第40話 ラスボスは丸いアイツ
無事にマザーベースを撃破したジンとユウトだが、彼らは即座に踵を返しマーグヌム・カストラ内部へと潜る。
地図は既にミドリから転送されているのだが、状況を聞く間も無く通信は途絶してしまったらしい。
それは大抵の場合で急がねばならない状況だ。
「次の分かれ道は左です」
「オッケー! ……って扉あんだけど!?」
「厚さは調査済みです。ジンのいつもの手が有効ですよ」
「そりゃあ良いな!」
アルゴンは脚部のキャタピラを動かし上段蹴りを披露する。
分厚い鉄板で隔てられていたそこには、高濃度のクァドラン粒子が立ち込めていた。
「何だこりゃ……」
「遅いわよ!!」
ここまで近付けばボール状グルムと戦うレジーナにも通信が届く。
ジンとユウトは素早く陣形を組み、周囲を警戒する。
「クルスか?」
「いいえ。やつはホロスコープシリーズの一機……ジェミニよ」
クレナの言葉を聞いた直後、アルゴンは被弾した。
同地にレジーナとグラファイトも被弾。
粒子濃度が高すぎてよく見えないが、相手は丸いフォルムをしているようだ。
「チッ……敵は複数居るのか?」
「いえ、反応は一つだけです」
「ジェミニはクァドラン粒子を操作する。それで攻撃したり身代わりを作ったりしてるわ」
ジェミニは自身の分身とも言える存在を作り出したり、圧縮した粒子をぶつける事が出来る。
それをエネルギーとして利用出来ない事は不幸中の幸いだろう。
だが今回は場所が悪い。
「ま、相手も粒子が無いと活動出来ないみたいだから……無闇に消費は出来ないんでしょうね」
「そうだな。だが、面倒なやつが面倒な所に現れたモンだよ!!」
閉所かつ高濃度粒子下という場所は極めてジェミニに有利で、CAのような機動兵器にとっては極めて相性が悪い
「しかもアイツ、粒子でコッチの攻撃を逸らせるっぽいのよね」
「なるほど……それで弾かれてるのか」
レジーナのセルペンテスにしてもアルゴンのバスターブレードにしても、彼らの攻撃はジェミニへと当たる直前で拒まれている。
それはジェミニの周囲に集められた粒子が高い圧力を持っている証拠だ。
「どうしたモンかねぇ……」
「らしくないですね。いつものジンならゴリ押しをしてるじゃないですか」
「は? いやだからそうも行かないって……」
「コチラが粒子の圧力に勝つレベルの出力を出せば良いだけです」
「なるほど?」
CAは意図的に粒子雲を吸い込み、ライズリアライザーの出力を上げる裏技がある。
普段はアルがコントロールし調整している部分だが、こうした場合では使用する事も選択肢に入るだろう。
「けどよぉ、それってタイトが使うなって言ってたやつじゃ……」
「そうよ! 最悪コントロールを失って暴走、機体が甚大なダメージを受ける可能性があるのよ!?」
実際、βテストの時はこの方法で多くの機体が自爆した。
だからこそメビウスはバディに管理させ、その方法を簡単に使えないようにしているのだ。
「ですが、今が使い時です」
絶対に相手を逃さない閉所。
そして高い粒子濃度という条件は、彼らにも有利に働いた。
「分かった。……やろう!」
「はぁ……もう分かったわよ。援護するから、指示を頂戴」
「あっ、あの! 僕も援護するので!!」
「助かります」
アルの指揮により、ESFの各機は陣形を維持したまま壁際へ寄る。
「けどオクトライフルは弾切れだし、僕は何を使って戦えば……」
「コレを使え!」
ジンはグラファイトへバスターソードを投げ渡す。
それと同時に姿を変え、パワードフェーズとなった。
「良いんですか?」
「おう。どうせ使えないしな」
「使えないって……じゃあどうやってジェミニを攻撃するんですか?」
「んなもん、決まってんだろ!」
「えぇ……ジンさん、まさか……」
アルゴンが吸気を始める。
エネルギーの過剰供給は機体に大きな負担を与え、ライズリアライザーから大きな悲鳴を上げさせた。
両腕部のビームトンファーは巨大化している間にもジェミニは攻撃を仕掛け、彼らに次の行動を取らせまいとする。
「ジン、そろそろ限界です……っ!」
「オッケー。そんじゃあ……行くぜ!!!」
「ッ! 離れるわよ、ユウト!!」
「りょ、了解です!!」
ジンの宣言を受け、レジーナとグラファイトは素早く距離を取る。
ジェミニは残された足を止めたままのアルゴンを格好の獲物だと認識し、分身と共に襲いかかった。
「分身モドキが何だってんだ!!」
ビームトンファーが粒子の塊を切り裂き、ジェミニ本体を挟み込む。
ジンはそのまま撃破しきれると踏んでいたが、相手も必至の抵抗を見せている。
「敵側面の粒子濃度が急激に上昇しています」
「コイツもやるな!」
だがジェミニがそれ以上の動きを見せる事は無い。
何故ならジェミニは粒子操作以外に武装や能力を持たず、その力もこうして防御に専念されているからだ。
「だけど!!」
つまり状況を動かすのはアルゴン、そしてそのパイロットであるジンである。
彼はビームトンファーへのエネルギー供給を止め、機体に拳を握り込ませた。
「胴体がガラ空きだぜェ!!!」
側面に粒子が集中しているという事は、前後の粒子は減少したという事である。
確実に拳で貫ける濃度になったその場所目掛け、ジンは上段から全力のパンチを叩き込んだ。
勢いはジェミニの中枢を破壊しただけでは止まらず、不快な金属音と共に部屋の反対側の壁に残骸を引きずるまで止まらない。
「敵機の活動停止を確認、吸気を停止します」
「ふぅ……」
これで粒子を操る存在は居なくなり、部屋には静寂が訪れる。
そのはずだった。
「……君達、ちょっと待ちたまえ」
「ミドリ? どうしたの?」
「そのジェミニってやつ……」
撃破したはずのジェミニは再び浮かび上がる。
全員がすぐさま戦闘態勢を取るが、相手に動きは無い。
「……自爆機能があるみたい」
「「「マジですかーー!!!!」」」
ジン一行は慌てて部屋を出る。
ミドリの解析によれば、ジェミニの自爆はこの拠点を破壊する程の物では無い。
だが長時間粒子雲の中に居た為、通路への退避では足りないレベルで危険な可能性があるそうだ。
「今から間に合うかは分からんが……外まで走るぞ!」
「おいおいおい!! 最後にこれかよ!!!」
三機はブーストを吹かしながら通路を移動する。
だが長距離航続が苦手なグラファイトは時々息切れを起こし、最後方に位置していた。
「ごめんなさい、足を引っ張っちゃって……」
「気にすんな!!」
アルゴンとレジーナで交代しながら引っ張っているが、出口まではまだ距離がある。
これでは全員が爆発に巻き込まれてしまうだろう。
ユウトが自分を見捨てろと提言するか悩んでいたその時、一人のバディは妙案を思いつき提案する。
「そうだ!」
「ん? どしたよアル」
「吸気を停止してもまだエネルギーは残っています、スピードフェーズでグラファイトの背中を押せば間に合うかと!!」
「でかしたァ!!」
窮地を脱する最善策。
ジェミニの存在は良くも悪くも、彼らに大きな影響を与えた。
「助かります!」
「この先は直線、あと少しよ!!」
機体各所に増設されたブースターが二機分の重量を支え、直線での移動速度を上げる。
「外だ!!」
外では既にファントム・エクスの拠点制圧隊が到着しており、突入の準備を進めていた。
だが今それを行動に移される訳にはいかない。
「アル、通信を開け!」
「やってます!!」
「よぉし、コレを聞いてるお前ら!! 今すぐ伏せろぉぉぉおおお!!!」
『お前達、一体なにが……まさかッ!!』
何が何だか分からないという様子だが、ファントム・エクスの団員は優秀である。
緊急性を言葉から読み取り、即座に指示に従った。
「間に合うか!?」
「かなりギリギリね!!」
通路を飛び出したアルゴンとグラファイトは右へ、レジーナは左へと急旋回し着地する。
各機が正面装甲で地面を擦りながら速度を落とし終える、通路からは巨大な爆煙が上がった。
「ま、間に合ったぁ~……」
「間一髪だったな……」




