063「預言の聖女(3)」
「火の神エンバースクワトロキア様だ」
「エ、エンバース⋯⋯クワトロキ⋯⋯ア⋯⋯」
む、むずい! むずいよ、孤児院長!?
「まあ別に覚える必要はない」
「ほっ」
「⋯⋯今はな」
「え?」
「君が『預言の聖女』であるとわかった以上、今後は神々の名前はもちろん『創世神話』や『歴史』、また『魔法』や『種族』などについても学んでもらう」
「は?」
「ちなみにこれは決定事項である。異論は認めん」
「そ、そんなぁぁ! お、横暴だぁぁ〜!!」
孤児院長の言葉に声を出して異を唱える俺。しかし、
「ちなみに言っておくがこれはアナスタシア、君のためである。危険を未然に防ぐのに知識があるのとないのとで大きく変わる。そんな知識の重要性は君ならわかるだろ、アナスタシア?」
「⋯⋯くっ!」
その通りである。ぐうの音も出ない。
何事も知識のある無しの差は大きい。
まして『預言の聖女』ならば尚更だろう。
しかし、しかしである。
何だか孤児院長の手のひらで小躍りしてる感が半端ない。つまりぶっちゃけ面白くない。
だが今の俺にこれを否定する選択肢など無いこともわかっている。よって、
「ぐぬぬ⋯⋯わかり、ました」
俺は歯軋りするほどの悔しさを見せながら孤児院長の思惑に沈んだ。
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「⋯⋯この世界は創造神アーク様、そして、そのアーク様を支える眷属神である『地・水・火・風』の四大構成元素の神である『自然四大神』がいる。地属性は『大地の神グランディスハーデン』、水属性は『水の女神リキッディアシルキス』、火属性は『火の神エンバースクワトロキア』、風属性は『風の女神ランティアヴィスローメ』といった具合だ」
なるほどわからん。
とりあえずそんな名前の長い神様たちがいっぱいいるってことはわかった。
「さて、これまで世界が豊かで平和であり続けられているのはこれらの偉大な神々が天界から地上を見守っておられるからだが⋯⋯」
どうやら『神様が守ってるから世界は平和なんだぞ』的な話が始まるようだ。正直そんな話特に興味はな⋯⋯、
「しかし⋯⋯時に神は地上に『牙』を向く」
「え?」
ん? なんだ?
流れ変わったな。
「牙⋯⋯?」
「うむ。ちなみに『牙』とは地上に『戦乱を招く』という意味だ」
「せ、戦乱? それって戦争ってこと?」
「そうだ。しかもそれは種族同士での戦乱となる可能性が高い」
「そ、そんな⋯⋯」
「ちなみに、この世界が誕生した12万年前から今まで『牙』⋯⋯つまり種族を巻き込んだ大きな戦争は2回あったとされている。1回目はおよそ5万年前でこの時、この星の実に6割近い人間族が滅んだとされている」
「ろ、6割⋯⋯っ!?」
いや、人口の半分超えてんじゃん! やばすぎだろ?!
「しかし2回目はその1回目の教訓が活かされたようで戦争は起きはしたが多少の犠牲を払っただけで未然に防がれたと言われている。今から約一二〇〇年前の出来事だ」
「おお⋯⋯!」
やるじゃん。人間族。
ていうか、ちょっと待て?
なんで孤児院長はそんなことを俺に話しているんだ?
「何やら『なんでこんなこと話しているんだ?』という顔をしているな」
「エスパー!」
「えすぱー?」
いやマジでエスパーだな、孤児院長。
「まーいい。とりあえず君のその疑問に答えるとしよう。この神々が地上に『牙』を向くというのは実は前もって知らされるということがわかっている。それが⋯⋯『預言の聖女』の出現だ」
「へ?」
いや、いきなり核心に迫る話始めるんかいっ!?
「『預言の聖女』の出現⋯⋯それは地上に神々の牙である『戦乱』をもたらす兆しということ」
「戦乱の⋯⋯兆し⋯⋯」
なんか、それって『預言の聖女』が生まれたからみたいなことを言われているみたいでなんか⋯⋯嫌だな。
「⋯⋯しかし同時に『預言の聖女』はその神々の牙である『戦乱』を未然に防ぐ力とその後の復興のための力も持っていると言われている」
「え? 未然に防ぐ力と復興の⋯⋯力?」
「『預言の聖女』とは混乱の世に生まれる1つの『希望の光』だ」
「え? え? え?」
孤児院長の『希望の光』という言葉は、さっきまで暗く落ち込んでいた心にまさに一筋の『光』として差し込んだ。
「アナスタシア、君はこの時代に生きるすべての者たちの希望の光そのものなのだ。それが『預言の聖女』という唯一無二の存在だ!」
「孤児⋯⋯院⋯⋯長⋯⋯」
孤児院長の力強い言葉に不意にも感動してしまい泣きそうになる。
正直、この世界に転生して『魔法』どころか『生活魔法』でさえも使えないことにショックを受け、その上『預言の聖女』として生まれたことはこの世界にとって良くないことだと言われている気がしてかなり落ち込んでいたのだ。
それが今こうして孤児院長から力強く『希望の光』やら『唯一無二の存在』だと言われたら⋯⋯⋯⋯そりゃ泣くっつーの! ふんぬぅ〜!!




