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TS転生聖女の生存戦略〜Transsexual Reincarnated Saint's Survival Strategy〜  作者: mitsuzo
第一章「孤児院の少女編」

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060「領主の追求。その結果」



「アナスタシア」

「はい?⋯⋯⋯⋯あ」


 孤児院長から声をかけられる。

 その声色はいつもよりさらに一段低く、且つ憤怒の色がわかりやすく見て取れた⋯⋯ということを察した瞬間、俺は自分のやらかしにようやく気づく。


「わたし、なんかやっちゃいました?」

「やりすぎだ。馬鹿者」


 お約束のワード言ってみた。

 孤児院長から冷ややかなツッコミいただきました。

 さて⋯⋯事は俺が思っている以上にかなり大きかったようで領主のカイゼルさんが物凄い形相で近寄ってくるや否や肩をガッと掴まれ、


「ア、アナスタシアちゃん! なぜこの『おにぎり』のことを君が知っている? いや知っているなんてレベルではない。まるで《《以前も食べたことがあるような》》⋯⋯そんな言い回しだった。しかもこのおにぎりが『お米』からできていることまでなぜわかったんだい? 君の行動範囲は孤児院、あるいはよくて領都スフィンベルクまでに限られるはず。それなのにアナスタシアちゃんは一体どこからそんな知識を身につけたというのかな?」


 めっちゃ質問された。目が笑っていない笑顔で質問された。

 むしろ質問というより《《疑い》》といったほうがしっくりくるほどに。


 だよな〜。そりゃそうなるよな〜。9歳の子供⋯⋯しかも親のいない孤児だもの。

 本来であればこの領都どころか国レベルで見てもかなり珍しいはずの『おにぎり』なんぞ孤児である俺が知らないのが当たり前⋯⋯なのに俺はそれを見て《《歓喜》》したのだから。

 だって『喜ぶ』ってのは対象のソレを知っているからこそ出る感情なわけで。


 さらに始末に負えないのはおにぎりだけじゃなく、その横にあった『たくあん』や『味噌汁』にも反応してしまったこと。

 何なら『漬物』なんてワードも出したりとめちゃくちゃいいリアクションをしてしまったのだ。

 そりゃ疑われるしこうなるのも自明の理である。


 俺が「完全にやっちまった」と肩を落とし落ち込んでいると、カイゼルさんがふいに《《ある言葉》》を口にした。

 そして、その言葉はこの場に一気に緊張感を走らせることとなる。



「アナスタシアちゃん、君は⋯⋯⋯⋯『預言の聖女』なのかい?」

「「「「「っ?!!!!!」」」」」



 カイゼルさんの『預言の聖女』というワードにその場にいた全員の表情が驚愕と緊張の色に染まる。


「ちょ、ちょっと、あなたっ?!」


 奥さんのセリーナさんが思わずカイゼルさんに口を挟もうとする。

 しかしカイゼルさんは止まらない。


「ダメだよ、セリーナ? 事は重大だ。アナスタシアちゃんが『預言の聖女』かどうか⋯⋯これは今はっきりしておく必要がある」

「あ、あな⋯⋯た⋯⋯」


 カイゼルさんがセリーナさんの目を見て覚悟を伴ったはっきりとした言葉を告げると、その勢いにセリーナさんもゴクリと唾を飲み込みながら口を閉ざす。


「⋯⋯クロ」

「はい」

「《《どうなんだ》》?」

「⋯⋯」


 カイゼルさんの孤児院長への声がけに具体的な言葉はなかったが、しかしそれは誰が見ても明らかな問いだった。



(アナスタシアが『預言の聖女』かどうか答えよ)



 その問いに孤児院長はフィアライト侯爵家当主であり父であるカイゼルさんの目を見てはっきりと口にする。


「はい。アナスタシアは『預言の聖女』です」

「「「「「⋯⋯っ?!!!!!!!!!!」」」」」



********************



「⋯⋯すまん、セバスチャン。皆にお茶を頼む」

「か、かしこまりました⋯⋯」


 カイゼルさんの言葉に一瞬反応が遅れる執事セバスチャン。

 ていうか執事さん本当に『セバスチャン』だったっ?!

 あ、いやそんなこと今はどうでもよくて⋯⋯。

 とにかく空気が重い。物凄く重い。

 セバス、早くお茶プリーーーズ!


 そうして、しばらくするとセバスチャン執事が皆に紅茶を持ってきた。

 俺たちは「一旦落ち着こ」という暗黙なソレで静かに紅茶を啜る。

 ズズズ⋯⋯とお茶の啜る音だけが響く静寂の中、一人の人物がその静寂を切り裂くべく口火を切った。


「⋯⋯クロ。アナスタシアちゃんが『預言の聖女』であること間違いないのか?」


 フィアライト侯爵家当主カイゼル・フィアライト、その人である。


「はい。昨夜その証拠である『神の御力(みぢから)』をこの目ではっきりと見ました」

「神の御力⋯⋯だとっ?!」


 そうして、孤児院長が昨夜の畑での一件を説明する。


「な、なんと⋯⋯! ほんの一瞬で植物が成長⋯⋯だとっ?!」

「はい。昨日の朝、種芋を植えたばかりのじゃがいも、そして昨夜種を蒔いたトマトが、彼女の『神の御力』で一瞬にして実が成りました」

「す、すごい⋯⋯そんなことがっ?!」

「むぅ⋯⋯それが本当なら何と凄まじい力⋯⋯。もはやその力『魔法』とも一線を画しているようにも感じられるな」

「仰る通りです。そしてこれ以上私だけで抱えるにはあまりに困難だと判断し、その事実を今お話した次第です」

「⋯⋯そうか」


 孤児院長の言葉に納得のいく表情をするカイゼルさん。


「ん? ということは今日ここに来た目的はこの事の報告だったのか?」

「いえ、違います。本当ならもう少し熟考して判断するつもりでした。ですが、アナスタシアが早々に《《ボロ》》を出してしまったためそれで致し方なくお伝えしたというのが本音です」


 そう言って、キッと俺に睨みを飛ばす孤児院長。ごめんて。


「ハッハッハ! なるほど。ということはクロが我々に話してくれたのはすべてはアナスタシアちゃんの《《おかげ》》だったということなんだな! ありがとうアナスタシアちゃん!」

「あらそうだったんですね! アナスタシアちゃんありがとね〜!」


 孤児院長の苦虫を潰した顔とは対照的にカイゼルさんとセリーナさんが満面の笑みで感謝の言葉をくれた。

 そんなニコニコ顔な二人に私も「いえいえどういたしまして」と言わんばかりな笑顔を返していると、


「おい、アナスタシア? どうやら君は自分のやらかしを全然反省していないようだな?」

「うっ!? す、すみません⋯⋯」


 孤児院長怖すぎ。ぴえん。


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