第25話 金色の弓
グラファイトが完全に姿を消したその頃、
ジンの乗るアルゴン一機が残された戦場では、二機のバロンと大量のクルスを中心とした戦闘が繰り広げられていた。
「――戦線維持は任せろ……つっても、こんな状況どうしたら良いんだよ」
「増援、強襲型クルス十機です」
「おーけーおーけー、ここまで来ると状況変わんねぇなぁ!!」
「はい。増援の数と撃破数は同じですので、状況は一切変わっていません」
「かーっ! 嫌になるなぁ!!」
現在のバロンが主力として使い潰しているクルスは、元々の出現数が多いという特徴を持っている。
故に軍勢戦でその総数を減らすにはかなりの苦労がかかる。
そうした場合には指揮官機を先に倒すのがセオリーなのだが、現在のジンにその手段は取れない。
何故なら味方の支援も望めず、頼みの綱であるレーザーライフル等の遠距離兵装も使用不可能となっている。
どうやら連続して射撃し過ぎたのか、オーバーヒートを起こしているようだ。
「コンニャロォ……!」
痺れを切らしたジンはレーザーライフルを捨ててバスターソードに持ち替え、大きく出ようと前進する。
だがバロンはその動作を待っていた。
「――何ッ!?」
二機のバロンは揃って前進するアルゴンを蹴り、大きく吹き飛ばしたのだ。
アルゴンはとっさにバスターソードで受け止めたが、衝撃はそう簡単に殺しきれない。
中央で受けてしまった事もあり、バスターソードは真っ二つに折れてしまった。
もはや重りにしかならないそれを捨て、アルゴンはバロン達グルムへと向き直る。
「現状の兵装を考えると、次はあの攻撃を耐えきれません。注意して下さい」
「んな事は分かってる! だけど、守ってばっかで……居られるかよ!!」
ジンの言葉と共にアルゴンは再び突撃を仕掛けるが、今度はクルスの砲撃に晒されビルへと叩き付けられた。
「クッソ、一体どうしろってんだよ……」
アルゴンの激突したビルの周囲には土煙が立ち込めている。
文句を言いながらも次の一手を探すジンの様子に、アルは戸惑いの表情を見せた。
「――どうしてマスターは……関係の無い私達に、そこまで力を貸してくれるのですか? どうしてここまで戦ってくれるのですか?」
「はぁ? 突然どうしたよ」
「……本来この場所で起きている戦闘へ参加する事に、マスター達は何のメリットも無いはずです。なのにそこまでして戦う理由は何なのですか?」
「あ~、やっぱそこ気になっちゃう?」
「はい」
「んなモン、これがゲームだからだよ。そんで、俺はこの世界を楽しみたい! だから本気で戦ってる!! ……そんだけだ」
「そんだけ……ですか」
「あぁ」
「……それなら、私もその言葉に答えなくてはいけませんね――」
ジンの言い放った、戦う理由。
それはアルの中にある“何か”を変えた。
それは彼女がジンやジンに関わる人々から“感情”を学習した結果であり、その感情をどう動かすか決める物。
簡単に言えば“感情”を持ちつつあったアルはジンに感化され、感情のままに突き動く事を覚えたのだ。
「――行きましょうマスター。……いえ、“ジン”! 今から私はアルゴンのバディでは無く、アナタの相棒です!!」
「あぁ……そうだな、そうだともよ。お前は俺の相棒だ! ……行くぜ、アル!! 」
「はい!!」
ジンは操作レバーを握り込み、アルと共に前を見据る。
そんな二人の前、メインモニターに機体からのメッセージが現れた。
「これは……?」
「私と同時に読み上げて下さい。非常に強大な力ですが……今の私達にならきっと使いこなせる力です」
「はぁ? 意味分かんねぇ……けど、大体分かった!!」
「それでこそジンです。行きますよ? 」
ジンは一回だけ目を閉じて深呼吸をし、精神を整える。
しばらくして目を見開くと、相棒と同時にメッセージを読み上げた。
「「フェーズシフト、パワードフェーズ!!」」
――――――――――――――――――――
戦場にアルゴン一機を残して撤退したユウトは、一抹の不安をその心に抱えている。
「大丈夫なのかな、ジンさん……」
今回のミッション、出撃前からクレナの様子がおかしかった。
それは戦闘中にまで響く物であり、ユウトはミドリの助言で彼女の乗る機体を強制停止させるという選択肢を取ったのだ。
機体を安置に置いたユウトが機体戦場へ戻ると、丁度クルス集団によってアルゴンがビルへと突き飛ばされる場面だった。
「不味い……!」
ユウトは乱戦下での狙撃に慣れていない。
だがグルム達がビルに埋もれたアルゴンへと近づくには、土埃に正面から近づくしかない。
そうしたように動線が限られる場合ならば、乱戦に慣れないユウトでもやりようはある。
少し離れた地点から多くの敵機を撃墜するユウトだったが、それは数を減らすだけに留まっている。
クルスの出現数に対して決め手に欠ける現状では、クルスの大群を削り勝つ事は出来ない。
そしてビルへと激突したアルゴンは土煙の中に佇んだまま動いていない。
「脱出タイミングを図っているのかな……?」
そう予想したユウトは下手に通信を開かず、クルスの対処に集中する。
そしてユウトがグルム集団の中でも特に目立つルベル・クルスを倒した瞬間、アルゴンの激突したビルから光が溢れ出した。
「なっ、何が……ジンさん!!」
「――大丈夫だ」
土埃と溢れ出す光が収まると、そこには見覚えのない緑色の機体が佇んでいる。
アルゴンが消えたのか疑うユウトだが、メインモニターに表示される反応はアルゴンの物となっていた。
「ジン……さん?」
「おう、俺だ」
よく見れば現在のアルゴンには元の面影がある……と言うより、以前の状態から幾分か装甲を削ったような風貌をしている。
メインカラーは紫から緑に、全体的に丸みを帯びていた装甲は尖った物に。そしてキャタピラとなっていた踵部分も、ローラー型へと変化していた。
機体の様子を大まかに把握したジンは、機体を走らせて土煙を突っ切る。
「さ~て、いっちょやりますか……!」
新たな姿となったアルゴンは前腕部にビームトンファーを装備している。
その加速性能は以前の状態より大幅に上昇しており、ジンはビームトンファーを起動しスラスターを吹かしながら敵機を削り回った。
戦場を駆け回りクルスを次々と倒すその姿は、以前より素早く力強い……実に野蛮な物である。
余りある機体スペックとジンがCAで新たに得ていた戦い方、そして兵装が上手くマッチした結果だ。
「ハーッハァ! 最高だなぁ!!」
「ジン、舞い上がるのは良いですが早く敵機を片付けて下さい」
「おーけーおーけー、全員ぶっ倒してやるぜ!!」
「……あっ、援護します!」
「サンキュー、ユウト!」
一応は宣言したユウトだったが、ジンは彼に支援をする隙きが無い程の動きを見せた。
アルゴンは所狭しと並ぶクルスを踏み台にし、次から次へとビームトンファーを突き刺して回った。
その残骸は盾にするか投げ飛ばす等して利用し、集中砲火をされた時はビルへと跳躍して回避する。
グルムを統括するバロンもただ見ている訳が無く、腕の無い機体が後方から援護射撃を行う。
そして五体満足な機体がナイフでアルゴンと応戦した。
ジンは数度攻撃を仕掛けた後、バロンを倒そうと飛びかかった。だが相手はナイフを持つ反対の手でライフルを隠している。
隠していると言ってもよく見れば気付けるレベルであり、ジンは素早くブースターを吹かして射撃を躱した。
そうして一つのビルへと張り付いた時、ジンの相棒を務めるアルが反応を示す。
「――おやおや、これはこれは……」
「ん、どうした?」
「今のビルを叩いてみて下さい、中に丁度良い物があるはずです」
ジンはアルの示す方に機体のカメラを向けた。
そこにはアルの言う、“丁度良い物”の予想図が示されている。
「ほ~う、でもこれなら……」
ジンはビームトンファーを停止させ、ビルに腕部を突き刺す。
そして力任せで中にあった物を引き抜いた。
「無茶苦茶な事を……」
「まぁまぁ、そんな事よりこれは何だ?」
「……武器とのリンク完了しました。アウルムアルクスと呼ばれる、弓型遠距離兵装のようです」
アルゴンが持つ弓型兵装、それは黒をメインに赤いラインの走った物だ。
大きさは程々にあるが、取り回しに困る程の物では無い。
「ふーむ、今回の戦いで使える物なのか?」
「……しばらく握っていて下さい、何かが起こるはずです。ただしアウルムアルクスを持つ側のビームトンファーは使用出来ないので注意して下さい」
「おーけー、んじゃ行きますか!」
「チャージ開始、残り8秒――」
アルゴンはアウルムアルクスを持たない方のビームトンファーを使い、クルスを倒して回った。
目に見えて姿の変わったアルゴンに対し、バロン達は相変わらず警戒を続けている。
アルゴンはクルスを踏みつけ、隻腕のバロンへと飛びかかり攻撃を仕掛けた。
「残り5秒――」
クレナの攻撃によって隻腕となったバロンは、これまでずっとライフルを使用している。
勿論この機体もナイフを持っているのだが、片腕が無い事から腰に格納し続けているのだ。
接近戦での反撃に転じにくくなった相手の首を取る事など、アルゴンにとっては容易い事。
アルゴンはブースターを吹かし、苦し紛れの反撃として繰り出される射撃を回避するとビームトンファーを素早く動かした。
「一体、貰ったぜ」
「残り3秒――」
少し離れた所に居たもう一体のバロンも敵討ちとばかりに射撃をするが、アルゴンは倒したバロンを盾にして防御する。
そして盾にしたバロンの残骸をグルム達へと蹴り飛ばし、グルムを怯ませる事でアルゴンはその包囲網から外れた。
それと同時にアウルムアルクスの色は、黒から金に染め上がる。
「――最大チャージ、行けます」
アルゴンが弓を構えると、その手元には赤い矢が生成された。
その矢をつがえ弦を引くと、アウルムアルクスを金色に染めていた粒子が矢へと集まる。
赤い矢は金色の交じる物へと変化するが、対称的にアウルムアルクス本体の色は金色から黒色に戻っていた。
「……撃ち抜くぜ」
ジンが操縦レバーのトリガーを引くと、アルゴンは矢を手放す。
金色の粒子は赤い矢中心に大きなうねりとなり、バロンを筆頭としたグルム達へと襲いかかる。
うねる濁流と化した粒子、その中心に位置する赤い矢は多くのグルムと共にバロンを貫いた……
――――――――――――――――――――
新たな武器を用いて多くのグルムを倒すアルゴンだったが、討ち漏らしというモノはどうしても発生してしまう。
場合によってはまだ戦闘は続くのだが、今回は指揮官機が消えた事により残党のクルスが撤退を選択。
激戦が繰り広げられ、金色の粒子によって足元の削れたその場に残されたのはジンのアルゴンだけであった。
そんな機体のパイロットであるジンは、一足先に撤退したクレナへと通信を開いた。
「なぁクレナ」
『……何よ』
「前に話したかもだが、神様は人を救ったりしない。縋る“モノ”を作るのは勝手だが、結局は自分達でどうにかしなきゃだぜ?」
ジンはコックピットの中で腕を組みながら話している。
それを聞くクレナと言えば、今になってユニオンからの追放もあり得るレベルの行動だと実感。
酷く落ち込み、暗い顔をしていた。
『……そうね。今回は悪かったわ、お詫びと言っては何だけど……私に出来る事だったら何でもしてあげる』
「おいおい、あんまそういう事は言うもんじゃないぜ? でもまぁ、何でもってんなら――」
緊張した面持ちのクレナだが、彼女達のバディは笑みを浮かべている。
クレナ以外にはこれから話すであろう、ジンの言葉が分かっているからだ。
「――これからも一緒に戦ってくれ」
『……え?』
「ユウトもこれで良いよな?」
『えぇ、大丈夫です。クレナさんが居ると心強いですから!』
「タイトは……まぁ聞かなくても良いだろ」
『ははっ、そうですね』
コックピット越しで見えるジンの顔、そしてユウトの声に怒りは無い。
その事を知れたクレナは安堵した。
「……ありがとう、皆」
「っしゃ、じゃあ帰るか~!」
『あ、今回タイトは用事があるとかで来ていませんよ』
「え゛っ!? じゃあこっからどうやってメビウスまで帰るんだよ……」
「それはもう、歩きしか無いんじゃない?」
「マジか……」
『マジですね』
「がんばれ~」
「おまっ、お荷物様は気楽になりやがって……!!」




