる出力のアルゴン、ヤバいですね……」
「んな事は今良いから! さっさと撃ってくれ!!」
「はっ、はい!!」
素早く狙いを定めるユウトだが、トリガーを引くには至らない。
「少し遠い……ッ!」
グラファイトの狙撃は、高精度な照準装置を搭載するオクトライフルが頼りとなっている。
故に機体だけで長距離の狙撃をするには不安があった。
そうして悩んでいる間にも戦況は変化してしまい、射線が閉ざされてしまう。
だがユウトが大きく動く事は出来ない。
「ユウト君、上!」
「なるほど! ありがとう、ツグミ!!」
グラファイトは脚部を縮め、一気に解放する。
それにブーストも併用すればかなりの高さが稼げるだろう。
「狙い撃ちますよ……ッ!!」
敵味方問わず上を取れれば射線の問題は無くなり、ユウトは狙いを定める事に集中出来る。
そして優れた照準装置を持たないグラファイトだが、パイロットは腕の優れたスナイパー。
金色の粒子が集まる矢はヴァイカウントのみを正確に撃ち抜く事が出来る。
「この威力……癖になりそうですね」
「「やるなぁ!!」」
「あ、ありがとうございます!!」
グラファイトは手を振りながら着地し、アウルムアルクスをアルゴンへと返却した。
そこからは素早く黒い霧と紫電を纏い離脱するのみである。




