074「本題(1)」
「君たちも知っての通り、僕は城を勝手に飛び出しては方々で遊び回る放蕩王子と言われている。実際その一面はあるけどでも本意はそこではない。まず結論からいうと僕の行動はすべて兄であり次期国王でもあるアイザック兄さんに関係しているものだ」
「えっ?! ア、アイザック王太子ですか!」
アイザック第一王子。本名『アイザック・ハルシュタイン』。
現聖王リカルド・ハルシュタインとヴェネヴィットとの間に生まれた最初の子供。嫡男。同時に、このハルシュタイン聖王国の次期国王と称されており、現在では『アイザック王太子』という呼び名が定着している。
「ああ、そうだ」
「ア、アイザック王太子に関係しているって⋯⋯それってアイザック王太子に何か問題があるということですか?」
ジュリアン第二王子の言葉に驚き、思わず話の腰を折って質問したのは孤児院では世話人頭という肩書き、しかし本来の肩書きは『レッドフォード伯爵家嫡男マイルス・レッドフォード』。
「ああ。まぁそうなんだが、それにしても⋯⋯⋯⋯クロフォード、君は僕の言葉に驚かないんだね」
「いえ、そんなことは。それに王子の話の腰を折るのは失礼ですし⋯⋯」
「あ⋯⋯! ジュ、ジュリアン第二王子、話の腰を折ってしまい大変申し訳ございませんでした!」
孤児院長⋯⋯クロフォードの言葉を聞いて自分の行いが不敬に当たるものということに気づき、慌てて謝罪するマイルス。
「あ、うん。気にしなくていいよ。それよりもクロフォードが今の話を聞いても眉一つ動かさないのがね⋯⋯。知っていたということかな?」
「いえ、そんなことは」
「クロフォード。これは大事な話だ。それにもう少し砕けて話してほしい。むしろそっちのほうがこちらとしても話しやすいからね」
すると、クロフォードはジュリアンの言葉を聞いて「では⋯⋯」とすぐに切り替えて話を始める。
「たしかに私はジュリアン様の今の話を聞いて驚かなかったのは、噂程度ではありますが知っていたからです」
「やっぱり」
「ただ、その話を聞くきっかけとなった噂は商人らが口にするものからでしたが、私は個人的に調べておりました」
「え? そうなの?」
「はい」
クロフォードの発言にジュリアンが素直に驚くも、クロフォードは特にそこには触れず話を続ける。
「そして、個人的に調べてある程度確信が持てました。ジュリアン様が今仰ったアイザック王太子のことというのは⋯⋯『アイザック王太子を裏で操る貴族』の話ですね?」
「っ!? ク、クロフォード⋯⋯君って奴は本当に⋯⋯」
「え? そうなんですか!」
ジュリアンがクロフォードに対して驚き唖然としている中、マイルスはマイルスでクロフォードのあまりの話に驚くと、思わずジュリアンに聞いてしまう。
しかし、ジュリアンもまたクロフォードがここまで情報を掴んでいた驚きの方が強かったこともあり、マイルスの不敬に当たるような行動も特に気にせず、そのままマイルスに返事を返す。
「概ね、クロフォードの言っていることで合っている」
「そ、そんな⋯⋯!」
ジュリアンの回答にマイルスはショックを受けるも、ジュリアンはそのまま話を続ける。
「兄アイザックはある大物貴族に物心付いた時から『貴族第一主義』の根幹を成す『貴族優生思想』を刷り込まれている」
「ま、まさか⋯⋯そんなことが⋯⋯」
「⋯⋯」
「ただ、厄介なのはその裏で操っている貴族は兄の思想を洗脳するだけでなく、そのことがバレないよう『表向きの顔』という教育まで施している。だから表向きの兄アイザックは現聖王であり父リカルドが行っている『行き過ぎた貴族第一主義の改革』を支持している」
「は、はい! 正直私からはアイザック王太子は現聖王様の民衆への過度な横暴が目立つ貴族第一主義の改革を支持しているように見えますが⋯⋯ち、違うのですか?!」
「ああ、違う。それにしてもマイルス卿の言葉を聞くと、いかに兄がうまく立ち回っているかがわかるな」
「そ、そんな⋯⋯」
ジュリアンの言葉にいまだ「信じられない⋯⋯」とショックを受けるマイルスだった。
********************
「ジュリアン様」
「なんだい?」
「現時点でアイザック王太子を洗脳した貴族というのはわかっているのですか?」
「いや、こちらも実はまだわかってはいない⋯⋯いやわかっていないというのは語弊があるな。わかってはいるがそいつを断罪する証拠が見つからない、というのが正直なところだ。だから僕はその証拠集めのために城を出て動いている」
「なるほど。それ故の『放蕩息子』を演じているというわけですか」
「ま、そういうことだね」
「え? どゆこと?」
ジュリアンとクロフォードの話に全くついていけてないマイルスのリアクションに、「はぁ⋯⋯」「ふふふ」とため息や苦笑をする二人。
しかし、そんなマイルスの存在はジュリアンの闇深な話において清涼剤の役目を果たしており、それはまた二人もそのことを感じていた。
「つまり、現時点でほぼ『黒』の疑わしき貴族はいるがそいつを捕まえるための『証拠』が見つからない、それをジュリアン様は言っている」
「な、なるほど」
「さらには、ジュリアン様はその証拠集めを目的に城を出ているのだが、それをやり過ぎるとその貴族やアイザック王太子に勘付かれる可能性もあるからと、隠れ蓑として『放蕩息子』を演じているって話だ」
「えっ!? マジ! ジュリアン様そこまで考えて⋯⋯凄すぎです!」
「あはは、ありがとう」
「⋯⋯はぁ。まったくお前という奴は」
「な、なんだよ! そんな残念そうな奴を見るような目やめろよ!」
「実際そうなのだから仕方なかろう」
「お、お前な〜!」
「あははは。うん、二人ともすごくいいね! やっぱり二人に話してよかったよ」
どうやら『マイルス清涼剤』は二人にとって効果てきめんのようである。




