第30話 空を這う鉄の蛇
今回の実験で使用されるのはヴァイパーとシディウムがそれぞれ一両ずつだが、実際の戦闘では複数両が使用される予定となっている。
つまり今回は少数の列車でどこまで敵機の迎撃が出来るのか。そして撃破された場合、どのように崩壊するのか……という所を見るようだ。
シディウムは最初から拠点状態で配置し、ヴァイパーはその隣に配置。
アルゴンとレジーナもある程度の距離を取った状態で実験の準備は行われていた。
『――列車側異常無し……っと。CA側はどうかな?』
「アルゴンは問題無いぜ」
「レジーナも問題無し、いつでも行けるわ」
『分かった。じゃあ10カウント後に戦闘を始めてくれ』
「「了解!」」
ジンとクレナは操縦レバーを深く握り込み、ヘンリー博士は軽く息を整えカウントダウンを始める。
『――3、2、1……実験開始!!』
「シンプルに行くわよ、ジン」
「あぁ、最高最速でぶっ潰すぜ!!」
ヘンリー博士のカウントがゼロになった瞬間、アルゴンとレジーナは勢いよく駆け出した。
対するヴァイパーも線路を“生成”し、彼ら目掛けて突撃する。
「何だァ? その赤い線路はァ……」
「気をつけてなさいよ、ジン」
「わーってるよ――」
ジン達に迫るヴァイパーは、線路を設置しているのでは無く“生成”している。
いくつかのデメリットを抱えているその機能だが、大きな代償と共に得たメリットは大きい物であった。
「――列車が飛ぶ……ってか走るとか、そんなのアリかよ!」
「クァドランレールね。さっきタイトから送られたデータに書いてあったわよ……」
「マジか、概要しか見てなかったわ」
「……ジンは資料をマトモに読まないと学習しました。以後は私も目を通し、記憶しておきます」
「おっ、おう! 頼むわ……」
「来るわよ!!」
列車の中でも攻撃型と位置づけられたヴァイパーは、レーザー兵装を主体として兎に角撃ちまくるというスタイルを得意としている。
それが地上からだけであれば即座の迎撃が可能なのだが、上を陣取られてしまう現状ではそれが厳しい。
CAはブースターの使用によってある程度の飛行・滑空が可能ではあるが、高速度域を自由自在に動き回るような相手には追いつけないからだ。
現にジンとクレナは防御に徹している。
大きく動けば撃破する事は容易いだろうが、大きく動く為には相応の隙きが必要となるだろう。
『クァドランレールはクァドランラミネート効果を利用して生成される線路。君達の身近だと、そうだなぁ……ルブルムへの降下時に必ず使用しているはずだよ?』
「なるほど、アレか! ……で、弱点とか破壊方法は?」
『さぁ? クァドラン粒子の研究過程に偶然生まれた物だし、利用方法以外の研究があまり進んで無いからねぇ~……』
厄介な性能を持つヴァイパーだが、攻撃の威力は思いの外低い。
低カテゴリーのグルムなら圧倒出来るであろう程度の威力を持つ猛攻ではあるが、アルゴンとレジーナの相手が務まる程では無い。
だが相手に務まらないとは言え、上空から撃ち続けられればいずれ押し切られるだろう。
『あ~……一点を攻撃し続ければいつかは壊れるかもしれないけど、線路を生成し続けるヴァイパー相手にその戦法は厳しいんじゃないかな』
「それなら簡単よ。壊れるまで壊せば! 良いのよッ!!」
「チクショー! 結局いつものかよ!!」
レジーナはセルペンテスを伸ばし、ヴァイパーを引きずり落とそうと試みた。
アルゴンもレーザーライフルにより攻撃を行うが、ヴァイパーの移動速度は非常に早い。
空を這う鉄の蛇は赤い道を左へ右へと生成し、地上から迫る蛇を模した剣を容易く回避した。
「ったく、足が早いわね……」
「捕まえんのが難しいなら……アル!」
「了解です」
「「フェーズシフト、ディフェンドフェーズ!」」
アルゴンは軽く跳躍しフェーズシフトを行った。
どうやらヘンリー博士の助言は正しかったらしく、変化の前後にラグは発生していない。
そして同時に受けた忠告を覚えているジンは、すぐにヴァイパーへと突撃する事はしなかった。
「ヴァイパーは俺に任せろ、クレナはもう一両の方を頼んだ!!」
「了解、シディウムを叩くわ」
レーザーライフルやセルペンテスによる反撃が止んだ為か、ヴァイパーは地上へと降りた。
アルゴンはレーザーライフルを捨てると、その真正面に立つ。
「追いかけて捕まらねぇなら……」
「ナノマシンの定着完了しました」
アルゴンは腰を落とし、両手を前に構える。
ヴァイパーは汽笛を鳴らしながらも、アルゴンへ向けて真正面からの突撃を開始した。
「……真正面からとっ捕まえるまでだろォーッ!!!」
『相変わらず無茶苦茶やるねぇ』
アルゴンはヴァイパーを避ける事は無く、激突すると同時にブースターを全開にする。
速度を生み出そうと回転するヴァイパーの車輪からは激しく火花が飛び散り、車両全体から不快な金属音を生み出した。
しばらくするとヴァイパーはその動きを完全に止められてしまったが、勝機も無しに突っ込む事はしない。
「さーて、ここからどう料理してやろうか……ん?」
「攻撃が来ます、注意して下さい」
「マジか!!」
ヴァイパーは先頭車両の左右から兵装を展開し、アルゴンへと猛攻を始めた。
だがその全てはディフェンドフェーズが持つ分厚い装甲で防御されてしまい、逆に弱点を晒す結果となっている。
「……なーんちゃってな」
「はい、この為のディフェンドフェーズです」
アルゴンは肩のレーザー砲を利用し、先頭車両の兵装を潰した。
先頭車両の兵装が潰されれば後続の車両へ、ジンがそれを潰し更に後続の車両へ……
そうした事をしばらく繰り返し、ヴァイパーとアルゴンは両者の攻撃が届かない程に兵装を失っている。
「クレナ、そっちはどうだ?」
「もう終わるわ……よッ!!」
「さっすが~」
シディウムは支援型の列車である為、目立った攻撃手段を持たない。
ジンがレジーナへ目を送ったその時には、既にシディウムの八割が破壊されていた。
「っし、じゃあコッチも仕上げと行きますか~……。アル、装甲が定着したらビームトンファーを起動してくれ」
「了解です」
「「フェーズシフト、パワードフェーズ!」」
アルゴンはパワードフェーズにフェーズシフトを行ったが、尚も先頭車両から手を離さない。
単純な力比べでは負けてしまうらしくアルゴンは徐々に後退するが、ブースターの出力を更に上げる事で強引に抑え込んだ。
「装甲定着しました、ビームトンファー起動します」
「っし、じゃあこれでとーどーめー……だッ!!」
念の為の時間稼ぎを終えたアルゴンはヴァイパーから手を離し、ビームトンファーをヴァイパーへと突き刺す。
そうしてそれまで行っていた力比べを切り上げると、列車の上を飛翔し……ヴァイパーの先頭車両から最後尾までを強引に斬り裂いた。
真っ二つとなったヴァイパーは次第に動力を失い、線路からも外れ残された慣性で地面を滑る。
空をも走る鉄の蛇は、アルゴンの後方で大爆発を起こすという最後を迎えたのだ。
『ふむ、やはり数が無ければ簡単に潰されてしまう……か』
「簡単に潰せるっちゃあ潰せるが、やっぱすばしっこい相手はうぜぇな!」
「そうね。けど思ったよりは手応えがあったから、想定通りに数を揃えたら……かなり手強くなる気がするわ」
『なるほど。ご協力ありがとうリンカー諸君、また会おう』




