変化1
先日の雨で桜は大分散った様子だった。水たまりの上にはちらほらと花びらが浮かんでいるものもあった。校門の前に黒光りした外車が止まった。車に興味がない素人でもそれがかなりの値のするものだと分かる。橘朔は落ち着いた様子で鞄を肩にかけると車から降りた。そのまま歩きだそうとしたときに運転手に声をかけられた。
「本日は午後から九条家の皆様とお食事があるのでその頃にまたお迎えに上がります。」そう言い終えると運転手は静かにドアを閉めて車を発車させた。
朔は自分の教室に入るとその瞬間に空気が変わるのは分かった。私立の中でも学費が特に高いこの高校の中でも政治家の息子というのは珍しい存在らしい。羨望、嫉妬、恐怖。生まれた時から慣れていたはずの視線はいつからか朔に平凡への憧れを感じさせていた。自分は凡才であるにも関わらず親の七光りのせいでいつも実力以上に期待をされていた。そのことが彼は気に食わなかった。教室の空気から逃げるように廊下に出ようとしたときに誰かに声をかけられた。ショートヘアの明るい印象の女子だった。入学してからクラスメイトの誰とも話したことが無かった朔は少し嬉しくなった。
「橘さんだよね?クラスメイトの自己紹介の紙をまだ出していないみたいで先生から橘さんの回収を頼まれたの。」
「あれ…?そうだっけ。分かった。早めに出すよ。教えてくれてありがとう。」
提出物は全部期限内に出したはずだと思っていた朔は少し困惑していた。そう言えば先ほど見た女子生徒はどこかで見たことがあるような気がした。




