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赤い星のリンカーネーション  作者: 鳥皿鳥助
二章 その名は星を越える戦士たち
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第15話 あの日の記憶






 彼の名前は速水(はやみ)優人(ゆうと)

 昔から暗算が得意だけで他は何の取り柄も無い……当人曰く、そんな男だ。



 優人はある時友達に勧められ、E(エクシード)S(スター)G(ギア)で発売されたシューティングゲームを始めた。


 そんなゲームで彼が最も使用し、最も戦果を上げた武器はスナイパーライフル。

 本来は観測手の行う弾道計算等を全て自身で、そして素早く行う事が可能であり瞬時に弾道予測や跳弾の任意調整が出来たからだ。

 もっともそうした戦果や腕は簡単に得られた物では無く、何度も何度も練習した末の成果だが。


 そうして優人が活躍していくある日、彼はそのゲームを進めてくれた友人とスナイパー対決をする事になった。

 友人も優人と同じくスナイパーライフルを得意としており、それなりに自信を持っていたそうだ。


 常人から見ればかなりの高得点を叩き出していたその友人だが……隣に並ぶ優人は、それ以上の高得点を叩き出していた。


「良いゲームだったね!」

「あっ、あぁ……。そう、だな……」


 優人は笑顔でそう言い、共に競い合った友人も静かに頷いていた。

 だが後になって思い返してみれば、その顔は憎しみが浮かび上がっていたのだろう。


「なぁ、今度お前の家に行って良いか?」

「ん? ん~……良いよ」


 そうして約束をしてから数日、優人はその友人を家に呼んだ。

 彼は同じ学校に通う同級生であり、元々ゲームに優人を誘ったのも彼だ。


「あー、喉乾いたな……何か飲み物貰っても良いか?」

「僕取ってくるよ。ちょっと待ってて!」

「悪いな」


 その時の優人は浮かれていた。

 何故なら彼の友達はお世辞にも多いとは言えず、その日家に呼んだ友達とは特に仲が良かったからだ。


 だがこうして優人が部屋を離れた時、全ては終わってしまった。

 優人がキッチンで飲み物を用意し終えた頃、優人の兄が不思議そうな顔でユウトに声をかける。


「なぁ、今来てるアイツってお前の友達だよな……」

「そうだけど、どうかしたの?」

「いや……お前の部屋から飛び出して行ったから何かあったのかなーって見てみたら、やたら散らかされてたからよ……」

「え……?」


 優人はその言葉に嫌な予感を覚えながらも、そんなはずは無いと自身に言い聞かせながら部屋に戻った。


 彼が部屋を出る時に閉めた扉は無造作に開かれ、綺麗に並べられていた家具は散らかされている。

 それはまさに泥棒に入られた後のような光景であり、床には優人のESGが転がされていた。


 飲み物を取りに行っている、ほんの僅かな時間。

 その間で全てが終わっていた。


「まさかね、まさか……」


 心配そうな兄を余所に、優人はESGを起動させる。

 そしていつものようにログインしようとするが、当然のように出来ず……ゲームのデータまでもが初期化されていた。


 ……優人はそれ以降、その日は何も手が付かなかった。

 父親や母親は彼を心配して声をかけるが、優人にしてみれば何も言える訳が無い。

 唯一断片的にでも事の顛末を知っている兄は、何も言わない優人の気持ちを察して黙っていてくれた。


 翌日、何とか学校へ向かった優人は友達……元友達を見つけた。


 ――何も言わないでおこう……


 一時はそう決めた優人だったが、彼は衝動的に元友達を問い詰めてしまう。


「どうして……? どうしてあんな事をしたの!?」

「はっ、お前そんな事も分からないのか。……んなモン、一緒に遊ぶのが楽しく無いからに決まってんだろ」

「なっ……でも、前は――」

「――前と今は違う。俺だって頑張ってるのに……いつも讃えられるのはいつもいつも高得点のお前だけだ!」

「……」

「お前さえ居なければ、俺が一番なんだ!! 他人を馬鹿正直に信じ込んだお前の負けって訳だよ……ハハ、アッハハ!!!」

「――ッ!」


 その日はまだ授業が残っている。

 優人は教室へ戻らなければならないのに……体は本人の意思と関係なく動き、気がつけば自身の部屋へと戻っていた。



 ――勝ったら褒められたから、誰かと共に撃つのが楽しかったから狙撃(スナイパーライフル)を極めた。なのに、どうしてこんな事に……



 (優人)ではない、他人(元友達)の出した結論。

 そもそもの考え方が違う為に、優人は出口の無い思考の迷宮へと突き落とされた。






 ――――――――――――――――――――






 気がつけばユウトはグラファイトのコックピットに座っていた。

 いつまでも昔を引きずるのが良くないのは彼自身が良く分かっている。


 タイトにも迷惑はかけたくないのだが、誰かと話す度に昔を思い出し足が震えてしまう。

 本人だけの力では打開出来ない、だが他人の力を借りる事も出来ない……そんな行き詰まった思考の末に居るのが、今のユウト(優人)という人物だ。


「――ねぇユウトくん、気晴らしにコレでもどうかな」

「ツグミ……」


 だが幸いにも、彼は環境に恵まれていた。

 友達が友達では無くなった時と同じように、彼には優しく声をかけてくれる人物が存在する。


 そうした人物の一人であるツグミが提示したミッション、それはユウトがこのゲーム(CA)で一番最初に行ったヒューゲル試験場の防衛戦。

 そこでユウトは当時、名前も無きバディに“ツグミ”という名前を付けた……彼らにとってとても思い入れのあるミッションだ。


 グラファイトは赤い粒子を纏い、静かに地上へ降下した。


「覚えてる? 私と最初に会ったときの事。あの時もユウトくんは酷い顔をしてたよね」

「……」


 忘れる訳がない。


 今まで仲良くしていた友達に裏切られ、共に集めたアイテムを奪われ、記録を消され……“何で”、“どうして”、“友達だと思っていたのに”。

 そうした言葉が優人の頭を巡っていたが、答えは永遠に出ない。


 あまりの衝撃から寝込んでしまった優人(ユウト)を見兼ねた兄……大牙(たいが)にCAを進められた直後の事だ。

“新しい事をやってみれば気が紛れるんじゃないか? 俺も可能な限りサポートするから一緒にやろうぜ”……と。


 大牙の予想は正しく、新しい事……そして新しい人(ツグミ)と関わりを持ったユウトの精神状態は、多少の回復を見せていた。


「ユウトくんは……ユウトは人一倍優しすぎるんだよ。だから『楽しく無い』と言われた時も、裏切られた時も大きく傷ついてしまった」

「ツグミ……」

「――私の相棒はユウト一人。だから絶対に裏切らないし、どこまでも付いていくよ」

「君は、どうしてそこまで……」

「言ったでしょ? 私の相棒はリンカー“ユウト”ただ一人だって。……ユウトくんは何がしたいの? 私はどこまでも付いていくよ! 何でもは……出来ないかもだけどさ」

「僕は――」


 思考を上手く纏められないユウトが次の言葉を探していると、機体(グラファイト)はけたたましいアラートを鳴らした。

 パイロットであるユウトが慌ててメインモニターに目を向けると、機械仕掛けの大きな黒猫がすぐ近くまで来ていたのだ。


「黒猫!? 何でこんな所に……!」


 黒猫……それは動物を模したグルムの一種の通称であり、機能も見た目も文字通りな機体だ。

 正式名称はニガーフェレスであり、カテゴリー2に分類されている。


 足音を消しての奇襲が十八番(おはこ)の相手であり、ユウトが慌てて操縦桿を握った頃には一撃食らっていた。


 地に伏したグラファイトの周りには複数のクルスが集まっている。

 いくらクルスの火力が弱いとは言え、ここまで集まって囲えばそれなりの驚異となる物だ。

 そしてグラファイトの装甲は決して厚くない。


 つまりユウトは窮地に陥ったのだ。


「数が多い……!」

「私が回り見てなかったから……っ! このままじゃ負けちゃう、早く逃げないと!!」

「……ごめん、ツグミ。狙撃が出来なくても僕は……僕は、勝たなきゃダメなんだッ!!」


 ――誰か(ツグミ)の期待に答える為に、自分の意思を貫く為に。


 グラファイトが持つ近距離でのブースト移動が早いという特性、そして近接向けのセッティング。

 ユウトはそれらを酷使する事により、近距離でもそれなりの戦闘を繰り広げる事が可能となっている。

 ユウト自身格闘戦は不慣れなのだが、バディ(ツグミ)がその補佐をする事で戦いとして成立させていた。


 だがクルス系一番の驚異はその量産性、再出現頻度の多さにあった。

 ユウト達(グラファイト)がいくらその数を減らしても絶対数が減る事は無く、逐次戦力が追加される。

 そうしていれば先に体力が尽きるのはグラファイト(ユウトとツグミ)の方だ。


 弾幕状に発射されたミサイルを何とか回避しようと動くユウトだったが、その全てを避けきることは出来ない。

 避けきれなかった一発のミサイルは戦闘の膠着をグルム側へと傾け、グラファイトを地に伏せさせた。


「くっ……!」

「ユウトくん!!」


 ニガーフェレス(黒猫)はその隙きを逃すまいと飛びかかり、ユウトとツグミは思わず目を瞑る。



 だが想像していたような衝撃が来る事は無く、彼らの耳には金属の擦れる不快な音だけが聞こえていた。

 状況の理解の追いつかない二人に答えを出すかのように、他の機体……アルゴンからグラファイトへ通信が入った。


「――よぉ、今度は逆だな」

「……ジンさん?」


 ジンはアルゴン自慢の防御力を生かし、グラファイトの盾となってブラックキャットを抑え込んだのだ。


「おう、無事だった――」「私も忘れないで下さいね。ご無事でしたか?」

「アルちゃん……うん、私達は大丈夫だよ!」

「おうおうアルさんや、会話強引に被せんのやめーや」

「マスター、地球には“止められない止まらない”という言葉があるそうですね。そんな事より早くこの甘噛を止めた方がよろしいのでは?」

「わーってる……よっと!!」


 アルゴンは右肩に噛み付いたやんちゃな猫の首根っこを掴み、適当な所へと放り投げた。

 流石は猫とでも言うべきか、ニガーフェレス(黒猫)は簡単に着地をしてみせる。


「さぁ、ラウンド2と行こうか……」


 ジンの宣言したラウンド2、そこから始まったのは彼の独壇場だ。


 敵機を撃ち、殴り、時には蹴り……

 ジンがCA(アルゴン)で構築しつつある戦法は、鮮やかとは言い難い非常に泥臭い戦闘スタイルである。


 だがユウトの気を引き、彼の中にある“何か”を変える程の強い意思がそこには存在した。


「ジンさん、あなたはどうしてそこまで……」

「なぁユウト。お前は大好きなモンから目を反らして、手を離して……本当にそれで良いのか?」

「でも僕は……アナタみたいに掴み続ける勇気が無いんです。……何も手に入らないのなら、いっそのこと手放した方が良いんじゃ――」

「――俺は、そうは思わんッ!!」


 順調にボールの数を減らすジンだったが、絶えず現れる増援が多くキリが無い。

 その起点はニガーフェレス(黒猫)のようなのだが、当の猫はクルス集団の遥か後ろに居て手が出せない。


「でっ、でも……」

「“でも”も“何”もあるか! 大好きで大切なモンだからこそ……どんなに辛くても、掴み続けて真正面から向き合うしかねぇだろ!!!」


 その瞬間、敵機の増援数をアルゴンの殲滅速度が上回る。敵機の数は大きく減少し、戦闘は若干の空白時間が現れた。


 この隙きにジン(アルゴン)は後ろを向き、ユウト(グラファイト)と顔を合わせる。

 アルゴンがこの場に現れた時から、グラファイトの手は何かを掴みたいという欲望を表すように伸びていた。


「何かを好きになれない奴は何も本気になれない。狙撃に本気だったお前は、狙撃が大好きだったんじゃないのか?」

「――ッ!」

「自分で手に入れたい()()は……! 自分の手で、掴みやがれッ!!」


 アルゴンがその手を掴んだ。

 そしてその瞬間――


「ンで、何かを掴みたいのに一人で動けない奴を助けるのは……!! “俺達”みたいな、回りに居る奴の仕事だッ!!!」

「うわっ、うわわわわ!!」

「ちょっとー! 何すんのよー!!」


 ――グラファイトは宙を舞った。


 いきなりの行動に驚愕以外の何も出来ないユウトとツグミだったが、ジンとて何の考えも無しに投げた訳では無い。

 かなりの距離を経てグラファイトが落ちた場所にはクレナのフェンサー、そしてタイトが待ち受けていた。


「「ッテテテ……」」

「ユウト、機体調整するからこっちに駐機してくれ!」

「えっ、タイト!? ……分かったけど、何をするの?」

「フッフッフッ……丁度ここに最高のスナイパーライフルライフルあるんだがよ、コレ使う気無いか?」


 ユウトは駐機させたグラファイトから降り、タイトもクレナのフェンサーから降りた。

 “何か”が変わったユウトは、タイトの目をしっかりと見て答える。


「――使うよ。今度は誰かの為だけじゃなくて、自分の為にも……」

「ハッ、そう来なくっちゃな! じゃあいっちょ再調整と行きますか!!」


 タイトは早速グラファイトのコックピットに入り、狙撃向けへの機体調整を始めた。

 文字通りの荷物を届けたクレナと言えば、手持ち無沙汰なようでアルゴンの戦いを眺めている。


「俺に任せろ~とか言ってたけど、ちょっと不味いんじゃないかしら……」

「あ~、ジンを助けに行くならそのライフル置いていってくれ」

「分かってる。じゃ、頼りにしてるわよ?」


 クレナはタイトの指示に従い、持っていたスナイパーライフルを置いて去った。


「タイト、あれは……?」

「オクトライフルだ。お前とコイツ(グラファイト)の為に作り上げた、最高の一品だぜ」






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