071「ジュリアン第二王子(1)」
「では、いろいろと話を聞かせていただけますでしょうか⋯⋯⋯⋯ジュリアン《《第二王子》》」
「え?」
ジュリアン⋯⋯《《第二王子》》っ?!
おい、今『第二王子』つった?
それって、つまりハルシュタイン聖王国の王族ってこと?
隣町の商家の跡取り息子じゃないのぉぉぉ!!!!
そんな孤児院長の言葉にショックを受け、なかば放心状態の俺に、
「あははは。ごめんね、アナスタシア。でも君のそういう感情をまったく隠さず露わにするその姿はとてもチャーミングで可愛いよ」
などとこれまでのことを詫びることなくヘラヘラと笑いながら「別に大したことないでしょ?」くらいのいきおいで告げるジュリ君⋯⋯いやさジュリアン第二王子。
てんめぇぇ、この野郎! 俺のこと騙してやがってぇぇ!!!!
俺の中の『爽やか美少年像』をぶち壊しやがってぇぇ!!!!
こいつは爽やか美少年なんかじゃない。ただの『腹黒王子』じゃねぇーかぁぁ!!!!
「〜〜〜!」
俺は声にしてはいないものの不満全開の感情を全乗っけしてジュリアンを睨む。
「そ、そんな睨まないでよ〜。僕だって悪いと思っているんだって! だから許してよアナスタシア〜」
「〜〜〜〜〜っ!!!!!」
(堪えろ、堪えるんだアナスタシア! こいつはこの国の第二王子、王族だぞ! そんなこの国の身分制度の頂点に君臨する王族に対して文句なんて言ったら不敬罪で捕まるぞ! もしそうなったら子供の俺ではどうすることもできない。それに孤児院長のバックボーンであるフィアライト侯爵家であっても俺を助けることは簡単ではないだろう。ならばここは堪えないと⋯⋯)
「僕はこれまで1ヶ月の間アナスタシアと友達になってとても嬉しかったんだ! もちろん最初はポテトフライが目的だったのは嘘じゃないけど、今は君と出会えたことが一番の収穫だよ、アナスタシア!」
(な、何を言って⋯⋯⋯⋯はっ?! い、いやいやいや、おいおいおい! 何で今こいつの言葉聞いてほんのり嬉しがっているんだ、俺ぇぇぇ!!!!)
「クスクス、顔がコロコロ変わって⋯⋯やっぱ面白いねアナスタシアは! いや〜こんなアナスタシアのような面白い子は《《ペット》》として欲しいな〜。あははは」
ピク⋯⋯。
は?
《《ペット》》⋯⋯だと?
バァァァァン!!!!
その時、アナスタシアが動いた。
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バァァァァン!
ジュリアン第二王子の言葉を受け、アナスタシアが突然机を思いっきり叩くと、
「「「「「え⋯⋯?」」」」」
と、アナスタシアのリアクションに全員が唖然とした。
しかしそんな空気などお構いなしにアナスタシアは机を叩いたその両手を置いたまま、そこからズイっと体を前に乗り出しジュリアンの顔に接近する。
「ジュリ君⋯⋯いえジュリアン第二王子」
「は、はい⋯⋯!」
鬼気迫るアナスタシアのオーラに完全に呑まれるジュリアンが返事をする。
「あなた、今《《ペット》》っていいましたね? 私はジュリアン様を気の合う大事なお友達と思ってました。なのに、それなのに、あなたの中では私は『ペット』という対象だったのですね⋯⋯」
「ア、アナスタシア! 違う、違うんだ! あれはそういう意味で言ったのではなくて⋯⋯ただ⋯⋯」
「言い訳は結構! そうですよね、そりゃそうですよね! 私なんてしょせん《《ただの孤児》》、第二王子という王族であるあなたからすれば私なんてその辺の路傍の石に過ぎませんものね!」
「ア、アナスタシア! だからそれはそういうことではなく⋯⋯」
「やっかましいぃぃ!!!!」
「うわっ!?」
「お、おい! アナスタシアやめなさいっ!!」
ジュリアンに向けて「やかましい」と全力で叫んだアナスタシアに「マズイ」と思った孤児院長が肩を掴んで止めに入る。
しかしアナスタシアは止まらない。
「ふざけんな、この野郎! 私の乙女心を踏み躙りやがってぇぇ!!!!」
「アナスタシア! 落ち着きなさい、アナスタシア!!」
「私⋯⋯俺⋯⋯私は⋯⋯本当に話が合う友達ができたと凄く嬉しかったのに⋯⋯」
アナスタシアの最後の本音の言葉に孤児院長室にいる全員が言葉を詰まらせた。そんな中、
「⋯⋯アナスタシア」
ジュリアンがアナスタシアの肩に手を置いて声をかける。しかし、
「やめてください! もう⋯⋯ほっといてください⋯⋯」
そんなジュリアンの接触を拒否するアナスタシア。
しかし、そんなアナスタシアの拒否に対して、
「お願いだ、アナスタシア! もう一度僕の話を聞いてくれ!」
「!⋯⋯ジュリアン」
ジュリアンの強い声色に思わず顔を向けるアナスタシア。
すると、そこにはさっきまでのヘラヘラした顔はなく、真剣な眼差しをアナスタシアへただ一心に向けるジュリアンの姿がそこにあった。
そんなジュリアンを見たアナスタシアは自然と怒りの矛を下げるとそのままジュリアンに体を向き直す。
そんなアナスタシアの反応を「肯定」と捉えたジュリアンは一度大きく深呼吸した後、アナスタシアのつぶらな瞳に自身の強い気持ちを乗せた眼差しを向けるとゆっくりと口を開いた。
ラブコメの波動を感じる。
あれ? でもアナスタシアの中身は男⋯⋯⋯⋯おっと誰か来たようだ。




