第24話 焦り
ファントム・エクス盟主のルナクスと情報を交換したクレナは、自分達が遭遇したヴァイカウント相当の敵が他にも複数存在する事を知る。
そしてその翌日、彼女はいつものようにジンを中心としてESFのメンバー全員を呼び出した。
「――早速で悪いけど、出撃するわよ」
「ん? 行くって……どこに?」
「そんなのどこだって良いわ。だけど何としても、アナタとアルゴンには成長して貰わないといけないの……」
「ん~? ……まぁ分かった、行ってやるよ」
いきなりの言葉に驚くジンだが、クレナの切羽詰まった顔を見てその言葉を受け入れた。
ユウトやタイトが口を挟む間も無く、ミーティングは手短に終了。
ESFに所属する三人のリンカーが乗る全機三機は、外付けブースターを使用してエアストやヴァイト・ヴィーゼとは別の大陸……キニス大陸のクーラビリス近郊へと向かっている。
なんでもその場所はかつての鉱山都市であり、大量の鉱石が採掘されていたそうだ。
だが古い時代から採掘が行われた鉱山だった為に機械化があまり進められず、その影響で多くの関係者がその場所に移り住み大都市を築いていた。
だが世界各所の鉱山資源が効率的に採取されるようになったり、クーラビリスの鉱石産出量減少……更には別の地点で新たな鉱脈が発見される等の事情が重なったそうだ。
それに加えてメビウスの建造と人々の移住するといった出来事が重なり、人々は都市を脱出。
最終的にはその管理を放棄され、現在の戦闘可能な都市地域という形になっているそうだ。
そうした場所への道中……クレナのバディであるミドリはクレナに何も告げず、ユウトの乗るグラファイトへと秘匿通信を開いた。
「あーあー、ユウト君聞こえる?」
「ミドリさん? ……どうかしたんですか?」
「ごめんごめん。突然だけどさ、今日のクレナ……どう思う?」
ミドリの開いた通信は音声限定の物であり、グラファイトのコックピットからではその表情を伺い知る事は出来ない。
だがユウトにはその声だけで、ミドリのクレナへ対する心配が伝わっている。
「……ちょっと焦りすぎだと思います」
「だよね、僕もそう思う。だからさ……何かあったら、強制的に引けるようにしておきたいんだよね。協力してくれないかい?」
「分かりました。……でも僕は何をすれば良いんですか?」
「ありがとう、ちょっと待っててね」
ミドリはグラファイトに一つのデータを送信した。
それはフェンサーの設計図に少し手が加えられた物だ。
コックピットからライズリアライザーへ指示を送る際に使用される、機体の最重要ケーブルが通っている場所に印が付けられている。
添付されていたメッセージには、ここを寸分違わず撃ち抜けば最小限の被害でフェンサーが止められると書かれていた。
普通のリンカーであれば難易度が高すぎて使えない手なのだが、精密な狙撃を得意とするユウトにはそれが出来る。
だからこそミドリはユウトを頼ったのだが、両者の心は使わない事を祈っていた。
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メビウスからブースターを使用して数分、ジン達ESFの各機は目的地であるクーラビリス近郊へと到着。
彼らは早速、お目当てであるグルムとの遭遇を果たした。
その相手は先の戦闘で遭遇した“ヴァイカウント”と同様の人形グルム……ノーブル・ランクス、そしてバロンと名付けられた機体だ。
この敵はカテゴリー4のグルムとしてはかなり弱い部類らしいのだが、今回は二十機程度のルベル・クルスも付随している事から油断は出来ないだろう。
相手はESFの各機に気付いていない。
こうした奇襲の出来る場面……本来であればユウトが狙撃で少しずつ追い込み、ジンとクレナで削るというのが彼らの得意な戦法である。
だがこの日は違った。
グラファイトが配置に着く前に、フェンサーが単身で突撃してしまったのだ。
「早く成長しなさい、じゃないと私達が困るの。だから行くわよ……ジン!!」
「バカかお前! こんな状況に単独で突っ込むって、死にに行くようなモンだぞ!? ……ったく、何焦ってんだアイツは。クレナは俺が何とかする、だからユウトはいつも通りで頼むぞ!!」
「了解です。……気をつけて下さい」
「わーってる、慌てる奴を見たら嫌でも落ち着いちまうよな! ……っと」
ジンもクレナをカバーする為、急いでそれに続いた。
こうして二人が突撃を仕掛けたグルム集団の中には、その存在感を主張するバロンが二機存在している。
ルベル・クルスの配置された戦線を食い破ったフェンサーはその内の一機に強襲を仕掛け、大剣を振りかざす事で片腕を斬り飛ばした。
追撃で仕留めにかかるフェンサーだが、もう一機のバロンはルベル・クルスへと素早く指示を飛ばす。
相手を防御に転じさせる事で攻撃を防いだのだ。
「ッチ、やっぱりそう簡単には落とせないわよね。……ジン、さっさと働きなさい!!」
「わーってるよ! 誰が戦いにくくしてるんだ……っつーの!!」
だがアルゴンとグラファイトも居る中、その程度の包囲網ではフェンサーを止められない。
彼らはルベル・クルスを一機ずつ、確実に減らしている。
だが対するバロンは、量より質で勝負する作戦に変更したらしい。
途中からはルベル・クルス以外にも、カテゴリー1の強襲型クルスが多く現れた。
対するフェンサーは被弾が増え、動きが悪くなっている。
パイロットであるクレナは、不必要な行動が多く……いつも以上に消耗していた。
「――くっ、こんな所で!! 神頼みでも何でもしてやろううじゃないの!!!」
「はぁ……ユウト君、アレお願い」
「了解です」
その様子を見兼ねたミドリはユウトに指示を出し、ユウトはグルム達に向けていた銃口をフェンサーへと向ける。
「――ごめんなさい、クレナさん」
「ユウト、ミドリ……? あなた何を……きゃあっ!」
ユウトはミドリが想定していた“最高の結果”を叩き出した。
グラファイトは素早く狙撃し、一発でフェンサーを仕留めたのだ。
一歩間違えればライズリアライザーを破壊、大爆発が起こっていた。
だがそんなミスは、構造が分かっていればしないのがユウトである。
状況の理解の追いつかないジンを放置し、ユウトは素早く前進。
力なく倒れるフェンサーを担いだ。
「ジンさん。クレナさんを安全な場所まで運ぶので、しばらく援護出来ません。少し待ってて下さい」
「分かった、戦線維持は任せろ。……でクレナ、お前はちょっと頭冷やしてろ!」
「でも……っ!」
「はいはい、僕達は何も出来ないんだから大人しくあっち行くよ~」
「くっ!」
グラファイトはフェンサーと共に光学迷彩を起動し撤退、クルスの溢れる戦場にはアルゴンだけが残された。




