地獄
利子はそれからよくその宗教団体に顔を出すようになった。宗教団体と言ってもピンキリで全部が全部厳しい規則があったりだとか、カルト混じりなものばかりでもないらしい。愛ビーの人達はよく集会が終わった後に皆でテーブル囲って一緒にご飯を食べていた。普通の家庭の家族団らんのようなそれが、利子にとっては何よりも幸せだった。
ある時愛ビーから帰った日のことだった。父と姉と母が集まっていた。父に「利子も座りなさい。」と言われて正座する。愛ビーのことがばれてしまったのではないのかと焦ったが父の口から出たのは母の不倫の話だった。不謹慎にも利子は安堵してしまった。しかし次の瞬間には父の言葉に固まった。
「利子もお母さんについて行きたいだろう?娘というのは母親につくものらしいじゃないか。」
背筋が凍った。本当はそんなんじゃないはずだろ?あんたは私のことを厄介払いする大義名分が欲しかっただけじゃないか。怒りで頭がおかしくなりそうになる。この血が繋がっただけの存在の男に殴りかかってやりたい。所詮は家族も血が繋がっただけの他人に過ぎないという事実が嫌というほど利子の頭を支配した。それでも、僅かな希望にかけて利子は無理に笑顔を作ると父に聞いた。
「待って下さいお父さん。それなら姉さんはどうなるんですか?お父さんの話を聞く限りでは姉さんもお母さんについて行くようですが?」
「…そんなことは無いだろう?母親といえど優子に取っては義理なんだから、わざわざついて行く必要はない。優子はこれまで通りここに残るんだよ。お前はそんな簡単なこともわざわざ人に聞かなければ理解ができないのか。こんなに頭の悪い子が俺の子どもだとはやはり信じられないな。不倫をするような女の子どもだ、やはり托卵でもされたのかね…。」
…利子の頭の中で何かが切れる音がした。
「まあ、お前も母親に似て幸い顔は悪くないんだ。まあ蛙の子は蛙というし、その気になればお前も男に体を―…」
彼がそう言い終わらないうちに利子は父の顔を殴った。その後のことはよく覚えていない。ただ目の前の男を殴った時の手の痛みだけがこれが現実だということを利子に理解させた。




