兆候2
こんな家、出て行ってやりたい。そう何度も思った。それでもそれは自分の想像の中に過ぎない妄想であると利子は理解していた。それに家を出て行ったら自分は本当に負け犬になってしまう。利子にとっては家族に見放されることが負け犬の定義だった。見放されているだけなら今もきっとそうなのかもしれない。それでも彼女にとっては家族と縁を切るということはチャンスを失うことを意味した。高校受験で逆転して認められるチャンスを、大学受験で認められるチャンスを、そのすべてのわずかな生きがいを希望を失うことに等しかった。もしそれでも家族に認められなったら、愛されなかったら、きっと彼女は生きていけないだろう。
「九条利子さん?」
不意にそう声をかけられて振り返った。
「どなたですか?何故私の名前を?」
帽子で顔がよく見えないが声からして女性なのだろう。
「いきなり声をかけてしまって申し訳ありません。私宗教法人の愛ビーという者の―…」
そう相手が言い終わらないうちに利子は顔色を変えて逃げだした。走っている途中で女が後をつけてきてないことを確認すると止まって息を整えた。
神様ね…。馬鹿馬鹿しいと分かっている。そんなもの居るはずがないと。そんなものに縋っている人間こそ負け犬そのものじゃないか。それでもあの宗教法人の名前が頭から離れなかった。愛ビーね、明日調べて行ってみるか。




