062「預言の聖女(2)」
ここ領都スフィンベルクやその周囲一帯を治める領主であり侯爵家当主でもあるカイゼル・フィアライトさんとその妻セリーナさんの強い薦めで、俺が暮らす孤児院の孤児院長で、同時にカイゼルさん領主夫妻の一人息子⋯⋯つまりフィアライト侯爵家を引き継ぐ『嫡男』でもあるクロフォード・フィアライトが『預言の聖女』についての話を始めた。
ちなみに、クロフォー⋯⋯孤児院長は『預言の聖女』に関係する『預言の刻印板』の研究者でもあるらしい。それもあってカイゼルさんたちが俺への説明を薦めたようだ。
それにしても本当に一体何者なのか、謎は深まるばかりの孤児院のラスボスである。
「アナスタシア、君はいま私に対して失礼でよからぬことを考えていたのではないか?」
「滅相モゴザイマセン、孤児院長」
「⋯⋯まあいい。では始めるとしよう」
相変わらずこっちの心の声が聞こえるんじゃないかと思うほど的確な指摘が入るな。まったく油断も隙もあったもんじゃない。
しかし、これで孤児院長が『相手の心を読めるエスパー説』はどうやら濃厚のようだ。これから気をつけねば⋯⋯。
そんなアホなことを考えている横でいよいよ孤児院長が話を始めるのであった。
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「『預言の聖女』⋯⋯それを語るにはまず今から約12万年前の『神々の時代』に遡る」
「じゅ、12万⋯⋯! か、神々の時代っ?!」
初手からいきなり『12万年前』やら『神々の時代』やらとトンデモ壮大話が始まりそうな予感がした。
「この世界の誕生は今から約12万年前——その頃の地上は神々が暮らす『楽園』という場所だった。ところでアナスタシア、君はこの世界の神々のことは⋯⋯知らないか」
「は、はい。一応就寝する時のお祈りで『創造神アーク様』という神様の名前くらいは知っていますが⋯⋯」
「さもありなん。孤児院では神々の話や『創世神話』なども教えていないからな」
そう、この世界では就寝の際にこの『創造神アーク』という神様に感謝のお祈りをする。なんでこの神様にお祈りするかというと名前の通り『この世界を創造した神様』だから。
ただ、孤児院長の言う通り孤児院ではこのお祈りくらいしか教えられていないので他の神様の話やこの世界のはじまりなどといったことは全く知らない。
ということで、孤児院長が早速話を始める。
「まず、この世界で⋯⋯いや我々『人間族』が崇めている神は『創造神アーク様』だけだがこの世界には様々な種族がおり、その種族ごとに崇めている神は異なる」
「え? そうなんですか?」
「うむ。そしてこの『種族ごとに崇める神が異なる』という話が、これから話す『神々の話』につながってくる」
「ああ⋯⋯それってもしかして種族ごとに崇める神と創造神アーク様との関係性の話ですか?」
「!⋯⋯そ、そのとおりだ」
「お、おお⋯⋯何というアナスタシアちゃんの理解力の早さ⋯⋯!」
「わたくし、もはやアナスタシアちゃんが9歳であることを完全に疑っていますわ」
おっと、カイゼルさんと奥さんのセリーナさんがドン引きしている。
あと孤児院長も俺の返事に軽く驚いてたし。
これでは「あなた『自重』という言葉をどこに捨ててきましたか?」と非難されたら何も言えないではないか。
あ、孤児院長にはずっと言われてるや。
「君の言う通り、この世界には我々『人間族』以外にも獣人族やエルフ族といった種族が存在する。これはわかるな?」
「はい。たしかリッツが狼種の獣人族ですよね」
「ああ、そうだ。そしてさっきも話したがこの世界では種族ごとに異なる神を崇めているが、それら神々には関係性があり統一性がある」
「統一性⋯⋯?」
「うむ。あまり好ましくない言葉ではあるが『格』といったほうが理解は早いだろう。ざっくり説明すると創造神アーク様が神々の頂点であり、その下に先ほど話した種族ごとに崇めている神々が存在する。創造神アーク様のことはそのまま『創造神』、そしてその下で創造神アーク様を支えている神々が『自然四大神』という」
「自然⋯⋯四大神⋯⋯?」
「うむ。そして、その『自然四大神』とはこの世界を構成したとされる『四大構成元素』、つまり『地属性・水属性・火属性・風属性』の4つの構成元素それぞれの神のことだ」
「構成元素の⋯⋯神?」
なるほどわからん。
日本語でOK。
「全然理解できていないようだな」
「はい。そもそも『構成元素』という言葉を初めて聞きました」
「さもありなん。これは『魔法』を使う貴族でないと関係しない話だからな。大衆であれば『おとぎ話』で構成元素のことは聞いてるだろう」
「あ、そういえば孤児院の絵本に『火の精霊』とか『水の精霊』とかありましたけどそのことですか?」
「そうだ。ちなみに火の精霊とは『火の神エンバースクワトロキア様』に仕える精霊のことだ」
「エ、エンバース、クワ⋯⋯ト⋯⋯なんだってぇぇ!?」
神様、名前長ぇーよ!
と神様ネームが長いのを理由に思わずキレてしまいました(テヘ)。




